揚力とベルヌーイの定理
2007年8月2日の記事「ダランベールの背理(D'Alembert's paradox)」において,
完全流体では流速がUの一様流の中に置かれた物体に働く揚力Fyの値を,物体のまわりを反時計回りにまわる流れの循環Γによって,Fy=-ρUΓと評価できることを述べました。
F=(Fx,Fy)は物体に働く力でFxは抗力,Fyは揚力です。
そこではf(z)=Φ+iΨ(Φは速度ポテンシャル,Ψは流れ関数)とし,複素関数論を利用して,ベルヌーイの定理:∂Φ/∂t+p/ρ+v2/2+Ω=A(t)(空間的に一定)とブラウジウスの(第一)公式:Fx-iFy=iρ∫C[(df/dz)2/2]dzを導出するプロセスを記述しました。
それによって,物体に働く力F=-∫C pndsを考察し,そして,クッタ・ジューコフスキーの定理を証明した後,この定理の一部分に従って上述の命題を得るという手続きを行ないました。
しかし,このような扱いは,私には少々大げさだと感じられたので,今日は物体部分からは全く湧き出しがない:divv=0 という前提の下で,簡略化されたベルヌーイの定理p+ρv2/2=A(一定)から直接的に揚力と循環の関係Fy=-ρUΓを導いてみたいと思います。
まず,ベルヌーイの定理からp=A-ρv2/2なので,物体に働く力はF=-∫C pnds=-∫CAnds+(ρ/2)∫Cv2nds=(ρ/2)∫Cv2ndsです。
Cの線素ベクトルをds=(dx,dy)とすると,nds=0 ですから,nds=(dy,-dx)となるので,結局,揚力はFy=(-ρ/2)∫Cv2dx=(-ρ/2)∫C(vx2+vy2)dxなる式で与えられます。
ところで,物体の外では当然,連続の方程式が成立しており,また仮定によって物体内部に湧き出しがありませんから,空間のいたるところで divv=0 が成立します。
すなわち,閉曲線Cで囲まれる任意の領域Sにおいて∫S divvdS=∫S(∂vx /∂x+∂vy /∂y)dx∧dy=0 です。
これは任意の閉曲線Cの上で∫Cvxdy-∫Cvydx=0 が成立することを意味しています。それ故,y=f(x)なる任意の曲線上の点で常にvxdy=vydxです。
つまり,この曲線の傾きy'=dy/dx=f'(x)に対し常にvy=y'vxが成立しています。
また,閉曲線Cの上での流れの循環ΓはΓ≡∫Cvds=∫C(vxdx+vydy)で定義されます。
(これはΓ=∫S rotvdS=∫S(∂vy /∂x-∂vx /∂y)dx∧dyと書き直すこともできます。)
故に,Γ=∫Cvxdx+∫Cvydy=∫Cvx(1+y'2)dxです。一方,揚力FyもFy=(-ρ/2)∫Cv2dx=(-ρ/2)∫C(vx2+vy 2)dx=(-ρ/2)∫Cvx2(1+y'2)dxと表わすことができます。
ここで,流れv=(vx,vy)が,一様流U=(U,0)に微小な流れu=(ux,uy)を重ね合わせたもの:v=U+uで与えられるとします。
vx=U+ux,vy=uyですから,これを上の循環と揚力の表式に代入して,Γ=∫C(U+ux)(1+y'2)dx=∫Cux(1+y'2)dx,およびFy=(-ρ/2)∫C(U+ux)2(1+y'2)dx=-ρU∫Cux(1+y'2)dx-(ρ/2)∫Cux2(1+y'2)dxを得ます。
ここで,∫C(1+y'2)dx=∫Cdx+∫Cy'dy=0 を用いました。さらに,∫Cux2(1+y'2)dx=∫C(ux2+uy2)dx=∫Cu2dx=∫CuxdΓなのでFy=-ρUΓ-(ρ/2)∫CuxdΓです。
最後の表式で∫CuxdΓがゼロになるための条件はdW=uxdΓなるWが存在することです。
ポアンカレの補題によって,それはd(uxdΓ)=dux∧dΓ=[-ux(∂ux /∂y)+uy(∂ux /∂x)]dx∧dy=0 すなわち,-ux(∂ux /∂y)+uy(∂ux /∂x)=0 が成り立つことと同値です。
これ以上は,適切なモデルで考えないと無理です。
まず,線素を極座標で書くとds=(dx,dy)=r(d(cosθ),d(sinθ))=rdθ(-sinθ,cosθ)となります。
湧き出しがない条件は∫S divvdS=∫C(vxdy-vydx)=0 ですから,∫Cvxdy=∫Cvydx →∫C(U+ux)dy=∫Cuydx,故に∫Cuxdy=∫Cuydxです。
つまり,∫02πruxcosθdθ=-∫02πruysinθdθなので,rux≡-Bsinθ,ruy≡Bcosθ(Bはrだけの関数)というモデルを想定すると,これにより上述の湧き出しゼロ条件は自動的に満たされます。
また,循環はΓ≡∫C(vxdx+vydy)=∫C(uxdx+uydx)で与えられますから,Γ=∫02π(-ruxsinθ+ruycosθ)dθ=2πB:つまりB=Γ/(2π)です。
そこでBは定数なので,∫Cux2(1+y'2)dx=∫CuxdΓ=∫C(ux2+uy2)dx=-∫02π(B2/r)sinθdθ=0 が得られます。
したがって,∫Cux2(1+y'2)dx=∫CuxdΓ=0 となり,求める揚力と循環の関係Fy=-ρUΓが得られました。
そして循環も湧き出しも共に存在するときは,例えば電気回路の重ねの理と同じように,この場合を上記の2つの場合の重ね合わせと考えることによって,Fx=-ρUQとFy=-ρUΓが同時に成り立つことも言えます。
http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。
人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。)
http://homepage2.nifty.com/toshis-kaiga-auction/健康商品の店 「TRS健康ランド」
← クリックして投票してください。(ブログ村科学ブログランキング)
![]() 物理学 |
| 固定リンク
「304. 解析学」カテゴリの記事
- 指数関数,三角関数の構成的定義(2011.07.09)
- 三角関数を含むある関数の定積分(2008.08.14)
- 実数から複素数へ(2008.02.16)
- デデキントの切断(補遺)(2008.02.11)
- デデキントの切断(Dedekind cut)(2008.02.10)
「305. 複素数・複素関数論」カテゴリの記事
- 線型代数のエッセンス(14)(ユニタリ空間-5)(2011.03.10)
- コーシーの主値(主値積分)(2009.07.04)
- 三角関数を含むある関数の定積分(2008.08.14)
- 実数から複素数へ(2008.02.16)
- 解析接続の意味(2007.11.28)
「108. 連続体・流体力学」カテゴリの記事
- 震源の探知(大森公式等)(2009.12.10)
- 定量的地震学6(2009.11.30)
- 定量的地震学5(2009.11.17)
- 空気分子の大きさ(アインシュタインとブラウン運動)(2009.10.11)
- 定量的地震学4(2009.09.29)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント