一般の2原子分子(等核,異核)
化学結合関係の話題の続きです。まず,以前(2月5日)の記事「2原子分子イオン再考」から始めます。
原子核の運動エネルギーを無視して核配置をRに固定した核固定近似での多原子系の電子ハミルトニアンHeはHe(R,r)=Ke+Unn+Une+Ueeで与えられます。
ここにKeは電子の運動エネルギー:Ke≡Σi{-hc2∇i2/(2me)},Unnは核間相互作用:Unn≡ΣA<B{ZAZBe2/(4πε0RAB)},Uneは原子核と電子の相互作用:Une≡ΣA{-ZAe2/(4πε0rAi)},Ueeは電子間相互作用:Uee≡Σi<j{e2/(4πε0rij)}です。
ここでhc≡h/(2π)はプランク定数,meは電子質量,RABは原子核A,B間の核間距離|RA-RB|であり,電子iと電子jの距離をrij≡|ri-rj|としています。
そして電子群に対する核固定近似での波動方程式はHe(R,r)ψ(R,r)=u(R)ψ(R,r)となりますが,水素分子イオンのように,"2原子核+1電子"の系では,これは-hc2∇2ψ(R,r)/(2me)+[ZAZBe2/(4πε0R)-ZAe2/(4πε0rA)-ZBe2/(4πε0rB)]ψ(R,r)=u(R)ψ(R,r)と書けます。
ただしψ(R,r)は電子の波動関数であり,rA≡|r-RA|,rB≡|r-RB|としています。
そして,特にZA=ZB=1の水素分子イオンの系ではξ≡(rA+rB)/R,η≡(rA-rB)/Rと変数変換し,φを核を結ぶ分子軸RB-RAのまわりの角とすると,1/rA+1/rB=(2/R){(ξ+η)-1+(ξ-η)-1]=(4/R)(ξ2-η2)-1ξです。
原子核と電子の相互作用項がUne≡-ZAe2/(4πε0rA)-ZBe2/(4πε0rB)={-e2/(4πε0R)}(ξ2-η2)-1ξとなるので,電子の波動関数をψ(R,r)≡X(ξ)Y(η)Φ(φ)とすれば方程式は変数分離できるのではないか,と期待されます。ξ,ηは楕円座標と呼ばれます。
そして,結局,m2とAを任意定数とすれば実際に波動方程式は変数分離されて,ψ(R,r)≡X(ξ)Y(η)Φ(φ),かつd2Φ/dφ2=-m2Φ,(d/dξ){(ξ2-1)(dX/dξ)}+{(2R/aB)ξ+λξ2-m2/(ξ2-1)+A}X=0 ,(d/dη) {(1-η2)(dY/dη)}+{-λη2-m2/(1-η2)-A}Y=0 となります。
ただしaB=4πε0hc2/(mee2)はボーア半径であり,λ≡{R2me/(2hc2)}{u(R)-e2/(4πε0R)}です。
ここまでが,以前の記事の内容の再掲です。
そしてZA=ZB=1の水素分子イオンではなく,一般の2原子分子イオンでもZA/rA+ZB/rB=(4/R)(ξ2-η2)-1ξとなるようにξ,ηを取って工夫することはできます。
例えば,ξ≡(rA/ZA+rB/ZB)/R,η≡(rA/ZA-rB/ZB)/Rとすれば,ξ+η=2r/(ZAR)です。1/ZB2+ξη=1/ZB2+{(rA/ZA)2-(rB/ZB)2}/R2=[R2/ZB2+r2/ZA2-(r2+R2-2Rrcosθ)/ZB2]/R2=r2/ZA2R2-r2/ZB2R2+2rcosθ/ZB2Rですから,cosθをξ,ηで表現することもできます。
しかし,ZA,ZBが全く任意の一般的な場合には方程式の極座標による表現をξとηが対等になるようには変換できませんから,水素分子イオンと同様な変数分離をするにはかなりの工夫が必要だと思われます。
特にZA=ZBの等核2原子分子イオンの場合なら,単にスケール変換r→r/ZA=r/ZB,R→R/ZA=R/ZBによって,水素分子イオンと全く同じ変数分離の波動方程式が得られます。
そして,この変数分離の波動方程式が解析的に解ければ,2つの原子核の両方が囲む1電子軌道関数が得られるのですが,この形にまで簡単化されてもΦ(φ)=exp(imφ)の他の2つの因子について,その常微分方程式を解析的に解いて初等関数などで表現するのはかなりむずかしいようです。
しかし,これらを数値計算か何らかの方法で解いて得られる分子全体に広がる1電子軌道関数の性質を分析することは可能であり,これは多電子系に移っても理論の素材として用いられて,分子軌道関数,または単に分子軌道(MO)と呼ばれています。
そして,前にも書いたように原子とは異なり,核が2つ以上ある分子イオンでは1電子系でも,もはや角運動量は保存されませんが,2原子分子を含む直線分子では核軸のまわりの回転に対して核による静電場は不変なので,軸方向(z軸)の角運動量の成分Lz=ihc(∂/∂φ)は保存されるため,その固有値=磁気量子数mに対応する軌道関数が存在します。
そして,そうした直線分子の|m|=0,1,2,3,..に対応する分子軌道を,それぞれσ軌道,π軌道,δ軌道,φ軌道,..などと呼びます。
核間距離Rを0 ~ ∞ まで連続的に変化させたとき,分子軌道関数と"電子エネルギーの固有値=断熱ポテンシャル"u(R)は連続的に変動しますが,R→ 0 の極限を融合原子,R→ ∞ の極限を分離原子と呼びます。
融合原子は事実上,2つの原子の原子番号を加えた正電荷を持つ1つの原子核となった水素様原子になっている状態ですから,その楕円座標は,ξ→2r/R,η→cosθの極座標r,θ,φへと移行します。
水素様原子と同じ軌道ですから,量子数はn,l,mで表現されます。
一方,R→ ∞ の極限で2原子分子イオンが分離原子になっている状況では,電子が核Aの近くにある場合,つまりr~RAのとき,rA=r-RA~ 0,rB=r-RA-(RB-RA)=r-RA-R ~ -Rより,rA~ 0,rB~Rであって,ξ=(rA+rB)/R=1+{rA+(rB-R)}/R,η=(rA-rB)/R=-1+{rA-(rB-R)}/Rです。
また,rB-R=|r-RA-R|-R=|rA-R|-R=(rA2+R2-2rARcosθA)1/2-R~R(1-zA/R)となります。
ここにzAはrAのz軸成分です。
結局,R→ ∞ でr~RAのとき,ξ→ 1+(rA-zA)/R,η→ -1+(rA+zA)/Rとなります。
これは原点を原子核Aとしたとき,z方向がA→Bであってξ,ηの定義が逆である,という違いはありますが,先に原子のシュタルク効果(Stark effect)で用いた放物線座標ξ=r+z, η=r-z,φ=arctan(y/x)に対応しています。
シュタルク効果は電場の中に原子があるときの分極による原子軌道の歪みを表現するものですが,今の場合は2原子分子イオンの一方の原子核Aの近傍にある電子とAとの対を1つの単独原子とみなしたとき,遠方の原子核Bによるクーロン電場の影響による分極を表わす,と考えられます。
それ故,分離原子の軌道の量子数はシュタルク効果で見たようにn',n1,n2,m (ただしn'=n1+n2+m+1)で指定されるはずです。
先に述べた2原子分子イオンの変数分離された電子波動関数ψ(R,r)≡X(ξ)Y(η)exp(imφ)の節の数を,nξ,nη,mとし,これらを融合原子,分離原子の量子数と関連付けることで,融合と分離の中間の状態である分子構造の性質を,ある程度表現できると思われます。
文献による結果だけを参照すると,nr≡n-l-1=nξ,l-m=nη=2n2 (if nηが偶数),2n2+1 (if nηが奇数)です。
2原子分子のR→ 0 の極限の融合原子やR→ ∞ の極限の分離原子の波動関数は,分子軌道(MO)と区別して原子軌道関数(AO)といわれます。
そして,|m|=0 に対応する分子軌道はσ軌道なので,R→ 0 の場合にn=1,l=0,|m|=0 に対応する分子軌道は(1sσg)とか,n=2,l=1,|m|=0 に対応する分子軌道は(2pσu)とか書きます。
ここでσgの下添字gは基底準位のg,σuのuは上位準位のuを示していて,先に記述した水素分子イオンのLCAO近似式としては,(1sσg)はエネルギーが最低の対称状態=結合軌道性軌道ψb=(χA+χB)/{2(1+S)}1/2に対応し,(2pσu)は次のレベルの反対称状態=反結合軌道性軌道ψa=(χA-χB)/{2(1-S)}1/2に対応しているとします。
ただし,以前に与えたようにχA,χB,α,β,Sの定義はχA(r)≡π-1/2a0-3/2exp(-rA/a0),χB(r)≡π-1/2a0-3/2exp(-rB/a0),∫χi*H χjdr≡α(i=j),β(i≠j),∫χi*χjdr≡S(i≠j)です。
なお,ここではrA,rBとの関係で添字が紛らわしいのでボーア半径をaBではなくa0で表わしています。
書物によっては,上述のσの結合性軌道を単にσ,反結合性軌道をσ*と書いているものがあります。
π軌道ならπとπ*という具合です。
イオンではなく一般の等核2原子分子ではイオンの電子状態を手がかりにして,十分Rが大きいところ(R=∞)での2つの原子軌道関数の和や差から出発して,融合原子(R=0)のどのAOに近づくかを見ます。
これは,結局は分子軌道には軌道関数の対称性があって.その性質はRの変化によっては変わらない,という考え方があるからです。
これによって分子を分類することができます。
ここで軌道関数の対称性というのは,系のハミルトニアンを変えないような核を固定したときの電子座標の変換ri→ri',例えば回転,反転,鏡映などの対称操作の群が存在することをいいます。
例えば,窒素N2では,こうして分類していった結果として,14個の電子配置の軌道は,下のレベルから順に,おおよそ次のようになります。すなわち,(σg1s)2(σu1s)2(σg2s)2(σu2s)2(πu2p)4(σg2p)2です。
ここに出現する分子軌道は全て満員でスピンはゼロ,軸まわりの軌道角運動量もゼロです。また反転,鏡映についても系全体で不変です。
1s,2s軌道から作られた分子軌道(σg1s)2(σu1s)2(σg2s)2(σu2s)2では結合性gと反結合性uがほぼ打ち消し合っていますが,そのあと(πu2p)4(σg2p)2は3対の電子が全て結合性軌道に入っていてこれが結合力に寄与しているので分子の構造式を書くときN2ではN≡Nと3重線で書きます。
同じ結合性でもσ軌道(m=0)とπ軌道(|m|=1)では差があるので3重線で書かれた結合が1本線のそれの3倍の強さというわけではありません。
σ軌道では2つの原子核の中点領域に電子が集中することで結合力を生み出し,π軌道では2つの原子核を結ぶ軸に垂直な領域=p軌道の領域に電子が集中するので,π軌道では原子の重なりσ軌道より小さく,同じ核間距離Rではσ結合の方がπ結合より結合力が強いからです。
なお,π結合はσ結合と異なり,m=±1と2つの値があるで軌道の数はσの2倍であり,uが結合性:π,gが反結合性:π*となります。
また,酸素O2では16個の電子配置が(σg1s)2(σu1s)2(σg2s)2(σu2s)2(πu2p)4(σg2p)2(πg2p)2となってN2のそれに(πg2p)2が加わります。
そこで(πu2p)4のうちの(πu2p)2が打ち消されて,(πu2p)2(πg2p)2の2対の電子が結合力として発現するため,結合を示す分子構造式はO=Oと2重線になります。
核A,Bが異なる異核2原子分子も原子番号が近いなら等核2原子分子からの少しの修正で同様な分類ができます。
大きな違いは核間距離Rが大きいとき:R=∞のときの2つの分離した原子が同じ名称の原子軌道でも等核2原子のように軌道エネルギーが一致せず,遠方でのエネルギー準位が分かれることです。
もう1つはgやuの対称性もなくなり,等核2原子のときσgであった曲線とσuであった曲線が交わっていたのに交わらない,つまりポテシャル曲線の非交差則が成立することです。
核A,Bの原子番号が大きく異なる場合には事情は等核2原子分子とはかなり違うので別の考察が必要になります。
今日はこのくらいにします。
参考文献:高柳和夫 著「原子分子物理学」(朝倉書店)
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