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2007年9月12日 (水)

S行列とレッジェ理論(9)

 運動学についての論議に続いて,今回から動力学理論としての相対論的散乱理論に入ります。

既に見たように,交叉する幾つかの反応の物理的散乱振幅は,ある単一の関数A(s,t,u)によって共通に定められると考えられます。しかし,この関数の厳密に意味するところは何でしょうか?

 

まず,この相対論的に不変な4元スカラーとしての散乱振幅A(s,t,u)を明確に定義して複素数s,t,uの複素数値関数としてのAの解析的性質を調べることにします。

ただし,ここでの話は相対論的散乱の一般論ではなく,強い相互作用を分析することが主題なので,核子やπ中間子の散乱を中心とした話題に限定したいと思います。

 

簡単のため,既に物理的領域がⅠ:s>4m2,t<0,u<0 ,Ⅱ:s<0,t<0,u>4m2,Ⅲ:s<0,t>4m2,u<0 の3つで与えられることがよくわかっていて,s-チャンネルでの表示では陽子-中性子散乱:p+n → p+n (p1+p2 → p3+p4)となる核子の2体散乱の反応から始めます。

既にs-チャンネルでの物理的領域Ⅰの反応に対し,非相対論における散乱振幅f(k2,cosθ)=f(k22)を導入しました。

 

これを改めてf(s,t,u)と書くことにします。

 

この反応の微分断面積はdσ/dΩ|f|2で与えられます。

 

同様に,u-チャンネルでの交叉反応:p+n~ → p+n~に対して別の振幅f(s,t,u)を定義します。もちろん,ここでもdσ/dΩ|f|2です。

 

同じくt-チャンネルでの交叉反応:p+p~ → n+n~に対して,f(s,t,u)が定義されて,dσ/dΩ|f|2も成立します。 

しかし,fの代わりに,これに比例した別の量を散乱振幅として採用できる可能性もあります。

 

例えば,g≡f/(2k2)1/2とすれば,t=-2k2(1-cosθ)なので,|g|2|f|2/(2k2)=(dσ/dΩ)/(2k2)={dσ/d(cosθ)}/(4πk2)=(dσ/dt)/(2π)となります。

ところが,同様にして,g≡f/(2ku2)1/2と定義しても,交叉関係として(s,t,u)=f(s,t,u)とg(s,t,u)=g(s,t,u)が同時に成立することは不可能です。

 

何故なら,f=fなる等式は,(s-4m2)1/2(u-4m2)1/2なる等式の成立を意味しますから,s=uでない限り,f=f,かつg=gというのは矛盾となるからです。

 

結局,場の理論においてローレンツ不変な規格化での状態間の散乱を示すS行列要素を取る考察から,散乱の不変振幅A(s,t,u)として,s-チャンネルでA(s,t,u)≡s1/2(k22)で与えられる量を採用すべきであることがわかります。

そこで,交叉対称性:(s,t,u)=A(u,t,s)はs1/2(k22)=u1/2(k22)を意味します。

 

結局,交叉対称性は,非相対論近似ではA(s,t,u)=s1/2(k22)=u1/2(k22)=t1/2(k22)なる等式で表現されます。

-チャンネルでのp-n散乱に話を戻し,特にエネルギー1/2が十分小さくて,非相対論的なシュレーディンガー方程式に湯川型の局所的ポテンシャルを仮定して散乱境界条件を満たす波動関数を用いて散乱が記述可能な場合を考えます。

 

これにより,これまで非相対論的散乱理論で得られた知見を相対論的理論,特に不変散乱振幅A(s,t,u)に利用することを考えます。  

ここで,ポテンシャルV(r)はあまり特異ではなく,次のように湯川型の重ね合わせで一般的な積分形で書けるものとします。

 

すなわち,スペクトルμに対する展開係数をπ(μ)として,ポテンシャルV(r)は,V(r)≡∫aπ(μ){exp(-μr)/r}dμなる形で与えられるとします。

シュレーディンガー方程式から確立された-チャンネルでの散乱振幅f(k22)のあらゆる性質は,慣性中心系での運動エネルギーk2運動量遷移t=-Δ2が共に,2よりはるかに小さくて非相対論的近似が有効な場合には,A(s,t,u)≡s1/2(k22)で与えられる不変散乱振幅においても満足される必要があります。

 

つまり,非相対論的振幅:f(k22)の性質は,フルな不変振幅A(s,t,u)に反映されるべきであると考えられます。 

そして,s=4(k2+m2),t=-Δ2なので,不変散乱振幅:A(s,t,u)は,-t平面の3つの物理的領域やある円の内部で示される領域では,sとtの解析関数となり,以下のような特異性を持つと考えられます。 

1.    (s,t,u)は陽子-中性子(p-n)の1つの束縛状態,または共鳴

である重水素核(deuteron)の存在に対応して,sに1つの極を持つ。

   

 この(s,t,u)のsの極は,非相対論の散乱振幅f(k22)にお

ける2の極に対応します。すなわち,B>0 を重水素核の束縛エネル

ーとすると,非相対論でのsの極に対応する2の極は2=-Bで与

えられます。

 

 ところが,核子の質量をmとすると,-n散乱という2体問題を1体

ポテンシャル散乱と見たとき1体の換算質量はm/2です。

 

 一方,我々は非相対論では,hc2m=1,E=c22/(2m)=k2なる

位を採用していたので,2体散乱の相対論的な量としては,この2

はk2=-mBとなります。

 

 つまり,対論で用いていた単位では,cm=(m/2)×2=1,

c22/m=2により,束縛状のエネルー準位E=-Bに対する極

2=-Bでした。

 

 しかし,核子質量mに対してのp-n散乱では,その換算質量がm/2な

ので,cそのままで,質量が1/2ではなく通常のm/2となる単位

に戻せば,極2=-Bは2=mE=-mとすべきです。

 

 それ故,これは変数sの極としてはs=4(k2+m2)=4(m2-mB)=

4m(m-B)となりますが,非相対論的極限を取るなら,B/m<<1とし

ていいので,これをs=4m(m-B)~(2m-B)2=M2と見なせます。

 

 ただし,M≡2m-Bは重水素核の質量です。(Bは結合エネルギー)

 

 そこで,このsの極は系のエネルギーs1/2が重水素の質量Mによる

質量エネルギーM(=M2)に非常に近い値であることを示すものであ

るといえます。

 束縛状態,または共鳴状態が散乱振幅の極として出現するというこの性質は,相対論的散乱振幅でも確かに保持されなければなりません。

 

 それ故,この極は正確に陽子-中性子系の慣性中心系でのs1/2が重水素核の質量Mに等しいとき,つまりs=M2において生じるものと考えることができます。 

2. (s,t,u)は20 ,つまりs=4m2に始まる切断を持つ

 

 この切断は散乱が可能な十分大きいエネルギーにおいて出現するも

のです。

3. (s,t,u)はt=-Δ2について実,正の切断を持つ。

 

 実際,ポンシャルV(r)が有効レンジr0の孤立した湯川ポテンシ

ャルを持つとき,すなわち(r)=exp(-r/0)/r+∫bσ'(μ)

{exp(-μr)/r}dμのときでさえ,A(s,t,u)にはtの極と切断が

あります。

 

 t≧0-1ら,0-2 に極を持ちます。また,切断t=b2から

始まります。

そして,t=-Δ2より,この領域の近傍での(s,t,u)のtについての特異性は,(k22)におけるΔ2の特異性であり,既述したように極の位置は湯川ポテンシャルの有効レンジ 1/μに関係します。

4. A(s,t,u)はuにおいてtの特異性に双対な場所uの正の実軸

上の切断と恐らくは極を持つと考えられる。これらの特異性は(r)

に双対なポテンシャル(r)の有効レンジに関係する。

今日はここまでにします。 

参考文献:R.omnes,M.Froissart「Mandelstam Theory and Regge Poles」W.A.Benjamin,Inc,New York(1963)

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

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