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2009年1月12日 (月)

運動物質内の相対論(14)(物質中の電磁エネルギー運動量;中篇)

 続きです。これでこのシリーズを終わりにするつもりでしたが,改めて論文を読み返しながら書いていると原稿的にも時間的にも長くなってしまったので,またまた後編から中篇に変更となってしまいました。

まず,前回未完になっていた原稿のどこで引っかかったか?というと,それは非常に基本的なことでした。

誘電率ε0,透磁率μ0の真空,またはそれと同等な空間の中で速度の大きさが光速c=(ε0μ0)-1/2に一致した状態で運動していた電磁波は,

屈折率がnの誘電率ε,透磁率μの物質の媒質中に入ったとたん,

c/n=(εμ)-1/2なる大きさの速度に変わります。

 

そうした誘電体物質の中に入るとエネルギーや運動量が真空中と比べてどう変わるか?ということについて,古典論や量子論に基づいた基本的な計算をチェックしている段階で,この論文の内容と合わず,

 

こりゃ基本的なことも理解できてないな?

 

ということで混乱したんですね。

結局は「運動物質内の相対論(10),(11)」まで進んで解決しました。

電場と磁場を持つ平面電磁波の進行方向の単位ベクトルをとすると,誘電率がεで透磁率がμの場合,これらは波動方程式の一般解として,

=ε-1/2{f(t-(xn)/w)1+g(t-(xn)/w)2},

=μ-1/2{-g(t-(xn)/w)1+f(t-(xn)/w)2}

と表わされることがわかります。

これを用いて,エネルギーU≡∫hdV,またはエネルギー密度hを計算すると,これらは物質中でもεやμとは無関係で,

 

エネルギー密度はh=(1/2)(ε2+μ2)=f2+g2

で与えられることがわかります。

一方,"エネルギーの流れ密度=Poynting ベクトル"は,

×=(εμ)-1/2(f2+g2)=(εμ)-1/2

と計算されます。

 

そこで,真空中の流れ密度0=(ε0μ0)-1/2=chに対して

物質中では,0/nとなることが明確に示されます。

物質中での電磁運動量密度についても,Minkowskiの場合は,

×=εμ(×)=c-1(εrμr)1/2(f2+g2)

=c-1(εrμr)1/2=nh/cになること,

 

Abrahamの場合は,Abr/c2=(×)/c2=ε0μ0(×)

=c-1(εrμr)-1/2(f2+g2)=h/(nc)

となることが理解できます

したがって,屈折率がnの屈折性物体の中でのMinkowski,およびAbraham

の電磁運動量:≡∫dV,およびAbr≡∫AbrdVは,それぞれ,

=(nU/c),およびAbr={U/(nc)}

と書けることもわかります。

 

(真空中(n=1)では,Abr=(U/c)です。)

ここでr≡ε/ε0r≡μ/μ0で,これらはそれぞれ比誘電率,

比透磁率と呼ばれる無次元の量です。

つまり,電磁エネルギー運動量テンソルをTEMμνと書くと電磁運動量密度はその空間時間成分によってcgk≡TEMk0で定義されますが,

Minkowskiの定義では×=εμ(×)

=c-1(εrμr)1/2(f2+g2)です。

 

一方,Abrahamの定義ではcgAbrk=TAbrEMk0Abr

/c2=(×)/c2=ε0μ0(×)

=c-1(εrμr)-1/2(f2+g2)です。

そこで,Abr(×)/c2/c2,×=εμ(×)

=εμにより,Abr-(εrμr-1)/c2,

またはSAbrk0=cgk-(εrμr-1)Sk/cと表現されます。

 

Minkowskiの理論での4元力密度:fμ=-∂Sμν/∂xν,あるいは

cf0=-∂h/∂t-div,fk=-∂gk/∂t+∂tkj/∂xj

ρ==0 の場合,全てゼロです。

 

ところが,Abraham理論ではAbr-(εrμr-1)/c2なので

Abrは一様な絶縁体の中でもゼロになりません。

 

つまり,=c(εrμr)-1/2(f2+g2)ですから,運動物体の静止系をSとすると,このS系では=0,Abr=c-2rμr-1)(∂/∂t)

=c-1rμr)1/2rμr-1){∂(f2+g2)/∂t},かつ

0 =f0 Abr=0 です。

 

S→S'の座標変換が無限小Lorentz変換:x'μ=xμ+εμνν

=(δμν+εμν)xνμν=ενμで与えられるS'系では,

μAbr'= μAbr+εμννAbrによって,cf0Abr'=cε0kkAbr

=c-2rμr-1)(/∂t)

=c-1rμr)1/2rμr-1)(vn){∂(f2+g2)/∂t}

が得られます。

エネルギー保存の連続の方程式は∂h/∂t+div=-cf0

なる形ですから,物体が静止している系Sでは

0 Abr=f0 =0 より,どちらの表現でもエネルギーが

保存されます。

 

しかし,物体が運動していると見えるS'系ではcf0'=0,cf0Abr'≠0

となって,Abrahamの表現でのみ,電磁場単独ではエネルギーが

保存されません。

さらに量子論では光を1個,2個と数えることができて,真空中で振動数がνの,"光=電磁波"の持つエネルギーは,"数えられる光の量子=光子(photon)"のエネルギーという意味では,光子1個当たりhνで

与えられます。

 

体積Vの中に,νが一定(単色)の光子がN個あるなら,総エネルギーは

U=Nhνで与えられます。

ここでは,hは`lanck定数と呼ばれる定数を指しますが,すぐ前に与えたエネルギー密度に同じ記号hを用いているので,以下では混乱を避けるため,

振動数νではなく角振動数ω=2πνとhc≡h/(2π)を用いて,

エネルギーをU=Nhcωと表わすことにします。

 

そして,真空中では光子1個の運動量の大きさはp=hcω/cで与えられるため,古典論では≡∫dV=(U/c)で与えられる真空中の総運動量は,量子論でも=(Nhcω/c)=(U/c)です。

しかし,屈折率がnの物質中の総電磁運動量は,すぐ上で述べたように古典論ではMinkowskiの理論では(nU/c),Abrahamの理論では

Abr={U/(nc)}で与えられるというように,

意見が分かれていました。

 

したがって,量子論でも物質中の総電磁運動量はいずれかの表現に一致すべきであると考えられます。

 

つまり,通常通り光子の運動量の大きさをpと書くと,真空中でpであったものが物質の内部に侵入すると,Minkowskiの理論ではnpに増加し,

Abrahamの理論ではp/nに減少するというわけですね。

ところがEinsteinの箱として知られている思考実験を考えると,運動量がpからp/nに変化するAbrahamの理論の方が正当化されます。

摩擦が全くない床面に質量がMで屈折率がnの一様な透明物質で満たされた箱が置かれていて,その長さLの一辺がx軸に平行な向きにあるとき,箱の内部のx軸の負の側の境界面付近からエネルギーがUの"光=電磁波"が自発的に放出されてLを通過し,正の側の境界から真空中に出て行くという物理的な系を考えます。

そして,既に以前の記事では,閉じた系の一般論として任意の慣性系Sにおける系の質量中心(重心)の座標(S)はd(S)/dt=c2/Uを満たし,エネルギーも運動量も保存される場合,つまり,Uもも時間的に一定のときには,慣性中心(重心)の座標(S)は一定速度で運動すると書きました。

ただし,今の場合はUという記号は電磁場のみのエネルギーを指すので,d(S)/dt=c2/Uにおける右辺の系全体のエネルギーを表わす記号Uは,(U+Mc2)で置き換える必要があります。

 

(S)/dt=c2/(U+Mc2)ですね

しかも,S系で最初静止していた閉じた系の内部で外部からの誘導ではなく,自発的に光の放出が生じる現象では,d(S)/dt

=c2/(U+Mc2)における右辺の系全体の運動量は,最初から最後までゼロですから,結局d(S)/dt=0 となります。

 

すなわち,この過程では質量中心の座標(S)は一定不変です。

さて,物体が持つ力学的運動量をmとすると,その物体の速度はm/Mで与えられます。

 

また,系の中で放出された光のエネルギーをUとしているので,その光の実質的な質量はm=U/c2です。

 

そこで,光のみの運動量をe,系全体の運動量をとすると,em=0 により,m=-eですから,床をすべって運動する箱の速度は

=-m/Mと書けます。

透明で屈折率がnの物質中での光の速さはc/nなので,左側面付近で自発的に放出された光はc/nの速さで長さLの物体を通過してゆくため,

Δt=nL/cの時間経過の後には右側の境界面から出て光速cに戻るはずです。

 

そして,光放出の反作用,または反動で箱は反跳を受けて距離

s=vΔtだけ反対向きに運動するはずです。

したがって,このΔtの間に系の質量中心はΔX(S)

=(mL-Ms)/(m+M)だけ移動するはずです。

 

これに,m=U/c2,L=cΔt/n,s=GmΔt/Mを代入すると,

(mL-Ms)/(m+M)={U/(nc)-Ge}Δt/(m+M)を得ます。

 

ところが,上で論じたように,この過程ではdX(S)/dt=0 ですから,

ΔX(S)={U/(nc)-Ge}Δt/(m+M)=0 です。

それ故,光の運動量の大きさとしてGe=U/(nc)を得ますが,この電磁運動量の表現eはAbrahamの運動量Abr={U/(nc)}に一致していて,Minkowskiのそれ=(nU/c)とは異なります。

しかし,そもそも屈折率n,またはこれをn=c/(εμ)1/2で特徴付ける誘電率ε,透磁率μなどは物質を連続体で近似したときの巨視的な量であり,

光子という微視的な粒子の運動量p=gをそれらで規定しようとするのはかなり無理があるのではないか?という素朴な感想を持ちました。

さて,改めて対象としている文献: Robert N.C.Pfeifer,Timo A.Nieminen,Norman R.Heckerbergの論文:"Momentum of an electromagnetic wave in dielectric media",日本語に訳すと「誘電体媒質中の電磁波の運動量」の概要を紹介しましょう。

まずは,Abstractと題されているわけではありませんが,いわゆるAbstractの直訳です。

※ およそ100年前,誘電体中の電磁波の運動量テンソルとして2つの異なる表現が提案されました。

 

そのうち,Minkowskiのテンソルは電磁波が誘電体中に入ると線運動量が増加すると予測し,一方Abrahamのテンソルは減少すると予測しました。

理論は両者にとって共に有利な論拠が現われながら進んでゆき,実験はそれら2つを区別することが不可能であることを証明しました。

 

さらに別の表現形式も提案されるようになり,その形を考案した各々は自己の形式こそ唯一の真のテンソルであると主張しました。

本論文はそれらのディベートと"如何なる電磁エネルギー運動量テンソルもそれだけでは完全ではない。"という最終的な結論のレビューを与えるものです。

 

電磁場に伴なう物質媒質の適切なエネルギー運動量テンソルを考慮すると,提案された種々の(電磁)テンソルの全ては基本的に常に対等です。

 

そこでどの形式を選択するかは,単なる個人の好みの問題ということになります。

次に,序文(Introducton)の要約です。

電磁波のエネルギー運動量テンソルの正しい形,特に誘電体中での電磁波のエネルギー運動量テンソルの正しい形については,ほぼ100年間も論争が続けられてきました。

 

まず,テンソルの2つの異なる形式が1908年,1910年にMinkowski,そして1909年,1910年にAbrahamによって提案されました。

また,順不同ですが,後年の1967,1968,1972年にde GrootとSuttorp,1966年にGrotと Eringen,1918年にLivens,1955年にMarksとGyorgyi,

 

1976年にPeierls,そして1967年にPenfieldとHausによって別の形式が追加されました。

この問題は実験家の興味を引きました。

 

そして初期の認識では,こうしたテンソルのうち幾つかの異なる形式については,実験によって区別することができて有用な物理的帰結を生み出す可能性があるかに見えました。

 

しかし,初期の予想に反してなかなか決着が付きませんでした。

 

我々は数々の実験のレビューを通して,この問題が何故そうした実験によって区別できるケースではないのか?を明らかにします。

この論題についての最近の仕事は,3つのグループに分割できます。

 

第1には与えられた環境には基本的にどの表現が最も有用か?,適切か?という疑問に集中した実用的な応用と関わるものです。

 

第2には,こうした理論的な問題をさらに新しい領域へ拡張しようとするものです。

しかし,そうした目的の論文はこの論題に関する既存の文献の断片的な性格によって様々な制約を受けるため,結果として結論とするものが弱められています。

 

第3には,恐らく意外なことではありませんが,あるキ-(key)となる論文が相対的に不明瞭なままで残っているために,論争が既に決着していることを未だに確信されてないものです。

この題目に関する広範な関心はいまだに存在し,第2および第3のカテゴリーに属する仕事の広きにわたる流行を見れば,筋の通ったわかりやすいレビューを与えることが大いなる利益になることは明らかです。

そこで我々の本論文では,問題の論争は既に決着していて電磁場に伴なう媒質の物質場のテンソルを考慮に入れれば,測定可能と予測されている挙動の全ては,電磁場のエネルギー運動量テンソルの形式の選択には全く無関係であることに注意を喚起することを目指しています。

特に,論争での新しい関心は光ピンセットや流体媒質中での微小粒子の操作手法の出現によって刺激を受けています。

 

(序文終わり)

さて,次に問題意識の出現過程などを含めた初期の歴史を述べます。

誘電体媒質中の電磁波のエネルギー運動量テンソルを提案した初めての人物は1908年のMinkowskiでした。

 

彼による表現は電磁波の運動量密度としては×に対応しています。は電束密度,は磁束密度です。

 

そこで,Minkowskiの表現によれば,伝播する電磁波の総運動量は分散性を無視すると自由な真空から屈折率nの媒質中に入る際に,pからnpに増加します。

Minkowskiのエネルギー運動量テンソルの受け入れ可能な導出は1972年Moeler(メラー)の「相対性理論第2版」に見出されます。

 

(※このメラーの「相対性理論第2版」が,正にこれまでのこのシリーズ記事で私が参考文献としてきた源です。)

Minkowskiの誘電体内での電磁エネルギー運動量テンソルは非対称であるが故に角運動量が保存しないという批判があり,1909,1910年にAbrahamはそれに代わる対称な電磁エネルギー運動量テンソルの形式を発見しました。

 

彼のテンソルによる電磁波の運動量密度は,Minkowskiの×に代わってc-2(×)で与えられます。ここでは電場,は磁場です。

そこで,Abrahamの表現によれば,伝播する電磁波の総運動量は分散性を無視すると自由な真空から屈折率nの媒質中に入る際に,pからp/nに減少します。

 

そこで,媒質中での光子はAbrahamのテンソルではMinkowskiのそれよりも小さい運動量を運ぶことになります。

しかしながら,1972年のde GrootとSuttorp,1967年のPenfieldとHausは,両者いずれの表現式でも,電磁エネルギー運動量テンソル単独では不完全であることを指摘しました。

 

彼らは媒質中では,いずれの表現式にも媒質の物質場自身,および物質場と電磁場の間の相互作用によって生じる運動量が加味さるべきである,と考えました。

熱物理学的に完全に閉じた系では,全体としてはエネルギーも運動量,角運動量も全て保存するはずです。

 

そこで,各々の電磁エネルギー運動量テンソルの表式に呼応して,補完する物質場のエネルギー運動量テンソルを考慮する必要があります。

 

特に,Minkowskiの電磁テンソルは全体としての角運動量が保存するように物質場のエネルギー運動量テンソルを調整する必要があります。

電磁場にさらされている間に,その源から離れたところで一定速度を獲得する物体を伴なう透明物体の挙動は,それほど直線的ではありません。

 

既存の文献では,誘電体媒質中に全体的または部分的に沈められた反射,屈折物体を扱える矛盾のない数学的アプローチが欠けています。

誘電体中で電磁波によって働く力は,Minkowskiのテンソルでは,その片割れの物質場のテンソルが無いなら評価不可能で,両者は異なる結果を予測します。

 

Abrahamの電磁テンソルと物質場テンソルのペアによって予測される力の密度は前述のように,Abr=c-2rμr-1)(∂/∂t)だけ小さいことがわかります。

 

この項は歴史的経緯でAbrahamの力と呼ばれます。

 

ここではPoyntingベクトル×であり,εrrはそれぞれ比誘電率,比透磁率です。

Minkowskiのテンソルの片割れである物質場テンソルを考慮するとMinkowskiのペアもより小さい値ではありますが,力の密度を生起させることがわかります。

20世紀の最初の頃は物質場テンソルの重要性が充分に認識されていなかったため,活発なディベートがあったにも関わらず,それらは2つの電磁エネルギー運動量テンソルの各々の表現が有利と見なされる点を確実に保証するという意味を持ちませんでした。

誘電体中の光子の運動量というのはかなり抽象的な概念ですから,ある意味これに着目する意味すらないのではないか?とも思えます。

 

そもそも,そうした光子の運動量を実験的に直接測定することは不可能ですね。

 

つまり与えられた環境の中である種の検出装置によって測ることが可能なのは電磁場と物質場の双方を含んだ総運動量,または総運動量の遷移量であって,AbrahamとMinkowskiの電磁テンソルを区別する実験を編み出すことさえ不可能ではないか?と問う人々もかなりいました。

これまでなされた具体的な実験の主要なものを列挙してみます。

.Jones and Richards(1954)

 結局,MinkowskiとAbrahamの2つのテンソルを区別する実験をすることさえも不可能であると結論しました。

.Ashkin and Dziedzic(1973)

 レーザービームを屈折率が1に近い空気中から屈折率の大きい誘電体中に侵入させて,運動量が増加すればMinkowskiが正しく,減少すればAbrahamが正しいと結論する実験です。

 しかし,これで得られる結論は,電磁場の運動量の方が物質場のそれよりも急激に前方に運ばれるという誤った仮定に基づいていました。

 この仮定を認めるなら,Abrahamのケースは物質場の効果を無視していることになります。

.James;Walker,Lahoz and Walker(1968)

 直接Abr=c-2rμr-1)(∂/∂t)なるAbrahamの力を測定し,これが存在することを結論しました。それ故,Abrahamのテンソルの正当性を主張しています。

 しかし,後に電磁場と物質場を適切に分解すればMinkowskiのテンソルを採用したのと大差ない結果であることが判明し,これではいずれかの正当性を識別することは不可能であるということになりました。

.Jones and Leslie(1977)

 1954年のAの実験を新しい技術を利用して再試行しました。光源としてタングステンランプの代わりにレーザーを使用するetcです。様々な修正を通して偏差が0.05%の最終結果を得るに至りました。

結局,Jonesは,pを自由な真空中での光子の運動量としnφ,およびngを,それぞれ位相速度,および群速度の変化に付随する屈折率と定義するとき,媒質中での光子の運動量はMinkowskiテンソルに従えばnφpとなり,Abrahamテンソルに従えばp/ngとなるとしました。

 そして,前の実験のときと同じく両方のテンソルが共に受け入れ可能であると結論しました。

 

 すなわち,例えばAbrahamの場合にはMinkowskiの運動量nφpをnφp=p/ng+nφp{1-1/(nφg)}と分割して,第2項は物質場の力学的な成分に寄与すると考えるわけです。

 

 (実験例とその紹介の項終わり)

 次には種々の仮説から生み出された制約の紹介と,Abraham,Minkowskiとは別の理論の可能性について述べます。

今までの議論も含め,それによってAbrahamとMinkowskiの電磁エネルギー運動量テンソルの一方または他方が誤りであるとする制約を与える非常に多くの試みがなされました。

初期になされた示唆はMinkowskiの電磁テンソルでは角運動量が保存しないというものです。

 

これはEinsteinとLaub(1908,2005)によってなされた指摘ですが,その指摘は別に電磁エネルギー運動量テンソルを角運動量が保存する対称形式に発展させようとする試みを行ったAbraham(1909,1910)への動機付けとなりました。

EinsteinとLaub自身が提案したテンソルは,誘電体の静止系以外では正しくないというので限られた注意しか喚起しませんでした。

 

実際,それが正しいとすると,逆に当時既に大いに共感を得るに至っていた相対性原理が疑わしくなるというものでしたから,Abrahamの形式と比較してかなり小さい関心しか得られませんでした。

一方,Dallenbach(1919)は微視的考察からMinkowskiの電磁テンソルを導出できると主張しました。

 

しかしGrootとSuttorp(1972)は,その手順は静電系から動電系に一般化しようとすると正当化に失敗すると指摘しました。

 

Pauli(1958)の著書にも,そうした手続きを承服できないという論旨のことが書かれているらしいです。

既に述べたように,Minkowskiの電磁テンソルにおいて角運動量が保存しないのは電磁場だけでは系は不完全で閉じた系とはならないからで,適切な物質場のテンソルを考慮してそれとの和を取れば閉じた系になるため,全体としては角運動量が保存するようにできます。

 

同様に,Einstein-Laubテンソルも,特殊な準拠系への依存を無視することで救済することが可能です。

その他,von Laue(1950)やMoeller(1952,1972)の著書などにおける指摘があります。

 

これは,"誘電体内でのcより遅いエネルギー伝播速度を持つ電磁波のエネルギー流束だけによる電磁運動量が,それ単独で4元ベクトルを形成するのはMinkowskiの形式だけであって,Abrahamの形式では4元ベクトルとしての変換性を持たない"というものです。

しかしMoellerの著書では,初版(1952)ではMinkowskiの形式に強い賛同を結論していたのに対し,2版(1972)ではMinkowskiの形式の方が現象の記述に最適なものであるというような柔軟な表現に転化しています。

 

こうした哲学の変貌は,恐らく一方が正しくて他方が誤りであることを証明しようという試みよりも,両方が共に電磁力学における実際的道具となり得る位置を有することを認識する方向に意識が変わっていることの反映でしょう。

その他,まだまだこの種の一方が有利とする制約の存在についての主張と,それに伴なう新しいテンソルの表現形式の提案などについて書かれているのですが,結局,全ては電磁場だけでは閉じた系でないこと,そして電磁場と物質場への分割が論理的に矛盾のない仕方でなされているかどうか?ということに帰着するので以下全て割愛します。

というわけで,またまた長すぎるので次回に引継ぎます。

参考文献: Robert N.C.Pfeifer,Timo A.Nieminen,Norman R.Heckerberg((The University of Queensland Brisbane Queensland 4072 Australia):"Momentum of an electromagnetic wave in dielectric media" Reviews of Modern Physics Vol.79(4),pp1197-1216(2007)

 

PS:いつも思うことですが,金が無くて暇だけある場合には,誘惑が無いので物理学などの勉強は進みますね。

 

「小人閑居して不善を為す。」というのもありますがね。

 

 私は40歳で最初の会社を辞めて,その後2年間は別会社の正社員でしたが,それから49歳から50歳になる直前まではずっとアルバイトでした。

 

 この今でいうフリーターで暮らしていた10年足らずの間は,正に暇はあるけれど金が無いという状態でした。

 

 そのため,ギリギリの生活費はあっても.お金を使って遊ぶという誘惑に乗るには程遠い収入だったため,27歳までに学校で得た知識を全て取り戻し,さらに恐らくその数倍の知見を得ることに成功したと思います。

 

(私は金も無いのに借金してまで遊ぶという性格ではなく,エンゲル係数の高い生活費で衣食住の他にはせいぜい本代くらいです。

 

 私に借金があるのは,浪費のためというより僅かな赤字の累積です。

 

 1年に10万か20万円(1ヶ月に1万円か2万円)の赤字でも,20年も返せないまま累積すれば利子がゼロでも計算上は200万円から400万円の赤字になりますからね。)

 

 理論物理学というのは,実験装置とか機械とかの環境は全く不要なのでわざわざ大学の研究室とかに属さなくても,本とか論文とかがあれば勉強するだけなら一人でコツコツやれるし,それほどお金が無くても図書館や今はネットで論文取り寄せもできるので,あまり不自由ではない類の学問ですね。

 

 もっとも大学の研究室や研究施設に属していれば,わからないときの相談相手にも不自由しませんし,知らない新情報なども自然に入ってきます。

 

 また,専門の文献や専門書が豊富な図書室が付随していますし,実験物理や他の分野との交流も可能であるというメリットがあります。

 

 それに,既存の知見を勉強するだけでなく新しい研究をする場合にはもちろん自分一人でもそれなりの能力があればできないことはないけれど,細かい部分で,それぞれの専門家の意見を聞いて参考にするとか,共同研究をできるとかの機会もないし,それにそもそもそうした新しいことをしようとするための刺激が足りませんね。

 

 まあ,逆に小さなテーマでもいいから,偶には論文を出せよ,というようなプレッシャーを受けることはありませんがね。

 

 そもそも,私の場合はテーマとするところが大きすぎて,構想はあっても生きてるうちに是非とも具体化したいという気もありません。

 

 もちろん,それに付随する小さいテーマについてイチイチ小論として論文を出せるかもしれませんが,別にこのまま最期まで埋もれていていいので,そうした必要を感じませんね。

 

 確かに,近くに同レベルの相談相手がいればいいのにと時々思ったりはします。相談相手がいるといないのとでは理解の進行速度が全然違いますからね。

 

 また,既存の知見なら別の本なり文献なりをセカンド・オピニオンとすればいいので,独善に陥る危険性は少ないですが,新しいことを勉強,研究する場合は一人では独善に陥る危険性もありますね。

 

 まあ,道楽に過ぎませんけどね。。。。

 

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コメント

 どもhirotaさん。コメントありがとうございます。TOSHIです。

 残りは後編で書きますが,そもそも素粒子論のようなミクロな見方なら水中だろうと何だろうと素朴な真空中の電磁場と水分子の多体系の重ね合わせにすぎないと考えられます。

 つまり,液体を構成する分子たちの間にある大部分の領域である真空では水中であろうと,電磁波,または光子は普通に光速cで運動しているはずで,運動量についても光子運動量pのnpとかp/nとかの巨視的屈折率nによる増減というのは連続体近似の現象論とミクロな量子論の折衷にすぎません。

 重い電子と同じといえば同じような見方ですが光子運動量pに勝手に正か負の水分子系の運動量を加えたに過ぎなくて,光圧とか水が動く効果とかいってもどこで線引きしてどちらの効果がどちらに寄与しているかの区別なんて付くのか?単に人為的な区割りでしかないのではないか?という話だと解釈しました。

              TOSHI

投稿: TOSHI | 2009年1月13日 (火) 01時43分

水中で光圧を測定する実験くらいできそうな気がするが、増えるんか減るんかどっちだろ?(もちろん、水が動く効果も測定して差し引く)
物質中の電子が相互作用の衣を着て「重い電子」になったりするのと同様なんだろうね。(これは「準粒子」と言うんだったか)

投稿: hirota | 2009年1月12日 (月) 16時50分

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