相対論の幾何学(第Ⅰ部-11:曲面上の幾何(3))
相対論の幾何学の続きです。今日は平行移動とか共変微分などの概念の幾何学的意味について記述してみます。
さて,曲面r(u,v)上で定義された接ベクトル場X(u,v)があるとき,曲面上の曲線r(t)≡r(u(t),v(t))の各点においては,X(t)≡X(u(t),v(t))と書くことにします。
このとき,もちろんX(t)は3次元空間の3つの成分を持つパラメータtのベクトル値関数ですから,それに対してtによる微分係数dX/dtが定義できます。
そして,dX/dtも3成分の空間のベクトルですが,これは点r(u(t),v(t))でX(t)を含むr(u,v)の接平面の上の"ベクトル=接ベクトル"とは限りません。そこでdX/dtを曲面の接ベクトルと法ベクトルの和として表わします。
すなわち,dX/dt=DX/dt+δX/dtとします。ここでDX/dtは接ベクトル,δX/dtは法ベクトルを示す記号です。
以前に書いたように,曲面r(u,v)上に束縛された粒子の運動学を想定して,それ以外の曲面に垂直な成分の空間の存在を無視すると,意味のある微分係数はDX/dtだけです。これを接ベクトル場Xの曲線r(t)に沿っての共変微分と呼びます。
ここで,共変微分DX/dtは曲面の第1基本形式のみに依存し,曲面の3次元空間内の相対的位置を示す第2基本形式には依存しないという重要な性質を持つことを証明します。
この性質は,共変微分DX/dtは"曲面r(u,v)上に束縛された生物が測定できる長さ=リーマン計量(Riemannian metric)"だけで決まり,彼らには認識できない第3の次元の空間の要素には左右されないことを意味します。
接ベクトルXを含む接平面の正規直交基底をe1,e2とし,単位法ベクトルをe3≡e1×e2とします。
X=ξ1e1+ξ2e2とすると,dX/dt=(dξ1/dt+ξ1ω11/dt+ξ2ω21/dt)e1+(dξ2/dt+ξ1ω12/dt+ξ2ω22/dt)e2+(ξ1ω13/dt+ξ2ω23/dt)e3となります。
ここで,dei=Σj=13ωijej,あるいは(i,j)成分がωjiの3×3行列Ωによる表現:d(e1,e2,e3)=(de1,de2,de3)=(e1,e2,e3)Ωを用いました。
ただし,ω/dtという一見変な記号を用いました。これは,ω=adu+bdvのとき,ω/dt=a(du/dt)+b(dv/dt)なることを意味します。
ところで,ω11,ω21,ω12,ω22を成分とする2×2行列Ωは交代行列なのでω11=ω22=0 ですから,dX/dt=DX/dt+δX/dtによってDX/dt=(dξ1/dt+ξ2ω21/dt)e1+(dξ2/dt+ξ1ω12/dt)e2,δX/dt=(ξ1ω13/dt+ξ2ω23/dt)e3となります。
上のDX/dtの表現式はω21=-ω12,すなわち接続形式のみを含み,第2基本形式:Π=-(dr,de3)=-(θ1e1+θ2e2,ω31e1+ω32e2)=-θ1ω31-θ2ω32=θ1ω13+θ2ω23を定義する量であるω13,ω23を含みません。
以前の記事で示したように,θ1,θ2に対し,ω21≡b1θ1+b2θ2と置いてこれがω21=-ω12,および第1構造式dθ1=θ2∧ω21,dθ2=-θ1∧ω21を満たすという要求から,dθ1=-b1θ1∧θ2,dθ2=-b2θ1∧θ2によって,係数b1,b2,したがってω21=-ω12,ω11=ω22=0 が全て決まります。
このω11,ω21,ω12,ω22を成分とする2×2交代行列Ωを接続形式と呼ぶわけです。
以上で,DX/dtがリーマン計量だけで決まることが証明されました。
特に,DX/dt=0 なる場合は曲面に垂直な空間の存在を無視した世界では,これは事実上Xが停留値を取る(変分がゼロの)場合に相当します。
このとき,Xはこの曲線に平行であると言います。
この場合にはdX/dt=δX/dtであり,この曲線に沿っての移動r(t)→r(t+dt)=r(t)+dr=r(t)+Drに対して,X(t)→X(t)+dX=X(t)+δXです。
この移動は,ベクトルX(t)の曲面内の成分が不変のまま,その向きを変えないという意味で平行移動と呼ばれます。
平行移動である条件:DX/dt=0 はdξ1/dt+ξ2ω21/dt=0,かつdξ2/dt+ξ1ω12/dt=0 ,すなわちdξi/dt+Σj=12ξjωji/dt=0 (i=1,2)と書けます。
そしてパラメータtの変域を[a,b]とすると,この常微分方程式の系は初期条件ξi(a)=αiの下で一意的な解を持つはずです。
ここまでを要約します。
(u,v)平面内の領域D上にリーマン計量ds2が与えられたとき,これを独立な1次微分形式θ1,θ2によってds2=θ1θ1+θ2θ2と表現します。
θ1,θ2に対応する基底e1,e2によって,接ベクトルXを,X=ξ1e1+ξ2e2と表現すると,曲線(u(t),v(t))に沿った共変微分DX/dt=(dξ1/dt+ξ2ω21/dt)e1+(dξ2/dt+ξ1ω12/dt)e2がゼロの場合にXはこの曲線に沿って平行であるという。
となります。
そして,すぐ前の記事でθ1,θ2とは別の1次微分形式θ^1,θ^2があってds2=θ1θ1+θ2θ2と同じようにds2=θ^1θ^1+θ^2θ^2と書けるとすれば,θ^1=s11θ1+s12θ2,θ^2=s21θ1+s22θ2,すなわちS≡(sij),θ^≡t(θ^1,θ^2),θ≡t(θ1,θ2)と置いてθ^=Sθと表わすとき,SがtSS=Iを満たす直交行列になること,
そしてθ^1,θ^2の双対基低をe^1,e^2としてe^1=t11e1+t21e2,e^2=t12e1+t22e2,すなわちT≡(tij),e^≡(e^1,e^2),e≡(e1,e2)とe^=eTと表わせば,ST=Iなる関係式が得られtS=S-1=Tとなることがわかっています。
ξ≡t(ξ1,ξ2),e≡(e1,e2)とした表現では,DX/dt=(dξ1/dt+ξ2ω21/dt)e1+(dξ2/dt+ξ1ω12/dt)e2は,DX/dt=e{dξ/dt+(Ω/dt)ξ}と書けます。
e^=eT=eS-1,およびX=eξ=e^ξ^=eS-1ξ^とよりξ^=Sξ,さらに第1構造式の不変性:dθ=-Ω∧θ,dθ^=-Ω^∧θ^の要求から,関係式Ω^=SΩS-1-dSS-1が得られます。
これを用いれば,e^{dξ^/dt+(Ω^/dt)ξ^}=eS-1{Sdξ/dt+(dS/dt)ξ+(SΩS-1/dt-dSS-1)Sξ}=e{dξ/dt+(Ω/dt)ξ},すなわち,DX/dt=e^{dξ^/dt+(Ω^/dt)ξ^}が成立することがわかります。
したがって,DX/dtはリーマン計量ds2のみに依存し,ds2=θ1θ1+θ2θ2を満たすθ1,θ2の選択には依りません。
「相対論の幾何学(第Ⅰ部-5:空間曲面(2))」では曲面r(u,v)上の空間曲線r(s)≡r(u(s),v(s))に対してr"(s)≡d2r/ds2を点r(s)での曲面の接ベクトルkgと法ベクトルknの和に分解してr”(s)=kg+knと書き,kgを曲線r(s)の測地的曲率ベクトル,knを法曲率ベクトルと呼ぶと書きました。
そしてkg=0 ,すなわちr"(s)=knとなるときにr(s)を測地線と呼びました。ここではkgが第1基本形式,すなわちリーマン計量だけで決まるベクトルで,したがって測地線もリーマン計量だけで決まることを示します。
まず,r'(s)≡dr/dsを正規直交系(e1,e2,e3)を用いてr'(s)=Σi=12ξieiと書き,これをsで微分するとr"(s)=Σi=12(dξi/dsei+ξidei/ds)=Σi=12(dξi/ds+Σj=12ξiωij/ds)ei+Σi=12(ξiωi3/ds)e3です。
そこで,kg=Σi=12(dξi/ds+Σj=12ξiωij/ds)ei,kn=Σi=12(ξiωi3/ds)e3となります。そしてX≡r'(s)と書けばkg=DX/ds,kn=δX/dsです。
すなわち,測地線曲率ベクトル:kgはr'(s)の共変微分であり,r(s)が測地線であることはkg=0を意味しますから,X=r'(s)に対しDX/ds=0 なること,つまり接ベクトルr'(s)が曲線r(s)自身に平行であることを意味します。
DX/ds=0 ,X=Σi=12ξieiはu,vに対する2階常微分方程式ですから,出発点u(0)=u0,v(0)=v0,および,その点における単位ベクトルX0=ξ01e1+ξ02e2が与えられたとき, X(0)=X0とする解として測地線(u(s),v(s))が存在して一意的に決まります。
こうして,3次元空間内の曲面r(u,v)あるいは曲線r(s)という概念から離れて,(u,v)平面内の曲面(多様体)に対するものとして測地線が定義されることが言えます。
kg=Σi=12(dξi/ds+Σj=12ξiωij/ds)ei,kn=Σi=12(ξiωi3/ds)e3を再考します。
r'(s)は単位ベクトルですから,e1(s)≡r'(s)と定義し,このe1に垂直で曲面に接するものをe2とします。
e1からe2へ回転する向きが,ruからrvへ回転する向きになるように選べば,e1に対してe2は一意的です。
ところが,(r'(s),r'(s))=1をsで微分すると(r"(s),r'(s))=0 なので,r"(s)=kg+knはr'(s)=e1と直交するため,kg=κge2,kn=κne3 (ただしe3≡e1×e2)と書けます。
κgを測地的曲率,κnを法曲率と呼ぶことは既に述べた通りです。
この特別な正規直交標構:(e1,e2,e3)ではκg=(de1/ds,e2)=ω12/ds(e2,e2)=ω12/dsとなります。
これは,kg=Σi=12(dξi/ds+Σj=12ξiωij/ds)eiで恒常的にξ1=1,ξ2=0としても得られます。同様にκn=ω13/dsです。
以前に求めたように測地線の方程式は,d2uk/ds2+Σi,j=12Γkij(dui/ds)(duj/ds)=0 です。ただし, Γkij=(∂2r/∂ui∂uj,∂r/∂ul)/(∂2r/∂uk,∂r/∂ul )=gkl -1(∂gli/∂uj)=(gkl -1/2)(∂gli/∂uj+∂glj/∂ui)です。
ξi=dui/dsを代入すれば,dξk/ds+Γkijξiξj=0 ですが,これがDX/ds=0 ,X=Σi=12ξieiを示すdξi/ds+Σj=12ξiωij/ds=0 と同じ式であることは明らかです。
上記のことを要約します。
3次元空間内とは限らず,一般にリ-マン計量が付与された(u,v)の連続微分可能な関数で定義された曲面(多様体)があって,その上の各点P=(u,v)で定義されたベクトル場X(P)があるとします。
そして,(u,v)平面での変位(u,v)→(u+Δu,v+Δv)に対応する曲面上の微小変位P→Qに対して,ベクトル場X(P)がX(P)→X(P)+ΔX=X(Q)なる変動を受けるとき,この微小変動ΔXを接平面成分DXと法線成分δXに分けてΔX=DX+δXと書きます。
このとき,DXを共変微分と呼び,特に接ベクトル場ですから元々接平面成分しか持たないX(P)の"共変微分=変動の接平面成分"がゼロ,つまりDX=0 となるような特別な方向の変位:P→Q=(u,v)→(u+Δu,v+Δv)とそれに伴なうベクトル場の移動:X(P)→X(P)+δX=X(Q)を平行移動と呼びます。
すなわち,こうした移動P→Qでは,その前後での点PとQの接平面は異なりますから,それらをそれぞれΠP,ΠQで表わすとX(P)はΠP上のベクトル,X(Q)はΠQ上のベクトルです。
そして,特に,移動後のX(Q)のΠP成分はX(P)と同じで,全く不変であって,X(Q)がX(P)と異なるのはΠPに垂直な軸の成分だけの場合には,この移動を平行移動と呼ぶわけです。
そして,曲線パラメータを時刻tに取ったとき,X(P)がPにおける速度を示す場合,すなわちX(P)=dr/dtの場合には,移動によって速度が変わらない平行移動の向きの軌跡(力学だと無重力のような外力のない慣性の法則に従う運動の軌跡)を測地線と呼びます。
短かいですが今日はここで終わります。
参考文献:小林昭七 著「曲線と曲面の微分幾何」(裳華房)
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投稿: みんな の プロフィール | 2008年9月12日 (金) 23時43分