ネーターの定理と電磁エネルギー運動量テンソル
電磁場と相対論に関するシリーズ記事は一応終了しましたが,最後の物質中の電磁力学における電磁エネルギー運動量テンソルについてのミンコフスキー(Minkowski)の表現形式とアブラハム(Abraham)のそれについての論題が少し気になりました。
これは,解析力学におけるネーター(Noether)の定理と関連づけて更に掘り下げた考察を行なうことが可能であると感じ,いささか個人的興味が湧いたので少し論じてみたいと思います。
電磁場に限らず,例えば連続体の各点における変位などを表現した古典的な場φ(x)={φi(x)}がある場合,特に連続体領域を平坦な4次元時空全体としたとき,系のラグランジアン密度Lが場φi(x)とその1階微分∂μφi(x)の関数としてL(φi(x),∂μφi (x))のように書けるとします。
作用積分はS[φ]=∫d4xL(φi,∂μφi)で与えられます。そして場の従う基本的な運動方程式はφi(x)の変分に対する作用Sの停留条件δS=0 から決まります。
すなわち,系を支配する運動方程式はδS/δφi=∂L/∂φi-∂μ{∂L/{∂μφi }]=0 で与えられます。
これはよく知られたオイラー・ラグランジュ方程式です。
そして,ネーターの定理は"ある連続変換の下で作用Sが不変な場合には,その変換に対応した保存量が必ず存在する。"という定理です。
これの証明は,既に2008年2/29の記事「ネーター定理と場理論」 http://maldoror-ducasse.cocolog-nifty.com/blog/2008/02/post_919c.html でも行なっています。
ここでも,改めて概略的な証明を与えることにします。
以下,証明です。
ε>0 を無限小パラメータとし,時空座標の変換xμ→xμ*=xμ+εημ,およびそれとは独立な場の変換φi(x)→φ*i(x)=φi(x)+εgi(φj,∂μφj)があるとします。
これは,座標の変分δxμ=εημと共に場のリー変分δLφi(x)=εGi(φj,∂μφj)=ε[gi(φj,∂μφj)-ημ∂μφi]があるとして表現されます。
この変換の下で作用積分Sが不変である,すなわちS[φ]=S[φ*]が成立する,という対称性が存在するとします。
このことは,ラグランジアン密度Lのリー変分が高々全微分であること,つまり,恒等的にδLL≡L(x,φi*(x),∂μφi*(x))-L(x,φi(x),∂μφi(x))=ε∂μXμ(φj(x),∂νφi(x))と書ける,ある関数Xμ(φj,∂νφi)が存在することを意味します。
この命題については,既に先述の記事,2008年2/29の「ネーター定理と場理論」に詳しい証明を与えていますから,ここでは改めて証明することはせず,単に認めることにします。
他方,変換:x*μ=xμ+εημ,φi*(x)=φi(x)+εGi(φj,∂μφj)の下でのラグランジアン密度Lのリー変分δLLを素朴なεの1次の変分項という意味で計算します。
δLL≡L(x,φi*(x),∂μφi*(x))-L(x,φi(x),∂μφi(x))=Σi[(∂L/∂φi)εGi(φj,∂μφj)+{∂L/∂(∂μφi)}ε∂μGi(φj,∂μφj)]-(∂μL)εημと書けます。
さらに,先に述べたオイラー・ラグランジュ方程式:∂L/∂φi-∂μ{∂L/∂(∂μφi)}=0 によって,上式の右辺の∂L/∂φiを∂μ{∂L/∂(∂μφi)}で置き換えます。
このとき,δLL=εΣi[∂μ{∂L/∂(∂μφi)}εGi(φj,∂μφj)+{∂L/∂(∂μφi)}∂μGi(φj,∂μφj)]-ε(∂μL)ημ=ε∂μ[Σi{∂L/∂(∂μφi)}Gi(φj,∂μφj)-Lημ]となります。
ただし,ε>0,および時空座標の変換:x*μ=xμ+εημにおけるパラメータημは点xに依らない定数であるとして大域的変換を仮定しています。
そこで,2つの方法で得られたLのリー変分δLLを等置することからδLL=ε∂μ[Σi{∂L/∂(∂μφi)}Gi(φj,∂μφj)-Lημ]=ε∂μXμ(φj,∂μφi)が得られます。
εは任意の定数パラメータなので,結局∂μ[Σi{∂L/∂(∂μφi)}Gi(φj,∂μφj)-Lημ-Xμ(φj,∂μφi)]=0 が成立することがわかります。
これは,jμ(x)≡Σi{∂L/∂(∂μφi)}Gi(φj,∂μφj)-Lημ-Xμ(φj,∂νφi)と置けば,∂μjμ=0 ,つまり,カレントjμ(x)の保存を意味します。
そして,このように定義したカレントjμ(x)をネーター・カレントと呼びます。
つまり,上記カレントjμ(x)の第 0 成分を用いて,Q(t)≡∫j0(x,t)d3xなる量Q(t)を定義すると,∂μjμ=0 の結果から,dQ/dt=0 となって,Q(t)はtに依らないことがわかります。
tに依らず一定なので,Q(t)は単にQと書いてもよく,このQがカレント密度j(x,t)に対応する1つの保存量になるというわけです。
Qは保存量ですから,ある1つの物理量と同定されます。
以上でネーターの定理の証明は終わりました。
ここで古典解析力学で多体系に対して定義されるポアソン括弧式(Poisson's bracket):[u,v]P.B.≡Σs[(∂u/∂qs)(∂v/∂ps)-(∂u/∂ps)(∂v/∂qs)]を,連続体の場の理論に拡張します。
場φi(x)に正準共役な運動量πi(x)をπi(x)≡∂L/∂(∂0φi)で定義して,ポアソン括弧式を[u,v]P.B.≡Σi[(∂u/∂φi)(∂v/∂πi)-(∂u/∂πi)(∂v/∂φi)]とします。
これを使用すると,場の量φ={φi(x)}とネーター保存量Qについては[φi(x),Q]P.B.=Σk[(∂φi/∂φk)(∂Q/∂πk)-(∂φi/∂πk)(∂Q/∂φk)]=∂Q/∂πiと書けます。
Q=∫j0(x,t)d3x,j0(x,t)=j0(x)=Σk{∂L/∂(∂0φk)}Gk(φj,∂μφj)-Lη0-X0(φj,∂νφi)=ΣkGk(φj,∂μφj)πk(x)-Lη0-X0(φj,∂νφi)です。
特にGi(φj,∂μφj),Xμ(φj,∂νφi)が∂0φj,あるいはπjと独立な場合には,∂Q/∂πi=Gi(φj,∂μφj)となるので,[φi(x),Q]P.B.=Gi(φj,∂μφj)なる等式が得られます。
すなわち,この無限小変換に際しては,δLφi=ε∂Q/∂πi=ε[φi(x),Q]P.B.が成立します。
このような関係を満たす量Qをこの変換の生成子と呼びます。そこで,理論を不変(作用を不変)に保つ対称性変換に対しては,ネーター保存量Qが常にその変換の生成子になっていると考えられます。
一方,δLπi=δL{∂L/∂(∂0φi)}=∂(δLL)/∂(∂0φi)=ε{∂(∂μXμ)/∂(∂0φi)}ですが,先にも述べたように,Xμ(φj,∂νφi)が,∂0φj,あるいはπjと独立な場合を想定しているならδLπi=0 です。
また,[πi(x),Q]P.B.=Σk[(∂πi/∂φk)(∂Q/∂πk)-(∂πi/∂πk)(∂Q/∂φk)]=-∂Q/∂φiであることもわかります。
そこで,φi(x),πi(x)の汎関数で与えられる任意の物理量を,A=A(φj,πj)とすると,この対称性変換によるAのリー変分はδLA=Σk[(∂A/∂φk)δLφk+(∂A/∂πk)δLπk(x)]でδLπk=0 故,δLA=εΣk(∂A/∂φk)δLφkとなります。
一方,ε[A,Q]P.B.=εΣk[(∂A/∂φk)(∂Q/∂πk)-(∂A/∂πk)(∂Q/∂φk)]=Σk[(∂A/∂φk)δLφk+ε(∂A/∂πk)(∂Q/∂φk)]と書けます。
物理量QがδLφi=ε∂Q/∂πi=ε[φi(x),Q]P.B.を満たし,変換の生成子となっている場合には,一般にδLA=ε[A,Q]P.B.となるであろうという予測に基づいて考察していたのですが,今のところは,どうもうまくいきません。
古典論でリー微分とポアソン括弧は,ハミルトニアンをHとしてdA/dt=[A,H]P.B.なる関係があることから類推して,リー変分についてもポアソン括弧は同等な内容を与えるであろうと思ったのですが,当面はこの項目の議論を延期します。(Pendingです。)
(アーノルドやジョージ・アイ,あるいは微分幾何や力学系の本でも読めばいいのかしら。。)
今は古典場の話をしているのですが,u,vが量子論の演算子,または作用素である場合には,[u,v]を交換子,つまり,[u,v]≡uv-vuと定義します。
古典論のポアソン括弧と量子論の交換子の間に[u,v]P.B.=[u,v]/(ihc)なる対応原理を与えれば,これは古典論を量子化して量子論にすることと同等であるという命題がディラック(Dirac)らによって示された,という歴史的経緯もあります。
ただし,hc≡h/(2π)はプランク定数です。
この対応原理を適用すれば,古典論の生成子Qに対する[φi(x),Q]P.B.=Gi(φj,∂μφj)なる基本式は,Qが演算子であって,場φi(x)が量子場を示す演算子である場合には(i/hc)[Q,φi(x)]=Gi(φj,∂μφj)なる表式に変わります。
そこで,この対称性変換での量子場の無限小変換はφi(x)+δLφi(x)=φi(x)+εGi(φj,∂μφj)=φi(x)+(iε/hc)[Q,φi(x)]と書けます。
ここで,θをパラメータとする場φi(x)のユニタリ変換:exp(iθQ/hc)φi(x)exp(-iθQ/hc)を考えると,この変換において,特にθが無限小:θ=εの場合には,これはexp(iεQ/hc)φi(x)exp(-iεQ/hc)=φi(x)+(iε/hc)[Q,φi(x)]と書けるので,φi(x)+εGi(φj,∂μφj)=exp(iεQ/hc)φi(x)exp(-iεQ/hc)となります。
したがって,この変換に伴なって場が受ける変換は,ネーター保存量Qに相当する演算子を生成子としたユニタリ変換という形で表現されることがわかります。
そして,古典場の場合と同様,Aをφi(x),πi(x)の任意の汎関数とすると,δLA=(iε/hc)[Q,A]ですから,exp(iεQ/hc)Aexp(-iεQ/hc)=A+δLAとなるはずです。
これ以上の余談的な考察を続けるには,対称性変換が線型リー群と呼ばれる変換群を形成し,群全体の代数的性質を決定するには無限小(接触)変換を調べれば十分であること,
それ故,"群の生成子の線型結合やそのポアソン括弧,または交換子で構成される線形空間=リー環,あるいはリー代数"の構造を調べればよい,とかいった数学的議論になると思われるので,何かその種の数学の本を参照しなければ無理ですが,この記事での本題ではないので,そうしたことは,またの機会に譲って次に移ります。
今,必要なのは場のエネルギー運動量テンソルですが,これは並進,つまり,時空座標の平行移動変換:x*μ=xμ+εημ=xμ-δμに対して作用が不変なこと,すなわち,時空の一様性,言い換えると時空座標の原点をどこに取ろうと理論は同じであるという性質から得られるネーター保存量です。
この対称性を有するラグランジアン密度Lは,これまで前提としてきた最も一般的な形である座標xを陽に含んだもの:L(x,φi(x),∂μφi(x))ではなくて,xを陽には含まないL(φi(x),∂μφi(x))なる形であると考えます。
そして,この場合の変換ではgi≡0 なので,x*μ=xμ+εημ=xμ-δμに伴なうφiのリー変分はδLφi(x)=εGi(φj,∂μφi)=δρ∂ρφj(x)となります。
また,SだけでなくLもこの座標変換の不変量であると考えると,δLL=ε∂μ[Σi{∂L/∂(∂μφi)}Gi(φj,∂μφj)]=ε∂μXμ(φj,∂μφi)=δρ∂ρL が成立します。
そこで,関数Lが座標xに陽には依存しない場合のネーター保存カレントの表式:jμ(x)=Σi{∂L/∂(∂μφi)}Gi(φj,∂μφj)-Xμ(φj,∂νφi)の両辺にεを掛けた等式で,εGi(φj,∂μφi)=δρ∂ρφj,εXμ(φj,∂νφi)=δρ∂ρLを代入します。
この時空座標の平行移動の対称変換についてはネーター定理の証明における最後の式ε∂μjμ(x)=0 を意味するものとして,δρ∂μ[Σi{∂L/∂(∂μφi)}∂ρφi-δρμL]=0 なる恒等式が得られます。
したがって,この場合は唯一の無限小パラメータεに関する恒等式ε∂μjμ(x)=0 から,唯一のカレントjμ(x)の保存∂μjμ(x)=0を導き出した前記の証明での手続きにおけるものとは違う形の恒等式が得られます。
すなわち,ρ=0,1,2,3の各々に対応した独立な4つの任意パラメータδρに関する恒等式:δρ∂μ[Σi{∂L/∂(∂μφi)}∂ρφi-δρμL]=0 を得ます。
それぞれのρに対応して,∂μjρμ(x)=0 を満たす4つのネーター保存カレントjρμ(x)が存在することがわかります。それらはjρμ(x)=Σi{∂L/∂(∂μφi)}∂ρφi-δρμLで表現されます。
そして,これら時空座標の平行移動に対する理論の不変性に伴なうカレントjρμ(x)を特にTρμ(x)と書いて,これを(正準)エネルギー運動量テンソルと呼びます。
この場合,保存カレントjμ(x)の第ゼロ成分から構成され,変換の生成子を形成するネーター保存量Q=∫j0(x,t)d3xも4つの保存カレントjρμ(x)=Tρμ(x)に対応して,ρ=0,1,2,3の各々の平行移動変換の生成子を形成します。
これら4つの"生成子=ネーター保存量"をQρ≡∫Tρ0(x,t)d3xと表記することにします。さらに,混合テンソル表現であるTμν=Σi{∂L/∂(∂νφi)}∂μφi-δμνLを反変テンソル表現に変えてTμν=ημρTρν=Σi {∂L/∂(∂νφi)}∂μφi(x)-ημνLと表わせば,Qμ=∫Tμ0(x,t)d3xと書けます。
ところが,元々ネーター保存カレントやネーター保存量は,全体に共通の定数を乗じても保存方程式を満たす保存量としての意味は同じです。
これは,単位をどのように取ってもかまわないという意味でもありますが,要するにその定義には,定数係数だけの任意性があり一般に一意には決まりません。
しかし,時間の一様性,つまり時間tについての無限小平行移動t*=t-ηに対する不変性に伴なう"ネーター保存量=生成子"は系のエネルギーEであり,空間xについての無限小平行移動x*=x-δに対する不変性に伴なう"ネーター保存量=生成子"は系の運動量Pである,とされています。
また,特にQ0=∫T00(x)d3x=∫[Σi{∂L/∂(∂0φi)}∂0φi-L]d3xの右辺は系のラグランジアンをL=∫Ld3xと書いたときの多粒子系のハミルトニアンH=Σi{∂L/∂(dqi/dt)}(dqi/dt)-L=Σipi(dqi/dt)-Lの連続体への拡張になっていることが明らかです。
それ故,Q0は系のエネルギーEを意味すると考えられるので,Q0=E=∫T00(x)d3xと書けます。
ところが,時空座標の無限小の平行移動x*μ=xμ-δμのうち,特に保存量Q0の存在を保証する第ゼロ成分の座標x0=ctに関する平行移動x*0=x0-δ0を,時間座標tに関するそれで表現するとct*=ct-δ0,またはt*=t-δ0/cとなります。
そこで,恒等式δρ∂μTρμ(x)=δρ∂μ[Σi{∂L/∂(∂μφi)}∂ρφi(x)-δρμL]=0 から決まるカレントTρμ(x)によって,Q0=E=∫T00(x)d3xを与える恒等式のρ=0 の成分に対する係数パラメータはδ0ではなく,t*=t-δ0/cに対応してδ0/cです。
パラメータ係数δρの無限小変換から定まるカレントTρμ(x),あるいは保存量Qρをρについて対等に扱うと,ρ=0 のt*=t-δ0/cに対応するQ0=Eから,保存量の反変ベクトルQμ=(Q0,Q)が4元運動量PμによりQμ=Pμ/c=(E,P/c)と表現できるとわかります。
余談ですが,一般に時空の一様性は,対象領域が空間の一部に限定されたような場合には成立しません。
例えば熱統計力学を考察する際に通常設定される狭い箱の中に閉じ込められた多粒子系というモデルでは,空間の一様性に起因する運動量保存は成立せず,時間の一様性によるエネルギー保存のみが成立します。
さて,電磁場の場合,私がかつて学生時代の専門としていたQED(量子電磁力学)などのように微視的個数の電子と光子の衝突散乱などを対象とする場合には,空気のような媒質中の現象を対象とする場合,物質中の電場,磁場でも真空中の微視的効果の巨視的平均と考えるローレンツの電子論と同じく,基本的に光子を表わすものとして真空中の電磁場のみを考えます。
そして真空中であれば「電磁気学と相対論(6)(真空中の電磁気学5)」で書いたように,不変質量密度がμ0で,携帯電流密度がsμの,その中にある連続物質の帯電体も含めた系全体のラグランジアン密度はL=-(c2ε0/4)FμνFμν-Aμsμ-μ0c2=(-c2ε0/4)(∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xν)(∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xν)-Aμsμ-μc2(1-u2/c2)1/2と書けます。
そして,自由物質場の項:-μ0c2や電磁場と物質電荷密度の相互作用項-Aμsμを除いた自由電磁場のラグランジアン密度項はLE≡-(c2ε0/4)FμνFμνとなります。
この総ラグランジアン密度Lに対して上述のオイラー・ラグランジュの運動方程式{∂L/∂φi}-∂μ{∂L/(∂μφi)}=0 における場φi(x)を電磁場Aν(x)に置き換えれば,確かに電磁場のマクスウェル方程式∂Fμν/∂xν=-sμ/(c2ε0)が得られます。
そして,このラグランジアン密度Lからネーター定理に基づく系の(正準)エネルギー運動量テンソルの反変テンソル表現Tμνを求めると,Tμν=Σi{∂L/∂(∂νφi)}∂μφi(x)-ημνL={∂L/∂(∂νAρ)}∂μAρ-ημνLとなります。
これが,先に別の考察から得られたエネルギー運動量テンソルの表現Tμν=θμν+Sμν,θμν≡μ0UμUν,Sμν≡-(c2ε0)[FλμFλν-(1/4)ημν(FσρFσρ)]=-(c2ε0)[ημδFλδFλν-(1/4)ημν(FσρFσρ)]と完全に一致すればよかったのですが,実は∂tμν/∂xν=0 を満たすテンソルtμνだけ違っています。
すなわち,真空中で特に物質場を無視した電磁場単独のラグランジアン密度LE=-(c2ε0/4)FμνFμνに対してネーター保存量として得られるエネルギー運動量テンソルの反変テンソル表現はTEμν={∂LE/∂(∂νAρ)}∂μAρ-ημνLE=-(c2ε0)[-ημδ∂δAλFλν-(1/4)ημν(FσρFσρ)]となります。
上にも述べたように,この表現は真空中の電磁気学のこれまでの議論から得られた電磁エネルギー運動量テンソルの表現:Sμν=-(c2ε0)[ημδFλδFλν-(1/4)ημν(FσρFσρ)]とは微妙に異なっていて.tμν≡-(c2ε0)ημδ∂λAδFλνとすればSμν=TEμν+tμνとなります。
ネーターの定理によって,もちろん∂TEμν/∂xν=0 ですが,運動方程式:∂Fμν/∂xν=0 より明らかに∂tμν/∂xν=-(c2ε0)ημδ(∂λ∂νAδ)Fλν=0 ですからTEμν,Sμνのいずれを電磁エネルギー運動量テンソルとして採用しても問題はありません。
しかし,Sμνの方は対称テンソルでかつトレースレス(対角和がゼロ)という閉じた系でのエネルギー運動量テンソルの条件を全て満足していますから,通常は素朴なネーターカレントTEμνではなく,これにtμνを加えたSμνを電磁エネルギー運動量テンソルとします。
物質中と異なり真空中の電磁場については,これで異論もなく全く問題はありません。
一方,物質中の電磁場に対するミンコフスキーの電磁エネルギー運動量テンソルSμνもアブラハムのそれSAμνも,元々物質が電磁気的に等方的な場合,すなわちεを誘電率,μを透磁率としてHμνUν/c2=εFμνUν,FμνUλ+FνλUμ+FλμUν=μ(HμνUλ+HνλUμ+HλμUν)と書ける場合には,ε→ε0,μ→μ0としたときに真空のSμνに帰するように作られています。
そして,ミンコフスキーの電磁エネルギー運動量テンソルSμν=-ηνσFμλHσλ+(1/4)FλσHλσημνが(正準)エネルギー運動量テンソルTEμν=ημρTEρν={∂LE/∂(∂νAρ)}∂μAρ-ημνLE にtμνを除いて一致するような電磁場のラグランジアン密度LEを考えて.LE=-(1/4)FλσHλσとすると,これはε→ε0,μ→μ0で真空中のラグランジアン密度LE=-(c2ε0/4)FμνFμνに一致します。
LE=-(1/4)FλσHλσにおいて,Fλσ=∂λAσ-∂σAλであり,S0系ではLE0=-(1/4)F0λσH0λσ=-(c2ε/4)F0λσF0λσです。
(正準)エネルギー運動量テンソルTE0μνはTE0μν+t0μν={∂LE0/∂(∂0νAρ)}∂0μA0ρ-ημνLE0+t0μν=-ηνσF0μλH0σλ+(1/4)F0λσH0λσημν=S0μνとなり,静止系ではTE0μν+t0μνはミンコフスキーの電磁エネルギー運動量テンソルS0μνに一致します。
そこで,テンソルの性質から任意のS系においてもTEμν+tμν=ημρTEρν={∂LE/∂(∂νAρ)}∂μAρ-ημνLE+tμν=Sμνとなって,ネーター理論による電磁エネルギー運動量テンソルTEμν+tμνがミンコフスキーの電磁エネルギー運動量テンソルSμνに一致することがわかります。
さらに,系全体のラグランジアン密度は携帯電流密度sμを全電流密度Jμに変えた形のL=LE-AμJμ-μ0c2=-(1/4)FλσHλσ-AμJμ-μc2(1-u2/c2)1/2になります。
そこで,Aν(x)についてのオイラー・ラグランジュの運動方程式{∂L/∂Aν}-∂μ{∂L/(∂μAν)}=0 も拡張されたマクスウェル方程式である∂Hμν/∂xν=-Jμとなります。
したがって,ネーターの定理の観点から電磁エネルギー運動量テンソルを見直すなら,アブラハムの表現と比較してミンコフスキーの表現の優越性が示されるようです。
部分的な電磁場のみのテンソルTEμν+tμν=Sμνが非対称であっても,物質場を含めた全体のテンソルTμν=θμν+Sμνは対称テンソルになることが可能なので,電磁エネルギー運動量テンソルについてはミンコフスキーの非対称な表現でも問題ないと思います。
参考文献:九後汰一郎 著「ゲージ場の量子論Ⅰ」(培風館),L.Fonda and G.C.Ghirardy 著「Symmetry Principles In Quantum Physics」(Marcel Dekker Inc. New.York(1970))
PS:インターネット検索から,2003年のMichael Forger and Hartmann Römerの http://arxiv.org/abs/hep-th/0307199, 表題が「Currents and the Energy-Momentum Tensor in Classical Field Theory」なる論文を見つけて入手しましたが,印刷すると91ページの大部で,読むだけでも大変です。
そこで,とりあえず,ざっと眺めてみましたが,その限りでは,上で論じたような計量が平坦なημνの時空上だけではなく,一般の曲がった計量gμνを持つ時空上の話を想定しているようです。
平坦な時空でネーター保存量としてエネルギー運動量テンソルを得る基になった時空の対称性,すなわち単純な"時空座標の平行移動に対する不変性=時空の大域的一様性"は,曲がった時空においては局所的領域で考える必要があることなども述べられています。
そして,電磁場のようなゲージ場と物質場との総和の総ラグランジアンL=Lg+Lmを考えているわけですが,Lgを自由ゲージ場のラグランジアンとして,物質場とゲージ場の相互作用項はLmの中に含めた表現を取るとき,Lgについては論じる必要がなく改善された正しい総エネルギー運動量テンソルは物質場のラグランジアンLmのみから決まるということが述べられています。
次に,上のLmをさらに物質場と"時空自身の重力場=ゲージ場"とに分割して改めてLg+Lmと書けば,ネーター保存量として得られる総エネルギー運動量テンソルTμνはTμν=-2δLm/δgμνなる式で与えられ,これはgμνが対称なので必然的に対称テンソルであるという話を数学的に展開しているようです。
これは真空中の場であり,それゆえ上記ブログ記事での物質中の電磁場のミンコフスキーやアブラハムの話とは関係がなさそうです。
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