« バトンがまわってきました。(mixi) | トップページ | 相対論の幾何学(第Ⅱ部-1)(ベクトル空間) »

2008年9月27日 (土)

先進波と負エネルギー,反粒子について

 最近,ある掲示板で私が昔学生時代に考えたことのある

ちょっとした話題が出ていました。

 

 それは,電磁場(光子)の先進波,先進ポテンシャル,または

先進Green関数の解釈についての話で昔からよく論じられて

いる内容です。

 昔,QED,場の理論,や,その摂動のFeynman-diagramを初めて

習った学生の頃に,元々古典電磁気学論題であったこの関連

の話に量子論的解釈をしたことを思い出したので書いてみます。

これを述べるためには,電磁気学の予備知識が必要です。

 

その説明をするために,まず,既に2007年12月のシリ-ズ記事:

「ヤングの干渉実験」,特に,12/6の記事:

ヤングの干渉実験(2)(量子論)」12/9の記事

ヤングの干渉実験(3)(量子論) 」において電磁光学の説明の

ために記述した部分を要約して再掲します。

電磁場のスカラーポテンシャルをφ(,t),

ベクトルポテンシャルを(,t)とすると,電場E(,t),

磁場(,t)これらのポテンシャルによって,


 (,t)=-∇φ(,t)-∂(,t)/∂t,

(,t)∇×(,t) と表現されます。

 

以下,簡単のため,適宜引数,tを省略します。

これらφ,は電磁ポテンシャルと呼ばれます。

 

そしてφ,による=-∇φ-∂/∂t,∇×なる表現式

,任意関数Λを用いたゲージ変換と呼ばれる変換:

φ→φ+∂Λ/∂t,-∇Λに対して不変です。

 

これをゲージ不変性といいます。

そして電磁場を記述する基本方程式である真空中の

マクスウェル(Maxwell)の方程式は,ポテンシャル,φによる

表現では,

()-2(1/c2)(∂∇φ/∂t)+(1/c2)(∂2/∂t2)

=μ0,-ε02φ-ε0(∂/∂t)=ρ なる形になります。

 

ここにρ(,t)は電荷密度,(,t)は電流密度です。

特に相対論的に共変なゲージであるLorentz(Lorensゲージ

条件:(1/c2)(∂φ/∂t)=0 を満たすようなゲージ

関数Λを採用すれば,上記の運動方程式は,

(1/c2)(∂2/∂t2)-2=μ0,

□φ=(1/c2)(∂2φ/∂t2)-2φ=ρ/ε0

となります。

 

これはφとについて対称的,かつ簡明で共変性が明白な形です。

(※ □≡(1/c2)(∂2/∂t2)-2なる記号を用いましたが,

この微分演算子□はダランベルシャン(d'Alembertian)と

呼ばれます。※)

ところで,これ以外のゲージ条件を採用すると4次元時空の

座標変換:x'μ=aμννに対し,4元ポテンシャル:

μ=(φ/c,)の変換がA'μ=aμνν+αμ(Λ)の

ようになります。

 

つまり,通常の4元ベクトルとしてのLorentz変換の他に,

変換された座標系でも同じゲージ条件を満たすようにするるため

その都度,別の補正変換:αμ(Λ)を受ける必要があります。

 

そこで,Aμは座標系依存のベクトルとなって,相対論的に共変な

正しい4元ベクトルではなくなります。

したがって,非共変なゲージを採用したのでは,電磁ポテンシャル

は非局所的となり,電磁信号は光速を超えて相対論的因果律を破る

ことになると考えられます。

しかし,この問題点については,以前2006年10/9の記事

非共変ゲージの非局所性(電磁場)」で論じたように,

 

現実に観測されるのは,場の量Aμ=(φ/c,)ではなく,場の

強さであるEとB,つまりFμν≡∂Aν/∂xμ-∂Aμ/∂xν

であって,これらはゲージの選択には無関係なので共変であり,

局所性を破らないので,現実には相対論と無矛盾であることが

わかります。

つまり,"量子論において観測されるのは確率であって波動関数

ではない。",という話と同じく,電磁場を示す電磁ポテンシャル:

μ=(φ/c,)は,量子論なら光子の波動関数に相当する

非観測量ですから,これを物理的な実在であると考えないなら,

全く矛盾は生じないわけです。

さて,時空座標をxμ=(ct,),電磁ポテンシャルを

μ=(φ/c,),電荷密度,電流密度をJμ=(cρ,)で記述

すればLorens条件:(1/c2)(∂φ/∂t)=0 は,

∂Aμ/∂xμ=∂μμ=0 となり,


 運動方程式:□=μ0,□φ=ρ/ε0 は,

□Aμ=∂ννμ=sμ(ただし,sμ≡Jμ/(c2ε0))

となります。

 

そして,特に電荷や電流の全くない:Jμ=(cρ,)=0 の場合

の真空中の自由電磁場の方程式は,□Aμ=∂ννμ=0 です。

微分方程式:□Aμ=∂ννμ=sμは,

μ(x)={1/(2π)4}∫d4k[A^μ(k)exp(-ikx)]として

μを平面波の重ね合わせ,すなわち,Fourier積分の形で

表わせば,同じく,

μ(x)={1/(2π)4}∫d4k[s^μ(k)exp(-ikx)なる

μのFourier積分表式に対し,

代数方程式:k2A^μ(k)=-s^μ(k)  に変わります。

特に,sμ=Jμ/(c2ε0)=0 の自由場の方程式;

□Aμ=-∂ννμ=0 は,光子質量がゼロであることに相当

して,k2=kμμ=(k0)22=0 を満たします。

 

そこで,各自由平面波の波数ベクトルに対し,角振動数を

ωk=c||としてkμ=(ωk/c,)と書けば,

exp(-ikx)=exp{i(kr-ωkt)},かつ

exp(ikx)=exp{-i(kr-ωkt)} です。

したがって,A^μ(k)=θ(k0)δ(k2)として自由電磁場をAμ(x)={1/(2π)4}∫d4k[θ(k0)δ(k2)exp(-ikx)]と表わせば,これはAμ(x)=Aμ(,t)={1/(2π)3}∫d3(2||)-1kμkexp{(-i(kr-ωkt))+ε-kμkexp{i(kr-ωkt)]となります。

 

ただし,akは定数係数,εkμは偏光を表わす単位ベクトル:

εk2=εkμεkμ=(εk0)2εk2=-1で,Lorens条件:

kεk=kμεkμ=(ωk/c)εk0kεk=0 を満たすように

与えられます。

 

θ(τ)はHeaviside関数,または階段関数と呼ばれるτの

関数です。これはτ<0ならθ(τ)≡0,τ>0 ならθ(τ)≡1

によって定義される関数です。

 

この関数は,τ=0 では不連続で,そこでは,0と1の間であると

いうだけで特に指定はありませんが,常にθ(τ)+θ(-τ)=1

でdθ(τ)/dτ=δ(τ)なる性質を有します。

次に,一般の4元電流密度sμに対して,Lorensゲージの電磁場

の方程式:□Aμννμμを解きます。 

□Aμ=sμなる形から,形式的にμ=□-1μと書けるので,

D'Alemgertian:□の逆演算子□-1が得られればいいと思われます

が,これは以下に示すように,以前3次元のLaplacian:

△=∇2の逆演算子△-1を求めたのと同じ方法で得られます。

すなわち,もしも□D^=1なるD^が見出されれば,□-1=D^

なので□Aμ=sμは形式的に,Aμ=□-1μ=D^sμと書け

るわけです。

 

そして,微分演算子□に対し,□D^=1を満たす逆演算子:

D^=□-1は積分演算子ですから,D^を□D(x)=δ4(x)

を満たす関数D(x)で表現すれば,結局,

μ(x)=∫d4yD(x-y)sμ(y)

と書けることになります。

 

さらに,実際には微分方程式の解の積分定数に相当する斉次方程式:

□A0μ=0 の解A0μをも考慮して,

μ(x)=A0μ(x)+∫d4yD(x-y)sμ(y)

となります。

そして,□D(x)=δ4(x)を満たす関数D(x)は微分演算子:

□に対応するグリーン関数(Green関数)と呼ばれます。

グリーン関数:D(x)を具体的に求めるため,そのFourier積分

表示を,D(x)=(2π)-4∫D^(k)exp(-ikx)d4kと書けば,

δ4(x)=(2π)-4∫exp(-ikx)d4kなので,

□D(x)=δ4(x)は,D^(k)=-1/k2を意味します。

 

 そこで,形式的にD(x)=-(2π)-4∫[exp(-ikx)/k2]d4

と書けます。

しかし,D^(k)=-1/k2は分母がゼロになる点,

2=(k0)22=0 になるところに特異点を持ちますから,

このままでは,well-definedではありません。

 

しかし,複素k0平面での極k0≡±||付近のD^(k)の挙動

次第で遠方でD(x)が満たすべき境界条件が得られるので,

0積分の経路が極をどのように回避するかを指定すること

によって,D(x)を決めることができます。

,D^(k)≡-1/(k2+iε)(ε>0)と置いて,

D(x)≡-limε→+0(2π)-4∫[exp(-ikx)/(k2+iε)]d4

としてみます。

 このとき,

1/(k2+iε)=1/{(k0-||+iε)(k0+||-iε)}

ですが,exp(-ikx)=exp(-ik0t)exp(ikr)なので,

極:0=ωk||-iε(ε>0)では,

exp(-ik0t)=exp(-i||t-εt)→ 0 as t→+∞,

 極:k0=-ωk=-||+iεでは,

exp(-ik0t)=exp(i||t+εt)→ 0 as t→-∞ です。

D(x)=-(2π)-4∫[exp(-ikx)/(k2+iε)]d4

={i/(2π)3}∫{2(||-iε)}-1

[exp(ikr-ic||t)+exp(ikr+ic||t)]d3

={i/(8π2)}∫d||d(cosθ)

||[exp{i(||||cosθ-c||t)}

+exp{i{||||cosθ+c||t)}]  となります。

 

そして∫-11d(cosθ)[exp(i||||cosθ)

=[exp(i||||)-exp(-i||||)]/(i||||)

=2sin(||||)/(||||)です。

それ故,D(x)=-(2π)-4∫[exp(-ikx)/(k2-iε)]d4

=Dret(x)-Dadv(x) と書けます。

 

ただし,Dret(x)≡{1/(8π2)}||-10d||

[exp{i||(||-ct)}-exp{-i||(||-ct)}

={1/(8π2)}||-1-∞d||[exp{i(||{||-ct)}

={1/(4π||)}δ(||-ct)です。

 

また,Dadv(x)≡{1/(8π2)}||-10d||

[exp{i||(||+ct)}-exp{-i||(||+ct)}

={1/(8π2)}||-1-∞d||[exp{i(||{||+ct)}

={1/(4π||)}δ(||+ct)です。

したがって,D^(k)≡-1/(k2+iε)(ε>0)と選択し

D(x)≡-limε→+0(2π)-4∫[exp(-ikx)/(k2+iε)]d4

と定義したGreen関数は,

D(x)={1/(4πc||)}[δ(t-||/c)-δ(t+||/t)]

となります。

 

よって,初めに意図した通り,確かにt→±∞,||→∞でゼロに

なるという境界条件を満たすことがわかったので,これを電磁場

を考察する際の基本的なGreen関数として採用します。

要約すると,

(x)=D(,t)

={1/(4π||)}[δ(||-ct)-δ(||+ct)]

={1/(4πc||)}[δ(t-||/c)-δ(t+||/t)]

で,D(x)=Dret(x)-Dadv(x);

ret(x)≡Dret(,t)=θ(t)D(,t),

adv(x)≡Dadv(,t)=-θ(-t)D(,t)

です。

 

ここで,ret(,t)=θ(t)D(,t)

{1/(4πc||)}δ(t-||/c)を遅延Green関数,

adv(,t)=-θ(-t)D(,t)

{1/(4πc||)}δ(t+||/c)を先進Green関数

と呼びます。

t>0 の未来での電磁場を予測するだけなら,そこでは

D(,t)=Dret(,t)なので,遅延Green関数だけで

十分です。

 

先に書いた

μ(x)=A0μ(x)+∫d4yD(x-y)sμ(y)は,

μ(x)=A0μ(x)+∫d4yDret(x-y)sμ(y) となります。

 

あるいは,自由電磁波:A0μ(x)=A0μ(,t)を無限の過去:

t=-∞における入射波:Ainμ(,t)と考える散乱現象と

見れば,Aμ(,t)=Ainμ(,t)

+c∫-∞dt'∫d3'Dret(',t-t')μ(',t')

と表現されます。

すなわち,Aμ(,t)=Ainμ(,t)

+∫d3'∫-∞dt'{1/(4π|'|)}

δ(t-t'-|'|/c)μ(',t')

=Ainμ(,t)

{1/(4π)}∫d3'[sμ(',t-|'|/c)/|'|]

となります。

 

μ=sμ2ε0と戻しAinμ(,t)=0 の場合を仮定すれば,

φ(,t)

{1/(4πε0)}∫d3'[ρ(',t-|'|/c)/|'|],

かつ(,t)

0/(4π)}∫d3'[(',t-|'|/c)/|'|]

です。 

こうした意味で,これらのポテンシャルφ(,t),(,t)を

遅延ポテンシャルと呼び,その電磁波を遅延波と呼びれます。

 特に,μ(,t)=∫A^μ(,ω)exp(-iωt)dω,または

A^μ(,ω)={1/(2π)}∫Aμ(,t)exp(iωt)dtと電磁場

μを振動数で展開し,

4元電流密度sμもsμ(,t-|'|/c)

=∫s^μ(,ω)exp(-iω(t-|'|/c))dω

=∫s^μ(,ω)exp(iω|'|/c)exp(-iωt)

と展開してみます。

 

こうすれば,μ(,t)

=Ainμ(,t)+{1/(4π)}∫d3'

[sμ(',t-|'|/c)/|']は,

A^μ(,ω)=A^inμ(,ω)+{1/(4π)}∫d3'

[s^μ(',ω)exp(iω|'|/c)/|'|]

なる表現になります。

 したがって,Gret(,ω)=exp(iωr/c)/(4πr) (r≡||)

と置けば,A^μ(,ω)=A^inμ(,ω)

+∫d3'ret(',ω)s^μ(',ω)と表現できるため,

ret(,ω)を遅延Green関数と呼ぶこともあるようです。

 

グGreen関数ret(,ω)はHel,holtzの方程式のGreen関数と

なっていて,[△+(ω/c)2]ret(,ω)=-δ3()

を満たします。 

では,t<0 過去の電磁場を表現する先進グリーン関数:

(,t)=-Dadv(,t)=θ(-t)D(,t)は何を意味する

のでしょうか?それともこれは不要なのでしょうか?

 

とりあえず,遅延Green関数と同じようにt<0 対して,

μ(x)=A0μ(x)-∫d4yDadv(x-y)sμ(y)と

書いてみます。

自由電磁波A0μ(x)=A0μ(,t)を無限の未来t=∞における

射出波:Aoutμ(,t)であると考えてみると,

μ(,t)=Aoutμ(,t)

+c∫tdt'∫d3'Dadv(',t-t')sμ(',t')

と表現されます。

 

これは,現在のAoutμ(,t)から時間を遡るとこうなる,という

描像を示しているだけで,決して因果律に反して現在から過去

に向かう電磁波信号が存在することを意味するものでは

ありません。

例えば重力場の方程式でも解が満たすべき初期条件,あるいは

境界条件の違いによってブラックホールを与える解と,

ホワイトホール(あるいは,膨張する宇宙?)を与える解の両方が

あるのと同じく,方程式が時間反転対称なら遅延解と先進解が

あるのはごく普通のことです。

重力場でブラックホールを与える解というのは,初期には大きな

星が自分自身の"重さ=重力"のせいで崩壊してゆく解のことです。

 

一方,ホワイトホールを与える解というのは規模は違いますが,

いわゆる宇宙全体が膨張するというビッグバンに相当する解で

宇宙論ではどちらも実際的に重要な役割を持ちます。

さて,電磁場の先進波はt<0 で,

μ(,t)=Aoutμ(,t)

{1/(4π)}∫d3'[sμ(',t+|'|/c)/||]

であり,μ=Jμ/(c2ε0) です。

 

そこで,Aoutμ(,t)=0 の場合には,

φ(,t)={1/(4πε0)}∫d3'

[ρ(',t+|'|/c)/|'|],

(,t)=0/(4π)}∫d3'

[(',t+|'|/c)/|'|] です。

 

これらのポテンシャルφ(,t),(,t)は先進ポテンシャル

と呼ばれ,その電磁波は先進波と呼ばれます。

また,Gadv(,ω)=exp(-iωr/c)/(4πr)(ただしr≡||)

と置けば,A^μ(,ω)

=A^outμ(, ω)+∫d3'adv(',ω)s^μ(',ω)

と表現できるので,adv(,ω)を先進Green関数と呼ぶことも

あります。

 

このGreen関数adv(,ω)もret(,ω)が満たすのと同じ

Helmhortzの方程式のGreen関数となっていて,

[△+(ω/c)2]adv(,ω)=-δ3() を満たします。 

これらの話は2006年10月3日の記事「ホイヘンスの原理の正当性

でも書いていますが,そこでは真空中の電磁場:

μ(x)=μ(,t)が初期時刻t=t'において,

μ(,t')=Fμ(),∂μ(,t')/∂t'=Gμ()なる

条件を満たすような解を求めること,すなわち,微分方程式の

Cauchy問題を解いています。

これはGreen関数:

(,t)={1/(4πr)}[δ(r-ct)-δ(r+ct)] において

t>0 のときの遅延Green関数:

D(,t)=Dret(,t)={1/(4πr)}θ(t)(r-ct)

を用いると,すぐに解けて,

μ(,t)

=∫d3'[{∂Dret(',t-t')/∂t}Fμ(')

+Dret(',t-t')Gμ(')]

と表わすことができます。

 すなわち,Dret(,t)は□Dret(,t)=(1/c)δ(t)δ3()

を満たし,t=0 では,∂D(,t)/∂t=δ3(),

ret(,t)=0 なる初期条件を満たすD'Alembertの方程式

(d'Alembert equation):□Dret(,t)=0 の解です。

 

 そこで,上の表現ではμ(,t)は確かに,t=t'で

μ(,t')=Fμ(),∂μ(,t')/∂t'=Gμ() なる

初期条件を満たす,□μ(,t)=0 の解となっています。

ところで,Dret(x)=Dret(,t)={1/(4πr)}δ(r-ct)

={1/(2r)}∫-∞exp{ik(r-ct)}dk

{1/(2r)}[∫0{exp(ikr)exp(-ikct)

-exp(-ikr)exp(ikct)}dk] です。

 

さらに進めて,Dret(,t)

{1/(2r)}[∫0{exp(ikr)-exp(-ikr)}{exp(-ikct)

+exp(ikct)}dk]+{1/(2r)}[∫0[exp{-ik(r+ct)}

-exp{ik(r+ct)}]dk

=∫(2||)-1[exp(ikr-ic||t)]d3

-∫(2||)-1[exp(ikr+ic||t)]d3

を得ます。

 

t>0 なら,右辺の第2項は,

∫(2||)-1[exp(ikr+ic||t)]d3

{1/(2r)}[∫0[exp{-ik(r+ct)}-exp{ik(r+ct)}]dk

{1/(4πr)}δ(r+ct)=0  です。

それ故,ret(,t)

=θ(t)∫(2||)-1[exp(ikr-ic||t)]d3

θ(t)∫{c/(2ωk)}[exp(ikr-iωkt)]d3

=∫{c/(2ωk)}θ(t)exp(-ikx)3k となります。

 

同様にt<0 に対してDadv(,t)

=-∫{c/(2ωk)}θ(-t)exp(ikx)3k となるはずです

から,全体として,

D(,t)=Dret(,t)-Dadv(,t)

=∫{c/(2ωk)}[θ(t)exp(-ikx)+θ(-t)exp(ikx)3]

です。

ところで,量子論では粒子のエネルギーはihc(∂/∂t)なる演算子

の固有値です。


 そして,ihc(∂/∂t)[exp(-ikx
)]=cωk[exp(-ikx)]

ですから遅延波:

ret(,t)=∫{c/(2ωk)}θ(t)exp(-ikx)3]

エネルギーcωkを持つ平面波の集まりです。

 

一方,ihc (∂/∂t)[exp(ikx)]=-cωk[exp(ikx)]

ですから先進波:

adv(,t)=-∫{c/(2ωk)}θ(-t)exp(ikx)3]

は負エネルギー(-hcωk)を持つ平面波の集まりに対応

しています。

 

ここでc≡h/(2π)はPlanck定数です。

ところが,場の量子論によれば,質量がmでスピンが1/2のDirac

粒子の自由場の演算子は,hc=c=1の自然単位で,

ψ(x)=ψ(,t)=Σ±s∫d3(2π)-3/2(m/Ep)1/2

[b^(p,s)u(p,s)exp(-ipx)

+d^+(p,s)v(p,s)exp(ipx)] と表わされます。

 

その"共役=自由反粒子の場"は,

ψ+(x)=ψ+(,t)=Σ±s∫d3(2π)-3/2(m/Ep)1/2

[b^+(p,s)u+(p,s)exp(ipx)+

d^(p,s)v+(p,s)exp(-ipx)]

です。

 
ただし,c=c=1なのでEp(p2+m2)1/2,かつp=hc

であり,そこで,exp(-ipx)=exp(-ikx),exp(ipx)

=exp(ikx)です。

また,スピノルu(p,s),およびv(p,s)は運動量表示での

自由なDirac方程式の粒子,および反粒子を示す独立な解で,

それぞれ(γp-m)u(p,s)=0,および,

(γp+m)v(p,s)=0  を満たします。

 

例えばDirac粒子が電子の場合なら,ψ(x)=ψ(,t)の

展開係数b^(p,s)は電子の消滅演算子,d^+(p,s)は陽電子

の生成演算子を示しています。

これを見ればわかるように,相対論的量子力学の初期のDirac

の空孔理論のように,"真空状態=最低エネルギー状態(基底状態)"

を負エネルギー電子の海として,わざわざ陽電子の生成を

負エネルギー電子の消滅と考える必要はありません。

 

真空状態には元々粒子は全くないとして,b^(p,s)exp(-ipx)

は1個の正エネルギー電子の消滅を,d^+(p,s)exp(ipx)は1個

の正エネルギー陽電子の生成を示していると考えれば何も問題も

生じないわけです。

同様に,先に与えた古典論での自由電磁場の表式:

μ(x)=Aμ(,t)

={1/(2π)3}∫d3(2||)-1kμkexp{(-i(kr-ωkt))

+ε-kμkμ*exp{i(kr-ωkt)] 

を量子化したと想定してみます。

 

そして,より精密に.,

μ(x)=Aμ(,t)=Σλ=12∫d3(2π)-3(2ωk)-1

μ(,λ)a^(,λ)exp{(-ikx)

+εμ(-,λ)a^+(,λ)exp(ikx)]

と書きます。

 

Dirac場と同じく,係数a^(,λ)を運動量c,添字がλの偏光

を持つ1個の光子を消滅させる演算子,a^+(,λ)を同じ光子を

生成させる演算子と考えれば,負エネルギー粒子の生成は

正エネルギー粒子の消滅,負エネルギー粒子の消滅は

正エネルギー粒子の生成と解釈できます。

 

それ故,非物理的な負エネルギー粒子の存在を想定する必要が

あるというような困難はありません。 

そして,散乱の摂動論で現われる"摂動グラフ=Feynman-diagram"

においても,初期の頃には空孔理論に基づいて,負エネルギー粒子

の因果性に反する過去への逆行を,正エネルギー反粒子の未来へ

の因果的順行と解釈するStucckerberg)とFeynmanの解釈が

ありましたが,その頃から方程式の負エネルギー解について何ら

困難は生じていません。

 

Green関数の遅延波部分は,ある時刻,ある位置での散乱に伴なう

粒子の消滅,先進波部分は粒子の生成を表わしているだけです。

2006年8月8日の記事「負エネルギー解と相対論的因果律

でも述べたように,負エネルギー解を捨てたり無視したりする

意図的な操作は,相対論的因果律を破ることがわかっています。

 

負エネルギー解,または先進波は不要なものではなく,むしろ

ないと困る必要不可欠なものであることがわかります。

参考文献:R.Loudon 著(小島忠宣,小島和子 共訳)

「光の量子論(第2版)」(内田老鶴圃),

砂川重信 著「理論電磁気学(第2版)」(紀伊国屋書店),

ジャクソン 著(西田 稔 訳)「電磁気学」,

J.D.Bjorken S.D.Drell「RelativisticQuantum fields」

(McGrawHill),

西嶋和彦 著「相対論的量子力学」(培風館)

 

Attention!! [広告宣伝]です。

http://www.rakuten.co.jp/trs-kenko-land/  健康商品の店「TRS健康ランド」- SCS(食品洗浄剤),黒ウコン,酒の帝王,鵜鶏王などの専売店  ←この店は私TOSHIが店長をしています。(楽天ショップです。TRSのTはTOSHIのTです。)

 「TRS健康ランド」では2008年1月10日よりお徳用SCS500mlを新発売!!当店の専売です。

 そこのお酒のみの方,いろいろと飲食の機会の増えたあなた,悪酔いを防止すると言われているウコンがいいですよ!! そして特に今回提供する沖縄原産の純粋な黒ウコンは当店が専売の新製品ですが古くから沖縄地方ではいわゆる男性の力に効果があると言われています。

 おやおや,そこの静電気バチバチの人、いいものありますよ。。。

 それから農薬を落とした後の皮がピカピカに光っているリンゴなど商品として販売する際の見栄えをよくするなどのために化学処理をした食品を安全に洗浄する新商品の洗浄液SCSはいかがですか。。。

http://www.mediator.co.jp/category/pages.php?id=115「中古パソコン!メディエーター巣鴨店」

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。 

人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。クリックすると人気blogランキングに跳びます。)

にほんブログ村 科学ブログへ にほんブログ村 科学ブログ 物理学へクリックして投票してください。(ブログ村科学ブログランキング投票です。1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。クリックするとブログ村の人気ランキング一覧のホ-ムページームに跳びます。)icon

 

ブックオフオンライン オンライン書店 boople.com(ブープル)

|

« バトンがまわってきました。(mixi) | トップページ | 相対論の幾何学(第Ⅱ部-1)(ベクトル空間) »

105. 相対性理論」カテゴリの記事

111. 量子論」カテゴリの記事

103. 電磁気学・光学」カテゴリの記事

コメント

早速にお返事いただきまして、ありがとうございます。
ご助言いただいたように+で考えていきます。

とりあえず質問をここにも採録させていただきます(催促している訳ではありませんので)

2008年9月27日 (土)先進波と負エネルギー,反粒子についての記事
D(x)=Dret(x)-Dadv(x) ④
がよくわかりません。どうしても
D(x)=Dret(x)+Dadv(x) ④’
になってしまうのですが・・・ 以下 記事を抜粋してわからない点を

---------------------------
D(x)=-(2π)-4∫[exp(-ikx)/(k2+iε)]d4k
={i/(2π)3}∫{2(|k|-iε)}-1[exp(ikr-ic|k|t)
+exp(ikr+ic|k|t)]d3k  ①
={i/(8π2)}∫d|k|d(cosθ)|k|[exp{i(|k||r|cosθ-c|k|t)}
+exp{i{|k||r|cosθ+c|k|t)}]  ②

となります。そして
∫-11d(cosθ)[exp(i|k||r|cosθ)
=[exp(i|k||r|)-exp(-i|k||r|)]/(i|k||r|) ③
=2sin(|k||r|)/(|k||r|)です。

それ故,
D(x)=-(2π)-4∫[exp(-ikx)/(k2-iε)]d4k
=Dret(x)-Dadv(x)  ④
と書けます。ただし,
Dret(x)≡{1/(8π2)}|r|-1∫0∞d|k|[exp{i|k|(|r|-ct)}-exp{-i|k|(|r|-ct)}
={1/(8π2)}|r|-1∫-∞∞d|k|[exp{i(|k|{|r|-ct)}
={1/(4π|r|)}δ(|r|-ct)です。
また,
Dadv(x)≡{1/(8π2)}|r|-1∫0∞d|k|[exp{i|k|(|r|+ct)}-exp{-i|k|(|r|+ct)}
={1/(8π2)}|r|-1∫-∞∞d|k|[exp{i(|k|{|r|+ct)}
={1/(4π|r|)}δ(|r|+ct)
です
--------------------------------―
の部分なのですが、私にとって①~③までは少々きつかったですが(複素積分の復習からはじめましたので)なんとかフォローできました。しかし④でつまずきました。④は③を②に代入すれば得られるはずですが、④’になってしまいます。その計算過程の要約をあげて質問します。

[exp{i(|k||r|cosθ-c|k|t)}
d(cosθ)で積分→[exp{i(|k||r|-c|k|t)}-[exp{i(-|k||r|-c|k|t)}

exp{i{|k||r|cosθ+c|k|t)
d(cosθ)で積分→exp{i{|k||r|+c|k|t) -exp{i{-|k||r|+c|k|t)

すると

exp{i(|k||r|-c|k|t) -exp{i{-|k||r|+c|k|t)  ⑤
exp{i{|k||r|+c|k|t)-[exp{i(-|k||r|-c|k|t) ⑤‘

という組み合わせになって、⑤‘の結果、④‘になってしまうのですが・・・
大変ご面倒だと思いますが、ご助言いただきたく、お願いいたします。

投稿: バク | 2010年8月24日 (火) 11時30分

仮想粒子は、「実在」或いは「実体」と見做してはならないという事でしょうか?

投稿: 凡人 | 2008年10月 3日 (金) 23時51分

 どもTOSHIです。

 仮想粒子というのは粒子が相互作用が小さい摂動とした場合の近似計算法の1つ摂動論において現われる中間状態のことです。

 それのの射影演算子の和Σ|中間><中間|を<f|i>の間にはさんだりして計算します。

 ほんとに作用が小さいなら摂動級数の第1項で近似できるので,計算の過渡で現われる仮想的なものを実際の作用に近いと想像することもできますが。。。。

            TOSHI

投稿: TOSHI | 2008年10月 1日 (水) 13時46分

仮想粒子は単に、場の不確定な波動によって生成され、泡沫の間だけ実在する事を許された「実在」と見做せばよいのでしょうか?

投稿: 凡人 | 2008年9月30日 (火) 19時57分

仮想粒子は不確定性原理が不可欠。(こんな誰にでも分かること書いちゃ資源の無駄かな)

投稿: hirota | 2008年9月30日 (火) 19時36分

hirotaさん、仮想粒子を古典論的に解釈するとどうなるのでしょうか?

投稿: 凡人 | 2008年9月30日 (火) 12時52分

反粒子を「時間を逆行する正粒子」とみなすのは、ディラックの海よりもずっと古典論的解釈じゃないのかな?
時間を逆行する波なら先進波だし。

投稿: hirota | 2008年9月30日 (火) 11時07分

そういえば、
http://www005.upp.so-net.ne.jp/yoshida_n/index.htm
で吉田伸夫先生が出版を予告している、『光の場、電子の海』というのは面白そうですね。

投稿: 凡人 | 2008年9月29日 (月) 23時50分

hirotaさん、TOSHIさん
>>「実在」と見做す事が出来ない
>どこから、そんなことが「分かる」のか、謎?
私の「実在」というのは、古典論的に解釈できるものといったイメージです。
EMANさんの掲示板で、あもんさんが
>それは量子論を無理やり古典論的に理解しようとするツケです。正確なところは、結局、場の量子論の数式においてしか語りえないのです。
と仰られていたので、漠然とそのように考えてしまいました。
申し訳ありませんでした。

投稿: 凡人 | 2008年9月29日 (月) 19時52分

 ども凡人さん。。hirotaさん。TOSHIです。

 
 凡人さん。 誤解なさらないでください。仮想粒子はともかく,「実在」とみなすことはできない。。というのは先進波のことではなく,電磁場のポテンシャルφとベクトルポテンシャルAのことです。

 先進波の話だけなら別に「実在」ではないものを引き合いに出す必要はなく「実在する電場,磁場の波=電磁波」の先進波を問題にしてもいいので,これは確かに実在するはずです。

 そうではなくて,もしもスカラーポテンシャルやベクトルポテンシャルが「実在」だと例えばクーロンゲージでのスカラーポテンシャルならポアソン方程式の解で遅延型ではないので超光速のクーロンポテンシャルになることが言いたかったのです。

 しかし,記事「非共変ゲージの非局所性」で書いたように電場,磁場はゲージには関係ないので電場,磁場という意味ではクーロンゲージのそれらも共変なローレンツゲージから得られるものと同じだという話をするために持ち出しただけです。

 波動関数のベリーの位相や,エンタングルメントを利用して「遅延選択実験」などと同じような原理で量子コンピュータ,量子通信などを追求できるのと同じく,電磁場のスカラーポテンシャル,ベクトルポテンシャルにも「アハラノフ・ボーム効果」などがあります。
 
 そこで理論に内在する本質的に局所性を破る非局所的存在を「実在」とする可能性は否定できませんがとりあえず観測可能量=「実在」と考えると普通の意味からはまずいという話だけです。

 とにかく,決して先進波を「実在」とみなせない。などとは申しておりません。hirotaさんが誤解なさるとは思えないのでhirotaさんのコメントはおそらく凡人さんのコメントに宛てられたものと思いますが。。。

          TOSHI

 

 

投稿: TOSHI | 2008年9月29日 (月) 11時53分

>「実在」と見做す事が出来ない
どこから、そんなことが「分かる」のか、謎?
「先進波は不要なものではなく,むしろないと困る必要不可欠なもの」と書いてあるのに・・・

投稿: hirota | 2008年9月29日 (月) 11時01分

私にとっては、展開されている内容が高度なため、殆ど理解できませんでしたが、現在の量子力学に基くと、先進波や仮想粒子を「実在」と見做す事が出来ないという事だけは分かりました。
有難う御座いました。

投稿: 凡人 | 2008年9月27日 (土) 19時39分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 先進波と負エネルギー,反粒子について:

« バトンがまわってきました。(mixi) | トップページ | 相対論の幾何学(第Ⅱ部-1)(ベクトル空間) »