超弦理論(3)(双対模型から超弦理論へ)
超弦理論(superstring theory)の第3回目です。
それが提案された初期の頃には,Veneziano振幅が物理的に何か重要なものに結びつく見込みはほとんど無く,散乱振幅における双対性という仮定も,あまり頼りにならない実験的支持以上のものではありませんでした。
にも関わらず,Veneziano模型の研究はそれ自身に非常に豊かな構造があることが明らかになってゆきました。
その部分的な解明は,多くの物理学者の努力を吸収して驚嘆すべき内容の連鎖を生み出しました。
すなわち,Veneziano振幅が容易にn体振幅に一般化できるという事実と共に,Veneziano模型は現実に相対論的な弦(ひも)模型としての認識,特に現在閉じた弦(ひも)と呼ばれるものの発現を含むこと,
模型にFermi粒子を組み込む過程での段階的なリー代数(Lie algebra)の出現,そしてBose粒子の弦理論と超対称弦理論がそれぞれ26次元と10次元で意味をなす,というような驚嘆すべき内容を含んでいることなどが明らかになりました。
双対模型(dual model)は,ほとんど全ての契機に研究者に新しい驚きを湧き興しました。
しかし,元々の出自である強い相互作用の基本理論として,双対模型が反論を許さぬ確固とした地位を占めることだけは,決して有りませんでした。
実際,1968年以後の期間での実験の発展は,強い相互作用にS行列の解析的理論とは異なる種類の理論を要求しました。
Veneziano模型は,レッジェ領域(Regge領域)(例えばt固定,s→ ∞ の領域)では,実際の強い相互作用の高エネルギーでの漸近的挙動をうまく表現できました。
ところが,1968年当時には,ほとんど実験的開拓がなされていませんでしたが,現在の見地からは重要な別の領域があり,そこではこの模型と実験との一致があまりよくないことがわかりました。
この,実験と一致しない領域というのは,(s/t)固定でs→ ∞,t→ -∞ の領域のことです。
(s/t)固定,s→∞,t→-∞ の領域,すなわち,散乱角θs固定でのs→ ∞ の領域では,前記事の最後に見たようにVeneziano振幅はA(s,t)~ [F(θs)]-α'sなる漸近形を呈します。
つまり,Veneziano振幅はsと共に指数関数的に減衰します。
しかし,現代の実験(および理論)は高エネルギー,固定散乱角のプロセスでの散乱振幅A(s,t)は,単にsのべき乗則に従って減衰すること(=Bjorken極限 or Bjorken scalingなど)を示しています。
これはFeynmanに始まるパートン模型(部分子(構成子:parton)模型)で説明できることがわかっています。
余談ですが,強い相互作用の深非弾性散乱の挙動がパートン模型によって予言されるそれと一致する最初の証拠を与えたSLACでの実験がなされたのが,丁度Venezianoが彼の有名な振幅を提案したのとほとんど同時であったという歴史の決定的な偶然の一致があります。
ある種の運動学的形態では,パートン的な挙動をするという構造を模型に組み込むのに失敗したことが,強い相互作用において双対模型が基礎理論としての地位を他に譲った主要な原因の1つでした。
ある意味,たとえ高エネルギーで固定角のときにハドロンの振幅が場の量子論で計算される振幅よりもはるかに緩やかに,つまりエネルギーの大きいベキで落ちるのが正しいとしても,Veneziano模型の紫外領域における挙動はそうしたハドロンの世界よりも,さらにソフトな世界(指数的減衰の世界)であるということがわかったわけです。
そして,1973,1974年には強い相互作用でVenezianoの双対模型に代わるべき理論が量子色力学(QCD)という形で出現しました。
これは他のことに混じって,上に引用したパートン模型の挙動をも説明できるものです。
しかし,同じ頃,双対模型で具現された著しく豊かな構造を持続研究するための新しい可能性を持った動機が現われました。
一見したところ,唯一強い相互作用の領域だけが,厄介な大きいスピンの粒子に直面する物理学の領域であると考えられますが,実はそうした問題は重力の量子論を展開しようとする場合にも生じます。
一般相対論での重力場は量子論の場としてはスピンが2で質量がゼロの場,すなわち,"重力子の場=テンソル場"で記述されます。
一般相対性理論では,その非線型な性質は局所対称性群によって決まるという意味でYang-Mills理論の考察にとってのインスピレーションの一部でした。ただし,素朴なYang-Mills場はスピンが1で質量がゼロのベクトル場です。
Yang-Mills場と重力場の2つの理論には多くの類似があるにも関わらず,スピンが1と2の間には1つの世界ほどの差異があります。
先の散乱振幅の表現:A(s,t)=-ΣJgJ2(-s)J/(t-MJ2)によれば,質量MJ2がゼロでスピンJが1の粒子の交換は(s/t)に比例する振幅への寄与を与えることがわかります。
4次元時空では,そうした振幅の"高エネルギー領域=紫外領域"での挙動は,かろうじてくり込み可能性と矛盾しません。
しかし,tチャンネルでのスピンJが2の粒子の交換は(s2/t)に比例する振幅への寄与を与えるので,4次元時空ではこれは明らかに受容しがたい高エネルギーの挙動であって,絶望的なくらいにくりこみ不可能な理論に対応しています。
しかし,これまで見てきたように,双対模型は高エネルギーでの挙動が著しくソフトであり,紫外の病無しに高スピン粒子を組み入れる1つの手法を与えます。
これは,強い相互作用のケースには正しい方法ではなく,自然は異なる経路を選択していましたが,その代わりに高スピン粒子を扱う量子重力においては正しい道となり得るのではないか,との希望が双対模型を研究する新しい動機となったのです。
パートンの漸近自由な性質に適応させることに失敗したのとは別に,強い相互作用において双対模型理論が陥った困難の1つは,この模型が常に種々の質量がゼロの粒子群を予言するのに対して,そのどれもがハドロンの世界には全く存在しないという事実でした。
例えば,こうした質量がゼロの粒子群は,ゴーストを消すためにレッジェ軌跡で切片をα(0)=1とおけば,Veneziano振幅においてs=0 とt=0 で現われる極の中に出現します。
双対模型では,いろいろなスピンを持つゼロ質量の粒子が出現しますが,特に閉じた弦に対応する粒子の中に質量がゼロでスピンが2の粒子があります。
一般的な基礎に基づく研究から双対模型の理論が一般相対論のそれに類似していることが明らかにされ,この質量がゼロ,スピンが2の粒子を重力子であると同定できるのでしょうか?
量子重力は常に理論化にとって難問であり続けました。
そして,実験は量子力学と重力の両方が自然法則において役割を果たしているという偽りの無い事実を除けば,ほとんど何のガイダンスも提供しません。
量子重力に特徴的な質量スケールはPlanck質量;(hc/G)1/2~1016GeVとして知られています。
ビッグバン(Big Bang)から今まで残っていた安定なPlanck質量の粒子の発見のような思いがけなく幸運の一撃を除けば,量子重力の理論を直接実験的に検証することはほとんど望めないという意味で,理論を実験と比較して検証するという段階とは現在も程遠いところにいます。
量子重力をテストする現実的な望みは,無矛盾な量子重力理論を作ることを目指す研究の行路で,常に重力が如何にして他の力と統一されるのかを見出すことの中にあります。
そして,いつしか重力と他の力の矛盾の無い統一理論が,電子質量とかカビボ角(Cabbibo angle)のような実際の測定値の意味を説明できるようになること,
あるいは,SU(2)×U(1)の対称性の破れの秘密が隠されている高いけれど許容できる,恐らくは1TeV程度のエネルギー規模で新しい現象を予言することなどを通じて,現実のテスト実験と直面できるようになると思われます。
双対模型を量子重力理論として見る考え方では,それまでの長い間,やっかいな困難であると見られていたものが直ちに利点に変わるというボーナスを生み出しました。
その"困難 → 利点"とは,すなわち,双対模型が4次元という時空次元では意味をなさないように見えるという事実でした。
Bose粒子(Boson)のみのVeneziano模型に対しては26次元時空のみが可能であり,一方,Bose粒子とFermi粒子(Fermion)の混在するRamond-Neveu-Schwarz模型は10次元時空においてのみ意味を持ちます。
そこで,Bose粒子だけでなくFermi粒子もある現実的なケースを考えるなら,もしもこの模型を強い相互作用の理論を与えるものであると考える場合には余分の6次元がとてもやっかいな問題となります。
しかし,この模型の目的が重力と物質の統一理論を作ることであるなら事態は全く違います。
一般相対性理論を物質と統一することについて,これまで展開された最も初期の考えで最良のものの1つは,1921年にKaluzaによって示唆されたものです。
それは,4次元ではなく5次元の時空で一般相対性理論を定式化することによって重力は電磁気と統一され得るというものでした。
この示唆はさらに1926年の初めにKleinによって発展させられました。そこでこの理論はKaluza-Klein理論と呼ばれます。
この理論は統一場の理論へのEinsteinの主要テーマの1つでした。
(※なお,Kaluza-Klein理論の詳細については拙ブログの入院直前の2007年3月6,7,8日に書いた記事「カルツァ・クラインの5次元統一場理論(1)」,「カルツァ・クラインの5次元統一場理論(2)」,「カルツァ・クラインの5次元統一場理論(3)」を参照してください。)
現代の用語で言うなら,こうした考えは4次元一般相対性理論の基底状態が5次元Minkowski空間:M5ではなく,4次元Minkowski空間:M4と円:S1との積:M4×S1であると仮定するものです。
円S1の半径はあまりにも小さく,日常の経験上は,あるいは高エネルギーの実験室においてさえ,観測される現象は常にS1上の点にわたる平均に関わるのみで,見かけ上の世界は4次元に見えると仮定します。
こうしたことが,どのようにして可能で有り得るかという明瞭な議論の1つは1938年にEinsteinとBergmannによって与えられています。
5次元では計量テンソル(metric)gが5×5行列:(gMN)M,N=0,1,2,..4で与えられます。そして成分gMNの全てに対して,5次元のEinsteinの重力場の方程式をそれらの動力学の方程式として採用します。
4×4行列(gμν)μ,ν=0,1,2,..3は4次元の観点でのスピン2を持つ4次元の重力の計量テンソルと考えます。
一方,成分(gμ4)μ=0,1,2,..3は4次元の観点ではスピン1を持ち質量ゼロの光子(photon)を記述します。
そこで,これらが5次元の一般相対論では"重力場=重力子"と"電磁場=光子"が統一されるというのが5次元空間を考える利点とされます。
そして,残りの成分g44は質量がゼロ,スピンもゼロのスカラーとして挙動すると予言されます。
すなわち,この試みでは望んだ通り重力と物質が統一され,さらに質量がゼロのスカラー粒子が存在するという興味深い予言が得られます。
しかし,実際には当時の風潮から,"新粒子の予言"というものは受け入れられず,こうした試みを推進させる初期の研究者たちの大部分を困惑させて,結局スカラー新粒子出現の予測を排除しようとしたため,Kaluza-Klein理論を台無しにするような傾向となりました。
1950年代とそれ以後にJordan,および,Brans & Dickeらだけが新粒子を理論にとって掃き捨てられるべきやっかいものではなく,実験で検証さるべき面白い予言と捉えました。
そして,これをBrans & Dickeスカラーと呼びました。
そして質量ゼロの可能なBrans & Dickeスカラーに関しての重大な実験的限界などが設定されましたが,その存在については未だ想像の範囲内にあります。
そして,双対模型でも拡大場を形成する際にはBrans & Dickeスカラーに非常に似たものが出現します。
もっとも,こちらの方は本当に質量がゼロの場か,それとも量子補正によって場が有限な質量を持つようになるかとかを考えるほどの話ではないかもしれません。。。
現在の段階から観ると,重力と電磁気だけでは重力と物質の統一からは程遠く,満足のいく統一理論とするにはより多くの要素を含む必要があると言えます。
実際,5次元では不十分で10次元で丁度処理できます。
そこで,双対模型が量子重力の意味のある方法をなすと見るならばBose粒子とFermi粒子の双対模型が10次元でのみ意味を持つという事実は,この模型が単に量子重力の矛盾しない理論というだけでなく,あらゆる相互作用の整合的な統一理論で有り得るのではないかという夢を与えます。
1974年には,双対模型が重力を含む統一理論を与えるという夢は,その頃のいわゆる"整合的な双対模型"が少なくとも1つの欠点を持つという事実によって地上に引きずり下ろされました。
その欠点というのは,それら整合的模型が全てタキオン(tachyon)を予言するということです。
もっとも,実際に物理学的矛盾が生じないなら,こうした欠点を気にする必要はありませんが,タキオンがあればその理論での計算は少なくとも不安定な真空中でなされることになります。
さらに,タキオンの交換はループグラフの赤外発散に寄与し,こうした発散は今の場合の"統一量子重力理論"での計算の紫外部の挙動を分離したものが本当に値として満足できるものを示しているのかどうか判断することを困難にしました。
しかし,こうしたタキオンの問題は驚くべき手法で解決されました。
すなわち,1974年当時には,既にこの双対模型の理論にも入っていた段階的なリー代数に刺激されてWess-Zuminoが時空の超対称性("susy"=supersymmetry)という概念を考案しました。
これはRamond-Neveu-Schwarzの弦模型の2次元世界面超対称性の4次元への一般化として与えられました。
そして,この超対称性の発明は,それ以後,関連した莫大な仕事を生み出す源になりました。
この超対称性,すなわちBose粒子とFermi粒子の対称性によって初めて全てのものの真の統一理論にとって不可欠な条件が得られたと直観されました。
これは,2,3年のうちに,初期の大域的超対称性から,局所的超対称性,あるいは超重力,つまり著しく豊かな一般相対性の対応原理へと拡張されました。
最初,弦理論と時空の超対称性の類似は単なる偶然の一致と見られていました。
しかし,1977年にGliozzi,Scherk,Oliveは,Ramond-Neveu-Schwarzの模型が"G-パリティ射影"によってタキオンが全く無く等しい質量のBose粒子とFermi粒子に対する多様性を持った模型となるように修正できることを示しました。
この修正された模型が世界面超対称性だけでなく時空の超対称性をも有することを推測するのは自然なことです。
1980年代初期には,この問題は忘れ去られていましたが,M.B.GreenとJ.H.Schwarzによって復活され,上記推測は肯定的に証明されました。
そして,スピンのある弦理論の完全に矛盾のないタキオンもない形式において,1ループグラフは完全に有限で紫外発散も無いことが示されました。
一般共変な理論において,1ループグラフの有限性は,それだけでは本来目新しいことではありません。通常の一般相対性は4次元時空での質量殻の上で1ループ有限です。
しかし,一般共変場の理論が1ループ有限のとき,これは運動学的偶然のためであり,相殺項として寄与する正しい次元を持った可能な演算子の欠如を意味します。つまり,1ル-プレベルの超対称弦理論の有限性は保たれるのです。
ループグラフは単に足を縫合したツリーグラフですが,弦理論でのツリーグラフの挙動は超くりこみ可能な場理論のグラフの挙動よりもさらにソフトです。
そこで,結果が無関係な赤外発散などによって曇らされるようなことがない限り,そうしたソフトなツリーから作られたループは有限です。
双対模型の理論,あるいは弦理論は発端からして,種々の状況下で常に紫外発散の問題とは無縁でした。
双対模型の問題点は,むしろ常にアノマリー(anomaly:量子異常)や他の矛盾が全くない形で存在し得るか?ということでした。歴史的には矛盾を除くために多くの困難を克服することが必要でした。
そして,こうした努力の連鎖において最後のリンクが時空の超対称性でした。この最後のリンクを含んで初めて完全に矛盾のない超対称弦理論,つまり超弦理論の形の双対模型が得られました。
理論の完全に矛盾の無い形式では,少なくとも1ループレベルでは無関係な複雑さも無く紫外挙動をチェックできるようになりました。
この問題に対処する大部分の研究者が同じ理由で全てのオーダーまで有限性が成立すると信じていますが,これに対する完全な証明はこの本の時点では現われていません。
1980年代中頃にはさらに継続して劇的な発展がありました。いくつかのハイライトは六角形アノーマリーの相殺,ゲージ群として例外群E8×E8を持つ新理論の出現,現象学の創始,そして,恐らくそれまで可能であったものよりも深いレベルで,弦理論の対称性構造を理解する試みの始まりでした。
今日はここで終わります。次回からは歴史と離れて,弦理論とは何か?という説明を開始する予定です。
参考文献:M.B.Green,J.H.Schwarz,& E.Witten著「superstring theory」(Cambridge University Press)
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