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2007年10月 6日 (土)

形式論理学(2)

 形式論理学の続きです。

 以下では,論証の妥当性を論じるのに,全ての場合について真理値を与えて,そのテーブル(表)を調べるという有る意味で真っ正直な真理表を用いる非効率的と思える方法よりも,はるかに効率的でしかも機械的に行なえる真理の木の方法を紹介して説明します。

 例えば"前提がB⇒¬A,¬B⇒C;結論がA⇒C"という論証が妥当であることは集合{B⇒¬A,¬B⇒C,¬(A⇒C)}が矛盾することと同等です。

 

 実際,この論証は妥当で集合は矛盾していますが,これは真理の木という手法では閉じた木になっているという事実によって示されます。

 これはどういう意味かというと,木のてっぺんから末端まで続く経路のなかの,継続したいくつかの分枝のどれにも,それぞれ何らかの文(肯定)とその否定の両方が現われているような木のことです。

真理の木の導入的な説明のために,上に例示した論証の妥当性を対応する集合の元の全てが同時に真となるような場合があるかどうかで確かめる真理の木を作ってみます。

 まず,出発点;startです。1.B⇒¬A,2.¬B⇒C,3.¬(A⇒C)ですね。

次に第1段階です。startの1と2については,それぞれ真になる場合は1つしかないので,3から始めます。

 

実はどこから始めても全体として経路が短いか長いかだけの違いですから,始まりはどこでもかまいません。

当然,推論規則として集合論ではド・モルガンの法則(deMorgan's law)とよばれる論理命題は大いに活用します。

 

つまり,¬(A∧B)=¬A∨¬B,¬(A∨B)=¬A∧¬Bですね。

 

その他,否定の否定は肯定である:¬(¬A)=Aとか,紛らわしくないときには,¬¬A=Aと書きますが,こうした規則を使用します。

そして,1.B⇒¬A(前提),2.¬B⇒C(前提)ですが,3.¬(A⇒C)から,4.A,5.¬Cを得ます。

 

4,5がどうして得られるのかも考えるのが嫌なら,A⇒Bと¬(A∧¬B)が論理的に同値であることを既に真理表によって示しているので,¬(A⇒C)はA∧¬Cと論理的に同値ですから,これも推論規則に含めておいてよいので,これの理由を考える必要がなくなります。

 

4.A,5. ¬Cは4'.A∧¬Cとまとめて書いてもいいわけです。

次に第2段階です。1.B⇒¬A(前提)を考えると,これと同値な言明(は¬(B∧A)=¬B∨¬Aです。

 

これは¬B,または¬Aであることを意味しますから,ここで木は2つの場合に分岐します。

 

4.A,5.¬Cと6.¬Aの分枝では,Aと¬Aの両方が現われているのでこの経路は閉じています。

 

つまり,この流れでは共に真になることは有り得ないAとAの否定の両方が現われているので,こちらの道では真に到ることに失敗したということで,下にバツ:×を書いてこの道はここで終わりにします。

次に,第3段階です。既に1.B⇒¬A(前提),2.¬B⇒C(前提),3.¬(A⇒C),4.A,5. ¬C,6.¬Bの分枝しか残っていません。

 

2.¬B⇒C(前提)を考えると,これと同値な言明は¬(¬B∧¬C)=B∨Cです。

 

これはBまたはCを意味しますから,再びBとCに分岐しますが,Bのほうは6.¬Bによって直ちに閉じるし,Cの方も5.¬C,6.¬BよりCと¬Cが共存しますから閉じます。

こうして木は完成し,集合{B⇒¬A,¬B⇒C,¬(A⇒C)}が矛盾することが示されたので,論証:"前提がB⇒¬A,¬B⇒C;結論がA⇒C"が妥当であることを明示することに成功したわけです。

 

もちろん,この例のような単純な論証では,むしろ複雑になったと感じるかもしれませんが,これの威力がわかるのはより複雑な論証に適用する場合です。

一方,妥当でない論証:"前提がA⇒B,¬A;結論がB"を真理の木でテストをするとどのようになるかを見てみます。

 

対応する集合は{A⇒B,¬A,¬B}です。

 

A⇒Bは¬A∨Bと同値です。これを¬A,¬Bの後に書くとそこで¬A,¬B,¬Aの経路と¬A,¬B,Bの経路に分かれますが,後者は¬BとBがあるので閉じていて,一方は開いたままです。

 

開いた経路:¬A,¬B,¬Aはこれらが同時に真になる場合,つまり反例の存在を意味します。

短かいけれど,今日はここまでにします。

 参考文献:Richard Jeffrey著(戸田山和久 訳)「形式論理学」(その展望と限界)(産業図書)

 

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