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2008年9月17日 (水)

相対論の幾何学(第Ⅰ部-12:ガウス・ボンネの定理)

今日はガウス・ボンネの定理(Gauss-Bonnet's theorem)について述べます。

 

ユークリッド幾何学では平面上の三角形の内角の和はπであることがわかっていますが,例えば球面上では赤道や子午線などの大円である測地線で描いた三角形の内角の和はπよりも大きいことはよく知られています。ガウス・ボンネの定理はこれを説明できるものです。

この定理は,多様体(manifold)の曲率を位相幾何学での位相不変量であるオイラー数や種数(genus)と結びつける話になり,物理では弦(ひも)理論(string theory)などとも関連があります。

また,昨年3月末から4月末までの入院中に病床でほぼ1ヶ月間勉強した内容を4月22日に退院後,2007年4月24日から5月5日,5月15日から6月7日の2つに分けてブログ記事にまとめて連載したフックス型微分方程式入門の関連とも関係しているようですね。

フックス型微分方程式関連の連載記事は2007年4/24の「線形常微分方程式の確定特異点と不確定特異点」に始まり,5月後半の「超幾何微分方程式の代数関数解(シュワルツ)(1),(2),(3),(4),(5)」,6月の「有限なモノドロミー群と代数関数解」,「フックス関数の理論(1) (ポアンカレの登場)」,「フックス関数の理論(2) (ポアンカ レの理論) 」に終わるものです。

 

フックス群の基本領域がフックス型方程式の3つの確定特異点を頂点とする円弧三角形とその反転から成るため,最後は群の構造と非ユークリッド幾何に従う三角形の内角の和の話になっています。

さて,本題に入ります。

元々,外微分形式は積分記号の内部の演算を形式的に表現したものとして考案されたものであることは良く知られています。

(u,v)平面内のある領域をDとするとき,Dで定義された1次微分形式φ=fdu+gdvとD内の曲線C:u=u(t),v=v(t);a≦t≦bが与えられたとき,微分形式φの線積分を∫Cφ=∫abf(du/d)+g(dv/d)dtによって定義します。

 

また,Dにおいて2次微分形式ψ=hdu∧dvが与えられたとき,Dに含まれる領域A上でのψの積分を,∫Aψ=∫∫Ahdudvで定義します。 

この定義では,∫Afdv∧du=-Afdu∧dv=-∫∫Afdudvが成立し積分に2次微分形式の交代性が反映されます。 

また,(u,v)平面を(x,y)平面に変換する写像をx(u,v),y(u,v)とすると,kdx∧dy=k{(∂x/∂u)du+(∂x/∂v)dv}{(∂y/∂u)du+(∂y/∂v)dv}=k{(∂x/∂u)(∂y/∂v)-(∂x/∂v)(∂y/∂u)}du∧dv=k{∂(x,y)/∂(u,v)}du∧dvとなります。

 

そこで,∫∫A(x,y)dxdy=∫∫A(u,v){∂(x,y)/∂(u,v)}dudvなる重積分の座標変換不変性の公式とも,うまく整合しています。

特に,1次微分形式φがφ=dfと書けるときには,φ(∂f/∂u)du+(∂f/∂v)dvなので,Cφ=∫ab[(∂f/∂u)(du/dt)+(∂f/∂v)(dv/dt)]dt,すなわち∫Cdf=f((b),v(b))-f((a),v(a))と書けます。

 

これは微積分の基本定理に他なりません。

 

そして,これを2次元以上に拡張した微分形式の積分定理はストークスの定理(Stokesの定理)と呼ばれます。

このストークスの定理については,2006年10/21の記事「ポアンカレの補題」で紹介し,2007年12/20の記事「微分形式とベクトル解析 」ではかなり詳しく解説しています。

 

この定理は,任意の(k-1)次微分形式ωと,その外微分dωのk次の領域A,および (k-1)次の境界∂Aにおける積分について,∫Adω=∫∂Aωなる等式が成立するというものです。

例えば,∫Adω=∫Aωのωが1次微分形式φ=fdu+gdvである場合を想定して,領域Aが特に0≦u≦a,0≦v≦bなる矩形の場合を考えると,dφ=(∂g/∂u-∂f/∂v)du∧dvより,∫Adφ=∫0a0b(∂g/∂u-∂f/∂v)dudv=∫0b{g(a,v)-g(0,v)}dv-∫0a{f(u,b)-f(u,0)}du=∫0af(u,0)du+∫0bg(a,v)dv+∫a0f(u,b)du+∫b0g(0,b)dvです。

 

それ故,ストークスの公式∫Adφ=∫∂Aφが確かに成立することが確かめられます。

以下では,ストークスの定理が成立することを認めて,本題であるガウス・ボンネの定理の記述に移ります。

 

ストークスの定理の証明については上記2007年12/20のブログ記事「微分形式とベクトル解析 」を参照してください。

さて,まず,(u,v)平面内の領域Dにリーマン計量ds2=θ1θ1+θ2θ2が与えられているとし,その構造方程式をdθ1=-ω21∧θ2,dθ2=-ω12∧θ1,およびdω21=Kθ1∧θ2 12=-ω21)とします。

 

ただし,Kはガウスの曲率です。

このとき,Dに含まれる領域Aにおいてのdω21とω21に対するストークスの定理∫Adω21=∫Aω21によって,∫AKθ1∧θ2=∫∂Aω21が得られます。

 

そして,領域Aの境界∂Aは有限個の微分可能な曲線弧α1,α2,..を繋いだもので形成されているとします。

まず,α1,α2,..のうちの1つのαiだけを固定して,それを単にαと書き,曲線上の点αの弧長パラメータsによるベクトル表示をα(s)とします。

そうすれば,α'(s)=dα/dsはsにおける単位接クトルですが,これがθ12の双対基底1,2を用いてα'(s)=ξ11+ξ22 1ξ1+ξ2ξ2=1)と書けるとします。

 

このとき,ν≡-ξ21+ξ12とおけば,このベクトルνは曲面上でα'(s)と直交する単位ベクトルです。 

一方,前記事では,曲面(u,v)上の曲線(s)=(u(s),v(s))に対し'(s)が一般の正規直交標構(1,2,3)を用いて'(s)=ξ11+ξ22と表現されるとき,

 

"(s)=gnを満たす測地的曲率ベクトルgと法曲率ベクトルn,g=Σi=12(dξi/ds+Σj=12ξiωij/ds)i,n=Σi=12iωi3/ds)3と表わされることを見ました。

 

そして,特に,1(s)≡'(s)とし1に垂直で曲面に接するものを2と選ぶ特別な正規直交標構11,ξ20)では,g=κg2,nκn3 (31×2)と書けることも見ました。

そこで,前記事での(s)をα(s)に'(s)をα'(s)=ξ11+ξ22に置き換えると,α(s)に対する測地的曲率ベクトルは,g(dξ1/ds+ξ2ω21/ds)1(dξ2/ds+ξ1ω12/ds)2です。

 

さらにg=κgν,またはκg(g,ν)となることがわかります。

 

したがって,κgds=(gds,ν)({(dξ1+ξ2ω21)1(dξ2+ξ1ω12)2},-ξ21+ξ12)=ξ1dξ2-ξ2dξ1ω21が成立します。 

これは1ξ1+ξ2ξ2=1により,ξ1cosφ,ξ2sinφとおけば,ξ1dξ2-ξ2dξ1=dφなので,κgds=dφ-ω21と書けます。

 

よって,∫αω21+∫ακgds=αdφが成立します。

 

ここでα'= cosφ1sinφ2なので,φ=φ(s)は幾何学的には点αα(s)における曲線の接線α'=α'(s)が,その点での11(s)となす角ですね。

曲線α(s)(0≦s≦l)が領域Aの境界∂Aの全体を示す閉曲線なら,α(0)=α(l)です。それ故,cosφ(0)=cosφ(l),sinφ(0)=sinφ(l)ですから,リーマン計量ds2=θ1θ1+θ2θ2などに関係なく三角関数の周期性によってφ(l)=φ(0)+2kπ(k=0,±1,±2,..)です。

 

そして,特にα(s)が円の場合にはk=1でφ(l)=φ(0)+2πですから,α(s)が空間の単純閉曲線なら,∫αω21+∫ακgds=αdφ=φ(l)-φ(0)=2πです。

よって,今の曲線α(s)(0≦s≦l)が境界∂Aの全体の場合には,∫∂Adφ=2πであり,したがって∫AKθ1∧θ2=∫∂Aω21により∫AKθ1∧θ2+∫∂Aκgds2πが得られます。

次にAの境界∂Aがn個の滑らかな曲線弧α1,α2,..αnを順に繋ぐ閉曲線という一般の場合を考えます。

 

曲線弧αiからαi+1(i=1,2,..,n-1)に移る際に接線αi'の角φiが不連続にφi+1に変わる角をεi (ただしαnからα1に移るときはεn)とします。

 

曲線弧α1,α2,..,αnの各々が直線分で全体として平面上のn角形を示す場合なら,角εiはi番目の頂点での外角に相当します。

したがって,αiαi+1との連結点でのsをsiとするとき,φi+1(si)=φi(si)+εiです。

 

それ故,∫∂Adφ+Σi=1nεi=Σi=1ni(si)-φi(si-1)}+Σi=1nεi=2πとなりますから∫∂Adφ=2π-Σi=1nεiと書けます。

以上から,一般の場合には∫AKθ1∧θ2+∫∂Aκgds2π-Σi=1nεiなる等式が成立します。

 

これを,最も素朴な形のガウス・ボンネの定理と言います。

 

特に測地線の上ではκg0 ですからAKθ1∧θ22π-Σi=1nεiです。

 

こうした測地n角形のi番目の内角をιiと置けばεi=π-ιiですから,Σi=1nεi=nπ-Σi=1nιiとなります。

 

そこで,ガウス・ボンネの定理はn角形については,(内角の和)=Σi=1nιi=(n-2)π+∫AKθ1∧θ2を意味します。

特にn=3でn角形が3角形の場合なら,(内角の和)=ι1+ι2+ι3=π+∫AKθ1∧θ2です。

 

リーマン計量が,ds2=θ1θ1+θ2θ2のとき,θ1∧θ2は微小面積要素dAを示していると考えられます。

 

そこで,∫AKθ1∧θ2=∫AKdAと書けば,dA>0 により,ガウスの曲率Kがゼロのユークリッド平面内なら3角形の内角の和はπですが,球面や回転楕円面のように曲率Kが正の曲面内なら,内角の和はπより大きく,馬の鞍型のようにKが負の曲面内なら,内角の和はπより小さいことがわかります。

ただし,この形のガウス・ボンネの定理が成立するのは(u,v)平面の領域A⊂Dが単連結の場合のみで,Aが同心円の円環領域のような場合には,これは成立しないことを強調しておきます。

次に,これまで(u,v)の関数として(u,v)と表わしてきた曲面Sが閉曲面の場合を考えます。

 

すなわち,(u,v)平面の領域DがD=Σααと分割され,曲面片の和集合として与えられ,各々のαにおいて閉曲面Sは,(x,y,z)=φα(u,v)=(fα(u,v),gα(u,v),hα(u,v))で表わされる曲面片αφα(Dα)の和集合で与えられるとします。

 

ただし,Dαからαへの変換行列{∂(x,y,z)/∂(u,v)}は全てのαの点において階数が2であるという平面の存在条件を満たしているとします。

つまり,φαは確かに2次元曲面を表わす,Dα→Uαの同相写像であって,その逆写像φα-1:Uα→Dαが常に存在し,Dαφα-1(Uα)が成立するというわけです。

 

そして,αβ≠φなる場合には,α,βの点(u,v)のうちでαβ≠φに対応する部分を,それぞれαβφα-1(Uαβ),Dβαφβ-1(Uαβ)と定義して,αβφα-1φβ(Dβα)なる対応φα-1φβも同相写像であるとします。

 

これらは,私がかつて独習して学んだ多様体の定義と同じですね。 

曲面が全て境界となる辺と頂点を除いて互いに素な3頂点を持ち辺が曲線弧の三角形で囲まれた単連結領域の直和に分割できることは直感的には明らかですが,これを証明するのはかなり面倒なので,ここでは分割可能であると仮定して話を進めます。

 

要するに,対象をコンパクトな多様体であると仮定するわけです。

まあ,数値解析の手法としての有限要素法では,曲面で囲まれた領域を立体近似し,境界の閉曲面を曲線三角形ではなく直線三角形の直和に分割するので,通常の感覚では,これに違和感はないですね。

曲面αφα(Dα)での分割三角形の各辺に向きを付けて,三角形を辺の向きに周回するときに内部が左手に見えるようにします。

 

このとき,隣り合う三角形では共有する辺の向きは互いに正反対になって経路に沿った2つの線積分は打ち消し合います。

 

このように向きを付けることができることを,"向き付け可能である"といいます。

曲面上の各三角形領域をTjとし,曲面S全体の三角形分割がf個のTjの直和としてS=Σj=1fjと書けるとします。

 

各々のTjを与える(u,v)平面上の三角形をAjと書いてTjの内角をιj1j2j3とすれば,先の3角形に対するガウス・ボンネの定理はTj,Ajについて,AjKθ1∧θ2+∫Ajκgdsj1+ιj2+ιj3)-πとなります。

そして,コンパクトな閉曲面においてはDKθ1∧θ2Σj=1fAjKθ1∧θ2,かつ∫∂DκgdsΣj=1fAjκgds=0ですから,∫DKθ1∧θ2Σj=1fj1+ιj2+ιj3)-fπなる等式を得ます。

 

f個の三角形の頂点は全て閉曲面の内部にあり,頂点を共有する三角形の内角の和は全て2πですから,曲面全体での頂点の個数をvとすればΣj=1fj1+ιj2+ιj3)-fπ=2vπ-fπ=(2v-f)πです。

 

この場合には,ガウス・ボンネの定理はDKθ1∧θ2(2v-f)πとなります。

ところで,各3角形jにはそれぞれ3個の辺があって,全て隣り合う3角形と共有していますから,辺の数をeと置くと3f=2eです。そこで,2v-fにf=2e-2fを代入すれば,2v-f=2(v-e+f)ですから∫DKθ1∧θ2=2(v-e+f)πです。

ところで,v-e+f=[(曲面Sの頂点の数)-(辺の数)+(面の数)]をSのオイラー数と呼び,χ(S)と書く習慣があります。

 

そこで,コンパクトで向き付け可能な2次元多様体Sについては,∫DKθ1∧θ2=2πχ(S)と書けます。

 

これが閉曲面に対するガウス・ボンネの定理の表現になります。

この等式の左辺は曲面Sだけで決まり,三角形分割の仕方に依存しないので右辺のオイラー数χ(S)も曲面Sだけで決まる位相不変量であることがわかります。

 

逆に,位相幾何学の知見からオイラー数は曲面Sだけで決まり,リーマン計量にはよらないので,左辺の∫DKθ1∧θ2はθ12の選択には独立であるということがわかります。

そして,一般にトーラスのように穴が開いて(取っ手が付いて)いるような多様体Sでは,こうした穴(取っ手)の数を種数と呼び,これをgで表わして,Sを種数gの曲面と呼んで分類しますが,オイラー数はχ(S)=2-2gで与えられることがわかっています。

 

普通の四面体や球のような立体なら,g=0 でχ(S)=2ですから∫DKθ1∧θ2=2です 。また,トーラスならg=1なのでχ(S)=0 ですから∫DKθ1∧θ2=0 となります。

 

そこで,トーラスではK>0 のところとK<0 のところがあることがわかります。

 

ちなみにクライン(Klein)の壷は向き付け可能ではありません。 

今日はここで終わります。 

参考文献:小林昭七 著「曲線と曲面の微分幾何」(裳華房)

 

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