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2007年10月 1日 (月)

S行列とレッジェ理論(15)

レッジェ理論(Regge theory)の続きです。 最終回です。

最後に理論の実験との比較について述べて終わりにします。

 

結局,昔まとめたノートの内容とはいえ,1冊の洋書1~8章

のほぼ全体を直訳後,さらに意訳して解釈し,不明瞭な部分や

不親切な数式の行間を埋め,係数の間違いなどを他の文献を

参考にしたりして訂正,補足して説明を与えるという作業を

重ねてきました。

 

それらが,そのまま,このブログ記事シリーズ「S行列と

レッジェ理論」の(1)~(15)の上で再現されたことになり

ますね。

さて,実験によってRegge極仮説を検証するには,全く異なる

2つの方法があります。

 

例えば核子-核子散乱(N-N散乱)で考えます。

重心系(慣性中心系)のエネルギーが物理的N-N散乱に対応する

1/2で与えられるようなチャンネルを直接チャンネルと呼びます

が, 既に我々はこのチャンネルにおいて様々なRegge極があって,

それらの1つは例えば重水素核に対応することを知っています。

そして,このRegge極は,重水素核という束縛状態 or 共鳴状態

が存在するためには必要であるという直接の物理的意味を

持っています。

 

この種の物理的解釈は直接チャンネルでのみなされ,後述する

交叉チャンネルでの解釈はこれと対比すると,非常に異なる

内容です。

すなわち,sチャンネルでの物理的N-N散乱は,交叉チャンネル

では物理的N-N~散乱に対応しています。ここでN~は核子N

の反粒子を表記します。

 

このチャンネルでは重水素核の極などは,本質的にこのチャンネル

のエネルギー:t1/2またはu1/2での関数としての散乱断面積

漸近的な傾向への寄与として現われます。

そこで,実験的検証の手段として,Regge極を直接チャンネル

でテストするか,それとも交叉チャンネルでテストするかと

いう2つの方法のどちらを採用するかにより全く異なる様相

を有すると思われます。

直接チャンネルでの実験テストは全く貧弱なものです。

そのアイデアは以下の通りです。

各Regge極は,"well-definedな(無矛盾な)"量子数を持たなければ

なりません。

 

それは,対応する粒子,または共鳴の量子数です。

 

例えば,バリオン数,電荷,アイソスピン(荷電スピン),奇妙さ

パリティ(偶奇性),G-パリテイ,etc.です。

 

あらゆる粒子を,その量子数と符号,すなわち,スピンが偶数

か奇数か(ただし,Fermi粒子(Fermion)なら1/2を加えます)

に従って,安定粒子,不安定粒子,共鳴に分類します。

各々の分類での粒子群をRegge極の軌跡上に並べることが

できるかどうかを調べてみます。

 

これを行う際に唯一の面倒なことは現在知られている粒子

(小さいバリオン数)に対して,おそらく1粒子以上を含む

ものが3つの組み合わせしかなく,この方法で得られる

情報が乏しいことです。 

(※これはこのFroissartのtextbookをそのまま訳したもので,

当時;40年以上も前と比べて現在の状況は当然違っている

と思います。)

具体的な粒子のテーブルと解析部分はとばして結論だけを

見ると,幾つかの場合で最も楽観的なスピンやパリティを

選択し,なお同じ記号と添字で表される(つまり同じ軌跡の

上にある)粒子の3つの可能なペアのみが存在します。

 

それはNα(核子N,および核子の第3共鳴),Λα(ラムダ:Λ,

およびY0**(1815)),Δδ(π-N共鳴:Δ,およびπ-Nの第4共鳴)

です。

(※ギリシャ文字の下添字α,δ等はそれぞれの粒子記号での軌跡

添字です。)

もしも,これらのペアの各々が,それぞれ1つのRegge軌跡の

上にあるということが真実であるならば,Regge極の傾きに

よって,それがエネルギーと共にどの程度速く変動するか

を見積もることができます。

 

そして,実際にこれを行うことにより,3つの軌跡の平均値

として,傾き{dα(s)/ds}が,およそ1Gev-2に著しく近い値

であることがわかりました。これは偶然の一致でしょう。

しかし,とにかく,理論と実験の合致が真実なら,少なくとも

全ての強い相互作用をする粒子にとって,粒子の"エネルギー

=質量"のレベルを予測する際の大きさのオーダーを示して

いることは間違いありません。

 

そこで,既知の低エネルギーバリオンから,他の未知の励起

バリオンを探す際に,どのエネルギー領域で探すべきかという

指針として利用することができます。

一方,交叉チャンネルにおける実験テストは,既に述べたように

断面積の漸近的な動きの問題と関係しています。

 

より詳細に本質に入る前に,自明で初歩的ですが,非常に

重要な2つの注意について強調しておきます。

まず,最初の注意は,交叉対称性(crossing symmmetry)は

相対論的理論に固有の著しい特徴であり,交叉チャンネルに

おけるRegge極の物理的帰結に比較し得る,如何なる対応物も

非相対論的散乱理論においては存在せず,想像すらできない

ということです。

 

そこで,提案されている実験テストはRegge仮説だけではなく交叉

に内在する全てのアイデア,あるいは多分両方の理論の基礎となる

幾分深い考察,そして未知のアイデアのテストでもあるという

ことです。

第2の注意は,我々は単に漸近的な挙動のみをテストしている

に過ぎないということです。

よく質問されるのですが,一体,いつ漸近的領域に入るのか?

という疑問があります。


 現在知られているどんな理論も,この質問に答えるための

手がかりを与えることはできないというのが,

これの答です。

より堅固な例を挙げれば,気体運動論は"漸近的にゼロ圧力

の気体に適合する理論である。"というのがあります。

 

これは"漸近理論がいつ適切になるのか?"というのは先験的

(a priori)には予言できないという例になっています。

実験家にとっては実際の気体を取って理論との一致に到達

するまで,ひたすら圧力を下げて理論をテストするしか

ないわけです。

 

この圧力の臨界値は,気体の種類と温度に依存すると予想され,

例えば通常の条件下で水素に対してはうまくいっても

二酸化炭素ではあまりうまくいかないことを見ます。

後者では,彼は理論との一致を見出すのに,例えば初期圧力の

1/10を用いるよう強いられます。

 

もちろん,後の理論の改善によって,なぜ理論から逸れるのか

が予言できるようになり,どんな気体に対しても漸近領域の

臨界となる位置がどこであるかを予言できるようになる

でしょう。

Regge理論の場合には,まだ,この段階に到達していないので,

実験に見られる散乱振幅の挙動が理論から予期されるものと

合致するように見えるまで,ひたすらエネルギーを高くして

実験を行う必要があるということになります。

さて,交叉チャンネルでの実験結果から得られる重要な性質

としてポメランチュックの定理(Pomeranchuk)を説明します。

まず,以前に漸近的な挙動の説明のために採用した光学模型

に対する光学定理:ImA(s,0)=ks1/2σtot/(4π)によって,

前方散乱振幅の評価を得るために,最も簡単なパラメータ

である総断面積を使用します。

今の場合は,交叉チャンネルを扱っていて,例えばtチャンネル

が重心系のエネルギーであり,sが運動量遷移です。

 

そこでsをtと交換する必要があって,

光学定理は,ImA(0,t)=kt1/2σtot/(4π)

と読めます。

また,

A(s,t)=(1/2)[β(s)/sin{πα(s)}

{Pα(s)(-1-2t/(s-4))±Pα(s)(1+2t/(s-4))};

t=-2k2(1-cosθs),cosθs1+2t/(s-4)から,

A(0,t)=(1/2)[β(0)/sin{πα(0)}

{Pα(0)(-1+t/2)±Pα(0)(1-t/2)};kt(t-4)1/2/2

~ t1/2/2です。

 

それ故,t→ ∞において,

ImA(0,t) ~ tσtot/(8π),かつ A(0,t) ~ (定数)×tα(0)

となります。

ただし,種々のRegge軌跡の中でReαが最大のα(0)を考えて

います。

β(0)もα(0)と同様,実数であると仮定します。


そうするとt→ ∞での,A(0,t) ~ (定数)×t
α(0)

の定数の位相は,α(0)の値と符号にのみ依存し,+符号なら

πα(0)/2+nπ,-符号ならπ{1-α(0)}/2+nπ

になります。

なぜなら,

A(0,t)=(1/2)[β(0)/sin{πα(0)}

{Pα(0)(-1+t/2)±Pα(0)(1-t/2)}

~ (1/2)[β(0)/sin{πα(0)}{(t/2)α(0)±(-t/2)α(0)}

=(1/2)[β(0)/sin{πα(0)}[1±exp{±iπα(0)}](t/2)α(0)

=±2-α(0)exp{±iπα(0)/2}[β(0)/sin{πα(0)}ξ±(α(0))tα(0)

~ (定数)×tα(0)(複号同順);

ξ(α(0))≡cos{πα(0)/2},ξ(α(0))≡isin{πα(0)/2}

と表現されます。

 

α(0)のξ±(α(0))以外の係数である実数の位相はnπであり

-符号に対応する係数iの位相はπ/2だからです。

いずれにしても総散乱振幅のt→∞ での漸近的な挙動の理論式

としてtot(定数)×tα(0)-1なる形式が得られます。


これは少なくとも支配的な項を与える極に関して
α(0)を決める

ことを許す強力な結論をもたらします。

つまり,実験的にはあらゆる観測される反応において,高エネルギー

で総断面積σtotは定数に近づきますが,この実験結果が既に漸近的

な極限における挙動に対応すると推測するなら,α(0)=1である

と結論せざるを得ません。


 こ
のα(0)=1なる特徴的な極は,初期の段階で総断面積の定数性

を論じたポメランチュック(Pomeranchuk)の名を取って

ポメランチュック極(Pomeranchuk-pole)と命名されました。

 

ポメランチュックは,こうした極が+符号しか取り得ないことを

示しました。

これはα(0)=1 なら,ξ(α(0))/sin{πα(0)}

=cos{πα(0)/2}/sin{πα(0)}

=(1/2)/sin{πα(0)/2}=1/2であり,+符号なら問題なし

ですが,

ξ(α(0))/sin{πα(0)}=isin{πα(0)/2}/sin{πα(0)}

=(i/2)/cos{πα(0)/2} ~ ∞なので-符号ではt→ ∞で

の,A(0,t)~(定数)×tα(0)なる挙動と矛盾するからです。

-チャンネルでb+a→b+aの弾性散乱を考え,sをその

際の運動量遷移とします。

 

これのs-チャンネルでの交叉反応は,b+b~→a+a~で

あり,このチャンネルではsはエネルギー変数であり,

ポメランチュック極:α(0)=1はsチャンネルでのRegge軌跡:

α(s)のs=0 における極です。

したがってポメランチュック極のあらゆる量子数はa-a~系の

それと一致しなければなりませんが,aの反粒子a~はaの

あらゆる量子数に対し,正反対の量子数を持つため,a-a~系

では相殺されるので,ポメランチュック極の量子数は全て

消えます。

 

これは,特に電荷がゼロ(中性)でアイソスピンもI=0 (1重項)

であることを意味しています。

もしも,粒子aとして中性のπ=π0を取るなら,~もπ0です

から,ポメランチュック極のG-パリティはG=+1であり,

2つのπによって物理的に許される,+符号を持つことが可能

な偶数の角運動量では波動関数の対称性によってパリティも

+1です。

こうして,全ての量子数のリストを作り,それが完全に一致する

実在の既知の粒子を探すと,記号ωと添字αを持つボーズ粒子

(Boson)f0に遭遇します。

 

そこでポメランチュック極に相当する質量ゼロ(s=0)の粒子

が存在すると仮定し,これをポメランチュック粒子,あるいは

ポメロン(Pomeron)と呼ぶことにすれば,これの示す極α(0)=1

は粒子f0 の極の示すRegge軌跡の上にあると考えられます。

そして前方散乱での大きい散乱振幅は,交叉チャンネルでの

ポメランチュック粒子,あるいはポメロンの交換による寄与

であると解釈することができます。

 

そして粒子f0ポメロンを結ぶ直線の傾きから,

(dα/ds) ~ 0.6 Gev-2となりますが,この傾きは前にバリオン

に対して得られた値:1Gev-2 と同じオーダーの値です。

また,Regge仮説の別の特徴も利用できます。

 

(0,t)=(1/2)[β(0)/sin{πα(0)}

{Pα(0)(-1+t/2)±Pα(0)(1-t/2)}なる表式は,

総断面積:σtotが留数:β(0)に比例することを意味

しています。

 

ところで,以前に示したように,sチャンネルでの部分波

振幅行列要素は,

{l(s)}λμλγμ)/{l-α(s)}+(有限部分)

なる形で表現されます。

 

そして,すぐ前に考察したtチャンネルのaとbの弾性散乱

の交叉反応b+b~→a+a~において,s1/2を入射粒子=

散乱粒子の重心系のエネルギーとするとβ(0)は,それぞれ,

aのみ,bのみに依存する2つの項の積です。

したがってtota+b=Xが得られます。

 

そして,特にσtota+a(X)2なので

σtota+btota+a×σtotb+b)1/2

なる散乱断面積の漸近振幅についての積公式も

得られます。

こうした高エネルギー極限での断面積の幾つかは,かなり

よく知られています。

 

例えばN-N散乱とπ-N散乱がそうです。

しかし,π-π散乱断面積の漸近極限値は未だ得られていません。

 

そこで,たった今上で得られた公式を利用すると,今のところ

入手できるデータから,σtotππtotπN)2/σtotNN15mb

なる予測ができます。

これまでは,総断面積の漸近極限として支配的な極=ポメロン

だけを想定して考察しましたがσtot ~ (定数)×tα(0)-1

代わりに幾つかの極αi(0)の寄与を考慮することもできます。

 

簡単のために,これらαi(0)は全て実数であるとします。

 

このときσtota+b=Σiiαi(0)-1と表現できます。

 

そしてηiをi番目の極の符号とすればbと~の足を交叉することによって,σtota+b~をσtota+bに関係付けることができます。

 

これらの交叉反応の総断面積の関係は,b→b~の交換だけで,

この交換に対応する散乱振幅ではcosθsを-cosθsに変える

だけでいいので,極の符号ηiを考慮することにより,

σtota+b~として,σtota+b~=Σiηiiαi(0)-1

なる表式を得ることができます。

この表式でも支配的な項はポメロンの寄与であり,その符号は

常にηi=+1です。したがって,この式も負の断面積を与える

ような不合理な公式ではないことがわかります。

次に,回折散乱を調べるために微分断面積についての考察を

します。

 

非相対論でもおなじみの弾性散乱の微分断面積の表式を

不変振幅で表現すると,t1/2が重心系のエネルギーである

ようなtチャンネルでは.

dσel/dΩt|A(s,t)|2/t です。

 

そして,cosθt ~ (12s/t)よりdΩt(4π/t)ds

なので,dσel/ds=4π|A(s,t)|2/t2 です。

 

ここで,(s,t)を支配的な項,すなわち,

リーディング・ポールα(s)の寄与だけで表現すれば,

微分断面積の漸近形として,

dσel/ds=g2(s)t2{α(s)-1}  が得られます。

この表式によるなら原理的にα(s)の測定が可能です。

 

両辺の対数を取り,ln(dσel/ds)と(lnt)の両対数曲線の

グラフとしてプロットするのが便利です。

 

すなわち,ln(dσel/ds)ln{g2(s)}+2{α(s)-1}(lnt)

と書けますから,右辺はsを固定すると(lnt)の1次関数です

から,切片と傾きを見ることで,(s)とα(s)の決定が可能です。

 

原理的には,測定は全ての負の物理的sの値に対して繰り返せます。

しかし,実際には,

"(1)(lnt)の大きい値に到達するのは困難である。

(2)一定のsに対応する実験室系の散乱角は(1/t)のように

変化する。

(3)測定された微分断面積は非常に急速に減衰する。

(4)曲線が漸近線に到達したと認識するのは困難である。"


などの理由で実験は非常にむずかしいものです。

 

しかし弾性p-p散乱などについて予備的実験が継続的に実施

されています。

|s|の大きい値についてポメランtyック軌跡を追跡すると,

興味深い疑問が生じます。


α(s)は値ゼロに到達するのだろうか?そして,もし到達するなら,

そこでは何が生じるのだろうか?という疑問です。

もちろん,観測されるα(s)は常に0と1 の間にあります。

そして,これ自体は現在のところ,何の困難でもありません。

 

しかし,もしも軌跡α(s)が実際にゼロと交差する場合には,

この点はポメランチュック軌跡の上にあるのですから,その上

の極の符号は+1です。

それ故,それは1つの"ゴースト(ghost-pole:幽霊極)"になります。

 

すなわち, 符号が+で,α(s) ~ 0 なら,

A(s,t)=(1/2)[β(s)/sin{πα(s)}

{Pα(s)(-1-2t/(s-4))±Pα(s)(1+2t/(s-4))}

~ [β(s)/sin{πα(s)} となります

これが,ゴーストである理由は,値:s=s0における極は質量が

01/2の粒子に対応するからです。


そしてtチャンネル散乱の物理的領域であるs0<0 に対しての

極:α(0)は虚数質量の粒子,つまり空間的な運動量を持つ粒子

に対応します。

 

そして,この虚数質量粒子は空間的運動量の和を大きく取ること

で,いくらでも大きい負の時間成分(エネルギー準位)を持つこと

が可能なので,エネルギーが最低の状態,基底状態を持つことが

できません。

そこで,(0,t)~ [β(0)/sin{πα(0)}の分母,分子の組み合わせが消えるのでなければ,全世界はこうした奇妙なものに崩壊することになります。

 

そこで,恐らくα(0)=0 なら同時にβ()=β(0)もゼロ

を通り,結果としてA(0,t)は有限値に留まると思われます。

こうしたことは偶然に起こることではなく,むしろ頻繁に起こる

現象と考えられます。


もっとも,それがどのようにして起こるかという正確なメカニズム

については解明されてはいません。

回折ピークの主題に戻って,以前に光学模型でなされた半古典的

表現に戻ってみます。


すなわち,
dσel/ds=g2(s)t2{αi(s)-1}

=g2(s)exp[2s{(∂α/∂s)lnt}]と書けば,

tが増加するとき,s<0 なので,指数部分は2(s)の部分

に打ち勝って急激に減衰します。

 

そこで,ln(dσel/ds)の回折ピークの幅は(1/lnt)の

ように衰えます。


そして,総弾性断面積は,
σel-∞0(dσel/ds)ds

2(0)/{2(∂α/∂s)lnt} → 0 as t→∞  です。

sにおける回折ピークの幅は次式によって実験室系の角度

における幅に関係付けられます。

 

すなわちlab~2m(-s)1/2/tであって,標的の有効半径Rは

R~1/plabθlab~(2m/t){t/2m(-s)1/2}

~1/(-s)1/2~(lnt)1/2で与えられます。


このRはt→ ∞ のときに無制限に増大しますが,総断面積
σtot

は一定のままです。

エネルギーが増加すると,標的がまるで煙のパフのように吹き出

して次第に透明になるかのように見えますが,これはむしろ古い

描像で,明確な描像は実験から確立する必要があります。

最後に非弾性散乱ですが,t→ ∞のとき総断面積σtotは一定

のままで,総弾性断面積はσel→ 0 ですから,非弾性散乱の

断面積は,σinelσtot(一定)という傾向があります。

 

しかし,非弾性散乱における測定は弾性散乱におけるそれより

もはるかに困難です。なぜなら,断面積を高い値に保つのに

回折に頼ることができないからです。

しかし,わずかに,ある条件では非弾性散乱も測定可能

になります。

例としてtチャンネルのp-p散乱を考察し,入射のp+pが

ポメロンの交換相互作用によって散乱され,終状態では励起核子

共鳴N*とpになり,その後N*がpとπ0に崩壊するような

プロセスを想定します。


こうしたポメロン極の交換反応なら,十分大きい断面積を呈する

と予想されます。

一方,ある量子数の保存則を満たせないためにポメロンの交換

が禁止されているプロセスもありますが,こうした反応ならば,

上記の反応よりも,はるかに急激に減衰する漸近断面積になる

と予想されます。

これは,例えばπ+-p散乱のチャンネル=Δ++-共鳴,の励起反応

で実現されます。つまり,Δ++-共鳴のアイソスピンはI=3/2

なので,明らかにI=0 のポメロンの交換は不可能です。

-p散乱の実験では出て行くpの運動量を注意深く測定して

失われた運動量に対応する質量:M2を計算します。

 

そして,そこでの微分断面積:(dσ/d2)が計算されます。

これは弾性散乱に対する大きいピークを持ちます。

 

それから,M2値に関する限り2番目,3番目,..の核子Nの

共鳴ピークを与えるはずです。

 

しかし,こうした実験から明確な理論的結論を見出すのは

かなりむずかしいことです。


というのは通常は背景散乱の断面積の方が,問題としている

反応に比べてはるかに大きいからです。

別種の実験もテストに使えます。

 

例えば1核子交換に対するRegge形式が通常の摂動計算より,

良い結果をもたらすかどうかを調べるものです。

 

より明確に言えば,後方π-N散乱を測定し,α値が核子の極

の値:1/2から変化するかどうかを見ることができます。

一応,ここまでで終わりですが,一番最後にそれとなく,さらり

と検証実験の話が書かれていますが,これは実は,後に強い相互作用

の理論だけではなく,重力をも含む4つの相互作用を包摂した

壮大な理論であるところの,弦理論,あるいは,ひも理論の元になった

重要なポイントを含んでいます。

つまり,S行列(散乱行列)の解析性という半分は現象論である

ような仮説だらけの相対論的Regge理論では,交叉対称性という

アイデアがその中心的役割を果たしていますが,現時点的な

言葉で言うなら,これは双対性(duality)という言葉で表現

されます。

伝統的な場の量子論に基づく摂動論では,s-チャンネルの反応

ダイアグラム(Feynman diagram)とt-チャンネルでの交叉

ダイアグラムは,散乱振幅にとっては,それぞれ独立した1つの

寄与を与えるものとして計算され,それらは全て総和されて

しまいます。

 

ところが,Regge理論では双対性ということを重視して互いに交叉

する複数のダイアグラム,つまり反応が多数のチャンネルに

またがって同時的に存在する場合には,そのダイアグラムは

散乱振幅に対して,共通な1つの寄与しかしない,と考えるので

これは,伝統的な摂動論とは異なるわけです。

 

この立場からは純粋な場の量子論の計算はダブルカウントや,

トリプルカウントetc.をしていて過剰計算になると考えられる

ので,これらのどちらが正しいかは実験すれば簡単に検証できる

はずです。

そして,相互作用の弱い電磁相互作用などの理論的摂動計算

についてはどちらの立場の計算結果も区別できませんが,

強い相互作用の多くの実験では伝統的場の量子論よりも

双対性に基づく計算の方が正しいとされています。

 

これが真実なら,いわゆるトポロジー(位相)的に同一な

ダイアグラム,つまり,例えば1つの反応で穴が1つのトーラス

と同相な多数のダイアグラムが存在するなら,それらは全て同じ

ものであって,二重に数えてはいけないという発想になりますが,

これは弦(ひも)理論における着想そのものです。

そして,こうした散乱振幅の双対性を体現するものが,

正にオイラー(Euler)のΓ関数から構成されるβ関数(ベータ関数)

である,ということに初めて気づいたのは,

ヴェネチツィアノ(Veneziano)です。

 

最初は彼の模型である"ヴェネツィアノ模型=双対共鳴模型

(dual resonance model)"を強い相互作用だけに関係する模型

であるとし,ゴースト・フリーな背景空間が,26次元のBose粒子

だけの模型を想定して出発したのが,弦(ひも)理論の原型です。

これに,Fermi粒子も含め,これが背景空間10次元の完全な

素粒子の模型を与える理論であるとして再構築し,さらに

Bose粒子とFermi粒子の間に超対称性と呼ばれる新しいタイプ

の内部対称性があるという仮説をも加味して,最後に弦の場

を量子化したものが超弦理論,あるいは超ひも理論

(superstring theory)の原型です。

参考文献:R.omnes,M.Froissart「Mandelstam Theory and Regge Poles」W.A.Benjamin,Inc, New York(1963)

 

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