先進波と負エネルギー,反粒子について
最近,ある掲示板で私が昔学生時代に考えたことのある
ちょっとした話題が出ていました。
それは,電磁場(光子)の先進波,先進ポテンシャル,または
先進Green関数の解釈についての話で昔からよく論じられて
いる内容です。
昔,QED,場の理論,や,その摂動のFeynman-diagramを初めて
習った学生の頃に,元々古典電磁気学の論題であったこの関連
の話に量子論的解釈をしたことを思い出したので書いてみます。
これを述べるためには,電磁気学の予備知識が必要です。
その説明をするために,まず,既に2007年12月のシリ-ズ記事:
「ヤングの干渉実験」,特に,12/6の記事:
「ヤングの干渉実験(2)(量子論)」12/9の記事
「ヤングの干渉実験(3)(量子論) 」において電磁光学の説明の
ために記述した部分を要約して再掲します。
電磁場のスカラーポテンシャルをφ(r,t),
ベクトルポテンシャルをA(r,t)とすると,電場E(r,t),
磁場B(r,t)はこれらのポテンシャルによって,
E(r,t)=-∇φ(r,t)-∂A(r,t)/∂t,
B(r,t)=∇×A(r,t) と表現されます。
以下,簡単のため,適宜引数r,tを省略します。
これらφ,Aは電磁ポテンシャルと呼ばれます。
そしてφ,AによるE=-∇φ-∂A/∂t,B=∇×Aなる表現式
は,任意関数Λを用いたゲージ変換と呼ばれる変換:
φ→φ+∂Λ/∂t,A→A-∇Λに対して不変です。
これをゲージ不変性といいます。
そして電磁場を記述する基本方程式である真空中の
マクスウェル(Maxwell)の方程式は,ポテンシャルA,φによる
表現では,
∇(∇A)-∇2A+(1/c2)(∂∇φ/∂t)+(1/c2)(∂2A/∂t2)
=μ0J,-ε0∇2φ-ε0∇(∂A/∂t)=ρ なる形になります。
ここにρ(r,t)は電荷密度,J(r,t)は電流密度です。
特に相対論的に共変なゲージであるLorentz(Lorensゲージの
条件:∇A+(1/c2)(∂φ/∂t)=0 を満たすようなゲージ
関数Λを採用すれば,上記の運動方程式は,
□A=(1/c2)(∂2A/∂t2)-∇2A=μ0J,
□φ=(1/c2)(∂2φ/∂t2)-∇2φ=ρ/ε0
となります。
これはφとAについて対称的,かつ簡明で共変性が明白な形です。
(※ □≡(1/c2)(∂2/∂t2)-∇2なる記号を用いましたが,
この微分演算子□はダランベルシャン(d'Alembertian)と
呼ばれます。※)
ところで,これ以外のゲージ条件を採用すると4次元時空の
座標変換:x'μ=aμνxνに対し,4元ポテンシャル:
Aμ=(φ/c,A)の変換がA'μ=aμνAν+αμ(Λ)の
ようになります。
つまり,通常の4元ベクトルとしてのLorentz変換の他に,
変換された座標系でも同じゲージ条件を満たすようにするるため
その都度,別の補正変換:αμ(Λ)を受ける必要があります。
そこで,Aμは座標系依存のベクトルとなって,相対論的に共変な
正しい4元ベクトルではなくなります。
したがって,非共変なゲージを採用したのでは,電磁ポテンシャル
は非局所的となり,電磁信号は光速を超えて相対論的因果律を破る
ことになると考えられます。
しかし,この問題点については,以前2006年10/9の記事
「非共変ゲージの非局所性(電磁場)」で論じたように,
現実に観測されるのは,場の量Aμ=(φ/c,A)ではなく,場の
強さであるEとB,つまりFμν≡∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xν
であって,これらはゲージの選択には無関係なので共変であり,
局所性を破らないので,現実には相対論と無矛盾であることが
わかります。
つまり,"量子論において観測されるのは確率であって波動関数
ではない。",という話と同じく,電磁場を示す電磁ポテンシャル:
Aμ=(φ/c,A)は,量子論なら光子の波動関数に相当する
非観測量ですから,これを物理的な実在であると考えないなら,
全く矛盾は生じないわけです。
さて,時空座標をxμ=(ct,r),電磁ポテンシャルを
Aμ=(φ/c,A),電荷密度,電流密度をJμ=(cρ,J)で記述
すればLorens条件:∇A+(1/c2)(∂φ/∂t)=0 は,
∂Aμ/∂xμ=∂μAμ=0 となり,
運動方程式:□A=μ0J,□φ=ρ/ε0 は,
□Aμ=∂ν∂νAμ=sμ(ただし,sμ≡Jμ/(c2ε0))
となります。
そして,特に電荷や電流の全くない:Jμ=(cρ,J)=0 の場合
の真空中の自由電磁場の方程式は,□Aμ=∂ν∂νAμ=0 です。
微分方程式:□Aμ=∂ν∂νAμ=sμは,
Aμ(x)={1/(2π)4}∫d4k[A^μ(k)exp(-ikx)]として
Aμを平面波の重ね合わせ,すなわち,Fourier積分の形で
表わせば,同じく,
sμ(x)={1/(2π)4}∫d4k[s^μ(k)exp(-ikx)なる
sμのFourier積分表式に対し,
代数方程式:k2A^μ(k)=-s^μ(k) に変わります。
特に,sμ=Jμ/(c2ε0)=0 の自由場の方程式;
□Aμ=-∂ν∂νAμ=0 は,光子質量がゼロであることに相当
して,k2=kμkμ=(k0)2-k2=0 を満たします。
そこで,各自由平面波の波数ベクトルkに対し,角振動数を
ωk=c|k|としてkμ=(ωk/c,k)と書けば,
exp(-ikx)=exp{i(kr-ωkt)},かつ
exp(ikx)=exp{-i(kr-ωkt)} です。
したがって,A^μ(k)=θ(k0)δ(k2)として自由電磁場をAμ(x)={1/(2π)4}∫d4k[θ(k0)δ(k2)exp(-ikx)]と表わせば,これはAμ(x)=Aμ(r,t)={1/(2π)3}∫d3k(2|k|)-1[εkμakexp{(-i(kr-ωkt))+ε-kμak*μexp{i(kr-ωkt)]となります。
ただし,akは定数係数,εkμは偏光を表わす単位ベクトル:
εk2=εkμεkμ=(εk0)2-εk2=-1で,Lorens条件:
kεk=kμεkμ=(ωk/c)εk0-kεk=0 を満たすように
与えられます。
θ(τ)はHeaviside関数,または階段関数と呼ばれるτの
関数です。これはτ<0ならθ(τ)≡0,τ>0 ならθ(τ)≡1
によって定義される関数です。
この関数は,τ=0 では不連続で,そこでは,0と1の間であると
いうだけで特に指定はありませんが,常にθ(τ)+θ(-τ)=1
でdθ(τ)/dτ=δ(τ)なる性質を有します。
次に,一般の4元電流密度sμに対して,Lorensゲージの電磁場
の方程式:□Aμ=∂ν∂νAμ=sμを解きます。
□Aμ=sμなる形から,形式的にAμ=□-1sμと書けるので,
D'Alemgertian:□の逆演算子□-1が得られればいいと思われます
が,これは以下に示すように,以前3次元のLaplacian:
△=∇2の逆演算子△-1を求めたのと同じ方法で得られます。
すなわち,もしも□D^=1なるD^が見出されれば,□-1=D^
なので□Aμ=sμは形式的に,Aμ=□-1sμ=D^sμと書け
るわけです。
そして,微分演算子□に対し,□D^=1を満たす逆演算子:
D^=□-1は積分演算子ですから,D^を□D(x)=δ4(x)
を満たす関数D(x)で表現すれば,結局,
Aμ(x)=∫d4yD(x-y)sμ(y)
と書けることになります。
さらに,実際には微分方程式の解の積分定数に相当する斉次方程式:
□A0μ=0 の解A0μをも考慮して,
Aμ(x)=A0μ(x)+∫d4yD(x-y)sμ(y)
となります。
そして,□D(x)=δ4(x)を満たす関数D(x)は微分演算子:
□に対応するグリーン関数(Green関数)と呼ばれます。
グリーン関数:D(x)を具体的に求めるため,そのFourier積分
表示を,D(x)=(2π)-4∫D^(k)exp(-ikx)d4kと書けば,
δ4(x)=(2π)-4∫exp(-ikx)d4kなので,
□D(x)=δ4(x)は,D^(k)=-1/k2を意味します。
そこで,形式的にD(x)=-(2π)-4∫[exp(-ikx)/k2]d4k
と書けます。
しかし,D^(k)=-1/k2は分母がゼロになる点,
k2=(k0)2-k2=0 になるところに特異点を持ちますから,
このままでは,well-definedではありません。
しかし,複素k0平面での極k0≡±|k|付近のD^(k)の挙動
次第で遠方でD(x)が満たすべき境界条件が得られるので,
k0積分の経路が極をどのように回避するかを指定すること
によって,D(x)を決めることができます。
今,D^(k)≡-1/(k2+iε)(ε>0)と置いて,
D(x)≡-limε→+0(2π)-4∫[exp(-ikx)/(k2+iε)]d4k
としてみます。
このとき,
1/(k2+iε)=1/{(k0-|k|+iε)(k0+|k|-iε)}
ですが,exp(-ikx)=exp(-ik0t)exp(ikr)なので,
極:k0=ωk=|k|-iε(ε>0)では,
exp(-ik0t)=exp(-i|k|t-εt)→ 0 as t→+∞,
極:k0=-ωk=-|k|+iεでは,
exp(-ik0t)=exp(i|k|t+εt)→ 0 as t→-∞ です。
D(x)=-(2π)-4∫[exp(-ikx)/(k2+iε)]d4k
={i/(2π)3}∫{2(|k|-iε)}-1
[exp(ikr-ic|k|t)+exp(ikr+ic|k|t)]d3k
={i/(8π2)}∫d|k|d(cosθ)
|k|[exp{i(|k||r|cosθ-c|k|t)}
+exp{i{|k||r|cosθ+c|k|t)}] となります。
そして∫-11d(cosθ)[exp(i|k||r|cosθ)
=[exp(i|k||r|)-exp(-i|k||r|)]/(i|k||r|)
=2sin(|k||r|)/(|k||r|)です。
それ故,D(x)=-(2π)-4∫[exp(-ikx)/(k2-iε)]d4k
=Dret(x)-Dadv(x) と書けます。
ただし,Dret(x)≡{1/(8π2)}|r|-1∫0∞d|k|
[exp{i|k|(|r|-ct)}-exp{-i|k|(|r|-ct)}
={1/(8π2)}|r|-1∫-∞∞d|k|[exp{i(|k|{|r|-ct)}
={1/(4π|r|)}δ(|r|-ct)です。
また,Dadv(x)≡{1/(8π2)}|r|-1∫0∞d|k|
[exp{i|k|(|r|+ct)}-exp{-i|k|(|r|+ct)}
={1/(8π2)}|r|-1∫-∞∞d|k|[exp{i(|k|{|r|+ct)}
={1/(4π|r|)}δ(|r|+ct)です。
したがって,D^(k)≡-1/(k2+iε)(ε>0)と選択し
D(x)≡-limε→+0(2π)-4∫[exp(-ikx)/(k2+iε)]d4k
と定義したGreen関数は,
D(x)={1/(4πc|r|)}[δ(t-|r|/c)-δ(t+|r|/t)]
となります。
よって,初めに意図した通り,確かにt→±∞,|r|→∞でゼロに
なるという境界条件を満たすことがわかったので,これを電磁場
を考察する際の基本的なGreen関数として採用します。
要約すると,
D(x)=D(r,t)
={1/(4π|r|)}[δ(|r|-ct)-δ(|r|+ct)]
={1/(4πc|r|)}[δ(t-|r|/c)-δ(t+|r|/t)]
で,D(x)=Dret(x)-Dadv(x);
Dret(x)≡Dret(r,t)=θ(t)D(r,t),
Dadv(x)≡Dadv(r,t)=-θ(-t)D(r,t)
です。
ここで,Dret(r,t)=θ(t)D(r,t)
={1/(4πc|r|)}δ(t-|r|/c)を遅延Green関数,
Dadv(r,t)=-θ(-t)D(r,t)
={1/(4πc|r|)}δ(t+|r|/c)を先進Green関数
と呼びます。
t>0 の未来での電磁場を予測するだけなら,そこでは
D(r,t)=Dret(r,t)なので,遅延Green関数だけで
十分です。
先に書いた
Aμ(x)=A0μ(x)+∫d4yD(x-y)sμ(y)は,
Aμ(x)=A0μ(x)+∫d4yDret(x-y)sμ(y) となります。
あるいは,自由電磁波:A0μ(x)=A0μ(r,t)を無限の過去:
t=-∞における入射波:Ainμ(r,t)と考える散乱現象と
見れば,Aμ(r,t)=Ainμ(r,t)
+c∫-∞tdt'∫d3r'Dret(r-r',t-t')sμ(r',t')
と表現されます。
すなわち,Aμ(r,t)=Ainμ(r,t)
+∫d3r'∫-∞tdt'{1/(4π|r-r'|)}
δ(t-t'-|r-r'|/c)sμ(r',t')
=Ainμ(r,t)
+{1/(4π)}∫d3r'[sμ(r',t-|r-r'|/c)/|r-r'|]
となります。
Jμ=sμc2ε0と戻しAinμ(r,t)=0 の場合を仮定すれば,
φ(r,t)
={1/(4πε0)}∫d3r'[ρ(r',t-|r-r'|/c)/|r-r'|],
かつA(r,t)
={μ0/(4π)}∫d3r'[J(r',t-|r-r'|/c)/|r-r'|]
です。
こうした意味で,これらのポテンシャルφ(r,t),A(r,t)を
遅延ポテンシャルと呼び,その電磁波を遅延波と呼びれます。
特に,Aμ(r,t)=∫A^μ(r,ω)exp(-iωt)dω,または
A^μ(r,ω)={1/(2π)}∫Aμ(r,t)exp(iωt)dtと電磁場
Aμを振動数で展開し,
4元電流密度sμもsμ(r,t-|r-r'|/c)
=∫s^μ(r,ω)exp(-iω(t-|r-r'|/c))dω
=∫s^μ(r,ω)exp(iω|r-r'|/c)exp(-iωt)
と展開してみます。
こうすれば,Aμ(r,t)
=Ainμ(r,t)+{1/(4π)}∫d3r'
[sμ(r',t-|r-r'|/c)/|r-r']は,
A^μ(r,ω)=A^inμ(r,ω)+{1/(4π)}∫d3r'
[s^μ(r',ω)exp(iω|r-r'|/c)/|r-r'|]
なる表現になります。
したがって,Gret(r,ω)=exp(iωr/c)/(4πr) (r≡|r|)
と置けば,A^μ(r,ω)=A^inμ(r,ω)
+∫d3r'Gret(r-r',ω)s^μ(r',ω)と表現できるため,
Gret(r,ω)を遅延Green関数と呼ぶこともあるようです。
グGreen関数Gret(r,ω)はHel,holtzの方程式のGreen関数と
なっていて,[△+(ω/c)2]Gret(r,ω)=-δ3(r)
を満たします。
では,t<0 過去の電磁場を表現する先進グリーン関数:
D(r,t)=-Dadv(r,t)=θ(-t)D(r,t)は何を意味する
のでしょうか?それともこれは不要なのでしょうか?
とりあえず,遅延Green関数と同じようにt<0 対して,
Aμ(x)=A0μ(x)-∫d4yDadv(x-y)sμ(y)と
書いてみます。
自由電磁波A0μ(x)=A0μ(r,t)を無限の未来t=∞における
射出波:Aoutμ(r,t)であると考えてみると,
Aμ(r,t)=Aoutμ(r,t)
+c∫∞tdt'∫d3r'Dadv(r-r',t-t')sμ(r',t')
と表現されます。
これは,現在のAoutμ(r,t)から時間を遡るとこうなる,という
描像を示しているだけで,決して因果律に反して現在から過去
に向かう電磁波信号が存在することを意味するものでは
ありません。
例えば重力場の方程式でも解が満たすべき初期条件,あるいは
境界条件の違いによってブラックホールを与える解と,
ホワイトホール(あるいは,膨張する宇宙?)を与える解の両方が
あるのと同じく,方程式が時間反転対称なら遅延解と先進解が
あるのはごく普通のことです。
重力場でブラックホールを与える解というのは,初期には大きな
星が自分自身の"重さ=重力"のせいで崩壊してゆく解のことです。
一方,ホワイトホールを与える解というのは規模は違いますが,
いわゆる宇宙全体が膨張するというビッグバンに相当する解で
宇宙論ではどちらも実際的に重要な役割を持ちます。
さて,電磁場の先進波はt<0 で,
Aμ(r,t)=Aoutμ(r,t)
+{1/(4π)}∫d3r'[sμ(r',t+|r-r'|/c)/|r-r’|]
であり,sμ=Jμ/(c2ε0) です。
そこで,Aoutμ(r,t)=0 の場合には,
φ(r,t)={1/(4πε0)}∫d3r'
[ρ(r',t+|r-r'|/c)/|r-r'|],
A(r,t)={μ0/(4π)}∫d3r'
[J(r',t+|r-r'|/c)/|r-r'|] です。
これらのポテンシャルφ(r,t),A(r,t)は先進ポテンシャル
と呼ばれ,その電磁波は先進波と呼ばれます。
また,Gadv(r,ω)=exp(-iωr/c)/(4πr)(ただしr≡|r|)
と置けば,A^μ(r,ω)
=A^outμ(r, ω)+∫d3r'Gadv(r-r',ω)s^μ(r',ω)
と表現できるので,Gadv(r,ω)を先進Green関数と呼ぶことも
あります。
このGreen関数Gadv(r,ω)もGret(r,ω)が満たすのと同じ
Helmhortzの方程式のGreen関数となっていて,
[△+(ω/c)2]Gadv(r,ω)=-δ3(r) を満たします。
これらの話は2006年10月3日の記事「ホイヘンスの原理の正当性」
でも書いていますが,そこでは真空中の電磁場:
Aμ(x)=Aμ(r,t)が初期時刻t=t'において,
Aμ(r,t')=Fμ(r),∂Aμ(r,t')/∂t'=Gμ(r)なる
条件を満たすような解を求めること,すなわち,微分方程式の
Cauchy問題を解いています。
これはGreen関数:
D(r,t)={1/(4πr)}[δ(r-ct)-δ(r+ct)] において
t>0 のときの遅延Green関数:
D(r,t)=Dret(r,t)={1/(4πr)}θ(t)(r-ct)
を用いると,すぐに解けて,
Aμ(r,t)
=∫d3r'[{∂Dret(r-r',t-t')/∂t}Fμ(r')
+Dret(r-r',t-t')Gμ(r')]
と表わすことができます。
すなわち,Dret(r,t)は□Dret(r,t)=(1/c)δ(t)δ3(r)
を満たし,t=0 では,∂D(r,t)/∂t=δ3(r),
Dret(r,t)=0 なる初期条件を満たすD'Alembertの方程式
(d'Alembert equation):□Dret(r,t)=0 の解です。
そこで,上の表現ではAμ(r,t)は確かに,t=t'で
Aμ(r,t')=Fμ(r),∂Aμ(r,t')/∂t'=Gμ(r) なる
初期条件を満たす,□Aμ(r,t)=0 の解となっています。
ところで,Dret(x)=Dret(r,t)={1/(4πr)}δ(r-ct)
={1/(2r)}∫-∞∞exp{ik(r-ct)}dk
={1/(2r)}[∫0∞{exp(ikr)exp(-ikct)
-exp(-ikr)exp(ikct)}dk] です。
さらに進めて,Dret(r,t)
={1/(2r)}[∫0∞{exp(ikr)-exp(-ikr)}{exp(-ikct)
+exp(ikct)}dk]+{1/(2r)}[∫0∞[exp{-ik(r+ct)}
-exp{ik(r+ct)}]dk
=∫(2|k|)-1[exp(ikr-ic|k|t)]d3k
-∫(2|k|)-1[exp(ikr+ic|k|t)]d3k
を得ます。
t>0 なら,右辺の第2項は,
∫(2|k|)-1[exp(ikr+ic|k|t)]d3k
={1/(2r)}[∫0∞[exp{-ik(r+ct)}-exp{ik(r+ct)}]dk
={1/(4πr)}δ(r+ct)=0 です。
それ故,Dret(r,t)
=θ(t)∫(2|k|)-1[exp(ikr-ic|k|t)]d3k
=θ(t)∫{c/(2ωk)}[exp(ikr-iωkt)]d3k
=∫{c/(2ωk)}θ(t)exp(-ikx)d3k となります。
同様にt<0 に対してDadv(r,t)
=-∫{c/(2ωk)}θ(-t)exp(ikx)d3k となるはずです
から,全体として,
D(r,t)=Dret(r,t)-Dadv(r,t)
=∫{c/(2ωk)}[θ(t)exp(-ikx)+θ(-t)exp(ikx)d3k]
です。
ところで,量子論では粒子のエネルギーはihc(∂/∂t)なる演算子
の固有値です。
そして,ihc(∂/∂t)[exp(-ikx)]=hcωk[exp(-ikx)]
ですから遅延波:
Dret(r,t)=∫{c/(2ωk)}θ(t)exp(-ikx)d3k]
は正エネルギーhcωkを持つ平面波の集まりです。
一方,ihc (∂/∂t)[exp(ikx)]=-hcωk[exp(ikx)]
ですから先進波:
Dadv(r,t)=-∫{c/(2ωk)}θ(-t)exp(ikx)d3k]
は負エネルギー(-hcωk)を持つ平面波の集まりに対応
しています。
ここでhc≡h/(2π)はPlanck定数です。
ところが,場の量子論によれば,質量がmでスピンが1/2のDirac
粒子の自由場の演算子は,hc=c=1の自然単位で,
ψ(x)=ψ(r,t)=Σ±s∫d3p(2π)-3/2(m/Ep)1/2
[b^(p,s)u(p,s)exp(-ipx)
+d^+(p,s)v(p,s)exp(ipx)] と表わされます。
その"共役=自由反粒子の場"は,
ψ+(x)=ψ+(r,t)=Σ±s∫d3p(2π)-3/2(m/Ep)1/2
[b^+(p,s)u+(p,s)exp(ipx)+
d^(p,s)v+(p,s)exp(-ipx)]
です。
ただし,hc=c=1なのでEp=(p2+m2)1/2,かつp=hck
であり,そこで,exp(-ipx)=exp(-ikx),exp(ipx)
=exp(ikx)です。
また,スピノルu(p,s),およびv(p,s)は運動量表示での
自由なDirac方程式の粒子,および反粒子を示す独立な解で,
それぞれ(γp-m)u(p,s)=0,および,
(γp+m)v(p,s)=0 を満たします。
例えばDirac粒子が電子の場合なら,ψ(x)=ψ(r,t)の
展開係数b^(p,s)は電子の消滅演算子,d^+(p,s)は陽電子
の生成演算子を示しています。
これを見ればわかるように,相対論的量子力学の初期のDirac
の空孔理論のように,"真空状態=最低エネルギー状態(基底状態)"
を負エネルギー電子の海として,わざわざ陽電子の生成を
負エネルギー電子の消滅と考える必要はありません。
真空状態には元々粒子は全くないとして,b^(p,s)exp(-ipx)
は1個の正エネルギー電子の消滅を,d^+(p,s)exp(ipx)は1個
の正エネルギー陽電子の生成を示していると考えれば何も問題も
生じないわけです。
同様に,先に与えた古典論での自由電磁場の表式:
Aμ(x)=Aμ(r,t)
={1/(2π)3}∫d3k(2|k|)-1[εkμakexp{(-i(kr-ωkt))
+ε-kμakμ*exp{i(kr-ωkt)]
を量子化したと想定してみます。
そして,より精密に.,
Aμ(x)=Aμ(r,t)=Σλ=12∫d3k(2π)-3(2ωk)-1
[εμ(k,λ)a^(k,λ)exp{(-ikx)
+εμ(-k,λ)a^+(k,λ)exp(ikx)]
と書きます。
Dirac場と同じく,係数a^(k,λ)を運動量hck,添字がλの偏光
を持つ1個の光子を消滅させる演算子,a^+(k,λ)を同じ光子を
生成させる演算子と考えれば,負エネルギー粒子の生成は
正エネルギー粒子の消滅,負エネルギー粒子の消滅は
正エネルギー粒子の生成と解釈できます。
それ故,非物理的な負エネルギー粒子の存在を想定する必要が
あるというような困難はありません。
そして,散乱の摂動論で現われる"摂動グラフ=Feynman-diagram"
においても,初期の頃には空孔理論に基づいて,負エネルギー粒子
の因果性に反する過去への逆行を,正エネルギー反粒子の未来へ
の因果的順行と解釈するStucckerberg)とFeynmanの解釈が
ありましたが,その頃から方程式の負エネルギー解について何ら
困難は生じていません。
Green関数の遅延波部分は,ある時刻,ある位置での散乱に伴なう
粒子の消滅,先進波部分は粒子の生成を表わしているだけです。
2006年8月8日の記事「負エネルギー解と相対論的因果律 」
でも述べたように,負エネルギー解を捨てたり無視したりする
意図的な操作は,相対論的因果律を破ることがわかっています。
負エネルギー解,または先進波は不要なものではなく,むしろ
ないと困る必要不可欠なものであることがわかります。
参考文献:R.Loudon 著(小島忠宣,小島和子 共訳)
「光の量子論(第2版)」(内田老鶴圃),
砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),
ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学」,
J.D.Bjorken S.D.Drell「RelativisticQuantum fields」
(McGrawHill),
西嶋和彦 著「相対論的量子力学」(培風館)
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「TRS健康ランド」では2008年1月10日よりお徳用SCS500mlを新発売!!当店の専売です。
そこのお酒のみの方,いろいろと飲食の機会の増えたあなた,悪酔いを防止すると言われているウコンがいいですよ!! そして特に今回提供する沖縄原産の純粋な黒ウコンは当店が専売の新製品ですが古くから沖縄地方ではいわゆる男性の力に効果があると言われています。
おやおや,そこの静電気バチバチの人、いいものありますよ。。。
それから農薬を落とした後の皮がピカピカに光っているリンゴなど商品として販売する際の見栄えをよくするなどのために化学処理をした食品を安全に洗浄する新商品の洗浄液SCSはいかがですか。。。
http://www.mediator.co.jp/category/pages.php?id=115「中古パソコン!メディエーター巣鴨店」
http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。
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