球対称時空解(シュヴァルツシルト解)の導出(1)
覚書きとして,アインシュタインの重力場の方程式の真空中での球対称解であるシュヴァルツシルト解を具体的に導出する過程もブログに残しておきたいと思ったので記事にします。(検索でヒットしやすいように,日本語表記ではシュワルツシルト解,あるいはシュバルツシルト解(schwartzschild))とも言われることを補記しておきます。)
まずは,重力場の方程式を解くために最低限必要と思われる一般相対性理論の基本的知見をまとめておくことから始めます。
時空上の各点P(x);x=xμ=(x0,x)=(ct,x,y,z)において,これと近接した点Q(x+dx);x+dx=xμ+dxμ=(x0+dx0,x+dx)との間の"4次元的距離PQ=計量"の平方ds2をds2=gμνdxμdxνによって与えるdxμdxνの係数2階対称共変テンソルgμνを計量テンソルと呼びます。
ここで,無限小の4次元的距離,すなわち計量とは時空点(事象)Pの局所近傍を平坦なミンコフスキー計量(Minkowski metric)で表わしたときの座標をXμ=(X0,X)=(cT,X,Y,Z)とするとき,ds2=gμνdxμdxν=ημνdXμdXν=(dX0)2-dX2=c2dT2-dX2-dY2-dZ2で与えられるスカラー量のことです。
なお,ημνはη00=-η11=-η22=-η33=1 以外の非対角成分が全てゼロのミンコフスキー計量テンソルです。また縮約に際してはアインシュタインの規約を使用しています。
特に,ds2<0 のときには,座標系の取り方次第で,対象とする2点がdT=0 の事象,つまり同時刻になることが可能なので,この2点は空間的(space-like)に離れていると言われます。
他方,ds2>0 のときには,座標系の取り方次第でdX=0 (空間的に同じ点)になることが可能なので時間的(time-like)に離れていると言われます。
また,特にds2=0 なら光的(light-like)であると言われます。
物理量は一般にテンソル量で与えられますが,以下ではまずテンソルとは何かについて述べます。
ある座標系での4次元座標がxμで与えられる時空点が,別の座標系ではx'μなる4次元座標に変わるというような座標系の一般座標変換は,dxμ=(∂xμ/∂x'ν)dx'νによって表現することができますが,この時空座標xμと同じように,Aμ=(∂xμ/∂x'ν)A'νで変換される量Aμを反変ベクトルと呼び,上添字で表現します。
一方,座標変換に対して全く不変な量をスカラーと呼びます。
例えば,1つのスカラー量をφとすれば上記の一般座標変換に対する変換性は∂φ/∂xμ=(∂x'ν/∂xμ)(∂φ/∂x'ν)と書けます。スカラー量の時空座標による微分(∂φ/∂xμ)と同じように,Aμ=(∂x'ν/∂xμ)A'νと変換される量(Aμ)を共変ベクトルと呼び下添字で表現します。
そしてテンソルとはAρτ..μν.. (ただし,μ,ν,..,ρ,τ,..=0,1,2,3)なる共変添字と反変添字を持ち,次のような変換性を持つ数全体のことです。
つまり一般座標変換に対してAρτ..μνκ..=(∂xμ/∂x'α)(∂xν/∂x'β)(∂xκ/∂x'γ)..(∂x'δ/∂xρ)(∂x'ε/∂xτ)..A'δε..αβγ..なる変換性を持つ数の集合のことです。
スカラー,ベクトルというのは添字が 0 個,1個の特別なテンソルのことです。個々のベクトルは"長さと向きという関係で類別された同値類と呼ばれる集合です。
この集合は,その代表元が高校で初めて学んで以来の我々に馴染み深いベクトル概念と同じく1つの矢印で描写されます。
こうしたベクトルやテンソルが一種の集合であるという描像は,違う座標系から見ると成分は違って見えても,実は成分には関係ない幾何学的実体を指していて,個々の数成分Aρτ..μν..は実体を投影した単なるラベルに過ぎない,と考えれば,受け入れやすい概念ではないかと思います。
さらに言えば,普通の空間ベクトルa,bに対して内積(スカラー積)を(a,b)と書くと,aを固定してbを変数ベクトルxに変更して,内積を取るという操作をa(x)≡(a,x)なる3次元空間R3から実数空間Rへの写像と考えれば,これは線型写像なのでベクトルaを1つの線型写像と同一視できます。
したがって,個々のベクトルは3次元空間R3から実数空間Rへの線型写像と1対1に対応しており,結局,R3からRへの線型写像の全体と同一視することができます。
この3次元空間のベクトルxに対する線型写像全体は明らかに元々の空間Rと同相ですが,これを区別してxの属する空間R に双対な空間(dual space)といいます。
そこで,数学的には2階共変テンソルA=(Aμν)をA(x,y)≡AμνxμyνによってR(3,1)×R(3,1)から実数空間Rへの双線型写像を与える幾何学的実体として定義できます。
したがって,テンソルというのは多様体の上での多重線型写像全体で構成される双対空間の直積空間の元と考えることもできるでしょう。
さて,テンソルのうちで成分が上添字しか持たないものを反変テンソル,下添字しか持たないものを共変テンソルと呼びます。
そして元々の定義の一般のテンソルは混合テンソルとも呼びます。
計量テンソルgμνは先にも述べたように共変テンソルですが,gμνを4×4正方行列Gの成分と見たときの逆行列G-1は反変テンソルとなります。
そこで,G-1の成分をgμνと書いて反変計量テンソルと呼びます。すなわち,gμλgλν=δμνです。
そして反変ベクトルAμに対してAμ=gμλBλを与える共変ベクトルBμを特にAμと表記してAμ=gμλAλと書けば,Aμ=gμλAλが成立します。
Aμ=(∂x'ν/∂xμ)A'νにより,∂Aμ/∂xρ=(∂2x'ν/∂xρ∂xμ)A'ν+(∂x'κ/∂xρ)(∂x'ν/∂xμ)(∂A'ν/∂x'κ)ですから,∂Aμ/∂xνは2階共変テンソルではありません。
これはxμ→xμ+dxμに対してdAμ=(∂Aμ/∂xν)dxνが共変ベクトルにならないことと同値です。
そこで,DAμ≡(∂Aμ/∂xν-ΓρμνAρ)dxνと形式的に定義してDAμが共変ベクトルになる,つまりDAμ=(∂x'ν/∂xμ)DA'νが成立するようにΓρμνなる係数を決めることができれば,共変でない量であるdAμの代わりに相対論にとって好都合な共変ベクトル量DAμが得られます。
これは,平行移動xμ→xμ+dxμに対して,Aμ(x)はAμ(x)→Aμ(x+dx)=Aμ(x)+dAμ,dAμ=(∂Aμ/∂xν)dxνと変化を受けますが,一般に時空座標のμ軸は曲がっているので,新しい座標点x+dxにおける新しいμ軸に対するベクトル場Aμの成分は単純にAμ(x)のxをx+dxに変えたもの,Aμ(x+dx)=Aμ(x)+dAμではないからです。
そこで,共変ベクトル量DAμはx+dxにおけるAμの真ののμ軸成分がAμに比例したdxの1次の補正を受けたA'μ(x+dx)≡Aμ(x)+DAμ=Aμ(x+dx)-ΓρμνAρdxνになるとして定義したものです。
そして,このときの∂Aμ/∂xν-ΓρμνAρを共変ベクトルAμの共変微分と呼びAμ;νと書きます。つまりAμ;ν≡∂Aμ/∂xν-ΓρμνAρです。
Aμ;νはテンソルですが,∂Aμ/∂xνはテンソルではないですから,ΓρμνAρもテンソルではありません。
したがって,まだ具体的な正体が不明な係数:Γρμνもテンソルではないことがわかります。この係数Γを接続係数と呼びます。
一方,スカラー量AμBμの座標変換による変化を考えると,これについてはd(AμBμ)={∂(AμBμ)/∂xν}dxν=D(AμBμ)と考えることができます。
そこで(DAμ)Bμ+Aμ(DBμ)={(∂Aμ/∂xν)Bμ+Aμ(∂Bμ/∂xν)}dxνなる等式からAμ(DBμ)={Aμ(∂Bμ/∂xν)+ΓρμνAρBμ}dxνを得ます。
よって,反変ベクトルBμの共変微分はDBμ≡(∂Bμ/∂xν+ΓμρνBρ)dxν,およびBμ;ν≡∂Bμ/∂xν+ΓμρνBρによって定義すればよいことがわかります。
そして,Aμ;νが実際に2階共変テンソルであるためには,A'μ;ν=(∂xρ/∂x'μ) (∂xσ/∂x'ν)Aρ;σ,
つまり∂A'μ/∂x'ν-Γ'δμνA’δ=(∂xρ/∂x'μ)(∂xσ/∂x'ν)(∂Aρ/∂xσ-ΓερσAε)が成立する必要があります。
これから途中計算を省略すると,必要な条件としてΓ'δμν=(∂xρ/∂x'μ)(∂xσ/∂x'ν)(∂x'δ/∂xε)Γερσ+(∂x'δ/∂xρ)(∂2xρ/∂x'μ∂x'ν)が得られます。
これは接続係数Γρμνがテンソルでないことを陽に示しています。
さらにAμ;νがテンソルなら,Aμ;ν=∂Aμ/∂xν+ΓμρνAρもテンソルです。
よって反変テンソルと共変テンソルの関係からAμ;ν=gμλAλ;νですから,結局Aμ;ν=(gμλAλ);ν=gμλ;νAλ+gμλAλ;ν=gμλ;νAλ+Aμ;νと書けます。
そこで,gμλ;νAλ=0 が任意のベクトルAμに対して常に成立するため,時空のあらゆる点で常にgμλ;ν=0 が成立することがわかります。
そして,Tμν≡AμBνとおくと,Tμν;ρ=Aμ;ρBν+AμBν;ρ,であり,Tμν≡AμBνとおくとTμν;ρ=Aμ;ρBν+AμBν;ρが成立するので,一般に2階テンソルの共変微分はTμν;ρ=Tμν,ρ+ΓμλρTλν+ΓνλρTμλ,およびTμν;ρ=Tμν,ρ-ΓλμρTλν-ΓλνρTμλとなることがわかります。
ただし,簡単のためにTμν,ρ≡∂Tμν/∂xρ,Tμν,ρ≡∂Tμν/∂xρなる通常の微分表記を使用しました。
gμν;ρ=0 はgμν;ρ=gμν,ρ-Γσμρgσν-Γσνρgμσ=0 を意味しますが,これはΓν|μρ≡gσνΓσμρと定義して新しい記号を導入すれば,gμν;ρ=gμν,ρ-Γν|μρ-Γμ|νρ=0 とも書けます。
したがって,Γν|μρ+Γμ|νρ=gμν,ρですが,この等式の添字に置換を施すとΓρ|νμ+Γν|ρμ=gρμ,ν,Γμ|ρν+Γρ|μν=gρν,μも得られます。
そこで,Γν|αβ=Γν|βαなる対称性を仮定すると,Γρ|νμ=(1/2)(gρν,μ+gρμ,ν-gμν,ρ),あるいはΓσμν=(gσρ/2)(gρν,μ+gρμ,ν-gμν,ρ)が得られ,これは確かにΓν|αβ=Γν|βαを満たしています。
こうした,Γν|αβ=Γν|βαという対称性を持つ特別な接続をレヴィ・チヴィタ(Levi-Civita)接続といい,上のように計量の陽な形に書ける接続係数Γをクリストッフェルの記号(Christoffel's symbol)と呼びます。
今日はここまでにします。
参考文献:佐藤文隆,原 哲也 著「宇宙物理学」(朝倉書店)
PS:最近,他の掲示板やブログで重力場の中の物体やブラックホールなどの話に関連して,ランダウ著の「場の古典論」からの参照,引用が見られ,その本は私も持っているので読んでみましたが,何故かページ数が合わないだけではなく,そもそも宇宙論関係に切り込んだ内容がほとんど書かれていません。
(PS:宇宙論といっても,せいぜい膨張宇宙モデル程度の話です。)
しかし,先日久しぶりに本屋街に行くと,この本の新版らしい第6版というのがあったので立ち読みしたところ,前半の9章まではほぼ同じでしたが,後半の内容が私の蔵書のそれとは大幅に違っていることに気づきました。
そうです,私の持っているのは旧ソ連でランダウが事故に会って事実上学者生命が終わった以前に出版されたものの翻訳で,贈訂新版となっていてかなり古いものです。
私もその後改訂版が出ていたのは知っていましたが,どうせ大して変わっていないだろうと勝手に思い込んでいました。リフシッツによるところが大きいのでしょうが,仕方ないのでこれも買って同じタイトルが2冊になりました。
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コメント
hirotaさん。TOSHIです。
ご指摘ありがとうございます。
「場の古典論」はhirotaさんも旧版なのでしょうか,まあ,上に書いたのは宇宙論といっても宇宙全体のことはビッグバン程度でせいぜいブラックホールとか島宇宙程度の小規模の話ですけど。。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2008年7月11日 (金) 18時20分
Γρ|νμ=(1/2)(gρν,μ+gρμ,ν-gμν;ρ)
の最後が「;」になってますよ。
それと、DAを形式的に定義と書いてますが、「ベクトル場の微分」について幾つかの性質を要求すれば形式も出ます。(線形性などから当然だけど)
>場の古典論
え-! 宇宙論関係が追加されてるとは知らなんだー
投稿: hirota | 2008年7月11日 (金) 17時24分