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2007年10月18日 (木)

形式論理学(4)

 これまでは文の分析は,文そのものを最小単位とするところで終わっていました。

 

 今日は,より複雑な論証の分析に耐えられるように,論証を構成する文とその規則を一般化します。

 "ワトソン(Dr.Watson)がモリアーテイ(Pf.Moriarty)を捕まえることができるならホームズ(S.Holmes)にもできる"は,W⇒H;"ホームズはモリアーテイを捕らえることができない"は,¬H;そこで,"ワトソンはモリアーテイを捕まえることができない"は,¬W;

 

 のような論証の前提や結論は,単に分析の最小単位となる原子文:W,Hを,⇒ や ¬ といった真理関数的結合子で結合した,いわば"分子"になっています。

上の論証の前提と結論の論理構造は,分析の最小単位となる原子文を示す文字と,原子から分子を作るための括弧,否定記号,条件法を表わす矢印を使って表現されています。

こうした論証の妥当性は,前提と結論が持つ分子構造による妥当性であって,原子文の内部構造はとりあえず無視されていました。

ところが,一般に我々が行う論証の多くは,こうした単純なやり方での分析では手に負えない有機的で複雑な構造を持っています。

"誰であれ,モリアーティを捕まえることができるとしたら,それはホームズだ。";"ホームズはモリアーティをを捕まえることができない。"それ故,"誰もモリアーテイを捕まえることができない。"

 

という論証を与えたとき,これは今までのような単純な構造になっていないことがわかります。

この論証が妥当であるということを示すためには,分析を原子よりもさらに下のレヴェルまで行なう必要があります。

 

つまり,原子文を,それ自体が文でも真理関数的結合子でもない構成要素にまで分解して分析しなければなりません。

そこで我々は単純な真理関数的論理に別れを告げることになります。

 

手始めに前提と結論を既に自由に扱えるようになった論理的表記法と日本語を混ぜた形に直して論理的構造を見やすくしてみます。

"あらゆるxについて(xはモリアーティを捕まえることができる⇒ホームズはモリアーティを捕まえることができる)";"¬(ホームズはモリアーティを捕まえることができる)":それ故,"¬(モリアーティを捕まえることができるようなxが存在する) "

こうすると,第1の前提と結論に出てくる,"あらゆるxについて~"とか,"~のようなxが存在する"に対応する論理的表記法が必要になります。そこで,これらを次のように表わすことにします。

すなわち,"あらゆるxについて~"を,∀x(普遍量化子,または全称量化子)で,そして,"~のようなxが存在する"を,∃x(存在量化子)で表現します。

そこで小文字a,bで,それぞれ,ホームズとモリアティという人称を表わし,大文字のTを"~は~を捕まえることができる"という関係を表わす句の代わりに用いれば,上に例示した論証は全て論理的表記法で表現することができます。

 

こうした表記法ではTabなどが原子文になります。この例では,∀x(Txb⇒Tab);¬Tab;故に¬∃xTxbと表現されます。

こうした∀xや∃xのような論理的表記におけるxを,変項と呼ぶことにします。そして,それぞれの論証で変項が表わすことのできるものを集めた集合を,その変項の論議領域といいます。

そして,この論証が妥当であることを示すためには,変項xがどのような範囲のものを表わしていようと,つまりxの論議領域が何から成っていようと,そしてその何かがa,bという名称で指定されていようと,さらにTなる関係を如何なるものと解釈しようと,論証の前提の全てと結論の否定が同時に真になることは決して有り得ないことを示せばいいわけです。

こうした論証の妥当性もテストできるように真理の木の方法を拡張することを試みます。

 

まず,論証の前提と結論の否定とをリストアップします。

1.∀x(Txb⇒Tab);2.¬Tab;3.¬¬∃xTxbと書きます。

 

まず,3.¬¬∃xTxbをチェックして,4.∃xTxbを得ます。

ところで,1.∀x(Txb⇒Tab)において,(Txb⇒Tab)の前提は∀xなので,xが何であっても括弧の中の命題は成り立つはずです。

 

そこでx=bとして,5.Tbb⇒Tabが成立します。

 

しかし,命題 1.からは,なお,5.とは独立な別の情報をも引き出せる余地があるので,この時点で 1.にチェックをつけることはしません。

 

この新しい規則を普遍例化(UI)と呼びます。

そして,5.Tbb⇒Tabは,¬Tbb∨Tabと論理的に同値ですから,このステップで2つに分岐して,6.¬Tbb,Tabの左右両方の2つの経路になります。

 

この段階で,6.の右側のTabの分枝は,2.¬Tab があるので閉じています。

 

しかし, 6.の左側の¬Tbbにつながる分枝は,なお開いています。

一方,4.∃xTxbはTxbを成立させる,ある人物xが存在することを意味するので,この少なくとも1人の存在する誰かの名称をcと置いて, 7.Tcbと書くことができます。

 

この4.は1度しか使えないので,4.にはチェック印をつけます。この新しい規則は存在例化(EI)と呼びます。

さらに,1.∀x(Txb⇒Tab)をもう1度用いて,x=cとおいて,8.Tcb⇒Tab,あるいは 8.¬Tcb∨Tabと書くことができますから,9.¬Tcb,Tabと展開できます。

 

これで9.の左側の分枝:¬Tcbは 7.Tcb によって閉じます。

 

また,9.の右の分枝:Tabも再び 2.¬Tab によって閉じます。

以上で木のあらゆる経路=分枝は全て閉じて,全体として閉じた木になるため,例として出された論証の妥当性は真理の木によって証明されました。

 

したがって,真理の木による妥当性検証の方法は量化子と変項を含んだ一般的な論証に対しても拡張適用が可能なことがわかりました。

内部構造を有する原子文は一般にMa,Tab,Rabc,..などの形をとります。

 

そこで我々は在庫として,まず個体の名称,原子文を表わす文字(文記号),そして個体の持つ属性を表わす記号:2つの個体,3つの個体,あるいはそれ以上の数の個体の間に成り立つ関係を表わす記号を持つ必要があります。

 

特定の論証を分析するには,こうした記号は有限個あれば足ります。

しかし,我々が出会うあらゆる論証を分析するには一体どれだけの記号が必要であるかわかりません。

 

とにかく今のところは,アルファベットの小文字を名称に使い,これを大文字の後に続けて書くことで文を作ることにします。

 

この大文字の方は述語と呼びます。

0-項述語とは原子文を表わす文字・文記号の別の言い方です。

 

1項述語とは,変項xの値に成れるもの,つまり個体の属性を表わしています。

 

こうして例えばMなる属性を文にするためには,1つの個体を示す名称=小文字が必要でMaと書けば文になります。

同様に2項述語:T,3項述語:Rはそれぞれ2つ,3つの個体の間の関係を表わします。すなわち,Tab,Rabcです。

 

同様に,一般に任意の非負整数nについてn項述語が定義できます。

かくして,論理形式に適した文の新しい形成規則としては,出発点となる文の範囲(0)をやや拡張し,与えられている文から新しい文を作るための方法を定める規則:1~5 に,量化子∀,∃を扱う規則;6を追加したもので与えられることになります。

 

0:出発点.任意のn項述語の後ろにn個の名称を続けたものは文である。(n=2の場合の例:Tab,Tbbは文です。しかし,Txbは文ではありません。xは変項であって名称(名前)ではないからです。)

 

※新しい文を生み出す6つの操作 

 

 1:否定.任意の文の先頭に ¬ をつける。

 2:連言:2つ以上の任意の文の列において隣り合う文の間に∧を書き,そうしてできたものを括弧でくくる。

 3:選言:2つ以上の任意の文の列おいて隣り合う文の間に∨を書き,そうしてできたものを括弧でくくる。

 4:条件. 任意の2つの文の間に⇒を書き,そうしてできたものを括弧でくくる。

 5:双条件. 任意の2つの文の間に ⇔ を書き,そうしてできたものを括弧でくくる。

 6:量化.何らかの名称rが現われているが変項が現われない全ての文,..r..において,rが現われる全ての箇所をxで置き換え,先頭に ∀x,または ∃xを付ける。

 後にさらに改定した規則を与えるまでの間は,規則:0~6 から得られるもの以外に文であるようなものは存在しないとします。

 今日はここまでにします。

 参考文献:Richard Jeffrey著(戸田山和久 訳)「形式論理学」(その展望と限界)(産業図書)

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302. 論理学・数学基礎論」カテゴリの記事

コメント

数の言葉の自然数の[一・二・三次元]の間の[事象]の[国語(言語)命題]は、
[数式]に[翻訳](『量化って』)すると、
[全称量化式]
[存在量化式 Ⅰ ]
[存在量化式 Ⅱ ]
  となる。
特に、[存在量化式 Ⅱ ]の『離散的有理数の組み合わせによる多変数創発関数 Ⅱ ]の[連続性]への導きは、
『HHNI眺望』で観る自然数の絵本。
有田川町電子書籍 [もろはのつるぎ」

御講評をお願い致します。

時間軸の数直線は、『幻のマスキングテープ』に・・・
『かおすのくにのかたなかーど』から・・・

投稿: 式神自然数 | 2020年6月27日 (土) 16時46分

 コメントするの忘れていました。。

 帰納と再帰は違うのではありませんか?ともあれ、論理学では帰納から結論を導くことは有り得ません。

 論理学とは元々公理にもとづいて演繹することを指すのですから。。

 ただし、公理あるいは定理から結論を演繹的に証明するために逆に帰納に頼るという、証明の論法としての帰納法はペアノによって集合の公理から論理が成立することがわかっています。

 こうした帰納法が成立することも、私たちが高校生のときでさえもっともらしいと思ったくらいですから、もちろん論理学のこれまでの公理と演算規則から演繹されなければおかしいでしょうね。。

                TOSHI

投稿: TOSHI | 2007年11月20日 (火) 14時34分

文を、再度呼び出す(帰納)は、いらないのでしょうか。
これがないと、一般には、無限集合が扱えないのでは?
もちろん、収束することが、前提ですし、
「この文が真なら、サンタクロースは存在する」
は、困りますが、、、

投稿: kafuka | 2007年10月20日 (土) 07時04分

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