連続(非可算)固有値と可分性
今日は全く違う論題の記事を書こうと思って準備していたのですが,量子論の状態空間としての無限次元ヒルベルト空間の"可分性=可算稠密な基底を持つこと"について,どうにも納得できなくて説明を求めておられる方がいるらしいと思われるので何かせかされていると感じて,急遽予定を変更しました。
どうも「EMANの物理学」談話室の昨年の過去ログ「ヒルベルト空間の次元」で2007年9/7にこうしたことについて証明したという内容のNo.2376のhirotaさんの投稿「非可算和=可算和」の説明文だけでは納得されず,どうしても具体的な構成による説明を求められておられるような気がしたので,実際に可算個の基底が存在して状態のヒルベルト空間の任意のベクトルがその可算個の基底で展開されるモデル例を作ってみます。
まず,Hを状態ベクトルの空間とします。
簡単のためにHは位置座標xの関数空間である,つまりHの任意の"元=状態ベクトル"はψ(x)なる波動関数(=<x|ψ>)であって,そのノルム|ψ|は|ψ|≡|<ψ|ψ>|1/2=[∫-∞∞ψ*(x)ψ(x)dx]1/2で定義されるとします。
そして,このノルムが有限,つまり|ψ|<∞であることが,状態であるため:ψ(x)∈Hであるための条件であるとします。
(この条件は波動関数の絶対値の2乗が確率密度に比例し,それゆえノルムの2乗|ψ|2がその状態の総存在確率に比例する量を表わすので当然です。)
この空間では,状態に作用する運動量演算子Pは通常の位置表示の微分演算子P≡-ihc∇で与えられます。
(hc≡h/(2π);hはプランク定数です。)
この表示で固有値方程式Pφp=pφpを満たす関数である平面波φp(x)≡(2πhc)-3/2exp(ipx/hc)は,実はノルム|φp|=[∫-∞∞φp*(x)φp(x)dx]1/2が有限ではないので,φp(x)∈Hではなく運動量の連続固有値pに対応するφp(x)は状態ベクトルではないことになるので,もちろん固有ベクトルではありません。
それ故,この表現に固執すると,この空間では運動量の固有状態は存在不可能であって,そこで"運動量の固有値は存在しない。"とさえ言えることになります。
そこで,こうしたことを解消する手立てとして,今仮に運動量空間の分割の最小単位Δpが存在すると想定して,運動量p=(px,py,pz)のpx,py,pzのそれぞれの軸上(-∞,∞)の上に,..,-(3/2)Δp,-(1/2)Δp,(1/2)Δp,(3/2)Δp,..,(k+1/2)Δp,]..,なる分割点列を取りこれらの分割による空間格子点を作ります。
このとき,p空間の格子点全体の濃度は可算個ですから,これらを順に並べてp1,p2,p3,..と番号の添え字を付けることが可能です。
そして,運動量p=(px,py,pz)について各成分がpx∈[pix-Δp/2,pix+Δp/2],py∈[piy-Δp/2,piy+Δp/2],かつpz=∈[piz-Δp/2,piz+Δp/2]を満たすことを,pi-Δp/2≦p≦pi+Δp/2と書きます。
そして,φi(x)≡(Δp)-3/2∫pi-Δp/2pi+Δp/2exp(ipx/hc)dp(i=1,2,3,..)なる関数を考えます。
これは,"存在確率=波動関数の絶対値の2乗"という意味で,piを中心とする1辺がΔpの微小立方体の形でpiの周りに集中した平面波φp(x)≡(2πhc)-3/2exp(ipx/hc)の重ね合わせで構成され,規格化されてノルムが1のベクトルばかりから成る可算濃度の集合{φi(x)}を用意します。
そして,このときPφi(x)=-ihc∇φi(x)=(Δp)-3/2∫pi-Δp/2pi+Δp/2pexp(ipx/hc)dpよりpi-Δp/2≦<φi|P|φi>≦pi+Δp/2ですから,期待値の意味で近似的にPφi(x) ~ piφi(x)であり,かつφi(x)∈Hです。
したがって,連続的でそれ故非可算個の任意の運動量値pに対し,それがpi-Δp/2≦p≦pi+Δp/2を満足するような唯一のpiを採れば,piが運動量演算子P=-ihc∇の近似的な固有値となるような近似的固有ベクトルφi(x)が存在します。
そして,全ての近似的固有ベクトルの集合{φi(x)}の濃度は,可算個になります。
さらに,この可算ベクトル系は規格化直交性<φi|φj>=∫-∞∞φi*(x)φj(x)dx=δij (i,j=1,2,3,..)を満足します。
Hの任意の規格化された状態ベクトルをψ(x)とします。
これは,一般にψ(x)=(2πhc)-3/2∫-∞∞f(p)exp(ipx/hc)dpで与えられ,|ψ|=[∫-∞∞ψ*(x)ψ(x)dx]1/2=[∫-∞∞|f(p)|2dp]1/2=1を満たす波束です。
ψ(x)がφi(x)によって,ψ(x)=Σi=1∞ciφi(x)と級数展開可能であると仮定すると,<φk|ψ>=∫-∞∞φk*(x)ψ(x)dx=Σj=1∞ci<φk|φi>=ckによって係数はck=<φk|ψ>となることが必要です。
そこで,逆に係数をci≡<φi|ψ>で定義した級数Σi=1∞ciφi(x)を作り,これとψ(x)との差のノルムの平方を計算すると,|ψ(x)-Σi=1∞ciφi(x)|2=|ψ(x)-Σi=1∞<φi|ψ>φi(x)|2=<ψ-Σi=1∞<φi|ψ>φi|ψ-Σi=1∞<φi|ψ>φi>=<ψ|ψ>-Σi=1∞|<φi|ψ>|2となります。
ところで,<φi|ψ>=(2πhc)-3/2(Δp)-3/2∫-∞∞dqf(q)∫pi-Δp/2pi+Δp/2dp∫-∞∞dxexp{i(q-p)x/hc}=(2πhc/Δp)3/2∫pi-Δp/2pi+Δp/2f(p)dpです。
pの分割区間には重なりが全くないので,Σi=1∞|<φi|ψ>|2=(2πhc/Δp)3Σi=1∞∫pi-Δp/2pi+Δp/2|f(p)|2dpと書けます。
したがって|ψ(x)-Σi=1∞ciφi(x)|2=<ψ|ψ>-Σi=1∞|<φi|ψ>|2=∫-∞∞|f(p)|2dp-(2πhc/Δp)3Σi=1∞∫pi-Δp/2pi+Δp/2|f(p)|2dpです。
それ故,運動量刻みΔpをΔp=2πhc=hに等しく取れば,|ψ(x)-Σi=1∞ciφi(x)|2=∫-∞∞|f(p)|2dp-Σi=1∞∫pi-Δp/2pi+Δp/2|f(p)|2dp=0 となります。
かくして,"ノルム収束=強収束"の意味でψ(x)=Σi=1∞ciφi(x)と書くことができて,級数展開可能になります。
ψ(x)はヒルベルト空間Hの任意のベクトルでしたから,結局{φi(x)}はHの可算基底となり,これは完全系を張ります。
この記事を書いている最中にも関連したコメントが投稿されました。
それは"清水明氏の量子力学の著書に,今書いたこの記事内容と同様な示唆がある"との内容でしたが,別に上記の話は私というか,私を含む少数のオリジナルというわけではなく,量子論の識者であれば共通の認識ですからその通りでしょう。
ただ,わざわざここまで具体的にモデル化して説明することは,結構珍しいのではないかと思います。
一応,前から書こうと思っていたけれど,面倒臭いと思ってペンディングにしておいた記事が終わり,ちょっとは肩の荷が降りました。
今回は短い計算だし,珍しく参考にした文献は全くナシです。
緊急告知!! Attention!! [広告宣伝]です。
「TRS健康ランド」では2008年1月10日よりお徳用SCS500mlを新発売!!当店の専売です。
そこのお酒のみの方,いろいろと飲食の機会の増えたあなた、体によいし特に肝臓によいウコンがいいですよ!! そして特に今回提供する沖縄原産の純粋な黒ウコンは当店が専売の新製品ですが古くから沖縄地方ではいわゆる男性機能に効果があると言われています。
おやおや、そこの静電気バチバチの人、いいものありますよ。。。
それから農薬を落とした後の皮がピカピカに光っているリンゴなど商品として販売する際の見栄えをよくするなどのために化学処理をした食品を安全に洗浄する新商品の洗浄液SCSはいかがですか。。。
http://www.rakuten.co.jp/trs-kenko-land/「TRS健康ランド」-- 黒ウコン,SCS(洗浄剤)専売などの店: 私が店長 です。
http://www.mediator.co.jp/category/pages.php?id=115「中古パソコン!メディエーター巣鴨店」
http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。
人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。クリックするとブログ村の人気ランキング一覧のホームページに跳びます。)
| 固定リンク
「111. 量子論」カテゴリの記事
- クライン・ゴルドン方程式(8)(2016.09.01)
- クライン・ゴルドン方程式(7)(2016.08.23)
- Dirac方程式の非相対論極限近似(2)(2016.08.14)
- Dirac方程式の非相対論極限近似(1)(2016.08.10)
- クライン・ゴルドン方程式(6)(2016.07.27)
「310. 関数解析・超関数」カテゴリの記事
- 積分方程式(2)(2009.09.11)
- 積分方程式(1)(導入)(2009.08.30)
- 連続(非可算)固有値と可分性(2008.02.17)
- 無限次元ヒルベルト空間(2007.09.09)
- 演算子のスペクトル展開の例(空洞光子の量子場)(2006.12.14)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント
この記事の存在意義は、一様分布や運動量固有ベクトルの存在しないヒルベルト空間の中で、近似的に運動量固有ベクトルと見なせる波束を使って可算基底を構成して見せたことにあります。
ヒルベルト空間自体はいじってないので、やっぱり一様分布はありませんし、人為的だろうと何だろうと可算基底が構成できたなら可分の証明は完了です。
投稿: hirota | 2009年1月29日 (木) 12時36分
TOSHIさんには申し訳ありませんが、この記事の、
>すなわち,"存在確率(probability of existence)=波動関数の絶対値の2乗"という意味でpiを中心とする1辺がΔpの微小立方体(small cube)の形でpiの周りに集中(concentrated)した平面波φp(x)≡(2πhc)-3/2exp(ipx/hc)の重ね合わせ(superposition)で構成され規格化されてノルムが1のHの元(normalized element of H)ばかりから成る可算濃度のベクトルの集合{φi(x)}を用意します。
という仮定は、かなり人為的となっているように感じます。
連続固有値の矛盾を何とかするために、人為的に新たなヒルベルト空間を構成し、矛盾をそちらの側に転嫁しているような気がしています。
投稿: 凡人 | 2009年1月25日 (日) 23時11分
波束と微小波をごっちゃにしていました。
波束が正しいですね。
空間のある地点に存在確率が局在した波束といっても、
pの固有状態に十分近ければ、かなり広がりますから、
極限を考えれば、一様分布にも適用できますから。
投稿: kafuka | 2009年1月24日 (土) 13時41分
訂正:
これは、極限で一様分布にも一致する
↓
これは、極限で元の連続分布に一致する
(元の連続分布が一様分布なら、それに一致する)
Teenakaさんとのやりとりが、一様分布の話なので、、、
投稿: kafuka | 2009年1月23日 (金) 11時31分
今頃になって恐縮ですが、
この記事は、僕は、
「物理量Xの狭い範囲の固有値について|X>を重ね合わせたものを|X>の代わりに用いる」ということで、
1個の「狭い範囲」での対応する分布は、釣鐘形の分布になるので、
全体として、釣鐘形の分布が、づら~と横に並んだ(重ね合わせた)もの
になり、
これは、極限で一様分布にも一致する(存在確率は局在しいない)
と理解しています。
しかし、TeeNakaさんは、
>(この)方法では、空間のある地点に存在確率が局在しています
と言われています(僕の誤解でしたらお詫びします)
http://blogs.yahoo.co.jp/kafukanoochan/59700237.html
いつもながら僕の誤りでしょうか?
お教え頂ければ、幸いです。
投稿: kafuka | 2009年1月23日 (金) 11時04分
TOSHIさん
無限次元ヒルベルト空間の取り扱いについて、ご教示頂き大変有難うございました。
時間をかけて、良く理解するようにしたいと思います。
投稿: 凡人 | 2008年2月18日 (月) 21時03分