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2007年9月29日 (土)

S行列とレッジェ理論(14)

相対論的レッジェ極(Regge Poles)の続きです。

前記事の最後で言及した部分波散乱振幅間の内挿を行う手法に

ついて,これを具体的に構成する方法を述べることから始めます。

内挿は試行錯誤法で得られ,次のように定義されます。

まず,部分波振幅に対する慣例的な定義を考えます。

すなわち,非相対論的散乱振幅の部分波展開の式を

f(k2,cosθ)

=∑l=0{(2l+1)/k}exp(2iδl)sinδll(cosθ)

=∑l=0(2l+1)al(k2)Pl(cosθ);

 a
l(k2)=(1/2)∫-11(k2,cosθ)Pl(cosθ)d(cosθ)

とA(s,t)=1/2(k2,cosθs)から,

1/2l(k2)=(1/2)∫-11(s,t)Pl(cosθs)d(cosθs)

と書きます。

そして,便宜上,1/2l(k2)を改めて相対論的部分波振幅:

l(s)と再定義します。

 すなわち,al(s)≡(1/2)∫-11(s,t)Pl(cosθs)d(cosθs)

とします。

また,s={(p1212)1/2(p2222)1/2}2ですが,重心系で

2≡p1222とします。

 さらに簡単のために質量は全て1,つまり,m
1=m21とすると,

s=4p24です。 また,t=-Δ2=-2p2(1-cosθs)より,

cosθs1+2t/(s-4) と書けます。

これは,内挿のための条件を満足せず貧弱な内容しか持ちません。

つまり,l→ ∞で,Pl(cosθ)~ sup|exp(ilθ),exp(-ilθ)|

です。

 

いずれにしても,"lが純虚数のとき=虚軸に沿った道の上のl"

の部分波振幅:al(s)が支配的になります。

そして,ここで使用すべきトリックは,不変振幅A(s,t)をtに

ついての分散関係:

A(s,t)=(1/π)∫{At(s,t')/(t'-t)}dt'で表わす

ことです。

これは,例えば,π-π散乱のCauchyの公式:

A(s,t)={1/(2πi)}∫Cdt'{A(s,t')/(t'-t)}

={g2/(t- μ2)}+{g2/(u- μ2)}

+(1/π)∫4μ2dt'{At(s,t')/(t'-t)}

+(1/π)∫4μ2du'{Au(s,u')/(u'-u)}

において,考察の便宜上,uの極の項とuの切断の寄与を無視

するものです。

それを,al(s)=(1/2)∫-11(s,t)Pl(cosθs)d(cosθs)

に代入すると,

l(s)={1/(2π)}∫∫[2At(s,t')Pl(1+2t/(s-4))

/{(t'-t)(s-4)}]dtdt'

なる式を得ます。

整数のlに対しては,tによる積分が遂行できて,

l(s)

=(1/π)∫{2At(s,t')Ql(1+2t'/(s-4))/(s-4)}dt'

となります。

 

ここに,Qlは第2種のLegendre方程式の解です。

 

この式と前の定義式が同値なのは,lが整数のときだけですが,

このQlを用いた表現がlの非整数値においてもal(s)を与える

ものであるとして新しい内挿の式を定義します。

l(z)は通常のLegendreの微分方程式の解ですが,lは任意の

複素数に取れます。


 
これは,|z|→ ∞で.l!/(2ll+1)なる挙動をします。

 

また,これは対数分岐点z=±1を除くあらゆる領域でzの解析関数

です。

 そこで,-∞<z<-1に1つの切断があると考えられます。

lが負の整数でないならlについて解析的です。

そして,複素l平面のl= ∞では本質的に,

l(z) ~l-1/2[1/{z+(z21)1/2}]l+ 1に従う挙動をします。,

 

これらのことから,積分が収束する限り,

l(s)

=(1/π)∫{2At(s,t')Ql(1+2t'/(s-4))/(s-4)}dt'

は非常に妥当な内挿を与えると考えられます。

 

実際,物理的なsに対して,今のLegendre関数の引数:

{1+2t'/(s-4)}は,1より大きいままであり,lの関数と

して右辺の積分は非常に良い挙動をします。

 

つまり,Rel について指数関数的に減衰し,Iml について

-1/2 のように減少します。

しかし,収束の問題はすぐに厳しくなります。

それは大きいt'に対してQ
l(1+2t'/(s-4))の挙動があまり

よくないからです。


すなわち,t
'→ ∞で,Ql(1+2t'/(s-4)) ~t'-l-1

となるからです。

ところで,既に以前の記事で相対論的な不変散乱振幅:

A(s,t,u),あるいは不連続性:At(s,t)に対して,s→ ∞

のときに,sのある固定べき:sより急激には増加しない,と

いう仮定を与えました。

 

これは,交叉チャンネルを取れば,t→ ∞でA(s,t)や

t(s,t)はtより急激には増加しないことを意味します。

そこで,

t(s,t')={A(s,t'+iε)-A(s,t'-iε)}/(2i)は,

t'→ ∞で,t'のように増加していくと考えます。

これは,l(s)

=(1/π)∫{2At(s,t')Ql(1+2t'/(s-4))/(s-4)}dt'

の右辺の積分の収束性を,Rel>nに対して保証しますが,

Rel<nに対してどうなるか?については何の情報も与えません。

しかし,これは予想されたことです。

 

実際,あるlに対しては,そのlがRegge極を与えることを期待

していましたが,al(s)を示す右辺の積分はそれが収束する限り,

如何なるlの極を与えることも不可能ですから,lがRegge極

に到達すると同時にal(s)の表式は発散する必要があります。

それ故,Rel<nなるl対しては推測の入る余地があります。

l(s)

=(1/π)∫{2At(s,t')Ql(1+2t'/(s-4))/(s-4)}dt'

で定義されるal(s)のlに関する内挿を領域 Rel<nまで

解析接続できない可能性は非常に小さいと考えられます。

最もありそうな可能性は,こうした問題ではよくあることです

が,複素l平面上で Rel=nという直線上に特異点が1つだけ

あることです。

 

これは,そこでal(s)が発散するのに十分な性質を与えます。

 

こうして,特異点の位置と性質についても,あらゆる予測を

行なう準備ができました。

しかし,1つの重要な論点はal(s)の解析接続がl<nなる

整数値に対して明確な物理的解答を与えるか否か?

ということです。

 

これは,決して確かなことではありません。

実際,l(s)

=(1/π)∫{2At(s,t')Ql(1+2t'/(s-4))/(s-4)}dt'

を導出するのに,余分な引き算項を無視して,

A(s,t)=(1/π)∫{At(s,t')/(t'-t)}dt'

を仮定することから未知のパラメータが入ってきています。

 

そのため,整数l<nに対してさえ,

l(s)=(1/2)∫-11(s,t)Pl(cosθs)d(cosθs)と

l(s)

=(1/π)∫{2At(s,t')Ql(1+2t'/(s-4))/(s-4)}dt'

の間の連結性についての情報が曖昧だからです。

これに関してChewは,最も経済的な仮説を採用しました。

 

それは,"こうした解析接続は実際の整数:l<nに対する正しい

物理的振幅を与える"という直接的で単純な仮説です。

これは原理的には余分な引き算定数の導入を避けています。

こうした条件下でwell-definedな解析接続,すなわち,特異性

を迂回する道筋に独立なそれを得ることが必要です。

 

このことは,可能な特異性の型を厳しく制限します。

 

例えば対数型の特異点は都合が悪いことになります。

 

なぜなら,接続の経路が特異点の上方を通るか下方を通る

かによって接続される関数が異なるため,関数値が特異点

に依存するからです。

1価性条件を満たす最も簡単な特異性は極です。


  そこで,結局Chewの仮説の完全な表現を次のように述べること

ができます。

 

"al(s)

=(1/π)∫{2At(s,t')Ql(1+2t'/(s-4))/(s-4)}dt'

で定義される内挿は,領域 0≦Rel<nでの1つのlに関する

解析接続を与える。


  それは整数lに対しては物理的部分波振幅の正しい値へと導く。

この解析接続はlの特異性として単純な極のみを持ち,接続

された振幅の1価性を保証する。"


というものです。

ここまで,tの実軸切断以外の特異性であるuの実軸上の切断

を無視してきましたが,これは交換力と結合していたことを

思い出します。

部分波振幅をcosθに関して奇と偶の2つの部分に分けます。


そして各々が角運動量lの奇数値,偶数値の間の内挿を定義する

とします。

 

完全さのため,具体的にこれに言及しておきます。

 

l±(s)

=(1/π)∫4{2At(s,t')Ql(1+2t'/(s-4))/(s-4)}dt'

±(1/π)∫4{2Au(s,u')Ql(1+2u'/(s-4))/(s-4)}du'

と書けます。

関連するゾンマーフェルト・ワトソンの公式

(Sommerfeld-Watson fomula)を書けば,
 A(s,t)

=(i/4)∫Cdl{(2l+1)/sin(πl)}

[al(s){Pl(-1-2t/(s-4))+Pl(1+2t/(s-4))}

+[al(s){Pl(-1-2t/(s-4))-Pl(1+2t/(s-4))}]

です。

 

複素l平面上の積分経路Cは,以前に非相対論で,

Sommerfelt=Watsonの公式を導いたときと同じです。

1つの極:l=αでの留数の典型的な寄与は,α(s)がal(s)

の極の場合は,

A(s,t)=(1/2)[β(s)/sin{πα(s)}{Pα(s)(-1-2t/(s-4))

+Pα(s)(1+2t/(s-4))} であり,


 a
l(s)の極の場合は,

A(s,t)=(1/2)[β(s)/sin{πα(s)}{Pα(s)(-1-2t/(s-4))

-Pα(s)(1+2t/(s-4))} です。

 

そして,al(s)の極とal(s)の極を系統的に区別する必要が

あります。


 我々は,これらの極をa
l±(s)の極の符号±に応じて正の符号,

負の符号を持つと言います。

これらの形によれば,レッジェ極の位置l=α(s)が整数になる

と被積分関数の分母のsin関数がゼロとなり,物理的な不変振幅

の極である束縛状態,または安定粒子が得られると解釈されます。

 このことは,既に何度も見てきたことです。

 

そして,整数l=α(s)が確かに散乱振幅の極になるのは,

分子のPα(s)の項が分母と同時には消えないことが条件

ですから,l=α(s)がal(s)の極ならこれは偶数角運動量

l(s)の極なら奇数角運動量に限られます。

同様に,非相対論的散乱でのSommerfeld-Watsonの公式で見た

ように,Regge軌跡が非物理的シート上でエネルギーの値がわずか

に虚数側に逸れる場合,相当してl平面の内挿の接続経路も実軸

の近傍を通過しますが,この軌跡が経路の近傍で,すぐ上方にある

実軸上のlの整数値まで伸びて行ってこれをRegge極とする場合,

この極は1つの共鳴粒子を表わすと解釈できます。

そして,各Regge極の軌跡は,エネルギーsの増加と共に極が遠方

に去るまでは,偶数や奇数の整数値またはその近傍を通過し,安定

または不安定な粒子の全ファミリーを生起させ続けます。

 

これまでの仮定だけでは,こうした状況をこれ以上厳密に述べる

ことは不可能です。

なお,不安定粒子の概念はエネルギーsがその共鳴の幅の端まで

増加しつつ,Regge軌跡が通過して行き,幅が隣り合う共鳴の幅と

重なるほど大きくなったときには,振幅への極の寄与が消える

という描像です。

 

これは,Imα(s)が2のオーダーまで達すると,Regge極の効果

は減衰して,同時にいくつかの別の部分波に影響するように

なるという描像です。

相対論的理論では,エネルギーが十分大きくなると直ちに

非弾性過程が起きます。

 そこで,これまでの議論を幾つかのチャンネルが同時的に存在

する場合へ一般化する必要があります。

 

こうした場合には,プロセスの記述は単一の振幅だけによるの

ではなく,粒子が2つ以上あるなら,そのプロセスが含む複数の

粒子の相対エネルギーにも依存する幾つかの振幅に依存します。

こうした振幅は,常に異なる総角運動量lの成分に分けること

ができます。

そして,それによって何が生じるか?を推定できます。

 

標的に対して,散乱される粒子が2つ以上ある状態の場合は,

部分波振幅間に角運動量をどのように内挿すべきか?について

誰も知りません。

 

しかし,こうした散乱の散乱振幅についても,これまでの振幅

に対しての知見に類似した解析性を示す関数によって,内挿

を成す手法があると仮定します。

Regge極というのは,特に,同じエネルギーで任意のチャンネル

が開いているときには,対応する全てのチャンネルに崩壊できる

共鳴であると解釈されますから,与えられた1つのRegge極は

角運動量lに内挿されたあらゆる散乱振幅の中に出現すると

仮定できます。

こうした手法で,多数のチャンネルが開いていて列と行が

チャンネルsとt,またはuのみならず,様々なチャンネルの

各々がラベル付けされていて,各々の列チャンネルと行チャンネル

の対に対応する反応の散乱振幅の値を行列要素とする散乱振幅

の行列を定義します。

 

それによって,両方のチャンネルで共有される"lの極

=Regge極α(s)"の寄与を評価することにします。

共鳴が崩壊し得るチャンネルは,もちろんその量子数で

決まります。

 

このことは,Regge極がその量子数のセットと極の符号に

よって特徴付けられることを意味しています。

 

種々の量子数セットを持つあらゆる合成系は,その符号

によって偶数,あるいは奇数の適切な角運動量で,対応する

Regge極の影響を受けて束縛状態や共鳴状態として

存在します。

Fermi粒子の場合,半奇数のスピンの影響については,これまで

一貫して除外してきました。これをどのように考慮するか

についても未だ不確定です。

 

しかし,"軌道+スピン=総角運動量"jの値の間に内挿する

ことによって,これまで得た結果を一般化する方向性があります。

 

こうした場合は符号の効果が次のようになるように取られます。

 

Fermi粒子に対応する極のグループは,ある種類の極は,

j=1/2,5/2,9/2,..にのみ現われ,他の種類の極は,

j=3/2,7/2,11/2,..にのみ現われるように一般化されます。

Regge極は共鳴を表わすと解釈できるので,極自身が共鳴の

性質を有すると考えられます。

 

共鳴が1つではなく幾つかのチャンネルに崩壊できるとき,

例えば,核反応の理論によれば,反応が形成と崩壊から成る

ときの断面積は,それぞれの部分幅の積に依存します。

断面積が,一部が形成チャンネルに依存し,他の一部が崩壊

チャンネルに依存するように因数分解できるという事実は

非常に興味深いです。

 

Regge極のアプローチでもそうした因数分解の手法が可能か

どうか?試してみるのも有効であると思われます。

そのため,当該反応について開いている幾つかのチャンネルを

全てギリシャ文字λ,μ,..etc.でラベル付けして,チャンネル

λからチャンネルμへの反応の実際の振幅を行列要素の形で

{l(s)}λμと書きます。

 

あらゆる行列要素が,l=αにlの極を持つとき,それら行列要素

の最もありそうな形を考えてみます。

l=αにおいては{l(s)}λμは∞であり,要素に小さな摂動を

加えてもほとんど乱されることがないので,ほとんど情報が

得られません。

 

しかし,振幅行列の逆行列の存在を仮定して逆行列の要素

を{l(s)-1}λμとすると,{l(s)}λμl=αで∞

なので,行列l(s)-1∞ の逆数であるゼロを固有値と

して取るはずです。

 

{l(s)-1}λμに少しの摂動を加えると,ゼロ固有値も少し変化

すると思われ,その変化はlの関数で与えられ,またゼロと

異なる固有値もα近傍の異なるlで消える(ゼロになる)と

考えられます。

もしも,振幅行列の逆行列のゼロ固有値が唯1つなら,逆行列

の小さな乱れはRegge極の位置を少しシフトさせるだろうし,

幾つかのゼロ固有値群があるなら逆行列の小さな乱れは初期

の縮退している1つのRegge極を,幾つかのゼロ付近で近接した

Regge極の族に分割シフトさせるであろうと思われます。

そして,最もありそうなのはal(s)の固有値として∞ 固有値

が唯一存在し,これに対応する唯一の固有ベクトルγλが存在

して,行列を対角化した結果,全てのμに対し{l(s)}λμ

γλに比例することです。

 

しかも,時間反転不変性から,{l(s)}λμ{l(s)}μλです。

 

このとき,散乱振幅の行列は,

{l(s)}λμλγμ)/{l-α(s)}+(有限部分)という形

に帰着すると考えられます。

このルールは基本的に単純です。

 

幾つかのチャンネルがあるとき,各極の寄与が行列となり,留数

の寄与β(s)がγλγμなる積の形で与えられるというものです。

 

もしも行列がこれほど単純な形でないとしたら,それは2つ,

あるいはより多くの極の偶然の一致がある場合です。

今日はここまでにします。

参考文献:R.omnes,M.Froissart「Mandelstam Theory and Regge Poles」W.A.Benjamin,Inc,New York(1963)

 

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