実数から複素数へ
せっかくデデキントの切断(Dedekind's cut)によって有理数から実数を定義したのですから,やはり39年くらい前の大学1~2年の頃の解析学の化石的ノートから,複素数の定義も記述しておきます。
要するに,また,得意の手抜きです。もっとも複素関数論ではなく複素数の話だけならカテゴリーとしては解析学の話ではなく代数学的,あるいは幾何学的な話ですね。
これまでと同じく実数の集合(set of reals)をRで表記します。
これは四則演算を加味した代数の意味では,体(field)を作りますから,
特にRは実数体(real field)を表わす記号でもあります。
[定義1]:(複素数:complex)
複素数とは2つの実数a,b∈Rの順序対,または2次元の数ベクトル(a,b)のことであり,実数をa,b,.,複素数をx,y,.で表記することにすれば
,
x=(a,b),y=(c,d)(c,d∈R)のとき,"xとyが等しい:
x=yであるとは,a=cかつb=dが成り立つことである。"
また,これらの和,または加法,および積,または乗法の演算が,
それぞれ,x+y≡(a+c,b+d),および
xy≡(ac-bd,ad+bc)で定義されるものをいう。"
そして,こうして得られる複素数全体の集合をCと書くことにする。
※ 特に,複素数(1,0)と(0,0)については,取り合えず,
u≡(1,0),n≡(0,0)と表記することにします。
[定理1]:x,y,zを任意の複素数,すなわち∀x,y,z∈Cとする。
このとき,
(a)x+y=y+x,
(b)(x+y)+z=x+(y+z),
(c)xy=yx,
(d)(xy)z=x(yz),
(e)(x+y)z=xz+yz が成立する。
(証明)x+y≡(a+c,b+d),およびxy≡(ac-bd,ad+bc)による加法,乗法の定義に従って実際に演算を行えば確かに成立することがわかるので省略します。
以下,証明を省略した定理を2つ述べます。
[定理2]:∀x∈Cに対しx+n=x,xn=n,xu=xが成り立つ。
[定理3]:x,y,z∈Cとする。x+y=x+zならばy=zである。
[定理4]:(逆元(inverse)の存在)
∀x∈Cに対してx+y=nを満たすy∈Cが唯1つ存在する。
このyを-xと書く。
(証明)x=(a,b)のとき,y=(-a,-b)とすればいいです。
(証明終わり)
[定理5]:∀x,y∈Cに対してx+(-y)をx-yと書くことにする。
このとき,
(a)x-x=n,および
(b)(-x)y=x(-y)=-(xy) =(-u)(xy) が成立する。
(証明)略。
この定理の故に,(-x)y=x(-y)=-(xy)
=(-u)(xy)を単に-xyと書くことにします。
[定義2]:(絶対値:absolute value)
∀x∈Cに対し,x=(a,b)(a,b∈R)なら
|x|≡(a2+b2)1/2と書き,|x|をxの絶対値と呼ぶ。
[定理6]:∀x,y∈Cに対し,
(a)x≠nなら|x|>0 である。 また|n|=0 である。
(b)|xy|=|x||y|が成り立つ。
(証明)略。
[定理7]:x,y∈Cに対しxy=nならx=n,またはy=nである。
(証明)[定理6]より,xy=nなら|xy|=|x||y|=0 ,
故に|x|=0,または|y|=0 です。
そこで再び[定理6]からx=n,またはy=nです。(証明終わり)
[定理8]:x,y,z∈C,xy=xzでx≠nならy=zである。
(証明)x(y-z)=xy-xz=nでx≠nなので[定理7]によって
y-z=n,よってy=zです。(証明終わり)
[定理9]:∀x∈C,ただしx≠nに対し,xy=uを満たす複素数y
が唯一つ存在する。このyをu/xと書く。
(証明)x=(a,b)(a,b∈R)とすると,x≠n故,a2+b2≠0
です。そこで,y≡(a/(a2+b2),-b/(a2+b2))とおけば,
確かにxy=(a,b)(a/(a2+b2),-b/(a2+b2))=(1,0)
=uとなります。
そして,このy=u/xの一意性は[定理8]より明らかです。
(証明終わり)
[定理10]:(除法)
∀x,y∈C,ただしx≠nに対してxz=yを満たす複素数zが
唯一つ存在する。このzをy/xと書く。
(証明)z≡(u/x)yとおけば,xz=uy=yです。(証明終わり)
[定理11]:(実数)
a,b∈Rとする。
このとき,
(a)(a,0)+(b,0)=(a+b,0),
(b)(a,0)(b,0)=(ab,0),
(c)b≠0 なら(a,0)/(b,0)=(a/b,0),
(d)|(a,0)|=|a| が成立する。
(証明)明らかなので略。
※ [定理11]から,(a,0)(a∈R)の形の複素数は,実数aと全く同じ性質
を持って一対一に同型対応することがわかります。
そこで,以下では複素数(a,0)(a∈R)を実数aと同一視して単にa
と書くことがあります。
この同定により,RはCの部分集合,つまりR⊂Cとなります。
そこで以下では,特に,u=(1,0)を単に1,n=(0,0)を単に
0 と書きます。
[定義3]:(虚数:imaginary)
複素数:(0,1)をiと書く。
[定理12]:i2=-1 である。
(証明)i2=(0,1)(0,1)=(-1,0)=-1 です。(証明終わり)
[定理13]:∀a,b∈Rに対して(a,b)=a+biである。
(証明)a+bi=(a,0)+(b,0)(0,1)=(a,0)+(0,b)=(a,b)
(証明終わり)
[定理14]:∀x,y∈Cに対して,|x+y|≦|x|+|y|である。
(証明) x+y=0 なら自明なので,x+y≠0 とします。
このときλ≠|x+y|/(x+y)とおけば,[定理6](b)より
|λ|=1 です。
そしてλx+λy=|x+y|です。
よってλx+λyは実数ですから,λx=(a,b),λy=(c,d)
ならλx+λy=(a+c,b+d)=(a+c,0)=a+cです。
そして,|a|≦|λx|=|x|,かつ|c|≦|λy|=|y|です。
それ故,|x+y|=λx+λy=a+c≦|a|+|c|
≦|x|+|y|が成立します。(証明終わり)
[定義4]:(共役複素数:complex conjugate)
複素数:z=(a,b)=a+bi(a,b∈R)に対して複素数:
z*≡(a,-b)=a-biをzの共役複素数という。
これより以降の展開は通常の歴史的な複素数の話の繰り返しに過ぎない
ので,ここまででやめます。
要するに,ここで展開した一連の話は歴史的には代数方程式の実数解を
求めるための過渡的な仮想数として便宜上導入された複素数をHilbert
などの近代思想に基づいて,公理的発想で代数的に再構築したモデルの
一例です。
数十年前,この定義を初めて学んだ頃は,確かに新鮮でしたが,単に複素数
をGauss平面の2次元ベクトルとする平面幾何の猫像をやや記号的に定式
化しただけだとしか思いませんでした。
例えば,Gauss平面の実軸上の点:a=(a,0)(a>0)に虚軸上の点
i=(0,1)を乗じると,これは幾何学的には,ベクトルの(π/2)だけ
の回転に相当して,積は点ai=(0,a)に移動することを意味します。
その上に,さらにi=(0,1)を乗じるとさらに(π/2)回転され,合計π
だけ回転されて点は-a=(-a,0)に移ります。
それ故,iを2回続けて乗じることはトータルでは-1を乗じることに
相当し,結局i2=-1なる演算と同一視されます。
このモデルは,こうした話を言い換えただけに過ぎないという感じで
考えて,割と軽視していました。
しかし,例えば物理学での相対性理論のエネルギーの等式:
E2=p2c2+m2c4の平方根を取ると,E=±c(p2+m2c2)1/2
です。
この右辺は非常に扱いにくい非線型な形式ですが,これを次元を増やして
行列表現すると線形な形にできるというDiracの相対論的波動方程式のア
イデアを見るなどの思考体験もあって,少なからず,見方は変わってゆき
ました。
数十年も経った現在の心境としては,論理学での帰納法に関するPeanoo
の公理系と同じような感覚を持って見ています。
実証科学である他の自然科学での,"複素数は仮想数である,とか,
2乗して-1になる数など,そもそもこの世には存在しない,"とか
の「実在するしない」という類の不毛な論議と関係なく,
上記のような定式化は,単に数学的実体として,"複素数は2元数として
存在する"という考えを陽に表現して明確化するという意味がある,と
思うに至っています。
参考文献:Walter.Rudin 「Principles of Mathematical Analyss」second Edition(McGrawHill)
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コメント
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投稿: スーパーコピー 腕時計 口コミ | 2022年11月16日 (水) 02時15分
どもkaraokeguruiさん、はじめまして,TOSHIです。コメントありがとうございます。
ブログの内容については,水準などと謙遜なさる必要はないと思いますよ。確かタキオンの記事かなにかの検索で伺ってそのままリンクさせてもらった記憶があります。とにかく物理に興味のあるアマチュアなどが集まられるサイトには断られない限り勝手にリンクさせていただいてます。
ハンドルについてですが私はカラオケというか唄は好きなので,飲み屋では現在のようなカラオケができる前から唄っていました。実は昨夜金曜も1人で2件のスナックに行き10曲以上は唄いました。
これからもよろしく。。。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2008年2月23日 (土) 19時58分
TOSHIさん、はじめまして~
凡人さんに無理やり誘導されてこちらに参りました。
以前からTOSHIさんのお名前は存じ上げております。
私は複素数については別に不思議とは思わないのですが、リンクのところをふと見るとなんと私のブログが入っているではありませんか。
こちらのほうがずっと不思議です(^^;
私は文系なので、TOSHIさんの水準には遠く及ばず、読んでいただくほどの内容はないものと考えておりました。
光栄というよりは恥ずかしいくらいですが、できましたらお暇なときにでもご指導いただければ幸いです。
よろしくお願いしますm(_ _)m
投稿: karaokegurui | 2008年2月21日 (木) 23時08分
連投おば失礼いたします。
金子みすず先生にならって、詩を一つ作ってみました。
連続固有値の不思議(金子みすず作「不思議」を改作)
私は不思議でたまらない、
連続固有値の集合の濃度が、
自然数の集合の濃度と等しいことが。
私は不思議でたまらない、
無限次元ヒルベルト空間の固有ベクトルが、
無限次元ヒルベルト空間の元でないことが。
私は不思議でたまらない、
誰にきいても笑つてて(?)、
あたりまへだ、といふことが。
投稿: 凡人 | 2008年2月16日 (土) 21時13分
>複素数は2元数(dual number)として存在する。
私も最近、複素数は我々の見えないところに実在していると思うようになりました。
ところで、金子みすずも、「見えぬけれどもあるんだよ、見えぬものでもあるんだよ。」と詠っているようです。
http://www.astrophotoclub.com/misuzu.htm
投稿: 凡人 | 2008年2月16日 (土) 20時26分