2原子分子イオン再考
ちょっと科学記事をさぼっていましたが,実は単純な変数変換の具体的計算がうまくいかなくて苦戦していました。ようやく形になったので記事にします。
ブログ記事においては,対象とする式を導出して検算するのが複雑で大変な場合でも既に計算された結果式があれば,それを信用して,単にそれを転載してお茶を濁すのが普通なのですが,時には自力で計算せざるを得ないことがあり,そういうときはやむを得ず計算しています。
今回のようにブログの記事のために自力で数日間も計算したのは久しぶりのことです。
これは,2007年10月10日の記事「ローレンツ変換の導出」において,変換が線型変換であるべきとかも含め,物理的な考察などに基づく余分の仮定や条件を極力排除して,ほぼ純粋に数学的に光速度不変の原理だけからローレンツ変換を導出できるかどうか?を計算して以来のことですかね。
以下,本文です。
少し振り返って水素分子イオンのように原子核の方は複数あるけれど電子は単一の系のうちで最も簡単な2原子分子イオンの系の核固定近似での波動方程式が正確に解けるかどうかを考えてみます。
原子核の運動エネルギーを無視して核配置をRに固定した核固定近似での一般の多原子系の電子ハミルトニアンHeはHe(R,r)=Ke+Unn+Une+Ueeで与えられます。
ここにKeは電子の運動エネルギー:Ke≡Σi{-hc2∇i2/(2me)},Unnは核間相互作用:Unn≡ΣA<B{ZAZBe2/(4πε0RAB)},Uneは原子核と電子の相互作用:Une≡ΣA{-ZAe2/(4πε0rAi)},Ueeは電子間相互作用:Uee≡Σi<j{e2/(4πε0rij)}です。
ここで,hc≡h/(2π)はプランク定数,meは電子質量,RABは原子核A,B間の核間距離:RAB≡|RA-RB|です。
さらに,電子iと原子核Aとの距離をrAi≡|ri-RA|,電子iと 電子jの距離をrij≡|ri-rj|としています。
そして,電子群に対する核固定近似での波動方程式はHe(R,r)ψ(R,r)=u(R)ψ(R,r)となります。
水素分子イオンのような"2原子核+1電子"の系では,これは-hc2∇2ψ(R,r)/(2me)+[ZAZBe2/(4πε0R)-ZAe2/(4πε0rA)-ZBe2/(4πε0rB)]ψ(R,r)=u(R)ψ(R,r)と書けます。
ただしψ(R,r)は電子の波動関数です。rA≡|r-RA|,rB≡|r-RB|としています。
そして,特にZA=ZB=1の水素分子イオンの系では,ξ≡(rA+rB)/R,η≡(rA-rB)/Rと変数変換し,φを核を結ぶ分子軸RB-RAのまわりの角とすると,1/rA+1/rB=(2/R){(ξ+η)-1+(ξ-η)-1]=(4/R)(ξ2-η2)-1ξとなります。(楕円座標 or 楕円体座標)
原子核と電子の相互作用項は,Une=-ZAe2/(4πε0rA)-ZBe2/(4πε0rB)=(-e2/(πε0R)(ξ2-η2)-1ξとなります。
そこで,電子の波動関数をψ(R,r)≡X(ξ)Y(η)Φ(φ)とすれば,方程式は変数分離できるのではないか,と期待されます。
まず,ラプラス演算子(Laplacian)を極座標表示すると,∇2=∂2/∂r2+(2/r)(∂/∂r)+(1/r2)[(1/sinθ)(∂/∂θ){sinθ(∂/∂θ)}+(1/sin2θ)(∂2/∂φ2)]です。
これをξ,η,およびφで表現することを考えます。
ξ=(rA+rB)/R,η=(rA-rB)/R,rA=|r-RA|,rB=|r-RB|ですが,原子核Aの位置を原点に取ってもいいので,RA=0 とすれば,R=RB,rA=r=|r|,rB=|r-R|となります。
それ故,R(ξ+η)/2=r,R(ξ-η)/2=|r-R|=(r2+R2-2Rrcosθ)1/2です。故に,ξ+η=2r/R,1+ξη=(2r/R)cosθ or r=R(ξ+η)/2,cosθ=(1+ξη)/(ξ+η)です。
∂/∂r=(∂ξ/∂r)(∂/∂ξ)+(∂η/∂r)(∂/∂η),∂/∂θ=(∂ξ/∂θ)(∂/∂ξ)+(∂η/∂θ)(∂/∂η)ですが,(∂ξ/∂r)+(∂η/∂r)=2/R,(∂ξ/∂r)η+ξ(∂η/∂r)=2cosθ/Rなので(∂ξ/∂r)η+ξ{2/R-(∂ξ/∂r)}=2cosθ/Rです。
したがって(∂ξ/∂r)=(2/R)(ξ-cosθ)/(ξ-η)=(2/R)(ξ2-1)/(ξ2-η2)です。
対称性から,(∂η/∂r)=(2/R)(η-cosθ)/(η-ξ)=(2/R)(η2-1)/(η2-ξ2)です。
そこで,ラプラシアンの動径部分は,∂2/∂r2+(2/r)(∂/∂r)=(4/R2)(ξ2-η2)-1{(ξ2-1)(∂/∂ξ)-(η2-1)(∂/∂η)}[(ξ2-η2)-1{(ξ2-1)(∂/∂ξ)-(η2-1)(∂/∂η)}]+(8/R2)(ξ2-η2)-1(ξ+η)-1{(ξ2-1)(∂/∂ξ)-(η2-1)(∂/∂η)}]です。
これはさらに,(4/R2)(ξ2-η2)-2[(ξ2-1)2(∂2/∂ξ2)+(η2-1)2(∂2/∂η2)-2(ξ2-1)(η2-1)(∂2/∂ξ∂η)]+(8/R2)(ξ2-η2)-3[{-ξ(ξ2-1)(η2-1)+(ξ2-η2)(ξ-η)(ξ2-1)](∂/∂ξ)-{-η(ξ2-1)(η2-1)+(ξ2-η2)(ξ-η)(η2-1)}(∂/∂η)]です。
次に,ラプラシアンの角度部分:{1/(r2sinθ)}(∂/∂θ){sinθ(∂/∂θ)}+{1/(r2sin2θ)}(∂2/∂φ2)を変換します。
まず,sin2θ=1-cos2θ=1-(1+ξη)2/(ξ+η)2=-(ξ2-1)(η2-1)/(ξ+η)2,1/(r2sin2θ)=-(4/R2)(ξ2-1)-1(η2-1)-1です。よって{1/(r2sin2θ)}(∂2/∂φ2)=-(4/R2)(ξ2-1)-1(η2-1)-1(∂2/∂φ2)です。
また,(∂ξ/∂θ)+(∂η/∂θ)=0 ,(∂ξ/∂θ)η+ξ(∂η/∂θ)=-2rsinθ/Rなので,(∂ξ/∂θ)η-ξ(∂ξ/∂θ)=-2rsinθ/Rです。
そこで,(∂ξ/∂θ)=2rsinθ/{R(ξ-η)},(∂η/∂θ)=2rsinθ/{R(η-ξ)}です。
故に,(1/sinθ)(∂/∂θ)=2r{(∂/∂ξ)-(∂/∂η)}/{R(ξ-η)}=(ξ+η){(∂/∂ξ)-(∂/∂η)}/(ξ-η),sinθ(∂/∂θ)=2rsin2θ{(∂/∂ξ)-(∂/∂η)}/{R(ξ-η)}=-(ξ2-1)(η2-1)/(ξ2-η2){(∂/∂ξ)-(∂/∂η)}です。
以上から,{1/(r2sinθ)}(∂/∂θ){sinθ(∂/∂θ)}=-(4/R2)(ξ2-η2)-1{(∂/∂ξ)-(∂/∂η)}[(ξ2-η2)-1(ξ2-1)(η2-1){(∂/∂ξ)-(∂/∂η)}]=-(4/R2)(ξ2-η2)-2(ξ2-1)(η2-1)[(∂2/∂ξ2)+(∂2/∂η2)-2(∂2/∂ξ∂η)]-(4/R2)(ξ2-η2)-1{(∂/∂ξ)-(∂/∂η)}{(∂/∂ξ)-(∂/∂η)}{(ξ2-η2)-1(η2-1)(ξ2-1)}となります。
結局,∇2=(4/R2)(ξ2-η2)-1{(ξ2-1)(∂2/∂ξ2)-(η2-1)(∂2/∂η2)}-(8/R2)(ξ2-η2)-1{ξ(∂/∂ξ)-η(∂/∂η)}-(4/R2)(ξ2-1)-1(η2-1)-1(∂2/∂φ2)を得ます。
よって,ψ(R,r)=X(ξ)Y(η)Φ(φ)より,∇2ψ(R,r)=(4/R2)(ξ2-η2)-1[(d/dξ){(ξ2-1)(dX(ξ)/dξ)}Y(η)Φ(φ)-X(ξ)(d/dη){(η2-1)(dY(η)/dη)}Φ(φ)-(ξ2-1)-1(η2-1)-1X(ξ)Y(η)(d2Φ(φ)/dφ2)]となります。
一方,先述したように-e2/(4πε0rA)-e2/(4πε0rB)={-e2/(4πε0)}(-4/R)(ξ2-η2)-1ξです。
結局,電子の波動方程式:-hc2∇2ψ(R,r)/(2me)+e2/(4πε0R)-e2/(4πε0rA)-e2/(4πε0rB)]ψ(R,r)=u(R)ψ(R,r)のξ,η,φによる表現は次のようになります。
(4/R2)(ξ2-η2)-1[(d/dξ){(ξ2-1)(dX(ξ)/dξ)}Y(η)Φ(φ)-X(ξ)(d/dη){(η2-1)(dY(η)/dη)}Φ(φ)-(ξ2-1)-1(η2-1)-1X(ξ)Y(η)(∂2Φ(φ)/∂φ2)]+{2mee2/(4πhc2ε0)}(-4/R)(ξ2-η2)-1ξX(ξ)Y(η)Φ(φ)+(2me/hc2){u(R)-e2/(4πε0R)}X(ξ)Y(η)Φ(φ)=0 です。
すなわち,[(d/dξ){(ξ2-1)(dX(ξ)/dξ)}]/X(ξ)-[(d/dη){(η2-1)(dY(η)/dη)}]/Y(η)-(ξ2-η2)(ξ2-1)-1(η2-1)-1(d2Φ(φ)/dφ2)/Φ(φ)+{2meRe2/(4πε0hc2)}ξ+{meR2/(2hc2)}(ξ2-η2){u(R)-e2/(4πε0R)}=0 となります。
m2を任意定数としてd2Φ(φ)/dφ2=-m2Φ(φ),λ≡{R2me/(2hc2)}{u(R)-e2/(4πε0R)}とし,ボーア半径aB=4πε0hc2/(mee2)を用いると,
[(d/dξ){(ξ2-1)(dX(ξ)/dξ)}]/X(ξ)-[(d/dη){(η2-1)(dY(η)/dη)}]/Y(η)-{(2R/aB)ξ-m2{(ξ2-1)-1-(η2-1)-1}+λ(ξ2-η2)=0 と書けます。
さらに,Aを適当な積分定数とすれば,(d/dξ){(ξ2-1)(dX(ξ)/dξ)}-{(2R/aB)ξ+λξ2-m2/(ξ2-1)+A}X(ξ)=0 ,
(d/dη){(1-η2)(dY/dη)}+{-λη2-m2/(1-η2)-A}Y=0 となって,確かに変数分離された方程式系が得られます。
後は,d2Φ(φ)/dφ2=-m2Φ(φ)より,Φ(φ)≡exp(imφ)を組み合わせればいいだけです。
ZA=ZB=1 の水素分子イオンではなく,一般の2原子分子イオンでもZA/rA+ZB/rB=(2/R){(ξ+η)-1+(ξ-η)-1]=(4/R)(ξ2-η2)-1ξとなるように,ξ,ηをξ≡(rA/ZA+rB/ZB)/R,η≡(rA/ZA-rB/ZB)/Rとすればξ+η=2r/(ZAR)となります。
そして,1/ZB2+ξη=1/ZB2+{(rA/ZA)2-(rB/ZB)2}/R2=[R2/ZB2+r2/ZA2-(r2+R2-2Rrcosθ)/ZB2]/R2=r2/ZA2R2-r2/ZB2R2+2rcosθ/ZB2Rです。
よって,ZA=ZBの等核2原子分子イオンなら1/ZA2+ξη=2rcosθ/ZA2R,なので,単なるスケール変換で同じように変数分離できます。
ZA≠ZBの異核2原子分子イオンについても可能なはずと予想するのですが,今のところわかりません。
今日のところはこれで終わります。
参考文献:高柳和夫 著「原子分子物理学」(朝倉書店)
※追伸:後で記事全体をながめてみると,ほとんど数式ばかりの連続に見えて,我ながら少し異様な感じを覚えますね。(^^;)
しかし,まあここは物理や数学がメイントピックスのブログを自称していますから,これはこれで,偶にはいいかも知れませんね。
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