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2008年5月27日 (火)

電磁気学と相対論(5)(真空中の電磁気学4:補遺)

前記事は若干長くなり過ぎたので,意図していたことを全部書く

ことができませんでした。

 

前記事の前半では,電場と磁場が同じ力の場の別表現であると

うことを強調したかったのです。

 

すなわち,帯電体は,それが静止しているときに受ける力は電場

のみによるものですが,運動しているときには帯電体という意味

よりも"運動する電荷=電流"という意味に変わり,電荷に働く力

は電気力から電流に働く磁気力に移行することを明確に述べた

かったのです。

 

例えば,S系において運動する電荷の速度をとし,電荷に固定

されていて,それが静止していると見える座標系をS0系とすれ

ば,S系での電荷密度はρ=ρ0/(1-u2/c2)1/2で与えられます。

 

これと帯電体の体積の変換性:ΔV=ΔV0(1-2/c2)1/2

から,常にρΔV=ρ0ΔV0ですから,ある物質が担う電荷量

座標変換の"不変量=Lorentzスカラー"であることも見ました。

 

そして,電気力の大きさは電荷密度ρではなくスカラーである

総電荷量ρΔVに比例します。

 

粒子に固定されたS0系では電場00//0のみが存在して

磁場00は存在しないとすると,電荷に働く力0は電気力

のみで,00//0,0//=e0//,0=e0です。

 

そして,S系で電荷に働く力://は,

//=e//=e0//0//,および,=e(×)

=e0(1-u2/c2)1/20(1-u2/c2)1/2 です。

 

そこで,u→cに対し,//0//,→ 0 ですから,

に平行な方向の力は不変ですが,に垂直な方向の力は限り

なく小さくなります。

 

以下は,電磁気ではなく重力の話ですが,

 

光速に近い速度で運動する質量mの宇宙船が,質量Mの太陽に

よって受ける重力(引力)を,宇宙船が静止している立場から見た

ときには,逆に太陽が光速に近い速度-で運動していると見え

ます。

 

そして,この系では静止質量Mの太陽の相対論的質量M',

つまり,質量+(運動エネルギー)/c2は,u~cでは,

M'=M/(1-u2/c2)1/2なので,莫大になります。

 

しかも,一般相対論では重力は質量のみに比例するのではなく,

そのエネルギー全体に比例して働くとされています。

 

一見して,形が電気力のCoulombの法則と似ている,弱重力近似

ニュートンの万有引力の法則:=-GMm/r3において,

 

右辺のMは相対論的質量M'=M/(1-2/c2)1/2で置き換えら

れて,'=-GM'm'/r'3=GMm'/{r'3(1-2/c2)1/2}

とすべきではないか?という主張もありますが,

"見方=座標系"を変えただけで重力がはるかに大きくなったと

いう話は聞いたことがありません。

 

一般相対論ではなく,特殊相対論と重力の折衷ですが,

一般に任意の力についての変換性から,u→cに対して,

//0//,0(1-u2/c2)1/2 → 0 となることを

見れば,こうした馬鹿げたこと,を考える余地はないことが

わかります。

 

さらに,上述の定性的話ではなく,定量的な例で電磁場の相対性

を明確にしておきます。

 

,定常電流Iが流れている導線と,それとは別にその導線に平行

に等速度で動いている1つの負電荷-q(q>0)があるとします。

 

この系において働く電磁力を互いに慣性運動をする2つの準拠系

から眺めた場合を考察します。

 

準拠座標系の1つSは導線に固定したもので,その系では,

負電荷を担う粒子は運動していますが,導線は全く動かない

と見える座標系です。

 

そして,もう1つは導線に平行にSに対して速度で運動する,

負電荷を担う粒子の方に固定されたものです。

 

この準拠座標系をS'系と呼ぶことにします。

 

まず,Sでは定常電流Iは流れていますが,導線内の任意の点では

各時刻に電気的に中性であって導線は全く帯電していませんから

磁場はあっても電場はゼロです。

 

この場合,導線の中心から位置までの垂直距離をrとすると,

磁場()に対し真空中のAnpereの法則:∫C=μ0I

が成立するので,

 

導線の中心を中心とする半径rの円上の点における接ベクトル

の向きを示す単位ベクトルで,電流Iの正の向きに対して右ネジ

をなすものをを()とすると,

 

磁場=μ0I/(2πr)=I/(2πε02r)

となります。

 

負電荷-qの粒子に働く電磁力は,=-q(×)

ですから,

 

それは大きさが,

F=μ0Iqu/(2πr)=Iqu/(2πε02r)で,

運動速度が電流Iの向きと逆のときには,

粒子が導線の中心方向に引かれる引力の向き,

が電流Iの向きと同じときには斥力の向き

を持つベクトルになります。

 

ここで,この導線の平均断面積をA,電荷のキャリアとしての

導線中の伝導電子の電荷密度をρ-,運動速度をとすると,

電流はρ-Aなので,q>0,ρ-<0 によって,

F=-μ0qρ-Auv/(2πr)=-qρ-Auv/(2πε02r)

となります。

 

そして,特にuとvが等しい場合には,v=uと置いて,

F=-μ0qρ-Au2/(2πr)=-qρ-Au2/(2πε02r)

となります。

 

次に,この状況を荷電粒子が静止しているS'系から見ると,

導線内の伝導電子も荷電粒子と並走しているので,S'系

では共に静止していますが,導線は速度-で走っているの

で導線の伝導電子以外の残りの電荷密度ρ+を持つ正電荷も

で走ります。

 

このρ+は粒子の静止している場所にも磁場'を作るはずです。

しかし負電荷粒子は静止していますからこれに働く磁気力は

ゼロです。

 

しかし,S系では粒子に磁気力が働いて実際に導線に垂直な向き

に進路を変えますから,S系とは働く力の大きさが違ってもS'系

でも粒子に何らかの電磁気的力は働くはずです。

 

しかし,S'系では負電荷粒子が静止していることによって,これ

に働く磁気力はゼロですから,その力は電気力であるはずです。

 

すなわち,運動する導線が電場をつくって負電荷粒子は電気力を

受けると考えられます。

 

したがって,電気的に中性の導線も運動すると中性ではなくなり,

帯電して見える必要があります。

 

ここで先の記事で求めた電荷密度の表現,ρ=ρ0/(1-u2/c2)1/2

によればS'系の導線は導線が静止していると見えるS系に対して

速度-で運動しているので,

S'系での電荷密度は,ρ'+=ρ+/(1-u2/c2)1/2と書けます。

 

一方,S系で速度で運動していた伝導電子はS'系では導線が

速度-で運動しているために静止していますから,

負電荷の密度は逆にρ-=ρ'-/(1-u2/c2)1/2,あるいは,

ρ'-=ρ-(1-u2/c2)1/2を満たしています。

 

そこで,導線のS'系での正味の電荷密度は,

ρ'=ρ'++ρ'-=ρ+/(1-u2/c2)1/2+ρ-(1-u2/c2)1/2

ですが,導線はS系では中性なことが明らかですから,

ρ++ρ-=0 ,すなわちρ+=-ρ-です。

 

よって,ρ'=-ρ-2/{c2(1-u2/c2)1/2}が得られます。

 

このネットの電荷によるS'系での電場は断面積Aの帯電円筒

によるものですから,位置での電場を'='()とし

の中心軸からの距離をrとするとき,Gaussの定理によって,

2πrE'=ρ'A/ε0= -ρ-Au2/{ε02(1-u2/c2)1/2}

が成立します。

 

そこで,E'=ρ'A/(2πε0r)

=-ρ-Au2/{2πε02r(1-u2/c2)1/2} ですから,

S'系で負電荷粒子が受ける電気力は,'=-q'です,

その大きさはF'=-qρ-Au2/{2πε02r(1-u2/c2)1/2}

で与えられます。

 

これとS系での磁気力の表現式:

F=-μ0qρ-Au2/(2πr)

=-qρ-Au2/(2πε02r)を比較すると,

F'=F/(1-u2/c2)1/2 となっています。

 

そして,力の向きも全く同じなので,

'=/(1-u2/c2)1/2 なる関係式が得られました。

 

結局,上に求めたS'系での力'はS系での力をS'系での力

に変換した表式と完全に一致しています。

 

これで両者は同一の力の別表現であることがわかりました。

 

今日は補足説明なので,これくらいで終わります。

 

参考文献:R.P.Feynman 著(宮島龍興 訳)

「ファインマン物理学Ⅲ電磁気学」(岩波書店),

メラー 著(永田恒夫,伊藤大介訳)「相対性理論」(みすず書房)

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コメント

>重力がはるかに大きくなったという
そういうSFがありましたねー。
マレイ・ラインスターの「宇宙震」だったと思いますが、未知の宇宙人の光速に近い宇宙船が太陽系付近を通過するので、超重力で地球が破滅する! なんて話でした。(宇宙船の方はなんともないのか?)
それを解決しようとする科学者の方も運動量保存則など無視して活躍するんで、なんだかなーって思っていました。

投稿: hirota | 2008年6月24日 (火) 12時58分

 どもアメリカ留学さん。コメントありがとうございます。TOSHIです。

 相対論関連の話は検索によくヒットするらしく書くとそのときだけ訪問者が倍になるので集客用にときどき書きます。

 でも科学以外も含めて平均でA4文書で5頁程度の記事が五百くらいあるので興味がおありならバックナンバーもご覧ください。

 アメリカ留学ですが若い頃から読書のようなインドア的性向が強く,外国など旅行程度しか考えたことがないですね。すいません。
            TOSHI

投稿: TOSHI | 2008年5月28日 (水) 09時08分

初めまして♪

アメリカ留学のブログを書いてる者です。ランキング内の様々なブログを拝見させて頂いてる最中ですが、つい見入っちゃったのでコメントも残す事にしちゃいましたw

機会があったらまた遊びにくるつもりです、よければ僕の所にも一度来て頂けたら幸いです♪

投稿: アメリカ留学 | 2008年5月27日 (火) 21時57分

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