超伝導の理論(2)
前回はちょっと前書きを述べただけで,結局,年を越してしまいましたが,超伝導の理論の続きの今年第1回目です。
微視的理論(特にBCS理論)が現われる前の,初期の現象論を幾つか述べます。最初に Gorter-Casimir理論です。
※ Gorter-Casimir Model
1934年,GorterとCasimirは先に論じた路線に沿って2流体モデルを進めました。まず,xが"正常"流体にある電子数の比率,(1-x)が超流体に凝縮された電子数の比率とするとき,2流体全体では次の形の自由エネルギーを有すると仮定しました。
金属中で正常状態にある電子数の比率がxのときの金属全体の電子による単位体積当たりのヘルムホルツの自由エネルギーF=U-TS)をF(x,T)と書くとき,これがF(x,T)=x1/2fN(T)+(1-x)fS(T)で与えられるとします。
ただし,fN(T)=-γT2/2,fS(T)=-β=const.です。
正常金属では電子による自由エネルギーは丁度fN(T)=-γT2/2ですから,モデル式は(1-x)→ 0 のときの自由エネルギーF(1,T)が正常相の自由エネルギーfN(T)に一致するようになっています。
また,-βは超流体に関わる凝縮エネルギーです。
このモデルにおいて,固定温度Tの下でF(x,T)が最小となるxを求めます。
すなわち,F(x,T)=-γT2x1/2/2-β(1-x)をxで微分してゼロと置いて,そのときのxを求めます。dF/dx=-γT2x-1/2/4+β=0 ですから,これを解けばx=γ2T4/(16β2)となります。
このxの値が絶対温度Tのときに電子の正常流体と超流体が互いに平衡を保っているときの全金属電子中の正常電子数の比率を与えるものと考えます。
そして,平衡状態:dF/dx=0 ときのxの値がx=1となる場合の温度が正常状態から超流体の状態に移る境目の温度,つまり臨界温度T=Tcを与えると考えられます。
それ故,1=γ2Tc4/(16β2)と置くとTc=(4β/γ)1/2を得ます。逆に,これを用いるとx=γ2T4/(16β2)=(T/Tc)4と表現できます。
一方,磁場Hがある場合の熱力学的関係から,温度Tでの正常状態と超伝導状態の自由エネルギー密度FN(T)とFS(T)の差と臨界磁場Hc(T)との間にHc2(T)/(8π)=FN(T)-FS(T)なる熱力学的等式が成立することがわかります。
ここで,当時の固体物性関係の慣例から電磁単位として,c.g.s.Gauss単位系を採用しています。
モデル式:F(x,T)=x1/2fN(T)+(1-x)fS(T)において,FN(T)=F(1,T)=fN(T)=-γT2/2,FS(T)=F(0,T)=fS(T)=-βですから,FN(T)-FS(T)=β-γT2/2=Hc2(T)/(8π),FN(0)-FS(0)=β=H02/(8π)(H0≡Hc(0))と書けます。
結局,Hc2(T)/H02=1-γT2/(2β)=1-2(T/Tc)2 ~ {1-(T/Tc)2}2より,Hc(T) ~ H0{1-(T/Tc)2}なる臨界場Hc(T)の温度依存性の表現が得られます。
そこで,Hc(T)は(T/Tc)の放物線関数になると予測されます。この式は,粗いものではありますが実際の実験とのよい一致を見ています。
そして,ヘルムホルツの自由エネルギーFの定義:F=U-TSから,dF=dU―TdS-SdT=PdV-SdTが成立しますから,エントロピーSは体積Vが一定:dV=0 のときの,FのTによる微分係数S=-∂F/∂Tで与えられます。
それ故,FN(T)-FS(T)=Hc2(T)/(8π)なる関係式から,エントロピーについてもSS(T)-SN(T)=HcdHc/dT/(4π)なる跳びが存在することがわかります。
さらに,電子比熱Ce=TdS/dTを考えると,超伝導体と正常導体の比熱の差=電子比熱の差;ΔCe≡CeS-CeNは,ΔCe=TdSS/dT-TdSN/dT=T{(dHc/dT)2+Hcd2Hc/dT2}/(4π)で与えられることがわかります。
このモデルでは,Hc(T)=H0{1-(T/Tc)2}(ただし,Tc=(4β/γ)1/2,H0=(8πβ)1/2)なので,dHc/dT=-2(H0/Tc)(T/Tc)=-2(2πγ)1/2(T/Tc)となります。
それ故,ΔCe=CeS-CeN=2γTc(T/Tc)3+(4βγ)1/2H0(T/Tc){1-(T/Tc)2}が得られます。そこで,温度Tを臨界温度Tcにすると,T=Tcにおける差はΔCe=CeS-CeN=2γTcとなります。
ところが,正常導体では電子比熱はTに比例することがわかっていてCeN=γTです。そこで,特にT=TcではCeN=γTcですから,超伝導状態での電子比熱はCeS=CeN+2γTc=3γTcとなります。結局Tcの近傍の温度T<Tcなる超伝導相では電子比熱としてCeS ~ 3γTc(T/Tc)3なる形のT3に比例するという近似式を得ます。
特にT=Tcにおいて,電子比熱がCN=γTc → CS=3γTcとなって比熱に不連続な跳びΔCeが生じることになります。そして,この跳びの相対的因子ΔCe/CNは3です。これは,再び実験と一致します。
ただ,この一致はそれほど驚くべきことではありません。というのも,この理論は実験と一致するように幾分技巧的と見える方法に基づいて成立しているからです。
特に,このモデルの式:F(x,T)=x1/2fN(T)+(1-x)fS(T)の最初の形は元々F(x,T)=xrfN(T)+(1-x)fS(T)と仮定されていました。
そして,xが正常状態の値1に近いときには,右辺第1項の因子であるxrの指数rは,1/2よりも1のほうがふさわしいと予想されます。
さらに,より多くの粒子凝縮に対しては凝縮エネルギーβは定数ではなく,増加すると予期されます。
それにも関わらず,Gorter-Casimir理論は次に述べる予定のLondon理論と組み合わせたとき,かなり実験と良く一致する,自明とは思えないような予測を与えます。
しかし,後述するように,結局,このモデルの表現F(x,T)=x1/2fN(T)+(1-x)fS(T)と微視的理論で与えられる表現の間には,ほとんど関係がないことがわかります。
※(訳注):磁場の中に超伝導体があって,磁束が超伝導体外部に押し出されている状態は磁場の側から見ると無理を強いられている状態であり,温度Tを一定に保ったっまま外部磁場を増加させていくと,やがて磁束の浸入が始まります。
今,導体の一部が正常状態で,残りの部分が超伝導状態であるとして両者の境界面に着目します。この境界上の1点を座標原点として境界面の法線方向にx軸を取り,xの負の側が超伝導体の領域,正の側が正常導体の領域とします。
正常導体の領域には磁場があるとして,その磁束密度をBとします。ベクトルBの向きは,x軸に垂直なy軸の正の向きと同じとします。
y軸はx軸を法線とする境界面の上にあります。x軸,y軸に垂直なz軸も考えると境界面はx=0 のyz平面ですからBの向きは境界面に平行な向きですね。
超伝導体の境界面に沿って磁束の浸入層がありますが,その微小な厚さをλとすると浸入層の存在域は-λ≦x≦0で表わされます。
そして導体内部におけるc.g.s.Gauss単位での磁束密度Bと電流密度jに対するマクスウェル(Maxwell)方程式で磁場に対応するものは,rotB=(4π/c)j,divB=0 です。
Bはy成分のみを持つと仮定しているので,xy面に垂直な導体のyz境界面上にz成分jz=c(∂B/∂x)/(4π)のみを持つ電流密度の電流が流れています。
この電流に対して磁場Bは単位面積当たりj×B/cなるローレンツの力(Lorentz force),つまり-jzB/cというx方向の成分のみを持つ力を与えるので,これを-λ≦x≦0 にわたって積分すると,浸入層の境界面の単位面積当たりに働く力として,-∫-λ0jzBdx/c=-∫-λ0dxB(∂B/∂x)/(4π)=-B2/(8π)が得られます。
ただし,-B2/(8π)におけるBはx=0 の浸入層右端の境界yz面上での磁束密度を示しています。
なぜなら,yz境界面上でy方向,z方向にそれぞれ単位長さの辺を持つ1つの正方形を取ると,その正方形の浸入層内で厚さdxの部分の正四角柱のxy側面の面積はdxですが,電流密度はz成分jz=c(∂B/∂x)/(4π)のみを持つのでこの面積dxのxy側面を流れるz向きの総電流はjzdxです。
そこで,この部分に働くx向きのローレンツ力は-jzBdx/cとなりますから,厚さdxの部分の電流によってyz境界面上の単位面積に働く力はxの向きに-jzBdx/cとなることがわかります。
そこで,-λ≦x≦0 の浸入層全体に働く単位面積当たりの力の合力は-∫-λ0jzBdx/c=-B2/(8π)で与えられるのですね。
右辺のマイナス符号は,この力が正常領域から超伝導領域に向かって働くことを意味します。つまり,磁場の"圧力=単位面積当たりの力"が存在して超伝導体を押しているわけです。
この磁場による圧力を支えるものは絶対零度では正常状態と超伝導状態のエネルギーUの差,有限温度なら自由エネルギーFの差です。
磁場が存在しないときの超伝導体の自由エネルギー密度を温度の関数と見て,FS(T)と表現し,同じ導体が正常状態にあるときのそれをFN(T)と表現します。
転移温度Tc以下では超伝導状態の方が安定なのでFS(T)≦FN(T)です。そこで,FN(T)-FS(T)=Hc2(T)/(8π)として,これにより定義される磁場の単位を持つ量Hc(T)を熱力学的臨界磁場と名付けます。
この名称は,次の理由に拠ります。
今,超伝導領域と正常領域の境界面がその法線:xの方向にδxだけ変位したと仮定すると,これは導体の一部が正常状態から超伝導状態に転化したことを意味しますから,これに伴なう自由エネルギーの変化は境界面の単位面積当たり(FS-FN)δxです。
FS≦FNですからこの変位で導体全体のエネルギーが下がるので,境界面のδxの変位では面にかかる圧力が負の仕事をします。
これは,もしも外圧がなければ,境界面には超伝導領域を広げようとする圧力が常に働いていることを意味します。
そして導体内に超伝導領域と正常領域が共存し得るためには,この圧力が先に求めた磁場の圧力B2/(8π)に丁度等しくて釣り合っていなければなりません。
つまり,FS(T)-FN(T)=-B2/(8π)ですから,これと先の定義式FN(T)-FS(T)=Hc2(T)/(8π)を比較することから境界面上でB=Hc(T)であると結論されます。
通常のGauss単位系での磁場Hと磁束密度Bの関係は,磁化(単位体積当たりの磁気モーメント)をMとすると,H=B-4πM(MKSA単位ではH=B/μ0-M),またはB=H+4πMですから,境界面上では磁化Mはゼロです。
一方,超伝導体の内部では,仮に超伝導体を帯磁率が-(4π)-1の磁性体であると考えれば,内部の磁場Hに対してM=-(4π)-1H,つまりH=-4πMとなるので確かにB=0 となります。
実際,静磁気学では楕円体形の磁性体を主軸に平行で一様な外部磁場Haの中に置くと磁性体は外場の方向に一様に磁化されて内部磁場がH=Ha-4πνMとなることが知られています。
νは主軸方向の反磁化係数と呼ばれ,楕円体の幾何学的形状で決まります。H=-4πMとH=Ha-4πνMを連立させるとM=-Ha/{4π(1-ν)}を得ます。※
(つづく)
参考文献:J.R.Schrieffer著「Theory of Superconductivity 」(Revised printing;Persues Books),中嶋貞雄 著「超伝導入門」(培風館)
http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。
人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。クリックすると人気blogランキングに跳びます。)
← クリックして投票してください。(ブログ村科学ブログランキング投票です。1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。クリックするとブログ村の人気ランキング一覧のホ -ムページームに跳びます。)
Attension!! 広告宣伝です。
http://www.rakuten.co.jp/trs-kenko-land/ 健康商品の店「TRS健康ランド」- SCS(食品洗浄剤),黒ウコン,酒の帝王,鵜鶏王などの専売店 ←この店は私TOSHIが店長をしています。(楽天ショップです。TRSのTはTOSHIのTです。)
「TRS健康ランド」では2008年1月10日よりお徳用SCS500mlを新発売!!当店の専売です。
そこのお酒のみの方,いろいろと飲食の機会の増えたあなた,悪酔いを防止すると言われているウコンがいいですよ!! そして特に今回提供する沖縄原産の純粋な黒ウコンは当店が専売の新製品ですが古くから沖縄地方ではいわゆる男性の力に効果があると言われています。
おやおや,そこの静電気バチバチの人、いいものありますよ。。。
それから農薬を落とした後の皮がピカピカに光っているリンゴなど商品として販売する際の見栄えをよくするなどのために化学処理をした食品を安全に洗浄する新商品の洗浄液SCSはいかがですか。。。農薬ジクロルポスも食品専用の洗浄液SCSで落ちて安全になります。(厚労省試験済み)
http://www.mediator.co.jp/category/pages.php?id=115「中古パソコン!メディエーター巣鴨店」
(Dellの100円パソコン(Mini9)↓私も注文しました。)
ヤーマン プラチナゲルマローラー 1日3分コロコロエステ!ローラー型プラチナ配合美顔器
お売りください。ブックオフオンラインのインターネット買取 展開へ! ▼コミック 尾田栄一郎 「ONE PIECE(52)」 ▼コミック 「ONE PIECE」をオトナ買い
三国志特集 ▼コミック 横山光輝 「三国志全巻セット」 「三国志(文庫版)全巻セット」 「三国志(ワイド版)全巻セット」 ▼書籍 「三国志」/吉川英治 「三国志」/北方謙三 「三国志」/宮城谷昌光
| 固定リンク
「111. 量子論」カテゴリの記事
- クライン・ゴルドン方程式(8)(2016.09.01)
- クライン・ゴルドン方程式(7)(2016.08.23)
- Dirac方程式の非相対論極限近似(2)(2016.08.14)
- Dirac方程式の非相対論極限近似(1)(2016.08.10)
- クライン・ゴルドン方程式(6)(2016.07.27)
「109. 物性物理」カテゴリの記事
- 再掲記事'5):ボーズ・アインシュタイン凝縮 関連(2019.08.01)
- 電気伝導まとめ(2)(2019.07.26)
- 電気伝導まとめ(2)(2019.07.26)
- 電気伝導まとめ(1)(2019.07.25)
- 水蒸気の比熱(2009.02.09)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント