電磁気学と相対論(2)(真空中の電磁気学1)(導入)
前記事の続きです。
準備ができたので真空中の電磁気学に入りますが,今日は時間がない
こともあって相対性理論の歴史的動機と関わる部分だけを述べます。
例によって相異なる2つの慣性系に固定された準拠座標系をS,
およびS'とし,これら両方の系に対してそれぞれ静止している
実験室を構えて,独立に電磁的な実験を行なう2組の実験物理学
者達がいるという想定を考えることにします。
S系の物理学者達は普通の方法で電場Eや磁場(磁束密度)B,
そして電束密度Dや磁場の強さ(磁界)Hを,S系の時空座標:
tとxの関数として決定できるでしょう。
同じくS'系の物理学者達も電場E'や磁場(磁束密度)B',
そして電束密度D'や磁場の強さ(磁界)H'を,S'系の時空座標:
t'とx'の関数として決定できるはずです。
さらに2組の物理学者達は,互いに独立にS,およびS'系での
電荷密度ρ,およびρ'もそれぞれ(t,x),および(t',x')の
関数として決定できます。
ここで真空中での電磁現象のみを考えることにすれば,S,S'系
において時刻t,t'での空間の各点x,x'における荷電物質の
運動速度をu,u'として,電流密度はいわゆる携帯電流という形
でρu,ρ'u'となります。
さて,Einsteinの相対性原理を認めるなら,電磁場を荷電分布の
関数として決定する方程式はSとS'系で全く同じ形を取らねば
なりません。
したがって,2組の物理学者達は,各々の実験からの結論として
独立に基本方程式である真空中のMaxwell方程式に到達すると
考えられます。
それ故,電磁場の基本方程式が,S系ではMKSA単位で,
divB=0,rotE+∂B/∂t=0,divD=ρ,および,
rotH-∂D/∂t=ρu,ただしD≡ε0E,B≡μ0H
なる形で得られ,他方S'系では,これにプライム="'"が付いた
だけの式として得られます。
ここでは,これこそが主要な問題なので,このプライムの付いた
方程式も具体的に明確に書くと,
div'B'=0,rot'E'+∂B'/∂t'=0,div'D'=ρ',および,
rot'H'-∂D'/∂t'=ρ'u' です。
ただしD'≡ε0E',B'≡μ0H'となります。
これらはLorentzが古典電子論で扱った基礎方程式そのものですが
特に真空の誘電率ε0と透磁率μ0だけは両方の系で共通の普遍定数,
つまり座標変換に対して不変なスカラーであるとするところが相対
性理論にとって本質的なところです。
つまり,互いに相対運動をしているS,S'系の2組の物理学者の
双方が全く同じ形の方程式の成立を結論するということは,理論
の便宜上,真空も誘電体,磁性体であると仮想して与えたMKSA
単位系でのみ必要な真空の誘電率ε0と透磁率μ0はあくまで定数
であって準拠座標系S,S'系にはよらないということです。
つまり,極端なことをいえば地球上のある場所で実験しようが宇宙
のかなたのどこかで実験しようがMKSA単位系で全く同じ電磁気
の法則を見出し,もちろんそこでも真空の誘電率ε0と透磁率μ0は
全く同じ値であるということです。
ところで,真空中のMaxwell方程式で空間に電荷がない(ρ=0 の)
ところでは,これを変形すると電磁波の波動方程式が得られます。
この真空中の波動方程式の係数から,
"電磁波が伝播する速度=位相速度"の大きさは,1/(ε0μ0)1/2
で与えられることがわかります。
そして,この真空中の電磁波の伝播速度を実際に数値として計算
すると,丁度,当時既に正確に観測されていた光速度と一致した
ので,光も電磁波の一種であろうと予測されたという歴史的経緯
があったわけです。
故に,逆に光速をcと書くと,c=1/(ε0μ0)1/2と書けます。
したがって,上記のことをまとめると真空中の電磁気学において
Einsteinの相対性原理が成り立つなら,
謂わゆる「光速度不変の原理」も自動的に成り立つというわけです。
上では"真空の誘電率ε0と透磁率μ0だけは両方の系で共通の
普遍定数,つまり座標変換に対して不変なスカラーである,と
するところが相対性理論にとって本質的なところです。"
と書きました。
逆に,電磁気学とは関係なく運動学の見地から,
「光速度不変の原理」だけを仮定すれば,上記文中のSからS'
への座標変換はLorentz変換であるべきことが導かれます。
そこで,上記文中の座標変換をLorentz変換と呼び,
"座標系に無関係な普遍定数=スカラー"をLorentzスカラー
と呼ぶことができます。
そして,後述するようにMaxwellの方程式系はLorentz変換に
対して形が不変,つまり共変であることも証明されるため,これまで
の議論は論理的にも整合的(consistent)であることが示されます。
もっとも歴史的には「光速度不変の原理」よりも,Lorentz変換の
発見の方が先でした。
詳しくは知りませんが,相対性理論が現われるより前にLoentzの
電子論なんかで,"Maxwellの方程式の形が座標変換に対して不変
になるためには座標変換の形はどうなるべきか?"ということから
これが導かれたようです。
そこで,Maxwellの方程式系がLorentz変換に対して共変なのは,
確かめる必要もないわけです。
まあ,だからこそ,"Einstein変換"ではなく"Lorentz変換"と呼ばれ
ているのでしょうが。。。
しかし,そこまで来ていてもすぐに「相対性理論」という発想に
ならなかったのは,Lorentz変換の形から観測者によって測定する
長さが異なることはまだしも,時間まで異なるということまで受け
入れることはなかなかできなかったからではないか?と想像され
ます。
現在でもそうですが,常識を覆すのは物理学に限らず,とてもむず
かしいことですからね。
実際,Hertzは,そうした時間や長さの尺度が観測者の運動状態で
コロコロと変わってしまう革命的な変換ではなく,
従来の"Newton力学での相対性原理=Galileiの相対性原理"に
基づくGalilei変換に対してMaxwell方程式の方がどうなるか?
を計算しました。
その結果,当然,Galilei変換に対してMaxwellの方程式は形を変えて
お釣りの項が出てきたわけです。
静止観測から運動観測に乗り換えたとき,実際にそのお釣りの項に
よる電気的,または磁気的効果が観測されるかどうか?を確かめる
実験を実施するのは,当時でも比較的簡単で結果はLorentz変換の
勝ちだったのですね。
だから,最後には,"Newton力学を取るか?Maxwellの電磁気学を
取るか??"ということになって,
後者のMaxwell電磁気学を取った結果が今の相対性理論になった
ということでしょうかね。
(※Michelson-Morleyの実験に始まり,現在のスペースシャトル内
での観測まで含み,数限りなく実施されている光速度不変の検証
実験だけではなく,
やや別方向の,こうしたHerzのアノマリーを観測するという検証
もあって,現在のEinsteinの相対性理論の地位が築かれているよ
うです。※)
いずれにしても,
相対性理論はある種の人々に思われているような,Einsteinと
いう一人の天才の頭だけから唐突に生まれてできたもの,
ではなくて,Maxwell,Lorentz,Herz他当時の大勢の人々の歴史的
な努力の積み重ねがあった結果として生まれたものです。
そして最終的な理論についても,定式化ということだけなら
Poincare'とEinsteinのどちらが先に完成させたかがわからず,
実際,先駆者争いもあったくらいのものです。
ただ,数式などの上では非常に近くまできていても,
最後の部分で常識を覆すという,いわば天動説から地動説ヘの
「コペルニクス的転回」ができた人物が最終的発見の栄誉を
受けたということでしょうか。。
ただし,光速というのは,秒速30万Kmという途方もない速さなので
それを無限大と同一視する近似なら,Newton力学もMaxwell電磁気学
も両立するわけです。
われわれの日常感覚では,光は一瞬で届くので光速は無限大と感じる
わけですから,われわれの日常生活レベルにはこうした微妙な違いな
どめったに影響しないので,ある意味どうでもいい話でしょうがね。
さて,これまでの真空中の話ではなく空気や水のような媒質があって
その中の電磁波を考えるのであれば,一般に媒質となる物体は誘電体
かつ磁性体ですから,現象論で考えるとその物質の電磁的性質は真空
とは異なる誘電率εと透磁率μで特徴付けられます。
それ故,その中での"電磁波伝播の速さ=光速c' "は"真空中での
それ=光速c"とは異なります。
明らかに,空気や水,ガラスなどの媒質中の光速c'は,
c'=1/(εμ)1/2で与えられ,通常はε>ε0,μ>μ0なので,
一般にc'<cとなります。
実際,空気中や水中での光速は真空中よりも小さいことは観測に
よってわかっており,それ故,"Huygensの原理"に従う"光=電磁波"
の屈折という現象が見られるわけです。
媒質中の光速c',あるいは媒質中のε,μであれば,それは普遍定数
でも何でもないし,当然,座標変換に対して不変なスカラーでもなく
て座標系次第で異なる値を取る量です。
そもそも,相対性理論が確立される以前に議論となっていたごとく,
"真空といっても文字通りの意味で'空っぽ'というわけではなく,
実は通常の弾性体や誘電体のような物理的性質を持つ'エーテル
(ether)'と呼ばれる媒質があるのが真実の姿である"
ということであれば,「光速度不変の原理」が成立しないことは
明らかですから,光速を限界速度と同一視する形の,現行の
「相対性理論」は成立しないということになります。
しかし,19世紀後半の'エーテル'へのこだわりは,当時は全ての
現象はNewton力学で説明可能というような力学的世界観が支配的
であったため,
電磁気学における電磁波という電気的振動と関わる誘電体,
磁性体という意味合いではなく,実際に"力学的に振動する波
=弾性振動"を意識したことによって生じたと思われます。
もっとも,光速ではなくても無限大ではない有限な限界速度が
存在すれば限界というくらいですから,それが座標系の取り方
次第でコロコロ変わってはおかしいので,
「限界速度不変の原理」が成り立つはずです。
その限界速度の大きさを改めてcと書けば,そのcを基にした
相対性理論が成り立ちます。
cが光速とほんの僅かだけ違うくらいなら,現在の理論体系に
ほんの少しの数値的補正が要求される程度の影響しかありませ
んね。
今日はこのくらいにして次からは本題に入ります。
参考文献:メラー 著(永田恒夫,伊藤大介 訳)「相対性理論」(みすず書房)
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