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2008年11月 5日 (水)

超弦理論(6)(弦の拘束方程式)

 超弦理論(superstring theory)の続きです。

Polyakov作用:S=-(T/2)∫d2σ[h1/2αβημναμβν]を出発点にします。

 

古典的には,この作用Sは任意次元のMinkowski空間内の弦の伝播を記述します。

 

後述するように,量子力学的には26次元が最も関心のあるものとなります。

 

作用Sは,弦の一般座標変換,あるいは世界面の再パラメータ化:σ→τ'(τ,σ),σ'(τ,σ),またはσα→σ'α(α=0,1)の下で不変です。

 

これに伴なって世界面の計量(metric):hαβは標準の変換則で変換します。すなわち,hαβ→h'αβ=(∂σλ/∂σ'α)(∂σρ/∂σ'β)hλρです。

弦の上の1次元の住人の見地では,Polyakov作用は一般共変な(1+1)次元の場の理論を記述するものです。

 

弦の位置を示す=(Xμ)は,26次元 Poincare'変換の下ではベクトルとして変換しますが,(1+1)次元の場理論での世界面の再パラメータ化の下ではスカラー場として変換します。

実際,Polyakov作用:S=-(T/2)∫d2σ[h1/2αβημναμβν]は質量のないスカラー場=(Xμ)の(1+1)次元重力への結合の標準形です。

 

そして,これを超対称性を含むように一般化する場合には,26次元に限らず任意の時空次元で意味をなすと知られている一般共変場の理論のみを記述します。

後の発展では,Rを(1+1)次元のスカラー曲率として,作用積分の被積分関数に位相不変量であるEinstein項:h1/2Rを加えた形式などが有用となります。

 

しかし,出発点では自由場の理論が対象ですから,取り合えずはこうした項は不要です。

さて,Polyakov作用から場の極小面の方程式を解く際には,世界面の再パラメータ化の下での不変性は本質的です。

 

すなわち,2×2の対称テンソル:hαβは3つの独立成分を持ちますが,弦の一般座標変換=世界面の再パラメータ化:τ,σ→τ',σ'に対する不変性から,hαβの3つの自由度のうち任意の2つを消去することができます。

便利な選択は,(expφ)を未知の共形因子として,hαβ=ηαβ(expφ)となるような再パラメータ化です。

 

これを共形ゲージ(conformal gauge)と呼ぶことがあります。

 

この共形ゲージでは,h1/2の因子:expφとhαβの因子:exp(-φ)から共形因子は相殺されて落ちます。

 

そこで,自由場のPolyakov作用は,簡単な形の作用:S=-(T/2)∫d2σ[ημνηαβαμβν]に帰着します。

Lagrangian密度:≡-(T/2)ημνηαβαμβνによる作用:S=∫2σから得られる Euler-Lagrange方程式:(∂/∂Xμ)-∂α{∂/∂(∂αν)}=0 は,今のでは∂/∂Xμ≡0 なので,-∂α{∂/∂(∂αμμ)}=0 となります。

 

これは,∂αμνηαββν)=0 を意味します。

 

そして,τ=σ0,σ=σ1に対してηαβはη00=1,η11=-1なる対角成分のみを持つテンソルなので,結局(∂2/∂τ2-∂2/∂σ2μνν=0 ,または(∂2/∂τ2-∂2/∂σ2)Xμ=0 なる"運動方程式=波動方程式"を得ます。

しかし,前にも述べたようにhαβ=ηαβ(expφ)のようにゲージを固定することが許されるのは,Polyakov作用S=-(T/2)∫d2σ[h1/2αβημναμβν]に対して拘束方程式δS/δhαβ=0 があるためですから,これを無視してはいけません。

 

(1+1)次元場の量子論では,通常,エネルギー運動量テンソル:TαβをTαβ≡2πh-1/2(δS/δhαβ)と取りますから,拘束条件δS/δhαβ=0 は単にTαβ=0 を意味します。

後の論旨でわかることですが,αβ=2πh-1/2(δS/δhαβ)=(2/T)h-1/2(δS/δhαβ)となるようにTを決めるのが合理的で,このとき,Tαβ=-∂αμβμ+(1/2)hαβλρλμρμとなります。

 

共形ゲージでは,hαβ=ηαβ(expφ)を代入するとT00=T11=(-1/2)[(∂Xμ/∂τ)(∂Xμ/∂τ)+(∂Xμ/∂σ)(∂Xμ/∂σ)]=(-1/2)[Xdμ+X'μX'μ],T01=T10=-XdμX'μです。

また,光円錐世界面座標と呼ばれる座標σ±≡τ±σ=σ0±σ1を採用すると,τ=σ0=(σ++σ-)/2,σ=σ1=(σ+-σ-)/2,∂±=(∂0±∂1)/2,η++=η--=0,η+-=η-+=1/2でη++=η--=0,η+-=η-+=2です。

 

それ故,T++=-∂+μ+μ=(1/2)(T00+T01),T--=-∂-μ-μ=(1/2)(T00-T01),T-+=T+-=-∂-μ+μ+(1/4)ηλρλμρμ=(1/4)(T00-T11)≡0 なるTαβの表現が得られます。

最後のT-+が恒等的にゼロという式はT-+=(1/4)ηαβαβ=(1/4)Tαα≡0 なので,Tαβの"対角和=トレース(trace)"がゼロ,つまりエネルギー運動量テンソルがtracelessであることを示しています。

 

そこで,拘束条件Tαβ=0 は,traceless性を示す恒等式:T-+≡0 を除けば,T++=-∂+μ+μ=0,T--=-∂-μ-μ=0 の2つだけです。

ところで,光円錐座標σ±≡τ±σ=σ0±σ1を採用する理由は,Xμ(σ)=Xμ(τ,σ)が"運動方程式=波動方程式"(∂2/∂τ2-∂2/∂σ2)Xμ=0 の一般解であることは,常にσ-とσ+の任意関数XRμ-)とXLμ+)の和の形に書けること,

 

つまりXμ(σ)=XRμ-)+XLμ+)=XRμ(τ-σ)+XLμ(τ+σ)と書けることと同等だからです。

拘束条件Tαβ0 を扱う方法は,古典的にはこの式を文字通りに解釈し,運動方程式と連立させて一般解を求めるだけであり,処理しやすいものです。

 

しかし,量子力学的には話はやや複雑です。

 

点粒子理論の場合の拘束条件が状態を示す関数をφとして質量ゼロのKlein-Gordon方程式:□φ=0 を意味したように,弦理論でもTαβを演算子T^αβと考え,状態をケットベクトル|φ>で表現したとき,物理的に意味のある状態であるための条件が,T^αβ|φ>=0 で与えられると解釈します。

 

この条件は,光円錐座標では,T^++|φ>=0,かつT^--|φ>=0 を意味します。

この拘束方程式の重要性を理解するためには,T^αβの同じτにおける交換関係を見る必要があります。

 

この交換関係は標準理論では,T^++に関して[T^++(σ),T^++(σ’)]=i{T^++(σ)+T^++(σ’)}δ'(σ-σ')+(i/24)(26-D)δ(3)(σ-σ')となることがわかっています。

ただし,Dは時空の次元,つまり弦を示すベクトル=(Xμ)の成分の数です。

 

また,δ'(σ-σ')はDiracのデルタ関数:δ(σ-σ')のσによる1階導関数(d/dσ)δ(σ-σ')を意味し,δ(3)(σ-σ')は3階導関数を意味します。

 

[T^--(σ),T^--(σ')]についても,ほぼ同様な式が成立します。また,[T^++(σ),T^--(σ')]はゼロです。

[T^++(σ),T^++(σ')]=i{T^++(σ)+T^++(σ')}δ'(σ-σ')+(i/24)(26-D)δ(3)(σ-σ')の右辺第1項は古典論のPoisson括弧からも生じる普通の項ですが,(26-D)δ(3)(σ-σ')に比例する第2項は量子力学でのみ生じるアノマリー(量子異常:anomaly)の項です。

 

後章で見るように,係数(26-D)を正しく計算するためには"ゴースト=FPゴースト(Fadeev-Popov ghost)"を考慮する必要があります。

そして,これらの交換関係の表式から拘束条件は26次元,D=26でのみ意味をなすことがわかります。

 

すなわち,物理的状態|φ>はT^++|φ>=0 に従うので,左辺は自動的に[T^++(σ),T^++(σ')]|φ>=0 で,右辺の第1項もi{T^++(σ)+T^++(σ')}δ'(σ-σ')|φ>=0 となり共に消滅しますから,

 

"左辺=右辺"の等式が成立するためには,右辺の第2項による(i/24)(26-D)δ(3)(σ-σ')|φ>もゼロになる必要があるからです。

こうしたわけで,開弦のVeneziano模型,および対応する閉弦のShapiro-Virasoro模型は26次元,D=26でのみ意味をなすわけです。

弦の世界面上の局所的な再パラメータ化に対する不変性とは別に,理論はσ,τとは独立な定直交行列Λと定ベクトルによる大域的変換:Xμ→Λμνν+bμの下で不変です。

 

弦の上の住人にとっては,これは単に弦の上を伝播する26個の自由な質量ゼロの量子場の内部対称性の存在を意味するだけですが,外部観測者にとってはPoincare'変換の下での対称性を意味します。

理論がPoincare'不変なので,状態のHilbert空間はPoncare'群のユニタリ表現を与えると考えられます。

 

これは粒子状態が質量とスピン(spin)によってラベル付けされることを意味します。(※(訳注)例えば,大貫義郎著「ポアンカレ群と波動方程式」(岩波書店)参照)

今は任意の他の弦と同様,自由に振動する無限個の振動子を有する弦を扱っているので,こうした表現から無限個の粒子状態の出現が予想されます。

こうして論じてゆくと,まずいことにBose的弦で閉弦の場合には,基底状態はT=1/πの単位で平方質量がm2=-8 のタキオン(tachyon)になります。

 

これも後章での系統的な扱いで見ることですが,拘束方程式を注意深く調べることからこうしたタキオンの出現がわかるのです。

また,Bose的弦の第1励起状態は,より興味深く質量がゼロの粒子から成ります。特に,そこで見出される質量ゼロの粒子の1つはスピンが2の状態で,これは重力子(gμν)と同定できます。

 

また,ディラトン(dilaton)として知られているスカラー状態,およびSO(24)の2階反対称テンソルとして変換する別の状態もあります。

 

SO(24)の状態が現われるのは,それが26次元の質量ゼロ粒子のlittle group(小群=※Wignerによる概念)の1つだからです。

これらは,最大限重要なことで,重力子の出現は,双対共鳴模型が全てのものの模型であるという考えの動機付けとして必要でした。

 

また,ディラトンの期待値は微細構造定数の決定に必要であることがわかり,SO(24)の2階反対称テンソル,またはむしろその驚くべき遠戚は,量子アノマリーの相殺において決定的な役割を果たします。

さらに高次の励起状態は,質量とスピンが共に延びてゆく有質量状態の無限の塔を形成します。

 

例えば,第2励起状態レベルはm2=8でスピンは4まで延びる粒子を含んでいます。

 

励起状態のこうした質量スペクトルは,無限個数の調和振動子を有する拡がった物体のスペクトルとして必然的なものですが,これは無限大まで延びてゆきます。

Bose的弦は,Bose的点粒子と同じく超対称性を持つように一般化できます。これらは超対称弦理論,あるいは超弦理論と呼ばれるものですが,これが,ここでの我々の最大の関心事です。

超対称弦の場合には,理論のHamiltonianが正なので,必然的にタキオンは出現しないことが着目に値します。

 

超弦理論では,最低質量のレベルは,点粒子理論の適切な量子化で出現するのと同じ質量ゼロのMaxwellやEinsteinの多重項で構成されます。

 

さらに,励起状態はもちろん有質量状態の無限の塔を形成します。

さて,拘束方程式:T^αβ|φ>=0 は点粒子のそれであるKlein-Gordon方程式と同じように量子系のSchrödinger方程式の役割を有すると思われます。

 

そして,これは普通のSchrödinger方程式と同じく線形方程式です。

しかし,前に点粒子について述べたときに理論を進める正しい方法はSchrödinger方程式の非線形方程式への一般化の中にあるべきということを見ました。

 

これは,我々を物理学で最も美しい方程式である超対称Yang-Mills方程式とEinstein方程式へと導きます。

では弦に対しても同じことをするべきでしょうか?すなわち,弦の和音を作るための全部の無限の塔を支配する非線形理論を探すべきでしょうか?

 

そして,点粒子をYang-Mills理論や一般相対論に関係付けたように,同じような方法で弦をそれらの理論と関係付ける一般化が存在するでしょうか?

実は,こうした一般化は明らかに存在し,それは弦理論に関するおよそ20年間の試行錯誤による研究によって作られてきました。

 

むしろ,今日的ミステリーは,Yang-Mills理論や一般相対論が"何故"そうした一般化を有するのかということです。

これらYang-Mills理論や一般相対論の局所ゲージ不変性というのは,根本的な物理学的,数学的概念,つまり局所対称性,接続,曲率,ベクトル束,Riemann幾何の概念を満足する基礎です。

実際,歴史的には,それらの基本概念は一般相対性理論において初めて出現したものです。

 

Einsteinは,これらが重力の相対性理論の基礎となる概念であることを認め,それから一般相対論を発見したのでした。

ところが,弦理論は現存する別の方法に属するものです。本シリーズ記事の最初の方で書いたように元々弦理論は,全く別の理由から発案されたものです。つまり強い相互作用の不成功裏に終わった突撃の中で現われたものです。

 

にも関わらず,弦理論がYang-Mills理論の一般化のために用いられるべきことが明らかになってきています。

しかし,この一般化の背後にある概念はなお不思議なままで恐らく我々は高々問題の表層を引っかき始めたばかりという程度です。

 

そういうわけで,弦のYang-Mills理論や重力理論への一般化は,それに関する多くのことが知られてきてはいますが,まだ未知の部分が多く残されています。

  

↑図1-4:弦理論の魔法の正方形(magic square)(上左は質量のない(massless)超粒子に対応するMinkowski空間での光線をスケッチしている。それは右上に書いた作用を持つ超対称Yang-Mills理論のヒントと見られるべきものである。

 

下左は"Minkowski空間での"極小面=古典的弦の軌道"をスケッチしている。これは新しい理論の族,Yang-Mills理論とEinstein方程式等の弦への一般化のヒントと見るべきものである。

 

これらについては多くが知られているが,右下に?を書いたのは概念的枠組がなお大いにミステリーであるという事実を強調している。)

 

こうした考察のミッシングサークルの解明が,いつの日か物理学への広範なインパクトを与え恐らく数学の1分岐にとってもそうなると期待されます。

 今日はここまでにします。 

参考文献:M.B.Green,J.H.Schwarz & E.Witten著「superstring theory」(Cambridge University Press)

 

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