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2007年8月23日 (木)

S行列とレッジェ理論(2)

 前記事の続きです。

 

 Born級数による扱いが可能になったので弾性的な散乱についての

 見通しは幾分よくなりましたが,既述したように束縛状態の存在

 や共鳴散乱のある場合に,それらを散乱振幅へと反映する手法と

 しては,そうした扱いは有効ではありません。

  

そこで,一般的な散乱をも扱える別の手法を模索してみます。

  

まず,求めるポテンシャル:Vが球対称な一般的ケースでは波動関数

の角変数部分が球面調和関数で展開できることを利用し,

  

いわゆる部分波解析の方法を用いることにより,こうした種々の

散乱についても有益な情報が得られるかどうかを調べてみます。

  

そのため,散乱のポテンシャル:Vは球対称なV(r)である,

それもV(r)が核子-核子散乱の相互作用を,πのような中間子

の交換によるものと見なし,

   

1937年に湯川によって導入された湯川ポテンシャル:

exp(-μr)/rのようなものであるとします。

  

すなわち,V(r)は有効レンジ:r01/μを持っていて,

r<r0ではr-1のような挙動をし,r>r0では急減少する

ようなrの関数とします。

 

このとき,有効ポテンシャルは角運動量:lがゼロでないときには,

c≡h/(2π)=1の単位で,V(r)+l(l+1)/r2となります。

  

この,遠心力項,または障壁項と呼ばれる項:(l+1)/r2

-2の効果を与えますから,この項と比較するとポテンシャル

(r)のr<r0におけるr-1の効果は無視できます。 

 

そこでV(r)として同じ性質を持つ一般的な湯川ポテンシャル

の重ね合わせ:

V(r)≡A1exp(-μ1)/r+A2exp(-μ2)/r+..

+∫μ0dμ'{B(μ')exp(-μ'r)/r}のような形を想定して

おきます。

 

粒子間の相互作用が全て種々の有効レンジを持つ粒子の交換に

起因すると見るなら,こうした形のポテンシャル設定はとりた

てて非現実的なものであるとはいえないと思います。

 

さてz軸を入射ビームの向きに取り,それを極軸とした極座標

を考えます。

 

動径をr≡||としがz軸となす角をθとします。

 

このとき,波動関数Ψ()は,rとθのみに依存し角度φには依存

しません。

 

そして,Ψ()は角運動量演算子:の平方:2の固有値l(l+1)

に属する固有関数であるl次のLegendre多項式:Pl(cosθ)によっ

て展開されます。

 

すなわち,Ψ()=∑l=0[yl(r)/r]Pl(cosθ)と書けます。

 

3次元のSchroedinger方程式:

2Ψ()+[k2-V(r)]Ψ()=0 は,

1次元の動径方程式の集まり:

2l(r)/dr2[k2-V(r)-(l+1)/r2]l(r)0

(l=0,1,2,..)に帰着します。

 

展開:Ψ()=∑l=0[yl(r)/r]Pl(cosθ)の右辺の(1/r)の

存在から,r~ 0 での存在確率は,

 

[|yl(r)|2/r2]r2drd(cosθ)dφ

~ |yl(0)|2drd(cosθ)dφ

となります。

 

それ故,Ψ()が0でも確率波であるという物理的解釈が保持

されて原点に特異性を持たないためには,|yl(0)|が有限である

必要があります。

 

しかも,後に示すように,結局全てのlに対してyl(0)=0 でなけ

ればならない,ことがわかります。

 

また,rが十分大きいところでは定数k2に比して指数的に減少する

(r)と遠心力(l+1)/r2は無視できるので,

 

Schroedingerの波動方程式の動径部分は,

2l(r)/dr22l(r)=0  となります。

 

この方程式は簡単に解けて正弦関数になります。

  

その解における積分定数の1つとして定数位相を指定してそれを

αlとすると,解は,sin(kr+αl)に比例します。

 

そこで,

l(r)r→∞~ Glsin(kr-lπ/2+δl) と表現できます。

 

ここで,(r)がないときの動径方程式:

2l(r)/dr2[k2(l+1)/r2]l(r)0 の解は,

l(r)=Alrjl(kr)=Al{π/(2kr)}1/2l+1/2(kr)

で与えられることがわかります。

 

これはr→ ∞で,yl(r)~ (Al/k)sin(kr-lπ/2)

なるので,これを考慮してαl≡δl-lπ/2 としました。 

 

そして,いわゆる散乱波動関数の部分波における"位相のずれ

(phase-shift(=δl"は,ポテンシャルV(r)によって完全に

決定され,V(r)が消えるとδlも消えることになります。 

 

散乱振幅:f(θ)と位相のずれ:δlの間の関係を得るためには,

動径波動関数:yl(r)を,全波動関数の漸近形:

Ψ()=exp(ikz)+f(θ)exp(ikr)/r+O(1/r2)

に関連付ける必要があります。

 

そのため,yl(r)やΨ()を構成する項を

内向き球面波:exp(-ikr)/rと,

外向き球面波e:xp(ikr)/r の重ね合わせとして表現する

ことを考えます。

 

まず,l(r)r→∞~ Glsin(kr-lπ/2+δl)

={Gl/(2i)}[exp(ikr-ilπ/2+iδl)

-exp(-ikr+ilπ/2-iδl)]と

書けます。

 

また,exp(ikz)=exp(ikrcosθ)

=∑l=0[Yl(r)/r]Pl(cosθ)なる展開公式があります。

 

ただし,Yl(r)=il(2l+1)rjl(kr)

~ {(2l+1)/(2ki)}[exp(ikr)

-exp(-ikr+ilπ)] as r→ ∞ です。

 

散乱のプロセスは,外向き波のみを生成し,yl(r)の内向き成分

は,exp(ikz)を維持します。

 

それ故,yl(r)r→∞と,Yl(r) r→∞の対応する内向き項は一致

しなければなりません。

 

したがって,Gl{(2l+1)/k}exp(iδlilπ/2)と書けます。

 

その結果,

l(r)r→∞

~ {(2l+1)/(2ki)}[exp(ikr+2iδl)

-exp(-ikr+ilπ)] となります。

 

ここで,yl(r)≡Yl(r)+ylsc(r)と書いて,

 

散乱状態波動関数:

Ψ() r→∞ exp(ikz)+f(θ)exp(ikr)/r

=∑l=0[yl(r)/r]Pl(cosθ)

の展開級数における動径関数:l(r)から,

 

平面波部分:exp(ikz)=∑l=0[Yl(r)/r]Pl(cosθ)の寄与:

l(r)を分離して,散乱部分波ylsc(r)を取り出します。

 

(θ)exp(ikr)/r=∑l=0[ylsc(r)/r]Pl(cosθ)

ですから,散乱部分波:ylsc(r)は,散乱波動関数::

f(θ)exp(ikr)/rの角運動量lの部分への寄与を与える

ものです。

 

他方,ylsc(r)=yl(r)-Yl(r)

={(2l+1)/(2ki)}exp(ikr)[exp(2iδl)-1]

={(2l+1)/k} exp(iδl)sinδlexp(ikr) です。

 

以上から,散乱振幅:f(θ)をf(k2,cosθ)と書けば,

散乱振幅の基本方程式として,

 

f(k2,cosθ)=∑l=0{(2l+1)/k}exp(iδl)sinδll(cosθ)

なる展開形が得られます。

 

これはf(k2,cosθ)=∑l=0(2l+1)al(k2)Pl(cosθ);

l(k2)≡{exp(iδl)sinδl}/kと書き直すことができます。

 

このとき,al(k2)を部分波振幅と呼びます。

 

逆に,Legendre多項式:Pl(x)の直交性:

-11l(x)Pm(x)dx=2δlm/(2l+1)を用いると,

 

散乱振幅f(k2,cosθ)が既知のとき,

l(k2)=(1/2)∫-11l(cosθ)f(k2,cosθ)d(cosθ)

によって,原理的には,部分波振幅al(k2)を求めることが

できます。

 

あらゆる運動学的特徴を考慮し,数学的整合性のみに従って

散乱振幅の基本方程式を定式化しましたが,

 

位相のずれ:δlを実際のポテンシャルV(r)と関連付けると

いう本質的な動力学の問題が残っています。

 

そのための数学的な筋道としては,動径方程式:

2l(r)/dr2[k2-V(r)-(l+1)/r2]l(r)0

の解を見出し,その漸近形を求めて,

l(r)r→∞

~ {(2l+1)/(2ki)}[exp(ikr+2iδl)-exp(-ikr+ilπ)]

との比較からδl見出すという手続きを実行すればよい

と考えられます。

 

しかし,遠心力項l(l+1)/r2が存在するため,動径方程式は

原点r=0 では十分特異なので,まずr=0 の近傍における解

l(r)の挙動から調べることにします。

 

rが小さいとき,limr→0|r2(r)|→ 0 ですから,

遠心力項 ~ r-2に比してV(r)やk2は無視できて,

r~ 0 では,動径方程式が

2l(r)/dr2(l+1)yl(r)/r20 であるとする

ことができます。

 

そして,これは簡単に解けて独立な2つの解として,

l(r)=rl+1,r-lを取ることができます。

  

そしてl≠0 のときには,limr→0-l=∞ となるので

-lは物理的な解から除外され,l=0 のときのr-l=1なる

定数解も除外されます。

  

なぜなら,l=0 のときl(r)~ r-l=1は,確かに

2l(r)/dr2(l+1)yl(r)/r2=d2l(r)/dr20

の解ですが,

 

正確な方程式:

2l(r)/dr2[k2-V(r)]yl(r)=0 の 0 において

は明らかに解とは成り得ないからです。

 

それに対して,yl(r)~ rl+1 0 は正しい解と成り得ます。 

 

そこで,r 0 での近似解としては,全てのlに対して

l(r)=rl+1を採用すべきであると考えられます。

 

それ故,前に言及したように,l(0)=0 です。

 

したがって,これまでの部分波解析の定式化に今得られた近似解

の情報を結合すると,

 

r~ 0 ではyl(r)~ cll+1であり,

r~ ∞ ではl(r)r→∞~ Glsin(kr-lπ/2+δl);

l{(2l+1)/k}exp(iδlilπ/2)であるということ

になります。

 

よって,後はこれらが連続的につながるようにr~ 0 での

規格化因子:clをGlから決める必要があるだけです。 

 

しかし,動径波動関数の規格化因子の選び方は任意であると

いう自由度はなお残っています。

 

そして,もちろん位相のずれ:δlは規格化因子の選び方には依存

しません。

 

そこで,今新しい選択をしてr→ 0 でyl(r)=rl+1となるよう

に規格化します。

 

そしてこのように新しく規格化した動径波動関数yl(r)を

l(k2,r)と書くことにします。

 

すなわち,ul(k2,r)/rl+1 1 as r→ 0 とします。

 

また,ul(k2,r)r→∞

~ φ-(l,k2)exp(ikr)+φ+(l,k2)exp(-ikr)

と表現します。

 

この係数:φ+-は,Jost関数と呼ばれています。

 

l(k2,r)は実数なので,φ+とφ-は互いに複素共役です。

 

そして,ul(k2,r)を,れと規格化因子だけ異なる関数:

l(r)r→∞

~ {(2l+1)/(2ki)}[exp(ikr+2iδl)-exp(-ikr+ilπ)]

と比較することから,

 

S(l,k2)≡exp(2iδl)=2ikal(k2)+1

=(-1)l+1φ+(l,k2)/φ-(l,k2)

と書けることがわかります。

 

結局,位相のずれ:δlを決める問題は,Jost関数を求める問題に

置き換えられます。

 

動径波動関数:yl(r)の規格化を変えて,改めてul(k2,r)と

定義し直したのは,

 

動径方程式:

2l(k2,r)/dr2[k2-V(r)-(l+1)/r2]l(k2,r)

=0 のこの規格化に従う解は,2などのパラメータの任意の変動

に対し,滑らかに変動するため,

  

これを,パラメータk2の解析関数に拡張することが可能になるから

です。 

 

その理由は,例えば2を動かしたとき,r=0 のすぐ近傍で

l(k2,r)は目立った変動をしないことが挙げられます。

 

l(l+1)/r2が減少するにつれ,l(k2,r)のk2に対する変動

はrの増加と共により重要になってきますが,

 

次第に任意に与えられたrに対してk2の変動に対し異常項の出現

などが予期されないようになることが,常微分方程式の解の安定性

の理論からわかっているからです。 

 

こうした微分方程式の解の解析はPoincare'によって,既になされ

ていて,適当な条件下で解は滑らかで,その方程式のパラメータの

解析関数になることが証明されています。

 

この定理は,わずかな拡張で今の我々のケースにおいても真となり,

そして先の規格化に基づくul(k2,r)は実際にパラメータk2

解析関数になります。 

 

そこで,まず第1にこうしたことが"位相のずれ"に何らかの条件

課すかどうか,第2にその得られた条件が何らかの物理的意味

のある示唆をもたらすかどうか,を調べます。

 

それ故,パラメータに関しての物理的領域から,その外側へと出る

必要があります。 

 

まず,2を実数から複素数全体に拡張し,改めて,

動径についてのSchroedinger方程式:

2l(k2,r)/dr2[k2-V(r)-(l+1)/r2]l(k2,r)

=0 を考察します。

 

この方程式において,r→ 0 でul(k2,r)r-(l+1) 1となる

ような解のみを考えると,これは解を完全に決定します。

 

そして,前と同じく,

l(k2,r)r→∞

~ φ-(l,k2)exp(ikr)+φ+(l,k2)exp(-ikr)なる漸近形

から,k2の関数としてJost関数φ±を定義し,

 

それらの商として,(l,k2)≡exp[2iδl(k2)]

=(-1)l+1φ+(l,k2)/φ-(l,k2)を求めます。

 

これから,複素関数として位相のずれ関数δl(k2)を決定します。

 

こうして複素関数論を用いた解析で数学的な問題を解いた後に,

2を実数に制限すれば物理的な情報が得られると期待されます。

 

次回以降は実際に複素関数としてJost関数を定める問題などに

進む予定にして今日はここまでとします。

 

参考文献:R.omnes,M.Froissart

「Mandelstam Theory and Regge poles」

W.A.Benjamin,Inc,New York(1963)

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

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