S行列とレッジェ理論(8)
前回の相対論的運動学の続きです。
一般反応をa1+a2 → a3+a4とし,粒子a1,a2,a3,a4の質量を,それぞれm1,m2,m3,m4,そして4元運動量を,それぞれp1,p2,-p3,-p4とします。
このとき,保存則はp1+p2+p3+p4=0 となります。
また,運動学の不変式,不変量はp12=m12,p22=m22,p32=m32,p42=m42,およびs=(p1+p2)2=(p3+p4)2,t=(p1+p3)2=(p2+p4)2,u=(p1+p4)2=(p2+p3)2と表現されます。
s,t,uに対する拘束条件は,s+t+u=m12+m22+m32+m42となります。
こうした反応で,4つの質量m1,m2,m3,m4が全く任意の場合には,物理的領域の境界を見ることは,かなり複雑になります。
しかし,先に見たように3つの物理的領域が,ある3次の代数曲線Cの分枝で境界されていることは確かなことです。この曲線Cは近似的には次のとても簡単なルールに従って描くことができます。
1. 3つの軸s=0,t=0,u= 0 を引く。これらの軸は少なくとも1点でCを切る漸近線である。そして,この3直線で作られる三角形の高さはm12+m22+m32+m42である。
2. 次の12個の直線を引く。これはs=(m1±m2)2,s=(m3±m4)2,t=(m1±m3)2,t=(m2±m4)2,u=(m1±m4)2,u=(m2±m3)2の12本である。
これらの全てはCの勾配であり,それらが一致しない場合には交叉しない。一致するのは,C自身と∀m≠0 で交叉するときで,2重交点を通ってのみ通過する場合である。
各2重交点によって3つの一致するラインのペアが存在する。
3. この曲線は3つの無限分枝と中心blobを有する。最低閾値を持った分枝は,その漸近線やより高い閾値の分枝,第3の分枝を切る。
4. 2つの2重交点があればCは双曲線と直線とに分解される。
5. 3つの2重交点があればCは3つの直線に分離する。
6. 2重交点が3つより多い場合,どんな直線も中心blobを含まない。
第1の例として,陽子-中性子散乱を考えて物理的領域を再決定します。ここでも両者の質量差を無視します。
このときは,12個の直線は2つずつ一致して,3つの2重交点があります。そして,"5. 3つの2重点があればCは3つの直線に分離する"の通りに,Cは3つの直線s=0,t=0,u=0 に分解されます。
以下,陽子-中性子散乱の3つの物理敵領域については,既に考察済みなので割愛します。
第2の例として,π中間子-核子散乱の物理的領域を決定します。
π,核子Nのそれぞれの質量をμ,mとし,まずルール通りに高さが,2m2+2μ2の三角形を描きます。そして,核子を1と3に,πを2と4に取ります。
s=0 に平行な勾配はs=(m±μ)2の2本です。そこで,少なくとも2つの2重交点があります。uの交叉反応は2と4の交換で,u=(m±μ)2の2本も交叉チャンネルと同じです。
もう1種類の反応は,N+N~→π+π (1+3→2+4)です。これに関する平行勾配はt=0,t=4μ2,t=4m2で2重交点はt=0 上でs=(m+μ)2,u=(m-μ)2,およびs=(m-μ)2,u=(m+μ)2にあります。
曲線Cは境界直線t=0 を2つの物理的領域の境界に分割し,s=0,u=0 を漸近線とする双曲線であり,各々の分枝はそれぞれ,t=4μ2とt=4m2の12直線との2重交点を通ります。
中心blobというのは,t=4μ2を通る分枝がt=0 を切って,0<t<4μ2の部分です。
第3の例は,K中間子の3体崩壊K → π+μ+ν~(p1 → p3+p4+p2)です。ただし,強い相互作用ではなく弱い相互作用の例です。
しかし,ここでは運動学にのみ興味があり,相互作用の種類という動力学にこだわる理由はありません。
K+μ~ → π+ν~(入射エネルギー√u),K+ν → π+μ(入射エネルギー√s),K+π~ → μ+ν~(入射エネルギー√t)の3つの交叉反応が考えられます。
今度は物理域を与える曲線Cは真の3次曲線です。ただしニュートリノν~の質量はゼロです。
K,π,μの質量を同じ記号K,π,μで表わす標的直線は,u=(K±μ)2=π2,u=(π±μ)2=K2,t=(K±π)2=μ2です。
この場合は,2重交点にタッチするループがあります。
これは,Dalitz Plotと呼ばれるループです。
こうしたループは1つの粒子が物理的に他の3つに崩壊可能な場合にのみ現れるもので,別にν=0 に起因するものではなく,もっと一般的な運動学に関係しています。
今日はここまでにします。(実は,この具体的計算の部分は直訳して掲載しただけで,私自身,必ずしも内容を全て理解して書いたわけではありません。サラッと流し読みしてください。)
参考文献:R.omnes,M.Froissart「Mandelstam Theory and Regge Poles」W.A.Benjamin,Inc,New York(1963)
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