ヤングの干渉実験(2)(量子論)
ヤングの干渉実験(Young's double-slit experiment)の古典論について述べたので次は量子論について述べます。
基本的には光を示す古典電磁場を第2量子化して干渉の古典論において対応する部分を量子論の言葉に翻訳すればいいだけです。
電磁場のスカラーポテンシャルをφ(r,t),ベクトルポテンシャルをA(r,t)とします。電場E(r,t),磁場B(r,t)はこれらのポテンシャルによってE(r,t)=-∇φ(r,t)-∂A(r,t)/∂t,B(r,t)=∇×A(r,t)と表現されます。
以下では,混乱のおそれがないときは引数r,tを省略してE=-∇φ-∂A/∂t,B=∇×Aなどと表記します。
このφ,AによるE,Bの表現は任意関数Λ(r,t)に対するいわゆるゲージ変換:φ→φ+∂Λ/∂t,A→A-∇Λの下で不変です。これをゲージ不変性と言います。
電磁場を記述する基本方程式である真空中のマクスウェル方程式はポテンシャルA,φによって,∇(∇A)-∇2A+(1/c2)(∂∇φ/∂t)+(1/c2)(∂2A/∂t2)=μ0J,-ε0∇2φ-ε0∇(∂A/∂t)=ρなる形に表わされます。
ここでρ(r,t)は電荷密度,J(r,t)は電流密度です。
特に相対論的に共変なゲージであるローレンツ(Lorentz;ローレンス)ゲージ:∇A+(1/c2)(∂φ/∂t)=0 を満たすように,φ→φ+∂Λ/∂t,A→A-∇Λなるゲージ関数Λを採用すれば,運動方程式は∇2A-(1/c2)(∂2A/∂t2)=-μ0J,∇2φ-(1/c2)(∂2φ/∂t2)=-ρ/ε0と対称的かつ簡明で共変性が自明な形になります。
ローレンツゲージのような共変ゲージを採用するメリットは運動方程式が簡単な形を取ることの他に4次元時空座標xμ=(ct,r)に対応する4元ポテンシャル:Aμ=(φ/c,A)について, ローレンツゲージは∂Aμ/∂xμ=0 を意味するので,この条件が4次元時空座標の座標変換に対して不変になることです。
そこで,これ以外のゲージの採用では4次元時空座標の座標変換に対して4元ポテンシャルは通常の4元ベクトルのローレンツ変換のほかにゲージを合わせるために,その都度,別の補正変換を施す必要がありますから,実は4元ポテンシャルAμ=(φ/c,A)が正しい相対論的に共変な4元ベクトルを意味しないことになります。
つまり電磁ポテンシャルは局所性を破り,信号は光速を超えて相対論的因果律を破るわけです。
この問題点については,以前の2006年10/9の記事「非共変ゲージの非局所性(電磁場)」で論じました。
すなわち,現実に観測されるのは場の量を示す電磁ポテンシャルAμ=(φ/c,A)ではなく場の強さであるEとB,つまりFμν≡∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xνであり,これらはゲージの選択に無関係に共変で局所的なので相対論を破らないわけです。
これは量子論で観測されるのは確率であって波動関数ではないというのと同じく,場の量を示す電磁ポテンシャルAμ=(φ/c,A)を実在であると考えなければ矛盾は生じないわけです。
余談はこれくらいにして,ここでは電磁場の量子化が簡単に行える非共変ですが便利なクーロンゲージ:∇A=0 を採用します。
このときには,電磁場の方程式は∇2A-(1/c2)(∂2A/∂t2)-(1/c2)(∂∇φ/∂t)=-μ0J,∇2φ=-ρ/ε0となります。
これらのうち,2番目の方程式は普通のポアソン方程式ですから無限遠でゼロという境界条件では簡単に解くことができて,解はφ(r,t)={1/(4πε0)}∫dr'[ρ(r',t)/|r-r'|]と書けます。
これは一見したところ,静電場のクーロンポテンシャルと同じ形に見えますが,今の場合は右辺の"被積分関数の分子=電荷密度:ρ(r,t)"が時間tの関数であり,定常な静電場の時間に依らず一定な電荷密度に対する解とは微妙に異なっています。
今の場合の解は,時刻tにおける電荷密度の瞬時の変化が即座に,つまり超光速で伝播することを示している式になっているので,これは丁度たった今上で述べた因果律を破る場の例になっています。
一方,電流密度J(r,t)はベクトル場の一般的な性質からJ=JT+JLと一意的に分解されます。ここに∇JT=0 を∇×JL=0 です。JTを横成分,またはソレノイド成分,JLを縦成分と呼びます。
ここで,縦成分JLの電磁ポテンシャルとの関係を求めます。電荷に対する連続の方程式:(∂ρ/∂t)+∇J=0 を用いれば∇JT=0 より,∇JL=-∂ρ/∂tが得られます。
そして∇×JL=0 ですから,ある関数ψが存在してJL=∇ψと書けます。これを代入すると∂ρ/∂t=-∇2ψです。これと∇2φ=-ρ/ε0より∇2χ=0 を満たすχの差を除いてψ=ε0(∂φ/∂t)と置いていいです。それゆえJL=ε0(∇∂φ/∂t)が成立します。
最後の表式と等式:(1/c2)=ε0μ0によって電磁場の方程式∇2A-(1/c2)(∂2A/∂t2)-(1/c2)(∂∇φ/∂t)=-μ0Jは∇2A-(1/c2)(∂2A/∂t2)=-μ0JTなるより簡潔な式に帰着します。
これは,いわゆるダランベールの方程式:□A=-μ0JTなので,遅延境界条件を取ると,解は遅延ポテンシャル:A(r,t)={1/(4πε0)}∫dr'JT(r',t')/|r-r'|となります。
ここに,t'≡t-|r-r'|/cです。また,□≡∇2-(1/c2)(∂2/∂t2)はダランベルシャン(d'Alembertian)と呼ばれる微分演算子です。
一方,電場Eも横成分と縦成分に分けることができます。
E=ET+EL,∇ET=∇×EL=0 ですね。E=-∇φ-∂A/∂tで∇A=0 ∇×∇φ=0 ですからET=-∂A/∂t,EL=-∇φと陽に表現できます。一方,磁場Bは元々∇B=0 を満たすので横成分しかありません。
そしてJL=ε0(∇∂φ/∂t)と組み合わせると,JL=-ε0(∂EL/∂t)です。これが∇EL=ρ/ε0,あるいは∇2φ=-ρ/ε0に対応しています。
したがって,縦成分の方程式は一見では静電気学の方程式と同じです。しかし静電気学ではρが位置rだけの関数ですからJL=ε0(∂EL/∂t)もゼロです。
一方,クーロンゲージ∇A=0 では電磁場の横成分はAだけと結びついています。横成分について整理します。波動方程式は□A=∇2A-(1/c2)(∂2A/∂t2)=-μ0JTです。そして電場はET=-∂A/∂tで与えられます。
真空中のマクスウェル方程式は∇×ET=-∂B/∂t,μ0-1∇×B=ε0(∂ET/∂t)+JT,∇ET=0,∇B=0 となります。
そして,媒質のない真空中を仮定してはいますが,例えば電磁場と共に電子のような物質場があって,それらは相対論的なディラック(Dirac)方程式:[γμ(pμ-eAμ)-mc]ψ(r,t)=0 ;pμ=ihc(∂/∂xμ),Aμ=(φ/c,-A);(ただしhc≡h/(2π)はプランク定数,xμ=(ct,r)は時空座標)を満たす4成分スピノール:ψ(r,t)で与えられるとします。
この方程式は,[(γ0/c){ihc(∂/∂t)-eφ}+γ(ihc∇+eA)-mc)]ψ(r,t)=0 とも書けます。
そして4元電磁カレント,つまり4元電流はJμ(r,t)=eψ+(r,t)γ0γμψ(r,t);簡単表記ではJμ=eψ+γ0γμψであたえられます。ρ(r,t)=J0(r,t)/c=(e/c)ψ+(r,t)ψ(r,t),J(r,t)=eψ+(r,t)γ0γψ(r,t)です。
それ故,φ(r,t)={e/(4πcε0)}∫dr'[{ψ+(r',t)ψ(r',t)}/|r-r'|},かつA(r,t)={e/(4πε0)}∫dr'[{ψ+(r',t')γ0γψ(r',t')]T/|r-r'|};t'≡t-|r-r'|/cと形式的には陽に表現できます。
さて,電荷や電流の全くない(ρ=JT=0)自由電磁場を第2量子化します。
自由場の波動方程式は□A=∇2A-(1/c2)(∂2A/∂t2)=0 です。電磁場の量子化はポテンシャルA(r,t)を量子力学の演算子と読み換えることから始まります。
簡単のために便宜上,1辺がLの立方体空間の中の電磁場を想定し周期的境界条件を満たすとします。このとき波動方程式の解はA(r,t)=Σk[Ak(t)exp(ikr)+Ak*(t)exp(-ikr)]とフーリエ級数で表現されます。
ここで波動ベクトルk=(kx,ky,kz)はkx=2πνx/L,ky=2πνy/L,kz=2πνz/L, (νx,νy,νz=0,±1,±2,±3,..)で与えられます。クーロンゲージの条件:∇A(r,t)=0 はkAk(t)=0 であれば満たされます。
A(r,t)の相異なるフーリエ成分Ak(t)は互いに独立で個別に波動方程式を満たす必要があります。すなわち,k2Ak(t)+(1/c2)(d2Ak(t)/dt2)=0 であり,Ak*(t)もこれと同じ方程式を満足します。
これはωk≡ck≡c|k|とおくとき通常の"単振動=調和振動"の方程式:d2Ak/dt2=-ωk2Akです。そこで電磁場は量子力学における調和振動子の集まりとみなすことで量子化できます。
Ak(t)=Akexp(-iωkt)と表わせばA(r,t)=Σk[Akexp(-iωkt+ikr)+Ak*exp(iωkt-ikr)]となります。
途中ですが,今日はちょっと時間がないのでここで終わります。
参考文献:R.Loudon 著(小島忠宣,小島和子 共訳)「光の量子論(第2版)」(内田老鶴圃)
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コメント
どもkafukaさん、TOSHIです。
量子化する前の古典電磁場,古典論の段階の話なのでエンタングルとかは関係ないと思いますが。。。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2007年12月 7日 (金) 01時27分
>電荷密度の瞬時の変化が即座に,つまり超光速で伝播する
<
ことは、Entangledな2つ(複数の)系のスピンが、「即座に」相関することの実験から、
何の問題でもないと、思います。
つまり、Entangledな系の電荷密度も、スピンと同様、光円錐を超えて
(因果関係でない)相関関係が成り立っているのでは、
ないでしょうか。
もちろん、2つの系で成り立つなら、自分だけの系でも成り立つはず、
というのが、前提です。
もうちょっと言えば、光円錐を超えて相関関係が、スピンで成り立つなら、
角運動量も、pもEも、成り立つはずです。
投稿: kafuka | 2007年12月 6日 (木) 23時25分