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2008年12月20日 (土)

運動物質内の相対論(7)(電子の古典模型)

運動物質内の相対論の続きです。

 

前回は閉じていない系について述べましたが,その叙述が中途になっていたので,まずはその続きからです。

まず,途中で中断したので改めて閉じていない系の一般的事項を再確認します。

対象とする閉じていない系をΣとし,そのエネルギー運動量テンソルをTμνとします。

 

また,この系Σに影響する外界全体のエネルギー運動量テンソルをSμνと書けば,∂Tμν/∂xν=fμ=-∂Sμν/∂xνと書けます。

 

μは,系Σの各点で外界によって及ぼされる4元力密度です。

系のエネルギー密度をh,3次元のエネルギー流束密度ベクトルを,運動量密度のベクトルをで表わすと,これらは成分表示でSk=cT0k,gk=Tk0/c,h=T00,またはgμ=(h/c,)=Tμ0/cで定義されます。

さて,ここからしばらくは閉じていない系の中でも特に静的な系と呼ばれるものを考察します。

まず,静的な系の定義です。

これまでの前提では,系に働く力の密度fμは∂Tμν/∂xν=fμ=-∂Sμν/∂xνで与えられるとされています。

 

つまり,力の密度fμは系の外部のテンソルSμνによってfμ=-∂Sμν/∂xνのようにある種の外力fμ=fextμとして与えられるものとしていました。

 

しかし,ここでは対象としている閉じていない系のエネルギー運動量テンソルをTμνで表わすのは同じですが,fμが外力fextμではなく系の内部の歪みによるる弾性的応力のように,対象とする系Tμν自身からfμ=-∂Tμν/∂xνによって与えられるとします。

そして,ある慣性座標系S0が存在して座標系S0では,あらゆる物理量が時間に無関係で,しかも0=∫0dV0=0,∫0dV0=0 となるようにできるとき,この系(Σ,Tμν)を静的であると言います。

 

つまり,座標系S0では運動量やエネルギー流は全く無く,全ての量は座標系S0に固定されていて全体に静止している系ですね。

この場合に,(S0)=(1/H0)∫h0(,t)dV0=(1/H0){∫0dV}0で定義されるS0系での質量中心(S0)を考えます。

 

以前のS系での質量中心(S)の移動速度に対する式は,(S)/dt=c2/H-c(S)(∫f0dV)/H-c(∫0dV)/H+c{∫(/c-c)dV}/Hです。

 

この式において,右辺の物理量に全て上添字 0 を入れるとき,今の系ではf0は外力という意味ではゼロなので,d(S0)/dt=0 となり,質量中心(S0)はS0系で静止しています。

したがって,静的な系はニュートン的重心の定義を相対論に一般化することが可能な例の1つになっています。

さて,静的な系の1例として,特定の座標系S0で静止している荷電物質の電磁場を挙げることができます。物質を除いた電磁場だけを対象としているため,系のエネルギー運動量テンソルTμνは電磁エネルギー運動量テンソルで与えられます。

特に誘電率がε0,透磁率がμ0の真空中と同じ電磁場を仮定します。既に真空中の電磁場の電磁エネルギー運動量テンソルSEMμνは,SEMμν=-(c2ε0)(Fλμλν-(1/4)ημν(Fλσλσ)]なる形で与えられることを知っています。

 

ここに,Fμν≡∂μν-∂νμでAμ≡(φ/c,)は電磁場を示す電磁ポテンシャルです。すなわち,φはスカラーポテンシャル,はベクトルポテンシャルです。

今の場合には,μν=SEMμνなのでfμ=-∂Tμν/∂xν=-∂SEMμν/∂xνであり,fμは荷電物質に働く4元的電磁力の密度を表わします。

 

そして,電磁場のエネルギー流束密度は×なるポインティングベクトルで表わされます。

 

系が静的であるための条件:0=0,∫0dV0=0 が成立することは,この座標系では電磁場の移動速度がc20/H=0=0 に等しいということなので,電磁場の系が静止していることを意味します。

 

言い換えると,ポインティングベクトルがゼロになるような系をS0系に取っているという意味です。例えば,0≠0 で0=0 の静電場はそうですね。

静的な閉じていない系の他の1例としては,容器に入れられた流体があります。これは流体が容器の壁からの外圧で容器中に閉じ込められている場合です。 

0が速度で運動しているように見える慣性系をSとすると,SはS0に対して-で運動しているので,S0 →Sのローレンツ変換の係数Λμν (xμ=Λμν)は,Λij=δij-(uij/2)(γ-1),Λk0=Λ0k=γuk/c=-γuk/c,Λ00=γで与えられます。

 

ただし,γ≡1/(1-2/c2)1/2です。

 

これの逆変換の係数Λμνは係数Λμνにおいて,→-とすれば得られ,Λij=δij-(uij/2)(γ-1),Λ0k=Λk0=-γuk/c=γuk/c,Λ00=γとなります。

そこで,テンソルの変換性Tμν=ΛμλΛνσ0λσに,これら具体的な変換係数Λμνを代入して全空間で積分し,dV=dV0(1-2/c2)1/2を用います。

 

まず,Tk0=Λk0Λ00000+ΛkiΛ000i0+Λk0Λ0i00i+ΛkiΛ0j0ij,およびT00=Λ00Λ00000+Λ0iΛ000i0+Λ00Λ0i00i+Λ0iΛ0j0ijです。

 

結局,cgk=γ20k/c+cγg0iki-(uki/2)(γ-1)}+γ2ki0i/c2+γuj0ijki-(uki/2)(γ-1)}/c,h=γ20+γ2i0i+γ2i0i/c2+γ2ij0ij/c2を得ます。

 

また,もちろん∫0dV0=0,∫0dV0=0 です。,

したがって,流体のS系での運動量とエネルギーの表式として=∫dV=∫dV0/γ=[H0+({(∫0dV0)}/2)(1-1/γ)]/{c2(1-2/c2)1/2}+{(∫0dV0)}/c2,およびH=∫hdV=∫hdV0/γ=[H0+{(∫0dV0)}/c2] /(1-2/c2)1/2が得られます。

 

ここに,0は成分がT0ijのテンソルです。,Hは時間的に一定ですが,Gμ≡(H/c,)は4元ベクトルのようには変換しないことがわかります。

これは,=-τとすると,以前に弾性体に対して求めた式:2/c2){h0+(1-1/γ)(uτ0)/2)}+γ(τ0)/c2,およびh={h0+(uτ0)/c2}/(1-2/c2)を,弾性体内のいたるところでが一定と見て全空間で積分した後に,dV=dV0(1-2/c2)1/2としたものに一致します。

 

いずれにしても,弾性体内のいたるところで応力がゼロ,つまり0=0 でない限り,Gμ≡(H/c,)は4元ベクトルとは成り得ず,それゆえ閉じた系でもないことがわかります。

また,特にT0ij=p0δijなら,完全流体の式;=(H0+p00)/{c2(1-2/c2)1/2},H=(H0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2と同じになります。

特に,ある系S0で荷電物体が静止している場合を考察してみます。 

対象とする系を荷電物体に付随する電磁場のみとして,系のエネルギー運動量テンソルをTμνと書けば,これは電磁エネルギー運動量テンソルSEMμνそのものですから,Tμν=SEMμν=-(c2ε0)(Fλμλν-(1/4)ημν(Fλσλσ)]と表現されます。

 

先にも述べたように,Fμν=∂μν-∂νμであり,Aμ≡(φ/c,)は電磁場を示す電磁ポテンシャルです。

 

電磁場の強さを示す電場は=-∇φ-∂/∂t,磁束密度は=∇×で与えられます。

 

これらは,Fμνで表現すると(E1,E2,E3)=-c(F01,F02,F03),=(B1,B2,B3)=-(F23,F31,F12)です。

 

また,電束密度,および磁場の強さは,それぞれ=ε0,および0で与えられます。

 

さらに,マクスウェルの応力テンソルはtij=ε0ij+μ0-1ij-(1/2)δij02+μ0-12)ですが,これは今の場合Tμνの空間成分にマイナスをつけたものです。つまり,tij=-Tij=-SEMijです。

  

(以前の応力表記ではτij=-tij=Tij=SEMijです。)

電磁場のエネルギー流束密度を示すポインティングベクトルは,×で定義されますが,これはS0系では00×0です。

 

もちろん∫0dV0=0 であるはずですが,今の場合は定常的な伝導電流は無いと考え,いたるところで00=0 とすると,実質的な場としては電場0≠0 のみがあって,いたるところで0=0 です。

 

また電磁運動量密度もゼロ,つまり0=0 となるはずです。

そこで,00=0 の静電場のエネルギー密度h0,エネルギー流0,電磁運動量密度0,マクスウェルの応力テンソルt0ijを具体的に書くと,h0=ε0|0|2/2,00=0,t0ij=ε00i0j-(1/2)δijε0|0|2となります。

さらに,荷電物体の電荷分布が球対称になっている場合のみを考えることにします。

 

この場合には対称性から場も球対称となるはずで,ある点の電場0は電荷分布の中心とその点を結ぶ動径ベクトルの方向を向いています。

 

したがって,∫E0i0jdV0=(1/3)δij∫|0|2dV0となり,それ故,∫t0ijdV0=-(1/6)δij∫|0|2dV0=-(1/3)δij∫h0dV0=-(1/3)δij0です。

そこで,前に求めた一般式=∫dV=[H0+({(∫0dV0)}/2)(1-1/γ)]/{c2(1-2/c2)1/2}+{(∫0dV0)}/c2,H=∫hdV=∫hdV0/γ=[H0+{(∫0dV0)}/c2]/(1-2/c2)1/2に∫T0ijdV0=-∫t0ijdV0=(1/3)δij0を代入すれば,球対称電荷分布の荷電物体が速度で運動しているときの電磁運動量elと電磁エネルギーHelが得られます。

この結果,el=(4/3)Hel0/{c2(1-2/c2)1/2},Hel=Hel0{1+(1/3)2/c2}/(1-2/c2)1/2が得られます。

 

ただしHel0は電荷の静止系S0における荷電物体に付随した電磁場のみのエネルギーです。

ローレンツの古典電子論の基礎方程式は物質中の現象論的マクスウェル方程式において,誘電率がε=ε0,透磁率がμ=μ0の極限,つまり真空中のマクスウェル方程式と一致していますから,上述の球対称荷電物体がローレンツらによる電子の古典模型を表わしています。

ローレンツは電子の質量,エネルギー,運動量の起源を全て電磁的なものに求める立場を提唱しました。

 

しかし,上の最後に得られた式:el=(4/3)(Hel0/c2)/(1-2/c2)1/2,およびHel=Hel0{1+(1/3)2/c2}/(1-2/c2)1/2によれば,(Hel/c,el)は4元ベクトルにはなりません。

 

そこで,これらを電子を自由な質点粒子と見たときの4元運動量とみなす立場をとることは不可能なことがわかります。

したがって,電子の系は電磁場単独では閉じていない系として典型的なものです。

 

真空中のマクスウェル方程式が全空間にわたって成立することを認める限り,電子の矛盾のない古典的描像を作るためには,電子の内部に電磁的でないエネルギーや運動量が存在すると仮定する必要があります。

静止系で球対称な電荷分布を持つ電子の古典模型として,内部には電荷がなく表面だけに総電荷eが一様に分布した半径aの弾性球を考えてみます。

 

動径方向の単位ベクトルを/r(r≡||)として真空中のマクスウェル方程式を解くと,r>aでは0=-e/(4πε02),r<aでは0=0 です。また磁場は全空間で00=0 です。

これらを,h0(1/2)ε0|0|2,00=0,t0ij=ε00i0j-(1/2)δijε0|0|2に代入すると,t0ij=ε02ij/(4πε02)2-(1/2)δijε0/(4πε02)2,かつHel0=∫h0dV0=(1/2)∫ε0|0|2dV0=4π[ε02/{2(4πε0)2]∫adr(r2/r4)=e2/(8πε0a)となります。

 

そこで,Hel0=mel2と書けばmel=e2/(8πε02a)でありこれは電磁場の電子の静止質量への寄与を示していると考えられます。

この系で球自身に働く球表面の単位面積当たりの電気力は,fel0i=t0ijj=ε02i/(4πε02)2-(1/2)ε0i/(4πε0ra2)2=(1/2)ε0i/(4πε02)2,つまりel0=(1/2)ε0/(4πε02)2です。

 

こうして球表面上で中心から動径外向きに働く電気的斥力は球表面に逆向きに弾性応力として働く張力と釣り合うはずです。

 

つまり,応力というのは例えば外部から圧力を受けるときには弾性歪みへの反発力として同じ大きさの圧力として発現し,また張力を受けるときには同じ大きさの張力として現われます。

 

いずれにしろ結果的には釣り合うものですね。

したがって,この系は球内部に対して働く応力テンソルが垂直応力の形:-tme0ij=p0δij,p0=-(1/2)ε0δij/(4πε02)2=-Hel0/(4πa3)をしているので,数学的形式だけの意味なら完全流体の系で圧力を張力に変えただけの系に対応しています。

そこで,既に以前の項目で求めてあった完全流体に対する全運動量と全エネルギーについての表式=(H0+p00)/{c2(1-2/c2)1/2},およびH=(H0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2を参照すると,荷電物体の力学的な運動量,およびエネルギーの表式が得られます。

 

すなわち,me=(Hme0+p00)/{c2(1-2/c2)1/2},およびHme=(Hme0+p002/c2)/(1-2/c2)1/2になります。

これに,p0=-Hel0/(4πa3),V0=4πa3/3を代入すればme=[{Hme0-(1/3)Hel0}/c2]/(1-2/c2)1/2,およびHme={Hme0-(1/3)Hel02/c2}/(1-2/c2)1/2を得ます。

 

これと,先に得られているel=(4/3)(Hel0/c2)/(1-2/c2)1/2,およびHel=Hel0{1+(1/3)2/c2}/(1-2/c2)1/2の和を取れば,meel={(Hme0+Hel0)/c2}/(1-2/c2)1/2=(H0/c2)/(1-2/c2)1/2,およびH≡Hme+Hel=(Hme0+Hel0)/(1-2/c2)1/2=H0/(1-2/c2)1/2となります。

以上から,力学的量と電磁的量を加えた全系での量Gμ=(H/c,)は静止質量として,H0/c2を持つ質点粒子のエネルギー運動量4元ベクトルの表現に一致しており,もちろん閉じた系となっています。

 

以上の模型はポアンカレ(Poincare')が初めて用いた電子模型ですが,彼は電子の中で電気的張力に抗する"弾性力"の本性を特に規定しようとはしませんでした。

ただ,ポアンカレは電磁的ではない力が存在すること,およびその力が対応するエネルギー運動量テンソルと,電磁エネルギー運動量テンソルの和で作られた全エネルギー運動量テンソルTμνが∂Tμν/∂xν=0 を満足することを仮定しただけでした。

 

この式:∂Tμν/∂xν=0 はこれまで述べてきたように閉じた系の特性です。

こうしたポアンカレのように非電磁的性質を持つ場の量を是非とも導入する必要があるという言わば二元的な立場とは正反対の一元的な立場を支持したのがミイ(Mie)とボルン(Born)でした。

 

彼らは,電子内部に余分に導入される場も,もちろん電磁場であるとしました。ただし電子内部では場が非常に強いので電子内部の場の方程式はマクスウェル方程式からかなりずれたものを採用しています。

 

そして,この電子内部の電磁場の方程式はもはや線型ではありませんが,彼らの模型では,全体である電磁エネルギー運動量テンソルSEMμνが必要条件として∂SEMμν/∂xν=0 を満たすようになっていて,自己力fμ=-∂SEMμν/∂xνが消えるという条件を満たしています。

現時点的には電子のような素粒子に関する問題の最終解を古典論に頼るのは絶望的な話です。

 

プランク(Planck)の作用量子の他にも,長さの次元を持つ新しい基本定数を導入することなどが必要でしょう。

しかし,とにかく系のエネルギー運動量テンソルの存在を認める限り,相対性理論から自己力が消えること,つまりこのテンソルの4次元発散がゼロになることが必然的に要求されることがわかりました。

今日はここで終わります。 

参考文献:メラー 著(永田恒夫,伊藤大介 訳)「相対性理論」(みすず書房)

 

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