電場と電束密度,磁場と磁束密度(3)
記事の続きです。前回は中途半端なところで終わりました。そこでさらに続きを書きます。
電場がなくて,磁束密度がBの磁場のみがある場合,その中では速度vで運動する電荷qの帯電体にはローレンツの力と呼ばれる磁力:F=q(v×B)が働きます。
一般に電流Iがある場合,これを与えるキャリアが電荷-e(e>0)の電子Ne個であれば,電流ベクトルはI=-Nee<v>と表現されます。<v>は電子の平均速度です。
あるいは,電子群を連続体近似し,それによる電荷密度をρとすれば,電子による"電流密度ベクトルi=単位時間に単位面積を通過する電荷量"はi=ρvで与えられます。
そこで,それの媒体である導線の断面積σを通過する全電流はI=∫σidσとなります。
それ故,長さがΔsで体積がΔV=σΔsの導線の微小素片に働く磁気力はdF=∫ΔV(i×B)dV=IΔs×Bと表わせます。
この力はアンペール(Ampere')の力と呼ばれています。
これはローレンツの力の表式:F=q(v×B)でFをdF,qvをIΔs=∫ΔVidVに置き換えたものに相当します。
前の記事では,磁荷の対という描像で磁気双極子モーメントを定義してこれに働く磁気力と,運動する電荷に働くローレンツの力を等値することから運動電荷に由来する磁気モーメントの表現を得ました。
すなわち,F=q(v×B)=(m∇)H=(μ∇)Bとおくことにより,磁気モーメントμの電荷による表現として,μ=(qv/2)[∫C(r'×dr')]=IΔS,m=μ0μを得ました。
そして,この式は,μ=IΔS=(I/2)[∫C(r'×dr')]=(1/2)∫C∫σidσ (r'×dr')=(1/2)∫C∫σ{r'×i(r')}d3r'とも変形できることがわかります。
ただし,ΔSは導線の断面積ではなく,環状電流の描く閉曲線Cで囲まれた領域の面積です。
そして,位置r0に磁気双極子μ,あるいはm=μ0μのみがある場合に生じる磁場H(r)の磁位(磁気ポテンシャル)φm(r)による表現はH(r)=-gradφm(r)=-∇φm(r),φm(r)=grad0{μ/(4πR)}=∇0{μ/(4πR)}={1/(4π)}{(μR)/R3},R≡r-r0です。
すなわち,H(r)={-1/(4π)}[μ/R3-3(μR)R/R5]です。
これの右辺のμに電流による磁気モーメントの表現:μ=(1/2)∫C∫σ{r'×i(r')}d3r'を代入することによって,これとは関係なく電流と磁場の関係式として発見されたアンペールの法則:∫C H(r)ds=∫S idS,または微分形の法則:rotH(r)=∇×H(r)=iを演繹的に導くことができたらいいな,と思いました。
しかし,そもそも一価連続な位置rのスカラー関数である磁位φm(r)が存在して,H(r)=-gradφm(r)=-∇φm(r)と書けるための必要十分条件はrotH(r)=∇×H(r)=0 となることです。
そこで,この表式では閉曲線Cで囲まれた面Sを貫く電流Iがゼロでない限り,磁位そのものが定義できないのでアンペールの法則と両立するはずはないと思われます。
では,そうした発想自体が本当に無理なのでしょうか。
もしも,アンペールの法則∫C H(r)ds=∫SidSにおいて,"右辺=Cで囲まれた面Sを通過する総電流"が,Sの中心r=r0にのみに集中して他はゼロの電流密度i=Iδ2(r-r0)で与えられるなら等方性から,2πRH(r)=I,(R≡r-r0)が成立します。
これから,磁場はH(r)=I/(2πR),またはH(r)={IR/(2πR2)}で与えられるはずです。
そして,この場合でも,敢えて磁位φm(r)の存在を仮定して無理にH(r)=-gradφm(r)=-∇φm(r)と書いてみます。
∫ABH(r)dsはA→Bの経路に依存する積分で,それ故,どこかに基準点Oを取ってAの磁位をφm(A)=∫OAH(r)dsと定義しても,これは点Aだけでは決まらない多価関数です。
しかし,一応形式的には∫ABH(r)ds=φm(A)-φm(B)と書くことができます。
そして,特に経路がA=Bを満たす閉路Cの場合なら∫C H(r)ds=-[φm]C となります。
したがって,アンペールの法則:∫C H(r)ds=∫SidS=Iが成立することを認めるなら,この等式は左辺のH(r)の線積分が経路Cを1回転するごとに,この磁場に対するC上の各点の磁位が周期的に[φm]C=-Iだけ増加することを意味します。
この場合には,磁位φm(r)は確かに一価関数ではなく多価関数です。あるいはCを定義したSを含む面領域は多重連結です。
実は上のような発想からアンペールの法則は既に述べた電場の法則,およびローレンツの力などと独立な法則(公理)ではなく,これらから何らかの方法で演繹的に導けるのではないかという希望的な固定観念にとらわれて,ここ数日間悩んでいたのでした。
もっとも,"磁場は静止系の電場を運動系から見た相対論的効果である"などという知見を考慮すれば,別の観点からの演繹方法もあるとは思いますが,私は最初に思いついた発想の方に固執しました。
昔からあることに取り組んでいて途中で脱線したときでも,そこで何らかのテーマが気になって,それに嵌ってしまうと,とことんのめりこんで地獄の底まで行ってしまう,というのが私の悪い癖なのですが。。
こうした場合,大学やその種の研究機関などに属していれば,大抵は附属の図書館などもあり,相談相手にも事欠かないはずなのですが,如何せん,単なる趣味の独学ですし,近くに理系のこのレベルの質問や相談ができる相手が全くいないのは困ったものです。
そもそも,現在日常的に付き合っている友人たちは,私に物理学や数学の専門的素養があるとか,そういう趣味があることを知っている人はいなくて,むしろ,そうしたことがバレたら敬遠されて友人関係もこわれる危険性もあるような人ばかりです。
そうしたことが質問,相談できる友人といえば,かつて同じ予備校の講師として知り合って友人だった5,6歳年下のS田先生くらいです。
私は偶には彼に会いたいと思っているのですが,何故かここ数年来全くの音信不通です。
彼は家庭を持っていて,独身の私の方からの電話連絡は迷惑らしく,昔は原則的に連絡は一方通行でしたから,今も私からは連絡しません。
私は常識的な感覚がなくて,他人から"天然"などと呼ばれているらしく,昔普通のサラリーマンだった頃に,直属の上司が怒っていることにも気づかないことが多かったくらい変な奴であったらしいです。
また,私には何の悪気もなくて,私の価値観では何でもないことを述べているのに,何故か相手が怒ったのに気づいてビックリしたこともしばしばですから,私の知らぬ間に無意識に"彼=S田先生"を傷つけたり,彼が怒ったり不快に思うことをしたりしたことがあってそれが理由で嫌われてしまったのかもしれません。
余談はさておき,どこかにアンペールの法則に対する私の上述の発想に似たようなことを書いたものがあればいいなと思って,まず私の20冊前後ある電磁気学関連の蔵書から調べてみました。
またまた余談ですが,去年生活のために400冊程度の理科系の書物を処分したので蔵書はかなり減りました。
元々少々経済的に余裕がなくても,飲食するものと書籍だけはできるだけ削らないようにしよう,という主義で,昔からすぐに読むわけではなくても,将来に必要になることを見越し,金があるときにコツコツと書籍を買いおきする習慣がありました。
というわけで,かなり処分したにも関わらず,図書館でもないのに電磁気学ばかり20冊所持している,とかいう変なことになるのですね。
そういえば,レコードやCDでも,同じクラシックの演奏曲で指揮者や演奏者が違うものが何枚もあるという贅沢もありますね。
まあ,悩んだときは書店めぐりをして何冊も立ち読みしながら,ひたすら同じ問題を考えていると,そのときには参考になる本,ましてやビンゴの本に当たることはまずないのですが,経験上,立ち読みしながら夢想しているだけで集中力が高まって,ながめている本とは無関係に何かがヒラめいて当面の疑問が解決することがよくあります。
そこで,今回もそうした期待から池袋のジュンク堂書店で数時間立ち読みしていたら,何と工学棚ではなく理学棚でビンゴでした。
理系の専門書としては1700円とえらく安い掘出し物です。
阿部龍蔵著「電磁気学入門」(サイエンス社)です。
阿部龍蔵氏の本なら,かつて難解な本ですが「統計力学(第2板)」(東京大学出版会)にも,お世話になっています。
(この本「電磁気学入門」が専門書にしてはことの他安かったこともあり,現状ではあまり関係ない身分とはいえ,折角のゴールデンウィークなのに物理の本ばかりでもあるまい。と思って,読んだことのない作家だけど最近よく噂を聞く東野圭吾の小説「流星の絆」も合わせて衝動買いしてしまいました。)
この程度の取るに足りないことでも,ウソでもいいから自分でヒネリ出したと言った方がカッコいいでしょうし,私も人間である以上自分独自の発見などを名誉と思う上昇志向性が皆無ではありません。
ただ,私は純粋に結果が知りたいだけだし,単にわからないことが解決できればそれだけで嬉しいという性格なので,人まね,パクリだろうと理解の過程にはこだわりません。
もっとも,自力で解決できるに越したことはありませんが。。
そもそも学問とは"学ぶ=まねぶ",つまりパクリの連続でスポーツの新記録ではありませんが,それだからこそ前の時代よりも今の時代の方が発展してきたのだろうと思っています。
中世暗黒時代から,ルネサンスが起きた理由の一つに懐疑論がはやったこともあったらしいし,懐疑することももちろん必要だと思いますが,これまでの歴史的発展を理解して体得するだけでは飽き足らず,歴史に頼らずに全てのことを初めから自力で導くのでなければ気が済まない,とかの性格でそれを実行に移すのであれば寿命がいくらあっても足りませんからね。
えらく脱線してしまいましたが,本題に戻ります。
磁気モーメントμがあるときの磁位は,φm(r)=μgrad0{1/(4πR)}=μ∇0{1/(4πR)}={1/(4π)}{(μR)/R3}=IΔScosθ/(4πR2)であることは既に述べました。
ここで,θはμとRのなす角ですが,ΔScosθ/R2は位置rの点PがΔSを見込む立体角ΔΩに等しいですから,φm(r)=IΔΩ/(4π)とも書けます。
そして,こうした多数の環状電流が互いに接触して並んで集まり,全体のS=ΣΔSを構成するときには,接触部分の逆向きの電流同士は相殺されて,S全体をまわる電流のみが残ります。
一方立体角も総和されて,ΩP=ΣΔΩとなり,これに対応する磁位Σφm(r)を改めて,φm(r)と定義し直せば,φm(r)=IΩP/(4π)となります。
ΩPはPから磁場の源を見込む角です。
ただし立体角にも符号があって,同じ面領域Sを反対側から見込む立体角にはマイナス符号が付くとしています。
したがって,∫ABH(r)ds=φm(A)-φm(B)={I/(4π)}(ΩA-ΩB)であり,A=Bの閉曲線Cなら∫CH(r)ds={I/(4π)}[Ω]C={I/(4π)}(ΩA-ΩB)(A=B)ですから,何のことはない右辺はゼロであって単に立体角で書き直したに過ぎないだけで,アンペールの法則∫CH(r)ds=Iなんか出てこないじゃないか,と思えます。
しかし,ここで早合点せずに,少し発想を変えて,Cは単なる空間に仮想した1つの閉曲線であって,それを回るループ電流などはなく,H(r)もCを回る電流によって生じた磁場ではなく,このH(r)の源となる大きさがIのループ電流は別に存在するとして,この電流のループ経路をC'としそれが囲む平面領域をS'とします。
そして,このとき仮想閉曲線C上の1点Aから一周してB=Aに戻るという経路Cに対する積分式∫CH(r)ds={I/(4π)}[Ω]Cを考えてみます。
このとき,もしもCがループ電流の閉じた経路C'と互いに素でCがC'で囲まれた面S'を貫通することがない場合には,点AがC上を動いて回るとき,AからS'を見込む立体角ΩAは常に連続的に変わるので1回転したときの変化[Ω]Cはゼロになります。
一方,CとC'が交叉してCがS'を裏から表へと貫通する場合には,出発点AがS'の表の部分のごく近くにあって,そこからS'面を通過することなく1回転してB=A-ΔCまで到達するとして,面S'の層を貫通する微小部分を無視すれば,表のAから接着しているS'を見下ろして見込む半平面の立体角はΩA=2πです。
他方,裏のB=A-ΔCから接着しているS'を見上げて見込む立体角はΩB=-2πです。
そこで,S'の中を貫通する微小部分を無視する限り,CがS'を貫通する場合には∫CH(r)ds={I/(4π)}[Ω]C={I/(4π)}[ 2π-(-2π)]=Iが成立することになります。
CがS'を貫通するのは見方を変えればC'がSを貫通すること,つまりIがSを貫通するのと同じです。
そして,CのうちでS'の中を貫通する部分であるΔCはいくらでも小さくすることができるので,元々これの寄与は無視してもよいと思われますから,結局,こうした論法でアンペールの法則を演繹的に説明できたような気がします。
一応,所期の目的が達成されたので,今日も中途ですがここで打ち切ってこの論題はまだまだ続きます。
参考文献:阿部 龍蔵 著「電磁気学入門」(サイエンス社),砂川 重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),ファインマン(R.P.Feynman)(宮島龍興 訳)「ファインマン物理学Ⅲ(電磁気学)」(岩波書店)他
※追伸:この程度の話は,別に阿部さんの本ではなく,高橋秀俊さん他,磁位=磁気ポテンシャルを扱っている昔の著者の書いた本には大抵載っていることが後でわかりました。
昔学んだはずなのにその記憶がないのは,当時は恐らくちゃんと理解してなかったのでしょう。
オリジナルの発想ではないか?なんてトンデモない思い上がりで,赤っ恥ものですね。。。
既にわかっていたことを,数日間も悩むなんて愚の骨頂です。真面目に調べていたら王道があったのでした。。。
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