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2007年11月28日 (水)

解析接続の意味

例によって「EMANの物理学」の談話室での話題なのですが,ゼータ関数の定義に関連して,無限級数(の和)によって定義された関数の解析接続とか一致の定理というのは何か?についての議論が進み,ほぼ終局の状態です。

私自身はまだ言い足りないことがあったので,ここでの記事にしますが,実は投稿したものとほぼ同じです。

ダブルポストなので,通常はルール違反なのですが,自分のブログなのでかまわないでしょう。

それに掲示板ではフォントなどが限られているので,ブログでは自分の好きな形式で書けるという意味もあります。

 結局は,2006年4月23日の記事「くりこみ回避のアイデア」で書いた話を少し精密にしただけです。

 私は,複素関数論での通常の解析接続の説明では飽き足らず,物理屋的な解説を目指しました。

 まず,zを任意の複素数とすると,Σk=1nk-11+z+z2+...+zn-1=(1-zn)/(1-z)です。これは有限級数の和なので,|z|<1でも,z=-1でもz=2でも成り立つ等式です。

 そして,|z|<1ならn→ ∞ で|zn|→ 0 なので,Σn=1n-1=1+z+z2+...=1/(1-z)が成り立ちます。

  しかし,z=2ではn→ ∞ で|zn|→ ∞ であり,z=-1ではn→ ∞ でznが確定値を取らないので,Σn=1n-1=1+z+z2+...=1/(1-z) は成立しません。

  そこで,複素関数f(z)を|z|<1で与えられる定義域においてf (z)≡Σn=1n-1=1+z+z2+...(|z|<1)によって定義することにします。

 こう定義すれば,|z|<1の領域では f (z)は関数1/(1-z)に一致します。

 |z|>1やz=-1では等式Σk=1nk-1=1+z+z2+...+zn-1=(1-zn)/(1-z)は成立しますが,Σn=1n-1=1+z+z2+...=1/(1-z)は成立しません。

 しかし,そうした|z|<1の領域以外のzに対しても部分和を表わす右辺の(1-zn)/(1-z)での分子のznを無視して,(1-zn)を1としたものと f (z)を同一視してz=1を除く全複素平面でf (z)=1/(1-z) (z≠1)と定義することにします。

 つまり,f (z)≡limn→∞[{1+z+z2+...+zn-1}+zn/(1-z)]という式を関数f (z)の正しい定義とするわけです。

 |z|<1なら,この後の定義も|z|<1 におけるf(z)に対する前の定義f(z)≡Σn=1n-1=1+z+z2+...(|z|<1)と全く一致します。

 一方,|z|>1やz=-1では差し引くべき項:{-zn/(1-z)}は収束しません。

 特に|z|>1なら|zn/(1-z)|→∞ なので, f (z)≡limn→∞[{1+z+z2+...+zn-1}+zn/(1-z)]は形式的に無限大から無限大を引くという意味に取ることも可能で,これは物理学でのくりこみの処方に似ています。。

 ここまでは,直接には解析接続とは無関係な話です。

 そして複素関数論では f (z)≡Σn=1n-1=1+z+z2+...=1/(1-z) (|z|<1)を特異点z=1を避けて延長した点でも,それが正則関数になるように,|z|≧1,z≠1なる点まで接続すれば,一致の定理によってそうした点でも f (z)は1/(1-z)に一致する場合しか有り得ないことがわかります。

 実際,z=-1+αと置けばΣk=1nk-1=1+z+z2+・・+zn-1=(1-zn)/(1-z)なる等式はc0,c1,..,cn-1をある定数の複素係数としてΣk=1n(α-1)k-1=Σk=1nk-1αk-1={(α-1)n-1}/(α-2)と変形できます。

そして,|z|=|α-1|>1なら右辺は,1/(1-z)=-1/(α-2)にはなりません。

 しかし一方,αの絶対値が十分小さいならz=-1+αの絶対値が1より大きくても,つまり|z|=|-1+α|>1でも f (z)=1/(1-z)=-1/(α-2)=(1/2)/(1-α/2)=(1/2)Σn=1(α/2)n-1=(1/2)[1+(α/2)+(α/2)2+...]=(1/2)Σn=1{(z+1)/2}n-1=(1/2)[1+{(z+1)/2}+{(z+1)/2}2+...]とテイラー展開されます。

 つまり,z=0 のまわりでは|z|=|-1+α|>1なので, f (z)=1/(1-z)はzのべきでは展開できなくても,z=-1のまわりではα=(z+1)の無限べき級数に展開可能ですから,f (z)は確かに|z|>1,z≠1なる領域でも解析的です。

 また,"一致の定理"の内容というのは同じ点を中心としたテイラー級数の展開係数の一意性により,今の f (z)の場合,|z|<1 以外の領域でも,その解析性(ベキ級数への展開可能性)を保持しながら f (z)を|z|<1から連続的に延長していったとき,もしも2通り以上の延長(接続)方法があったとしても,それらは一致するという定理です。

 このことから,解析接続する方法は一意的に決まります。

 今日は,短かいけれどこれで終わりです。

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コメント

またまた、focusが外れた事をお聞きして、大変申し訳ありませんでした。

投稿: 凡人 | 2007年12月 6日 (木) 23時49分

11段落目、
>z=-1+αと置く
のを、z=1-α と置いても、定義域内且つ正則な領域ですから、同じことが言えますね。
ということは、こう置いた式は、f(z)=1/(1-z)の解析接続の結果と一致するのではと思います。
で、ζ(-1)とかでLim α→0 z=1-α と置いたのが、「オイラーの計算」ではないでしょうか。

投稿: kafuka | 2007年12月 6日 (木) 22時50分

 ども凡人さん、TOSHIです。コメントありがとうございます。

 解析接続と保型形式はほとんど関係ないですね。保型形式というのは例えば複素関数f(z)があって変数zにw=Tzという変換をしたときにf(w)=f(z)となることを言います。

 例えば,1次分数変換(メビウス変換)Tz=(az+b)/(cz+d)(ad-bc≠0)に対して形を保つ,f(Tz)=f(z)なる保型関数ならフックス関数(Fuchs function)ですが,これについては4月末の退院直後の連載記事の「微分方程式と確定特異点」のところで触れています。

                TOSHI

 

投稿: TOSHI | 2007年12月 6日 (木) 04時18分

せいたかのっぽさんの、
>解析接続とは、正則関数を保ちつつ定義域を広げた関数にすることで、つまり、もともとの関数の定義域外で元の関数値と等しい値となる関数となるわけではないということなんですね。
という内容から「保型形式」という用語が頭の中でflashし、net searchしたら、
http://jp.encarta.msn.com/encyclopedia_1421511510/content.html
というURI objectをfoundしたのですが、「解析接続」と「保型形式」は、relationはあるのでしょうか?

投稿: 凡人 | 2007年12月 5日 (水) 22時19分

 どもせいたかのっぽさん、TOSHIです。コメントありがとうございます。

 この記事は以前書いた別の記事の一部をコピーして修正したものなのでフォントサイズなどがうまく反映できないなどに苦労したので確かにいそぎすぎて文章の校正がおろそかになったきらいがあります。

 ご指摘の部分も含めて少し修正してみました。

              TOSHI

投稿: TOSHI | 2007年12月 3日 (月) 16時24分

説明下手ではないです。
単なる私の努力不足で、よく読んだところ、今回の記事は、とても参考になるものでした。

5段落目は、
・・・しかし、z=-1では、n→∞で|z^n|→ ±1で、+1と-1の間で振動して値が不定、z=2ではn→∞で|z^n|→∞なので、・・・
とすべきですよね。

9段落目、
f(z)=lim[{1+z+z^2+‥+z^(n-1)}+(z^n)/(1-z)]
nの項(有限の状態で四則演算が成り立つので)で計算して、最後でn→∞とする。
無限大を含む計算では、このような注意が必要ですよね。「無限大-無限大」という計算は本来意味がないですから・・・。物理でのくりこみがこのような意味であれば、納得できます。(くりこみは何も知見がないので単なる感想です)

10段落目、
関数f(z)=1/(1-z) (|z|<1)を解析接続して|z|≧1,z≠1へ定義域を広げているので、もともとの1+z+z^2+‥とは|z|≧1,z≠1で違う関数となっているということですね。

11段落目、
z=-1+αと置くのがアイデアですね。
f(z)=1/(1-z)|z|>1で解析的であることを示されましたが、当然、10段落目と同様、|z|≧1,z≠1で関数f(z)=1/(1-z)はすでに1+z+z^2+‥とは別物となっています。

結局、ゼータ関数と同様、単純にもともとの式に|z|<1の定義域以外の数値を代入すれば、トンデモな式が出て来るということですね。でも、これは解析接続の意味合いとは関係ないことなんですよね。
例えば、z=2の時、f(z)=1/(1-z)に代入するのは間違ってますけど、無理やり入れれば、
1+2+4+8+‥=-1

一方、|z|>1の拡大された領域でZ=2を入れた時、
z=-1+αより、α=3
(1/2){1+(3/2)+(3/2)^2+‥}→∞ ①
f(α)=-1/(α-2)=-1 ②
α=3の時、もともとの定義域|z|=|-1+α|<1から外れているので、結局①と②は等しくないです。

解析接続とは、正則関数を保ちつつ定義域を広げた関数にすることで、つまり、もともとの関数の定義域外で元の関数値と等しい値となる関数となるわけではないということなんですね。

難しいかなーと、じっくり読まずにいたもので、説明べたでは全然ないです。分かりやすいですョ♪
ただ、ブログの構成上、ちょっとだけ、文章が読みにくい・・・かな。

投稿: せいたかのっぽ | 2007年12月 2日 (日) 21時37分

 どもども,あいかわらず説明の下手なTOSHIです。。。

 でも読んで学習意欲がわくならそれもいいかな。。。

 hirotaさんのおっしゃるように積分表示できるのが正則関数が無限回微分可能であって解析的なことのミソですね。。。

              TOSHI

投稿: TOSHI | 2007年12月 2日 (日) 03時59分

こんばんは♪

 関数論は、私はそんなに高等なことを知らないので、一致の定理以下の部分ははっきりとは理解できていません。
 ですから、ここにコメントするか迷ったのですが、今回の記事からは、読んでいて、とても魅力的で面白そうという感じが伝わってきました。
 理系らしからぬ、ただの感想文ですけど、学校でいい先生だったなーと思うのは、やっぱり、そういう知的好奇心をくすぐるような、魅力的な説明が出来る人だと思います。
 いくら理系でも、ちゃんとxxを読んだか?とか、理解してるか?とか言われて気分がいい人はいないと思うのです。私なんかは特に本件についてまるっきり勉強不足ですけれど、『よし、今度関連する本を見かけたらじっくり読んでみたい』という気になりました。こういう気持ちになるだけでも、人に参考になる記事・もしくは談話のあり方ではないのかなーと感じました。

投稿: せいたかのっぽ | 2007年11月29日 (木) 02時00分

TOSHIさん。ご教示有難うございます。
本内容につきましては、週末にゆっくりと勉強させていただきたいと思います。

投稿: 凡人 | 2007年11月28日 (水) 20時13分

やっぱ、複素関数論といったら正則関数の積分表示ですね。
1/(1−z) の展開を使って正則関数の Taylor 展開が出てしまうのが圧巻です。(大学で買った共立出版の「函数論」がまだ手元にある)
その応用で Legendre 多項式や倍関数の漸化式を導けるとは、なんて便利!(仕事に役立った)

投稿: hirota | 2007年11月28日 (水) 14時11分

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