超伝導の理論(1)
超のつくものばかりが好きなようですが,今日から超伝導の理論のテキストとして読んでいたBCSの一人シュリファー=J.R.Schrieffer著の「Theory of Superconductivity 」(Revised printing;Persues Books)の勉強ノートのレビューをシリーズ記事の1つとして書いてみようと思います。
(この当時の超伝導についての知識は (今も大して変わりませんが) 恐らく中嶋貞雄先生の「超伝導入門」(培風館)を読んだ程度でした。)
このノートの1ページ目には1999年3月12日(金)の日付けがありますから,それほど昔ではないようですが,これも未完で挫折しているようですね。
できれば挫折したところから続きにも進みたいと思います。
最近は科学関連のブログ記事を書くことが過去には気づいていなかった事実の発見や過去の再確認を含めて自分の勉強の中心になってきているようです。
さて,今日は第1章序(Introduction)です。
超伝導現象はマクロなスケールで作用する量子効果の典型例です。
超伝導物質内では電子群のある有限部分が実質的な"巨大分子(超流体)"に凝縮されています。
その巨大分子は系の全体積に拡がり,全体として運動することができます。絶対温度ゼロにおいては凝縮(Bose-Einstein)は完全であり,あらゆる電子は超流体の形成に関与しています。
もっとも本質的にはフェルミ面の近傍の電子のみが凝縮の影響を受けた運動をするだけですが。。
ゼロから温度が上がってゆくにつれて,電子群の一部は凝縮から放たれて微弱に相互作用する励起ガス,あるいは正常流体を形成します。これもまた全体積に拡がり,超流体と相互に侵透し合っています。
温度が上がって臨界値Tcに近づくと,超流体中に残っている電子の比率はゼロに近づき,系は超伝導状態から正常状態への第2種の相転移を受けます。
超伝導体のこうした2流体描像は,形式的に超流体He4を特徴付ける描像に似ています。これらの間には重要な差異もありますが。。
超伝導体の興味深い性質(完全反磁性,直流電気抵抗ゼロなど)は超流体の独特な励起に関連しています。
後述するように,超流体はその"内部エネルギー(超流体同士を結合する束縛力に関わるエネルギー)"ほとんど変えず,"ポテンシャル流=非回転的流れ"を引き起こすことができます。
他方,超流体は回転的流れを保持することができません。
超流体He4と同様,超流体に"渦度=ゼロでない運動量の回転"を持った運動を強いるなら超流体の一部は必然的に常流体に転換されます。
常流体というのは超流体同士を束縛するエネルギーを利用できないので,一般に渦度を生成することに関わる大きなエネルギーの増加が存在します。
そこで超流体は磁場のように系に渦度,あるいは角運動量を与える傾向がある摂動に対しては不動な,剛性のような性質を持っています。
この仮定された剛性に基づいて,ロンドン(London)は弱い磁場の中でのバルクな超伝導体の完全な反磁性(マイスナー効果)を理論的に説明することができました。
そして,カマリン・オネス(Kamerlingh Onnes)によって初めて観測された明白な直流電気抵抗の欠落も説明されました。
後述することですが,超伝導の微視的理論(BCS理論)はバーディーン(Bardeen),クーパー(Cooper)および著者(シュリーファー)によって提案されました。これは,この種の2流体描像で考えられます。
最低次の近似では,超流体は格子分極力によって互いに束縛されている電子対によって形成されています。
この"対=ペア"は空間において互いに大いに重なり合い,そこで究極的には前述の超流体波動関数の剛性の原因となるペアの相棒間の相関に加えて,強いペアとペアの相関があります。
さらに一般にこうした相関関係は電磁的挙動に加えて超伝導体の多くの特性が結果として従うべき素励起スペクトルのエネルギー・ギャップの原因となります。
そしてBCS理論においては常流体は系が素励起したガスによって構成されます。
オネスによる現象の輝かしい発見に続く約50年間の超伝導の微視的理論が,この問題について物理的,数学的複雑性を抱えることになったのは恐らく驚くべきことではないでしょう。
1950年までにはフレーリッヒ(Frörich)の洞察により基本的な凝縮の原動力が認識されるまでには至っていませんでした。
フレーリッヒは結晶格子振動(フォノン:phonon)との相互作用によって生じる電子間の有効相互作用が,この凝縮を引き起こすに当たって第一義的に重要であることを示唆しました。
この頃,レイノルズ(Reynolds)らとマクスウェル(Maxwell)によって実行された独立な超伝導体の同位体効果についての実験がフレーリッヒの見方への実験的根拠を与えました。
しかし,電子-フォノン相互作用の摂動論的扱いに基づくフレーリッヒとバーディーンの初期の理論は数学的困難に陥ってしまいました。
こうした困難の重要性は,"マイスナー効果は対でない系から始めた摂動の有限次では得られない"というシャフロース(Schafroth)の証明によって強調されました。
後に,ミグダル(Migdal)は摂動論の範囲内では,電子の励起スペクトルに全くエネルギーギャップは現われないことを示しました。
BCS理論では,電子-フォノン結合定数gはシャフロースとミグダルの結果とは一致しない非解析的な形式:exp(-1/g2)で入っています。
微視的理論は本質的に超伝導の全ての一般的特徴を説明します。
定性的説明に加えて,実際の金属中の電子-フォノン・バンド構造,電子-フォノン行列要素etc.に関する不確定性に必要とされる近似の粗さを考えると実験との著しい一致をみています。
以下では,理論を基礎付ける物理的考えに説明を与えることを試みます。幾つかの議論は多体問題の言葉で述べられますが,こうした手法の定式化のほとんどはこのテキストの中で紹介して展開します。
ただ,理論と実験の間の関係の詳細な議論はしないので,このエリアをカバーするには他の書物やレビュー論文を参照してください。
まず,最初の項では超伝導体についての最も重要で単純な実験事実を列挙します。その際,慣例として第1種(typeⅠ)の(柔らかい or ソフトな)超伝導体と第2種(typeⅡ)の(硬い or ハードな)超伝導体の挙動を区別しています。
1-1 Simple Experiment Facts(簡単な実験事実)
※ 電磁気的性質
ソフトな超伝導状態での物質の直流電気抵抗はゼロです。この事実は
対応する温度の通常状態の抵抗の1/1015の精度で確立されています。
絶対温度T=0 では超伝導体の抵抗は(多分凝縮からの励起を生じる
閾値の臨界振動数hcωg ~ 3.5kBTcに対応する温度T=Tcまで)完全
にゼロです。(ただし,hc≡h/(2π))
実際にはギャップの端は不鮮明であり,ある場合にはギャップの端よ
り下で前触れの電磁波の吸収が観測されます。
有限温度では(多分ω<ωgなら温度励起された常流体による吸収のため)あらゆるω>0 に対して有限な交流抵抗が有ります。
そしてω≧ωgに対しては正常状態と超伝導状態の抵抗は本質的に等しく温度には依りません。
1933年マイスナーとオッシェンフェルト(Oschenfeld)はバルクな超伝導体が完全に反磁性的であることを発見しました。
つまり磁場Bは深さλ~500Åまでしか侵入せず,物質本体からは排斥されます。
もしも,誤ってゼロ周波数の電気抵抗が消えるということが超伝導体内で任意周波数の電場が有り得ないことを意味すると主張するなら,マクスウェル方程式rotE=∇×E=-(1/c)(∂B/∂t)は,正常金属内にあった磁場Bが金属が超伝導になったとたんに"凍りつく"ことを主張することになります。
これはマイスナー効果に反しています。
マイスナー効果によると磁場は超伝導相では強制的に物質本体から追い出されています。
ポイントは超伝導体は,唯ゼロ周波数のみで消える誘導インピーダンスを生起させるということです。そしてBの排除を許すのは,このゼロでないインピーダンスです。
バルクでのソフトな超伝導体中での磁束の完全排除はHを外場とすると超伝導体の単位面積当たりH2/(8π)だけヘルムホルツの自由エネルギーを増加させます。
凝縮から超伝導相への移行を区別させるものは唯一総エネルギーの変化があることですから,超伝導状態と正常状態の総自由エネルギーが等しい臨界の磁場Hc(T)が存在する必要があります。
臨界場はT=0 では最大のH0でT=Tcではゼロに落ちます。
典型的なソフト超伝導体,例えばAl,Sn,In,Pb etc.ではH0は2300ガウス程度です。
ハ-ドな超伝導体,例えばNb3Snでは超伝導性は下の臨界場HC1より大きいHに対して物質の大部分に磁束が侵入することにより多分105ガウスのオーダーの上の臨界場HC2まで保持されます。
それ故,ソフト超伝導体に反し,ハード超伝導体ではHC1より上では完全なマイスナー効果は存在しません。
もし,多重連結超伝導体,例えば中空円筒などがあれば,穴を通過する磁束は任意の値を取ることができなくて,hc/(2e)~ 4×10-7(ガウス/㎝2)の倍数に量子化されます。
磁束の単位として,これの2倍の大きさの量子化がロンドンによって予測されていましたが,この効果の実験的観測と正しい磁束単位の確立はディーバー(Deaver)とフェアバンク(Fairbank),およびドル(Doll)とナバウアー(Nabauer)により独立になされました。
※ 熱力学的性質
ゼロ磁場ではT=Tcにおいて第2種の相転移をします。
比熱の跳びは遷移の真上では一般に正常状態の電子比熱γTcの約3倍
です。
上手に鍛えられた純粋な標本においては遷移の幅は10-4K程度に小さ
く成り得ます。
もっとも,これは遷移の内部幅であるとは信じられていません。
T/Tc → 0 につれて電子比熱は一般にaexp(-b/T)のように下がります。これは多分励起を生成するためのエネルギー・ギャップによるものでしょう。
T=0 におけるエネルギー・ギャップ2Δ(0)のkBTcに対する比は通常3.5のオーダーです。この比はPbやHbのように強く結合した超伝導体であるほど大きくなっています。
また,Snの比熱をプロットすると比熱-温度曲線はT≧Tc/2ではαT3に限りなく良く一致します。
磁場が存在するとき,バルクな標本のN-S相転移は第1種です。つまり潜熱が関係しています。
※ 同位体効果
上で論じたように,同位体効果は超伝導性をもたらすのに,格子振動が
本質的役割を果たすことを示しています。
特にT=0 での臨界場H0と遷移温度TcがTc ~ 1/Mα ~ H0(α~
1/2)のように物質の同位体質量Mが変わるにつれて変動するのがわかり
ます。
そこでTc とH0は軽い同位体では大きいです。
もしも現象において格子振動が重要でなければ,なぜ中性子が核に加わるとTcが変わるのかの理由がわかりません。
それは,その主な効果がイオンの質量を変えることだからです。
αの値としては,多くの超伝導体に対してはα=0.45~0.50が近似的に正しいのですが,幾つかの注目すべき例外もあります。
例えばRu,Mo,Nb3Sn,Os23で,これらについては同位体効果が小さいか消えています。
ガーランド(Garland)が示したように,これはフォノンの遷移を生起させるということを排除するものではありません。
もっとも,こうした材料の実際のメカニズムが現時点で然りと解明され確立されているわけではありません。
電子-フォノン相互作用は,こうした例外ケースにおいてさえ適切なメカニズムでないということは有りそうにないからです。
※ エネルギー・ギャップ
超伝導体の素励起スペクトルにおいて,エネルギー・ギャップを観測
するにはいくつかの直接的方法があります。
上で言及したように電磁輻射を吸収するための閾値がエネルギー・ギ
ャップの値を与えます。
ギアエヴァー(Giaever)による1つのより簡単な方法は薄い(~ 20Å
の)酸素層で離された超伝導物質の2つのフィルム間の電子トンネル流
を測定することです。
T→ 0 につれて,適用電圧V×|e|(電子の電荷の絶対値)がエネルギー・ギャップの2Δを越えるまでは全く電流は流れません。
温度が増加するにつれV<2Δ(T)に対しても有限電流が流れるようになります。電流-V曲線のブレイクは|e|V=2Δで保持されます。
この方法で観測されるエネルギー・ギャップの温度依存性は,単に音波の減衰率,核磁気の崩壊率,不純物によって制限された電子の熱伝導率からも決まります。こうした方法の全ては同一の結果を与えます。
※ コヒーレンス(可干渉)効果)
単純な2流体エネルギー・ギャップ模型に基づいて超伝導体中の核ス
ピン緩和率と同じ様に,電磁波や音響の吸収率を説明しようとするなら
直ちに矛盾を見出します。
すなわち,実験的には音の吸収はTcより下ではTが減少するにつれて単調に減少します。一方,核スピンの緩和率は最初上昇しピークを通過後,低温でゼロにまで下がります。
然るに,正常状態におけるようにフォノンに関しても核スピンに関しても励起の結合について同じ行列要素を持つなら2つのプロセスは全く同じ温度依存性を持つはずです。
そこで少なくとも,これらの行列要素の幾つかは正常金属のそれとは異なっています。後に見るように超伝導状態にふさわしい行列要素は正常状態のそれらの線形結合で与えられます。
そして線形結合の係数は結合がスカラー or ベクトル,スピンに依存しますから,超伝導状態の行列要素の平方は音,電磁波,核磁気変数への励起の結合に対しそれぞれ異なります。
今日のところはここで終わります。
参考文献:J.R.Schrieffer著「Theory of Superconductivity 」(Revised printing;Persues Books)
PS:超伝導,あるいはそれに関係したフォノン,または格子振動について参照できるブログの過去記事を探してみると結構ありました。
まず2006年6/15の「電気伝導(オームの法則)」,
6/17の「電気伝導(つづき1) (ジュール熱)」,6/19「電気伝導(つづき2) (衝突の正体)」,10/11「ボーズ・アインシュタイン凝縮とゼータ関数」,
2007年6/9の「フォノン(1)(静止格子模型の破綻)」,6/12の「フォノン(2)(調和結晶の古典理論)」,6/13の「フォノン(3)(調和結晶の量子論)」,
そして,6/15の「ハートリー・フォック(Hartree-Fock)近似(1)」,6/17の「ハートリー・フォック(Hartree-Fock)近似(2)」,6/18の「ハートリー・フォック(Hartree-Fock)近似(3) 」6/19の「フォノンによる電子間引力(超伝導の基礎) 」があります。
まだまだ,2007年6/26の「フォノンと多体問題(超伝導の基礎)(1)」から7/4の「フォノンと多体問題(超伝導の基礎)(4) 」までのシリーズやもっと前の原子の分極振動による分子間力について述べた2006年10/14の「零点エネルギーとファン・デル・ワールス力」も参考になると思います。
これらは今日のこの記事以降のシリーズに対する予備知識として参考になる記事を書き連ねているとも言えます。まあ,実はバックナンバーの宣伝ですが。。。
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