相対論の幾何学(第Ⅲ部-4:coffee-break)
相対論の幾何学シリーズの第Ⅲ部リーマン幾何学の続きです。ちょっとここで一休みしてコーヒー・ブレイクです。
リーマン幾何学というよりも,本来の主題である全体としての物理学としての見通しとして相対論のイメージを取り戻したいと思います。
相対論の幾何学シリーズの第Ⅰ部で曲面上の曲線の曲率から直観幾何学的な考察で得られたガウス曲率や平均曲率という比較的素朴な曲面の曲率概念と,第Ⅲ部で得られた計量のある可微分多様体の上のアファイン接続に基づく曲率テンソルの定義を比較してみます。
そのため,第Ⅰ部の復習を兼ねて2008年7月から11月までの「相対論の幾何学(第Ⅰ部)」のシリーズ記事のうちの空間曲面の幾何学関連の記事から適宜抜粋参照して要約します。
まず,3次元空間内の曲面を,平面内の領域Dを定義域とする実数パラメータu,vのベクトル値関数r(u,v)=(x(u,v),y(u,v),z(u,v)),(u,v)∈Dとして定義します。
ただし,x,y,zはu,vで3回連続偏微分可能(C3-級)であり,2行3列のヤコービ行列:t(∂r/∂u,∂r/∂v)の階数は2とします。
r(u,v)で,v=bを固定してuだけを変化させる1パラメータのベクトル値関数r(u,b)は,u=aで点r(a,b)を通る曲面上の1つの曲線を表わします。そして,この曲線上の点r(a,b)における接ベクトルはru(a,b)≡(∂r/∂u)(a,b)で与えられます。
同様にu=aを固定した場合の曲線r(a,v)上の点r(a,b)における接ベクトルはrv(a,b)≡(∂r/∂v)(a,b)で与えられます。
仮定により,行列:t(∂r/∂u,∂r/∂v)(a,b)の階数は2なので,ru(a,b) ≡(∂r/∂u)(a,b)とrv(a,b)≡(∂r/∂v)(a,b)は1次独立なベクトルです。
曲面r(u,v)の各点でruとrvの線形結合ξru+ηrvの形で表わされるベクトルを総称して,その点における曲面の接ベクトルといい,接ベクトル全体で張られる平面を接平面といいます。そして,ruとrvの外積:ru×rvによって,e≡(ru×rv)/|ru×rv|を定義すると,これは曲面r(u,v)の法単位ベクトルになります。
法ベクトルの直交性を内積で表現する式:(ru,e)=0, (rv,e)=0 をさらにu,vで偏微分すると,(ruu,e)+(ru,eu)=0, (ruv,e)+(ru,ev)=0 ,(rvu,e)+(rv,eu)=0 ,(rvv,e)+(rv,ev)=0 が得られます。
そして,3つのu,vの関数L,M,NをL≡(ruu,e)=-(ru,eu),M≡(ruv,e)=(rvu,e)=-(ru,ev)=(rv,eu),N≡(rvv,e)=-(rv,ev)で定義します。
こうして曲面上の各点で定義した各々の3つのベクトルの組:ru,rv,eは明らかに1次独立ですから,3次元空間の任意のベクトルは全てこれらを基底とする線形結合で表わすことができます。
例えば,パラメータu,vによる2階偏導関数ベクトル:ruu,ruv,rvu,rvvは,ruu=Γuuurud+Γvuurv+Le,ruv=Γuuvru+
Γvuvrv+Me,rvu=Γuvuru+Γvvurv+Me,rvv=Γuvvru+Γvvvrv+Neと表わすことができます。
これをガウスの公式といいます。係数のうちのΓをクリストッフェルの記号(Christoffel's symbol)といいます。
この各点で,基底ru,rv,eの代わりに,例えばe1≡ru/|ru|,e2≡{rv-(rv,e1)e1}/|rv-(rv,e1)e1|,e3≡e1×e2で定義されるe1,e2,e3を基底にとれば,e1,e2が接平面の基底をなし互いに直交する3つの単位ベクトルの系,つまり(ei,ej)≡teiej=δijを満たす正規直交系e1,e2,e3が得られます。
こうした正規直交系の基底e1,e2,e3を正規直交標構と呼びます。
接平面の異なる2組の基底{ru,rv},{e1,e2}は,ある線型結合ru=a11e1+a12e2,rv=a21e1+a22e2によって関連付けられます。これは(i,j)成分がajiの2×2行列A(detA≠0)を用いた,(ru,rv)=(e1,e2)Aなる表現とも解釈できます。
ただし,最後の表現式(ru,rv)=(e1,e2)Aにおいては,(ru,rv),(e1,e2)という記号は,これが他のほとんどの場所で表現する内積記号(ei,ej)≡teiejetc.ではなく,単に空間ベクトルを並べて書いただけの行列の意味です。右辺の(e1,e2)Aも単に行列としての積です。
ここで,uv平面上の曲線(u,v)=(u(s),v(s))に対応する曲面r(u,v)上の曲線r(s)=r(u(s),v(s))を考えると,dsに対するこの曲線上の点の微小変位drは,du=(du/ds)ds,dv=(dv/ds)dsを用いた表現ではdr=rudu+rvdvとなります。
これはまた,ru=a11e1+a12e2,rv=a21e1+a22e2によって,dr=(a11e1+a12e2)du+(a21e1+a22e2)dv=(a11du+a21dv)e1+(a12du+a22dv)e2と書けます。
そこで,θ1≡a11du+a21dv,θ2≡a12du+a22dvと定義すれば,dr=θ1e1+θ2e2となってdrをe1,e2の線型結合の形で表わせます。
そして,曲面r(u,v)上で多様体の計量ds2に相当する量は,曲面r(u,v)の第1基本形式I≡(dr,dr)=tdrdrで定義されます。dr=θ1e1+θ2e2を代入すると I=θ1θ1+θ2θ2とも書けます。
また,dr=rudu+rvdvなる表現からは,I≡E(dudu)+2F(dudv)+G(dvdv)となります。ここに,E≡(ru,ru)=truru,F≡(ru,rv)=trurv,G≡(rv,rv)=trvrvです。
つぎに,曲面の曲率概念を定義します。
曲面r(u,v)上の曲線r(s)=r(u(s),v(s))に対して,r'(s)=dr/dsはr(s)の接ベクトルなので,点r(s)において曲面r(u,v)に接しています。
しかし,ベクトルr"(s)=d2r/ds2は一般に曲面r(u,v)の"接平面上のベクトル=接ベクトル"ではありません。r"(s)の絶対値κ(s)≡|r"(s)|は曲線の曲率と定義されます。
r"(s)を点r(s)での曲面の接ベクトル成分:kgと法ベクトル成分:knの和に分解します。すなわち,r"(s)=kg+knと書きます。
そして,kgを曲線r(s)の測地的曲率ベクトル,knを法曲率ベクトルと呼びます。
これらの曲率の成分ベクトルのうちで,曲面r(u,v)の接平面に垂直な曲率成分であるknについて考察します。
knは法ベクトルなので,単位法ベクトル:e=(ru×rv)/|ru×rv|によって,kn=κneと表現されます。値κnを法曲率と呼びます。
これはなおκn=(kn,e)=(r"-kg,e)=(r",e)=-(r',e')=-(dr/ds,de/ds)=-(ru(du/ds)+rv(dv/ds),eu(du/ds)+ev(dv/ds))≡L(du/ds)(du/ds)+2M(du/ds)(dv/ds)+N(dv/ds)(dv/ds)と変形できます。
曲面r(u,v)上の1点r0=r(u0,v0)における任意の単位接ベクトルをwとすれば,w=ξru(u0,v0)+ηrv(u0,v0),かつ|w|=1と書けます。
記号Πを,Π(w)≡Lξ2+2Mξη+Nη2によって定義すると,上に定義した法曲率:κn(s)はκn(s)=Π(r'(s))と表現されます。
|w|2=Eξ2+2Fξη+Gη2=1であって,wが点r0を中心とする接平面上の単位円の周上にあるという条件の下で,接ベクトルの法線成分Π(w)=Lξ2+2Mξη+Nη2が如何なるときに最大値,最小値を取るか?という問題を考えます。
この問題は,結局λ(w)≡(Lξ2+2Mξη+Nη2)/(Eξ2+2Fξη+Gη2)なる量λが無条件((ξ,η)≠(0,0))で,最大値,最小値を取る問題と同等なことがわかります。
そして,λ(w)≡(Lξ2+2Mξη+Nη2)/(Eξ2+2Fξη+Gη2)なる式は,Lξ2+2Mξη+Nη2-λ(w)(Eξ2+2Fξη+Gη2)=0,つまりΠ(w)-λ(w)|w|2=0 なる等式と同値です。
一方,λ(w)が無条件で最大値,最小値を取るための必要条件は∂λ/∂ξ=0,∂λ/∂η=0 で与えられます。
そこで,Π(w)-λ(w)|w|2=0 の両辺をξ,ηで微分し,それぞれ∂λ/∂ξ,∂λ/∂ηをゼロとおけば,(L-λE)ξ+(M-λF)η=0,(M-λF)ξ+(N-λG)η=0 なる式を得ます。これは,Lξ+Mη=λ(Eξ+Fη),Mξ+Nη=λ(Fξ+Gη)とも書けます。
これをξ,ηを未知数とする連立1次方程式と考えると,方程式が(ξ,η)≠(0,0)の自明でない解を持つためには,係数の作る行列の行列式がゼロになることが必要十分です。すなわち,(EG-F2)λ2-(EN+GL-2FM)λ+LN-M2=0 が成立する必要があります。
このλの2次方程式の2つの根をλ=κ1,κ2とすると,根と係数の関係からκ1κ2=(LN-M2)/(EG-F2),(κ1+κ2)/2=(EN+GL-2FM)/{2(EG-F2)}となります。
そして,K≡κ1κ2,H≡(κ1+κ2)/2 と定義してKをガウスの曲率,Hを平均曲率と呼びます。
さて,正規直交標構eiの微分deiも3次元空間のベクトルなので,これらはdei=Σj=13ωijej,または(i,j)成分がωjiの3×3行列Ωによってd(e1,e2,e3)=(de1,de2,de3)=(e1,e2,e3)Ωと表わせます。
ただし,dei=(∂ei/∂u)du+(∂ei/∂v)dv=Σj=13ωijejで,deiはu,vの1次の無限小ですからdei=Σj=13ωijejの係数ωijは全てdu,dvの線型結合で与えられるはずです。
そして,(ei,ej)=δijより,(dei,ej)+(ei,dej)=0 です。これとdei=Σj=1ωijejによってωij+ωji=0 (i,j=1,2,3)が得られます。つまり,Ωは交代行列であり対角成分は全てゼロです。
ところで,θ1=a11du+a21dv,θ2=a12du+a22dv,すなわち,t(θ1,θ2)=At(du,dv)ですが,detA≠0 よりAの逆行列A-1が存在しますから,この式の両辺に右からA-1を掛ければ,t(du,dv)=A-1t(θ1,θ2)を得ます。
そして,上で述べたようにωijは全てdu,dvの線型結合で与えられるはずですから,ωijはθ1,θ2の線型結合で書けます。
例えばde3=deの係数ω13とω23であれば,ω13=b11θ1+b12θ2,ω23=b21θ1+b22θ2,または(i,j)成分がbijの2×2行列Bで t(ω13,ω23)=Bt(θ1,θ2)と書けます。
de3=de=eudu+evdvの両辺とruの内積を取れば(de3,ru)=(eu,ru)du+(ev,ru)dv=(ω31e1+ω32e2,a11e1+a12e2)=ω13a11+ω23a12が成立します。
同様に,(de3,rv) =(eu,rv)du+(ev,rv)dv=ω13a21+ω23a22も成り立ちます。
そこで,行列S≡t(eu,ev)(ru,rv)を作ると,これらの関係式はSt(du,dv)=tAt(ω13,ω23)と書けます。
これに,t(ω13,ω23)=Bt(θ1,θ2)を代入すると,St(du,dv)=tAt(ω13,ω23)=tABt(θ1,θ2)=tAtBAt(du,dv)ですから,変数du,dvの独立性によって,S=tABAであることがわかります。
それ故,S=tABA,つまりtS=tAtBAですからSの対称性:tS=SとdetA≠0 から,Bの対称性tB=Bが得られます。
対称行列の性質から実行列Bの2つの固有値は共に実数であることがわかります。
これらのBの固有値が先に定義した曲線r(u,v)の主曲率κ1,κ2に一致します。これは次のようにしてわかります。
まず,S=tABAによりB=t(A-1)SA-1=AA-1t(A-1)SA-1=A(tAA)-1SA-1なので,Iを単位行列とする固有値方程式det(B-λI)=0 において,B-λI=A{(tAA)-1S-λI}A-1と書けます。そこで,方程式:det(B-λI)=0 はdet{(tAA)-1S-λI}=0 等価な方程式です。
ところが,行列で表わした等式:(ru,rv)=(e1,e2)Aからt(ru,rv)(ru,rv)=tAt(e1,e2)(e1,e2)Aであり,しかも正規直交性:teiej=δijによりt(e1,e2)(e1,e2)=Iですから,tAA=t(ru,rv)(ru,rv)が成立します。
また,E=truru,F=trurv,G=trvrvですからtAA=t(ru,rv)(ru,rv)は1行目が(E,F)=(truru,trurv),2行目が(F,G)=(trurv,trvrv)の対称行列です。
それ故,tAAの逆行列(tAA)-1は1行目が(EG-F2)-1(G,-F),2行目が(EG-F2)-1(-F,E)の行列になります。
したがって,行列(EG-F2){(tAA)-1S-λI}は1行目が((GL-FM)-(EG-F2)λ,GM-FN),2行目が(-FL+EM,(-FM+EN)-(EG-F2)λ)の行列です。
以上から,行列Bの固有値λを求める方程式:det(B-λI)=0 に同等な方程式:det[(tAA)-1S-λI]=0 が,(EG-F2)2λ2-(EG-F2)(EN+GL-2FM)λ+(GL-FM)(-FM+EN)-(GM-FN)(-FL+EM)=0 なる形であることがわかります。
左辺の最後の2項から成る定数項は(EG-F2)(LN-M2)と因数分解されますから,結局,EG-F2≠0 の場合には,(EG-F2)λ2-(EN+GL-2FM)λ+LN-M2=0 なる方程式と同値になります。
これは正に,先に記述した主曲率κ1,κ2を2つの解とするλの2次方程式に一致しています。
以上で,行列Bの2つの実数固有値が主曲率κ1,κ2になることが示されました。
そこで,ガウスの曲率はK=κ1κ2=(LN-M2)/(EG-F2)=detB=b11b22-b12b21,平均曲率はH=(κ1+κ2)/2=(EN+GL-2FM)/{2(EG-F2)}=(1/2)traceB=(1/2)(b11+b22)となることがわかります。
さらに,dr=θ1e1+θ2e2=(e1,e2)t(θ1,θ2),de3=(e1,e2)t(ω31,ω32)=-(e1,e2)t(ω12,ω23)=-(e1,e2)Bt(θ1,θ2)より,κがBの固有値でBw=κwを満たすならde3=-κ(e1,e2)w,つまりde3=-κdrとなります。
そこで,正規直交標構を用いた表現では行列Bの2つの固有値が主曲率κになるということの意味も明白ですね。
さて,これらのことを2変数の場合の外微分形式,または単に微分形式による表現によって記述すると大体次のように要約されます。
曲面r(u,v)上でdr=(dx,dy,dz)を微分1形式としてdr=θ1e1+θ2e2と書けば,ポアンカレ(Poincare)の補題によって,これの外微分はゼロです。
つまり,d(dr)=(d(dx),d(dy),d(dz) )=0 ですから,0=dθ1e1-θ1∧de1+dθ2e2-θ2∧de2=dθ1e1-θ1∧(Σj=13ω1jej)+dθ2e2-θ2∧(Σj=13ω2jej),すなわち(dθ1-Σi=12θi∧ωi1)e1+(dθ2-Σi=12θi∧ωi2)e2-(Σi=12θi∧ωi3)e3=0 となります。
ここでe1,e2,e3は1次独立なので,dθj=Σi=12θi∧ωij(j=1.2),Σi=12θi∧ωi3=0 なる表式が得られます。
このうち,dθj=Σi=12θi∧ωij(j=1.2)は第1構造式と呼ばれます。そしてω1jの作る行列Ωは交代行列なので,これはdθ1=θ2∧ω21,dθ2=θ1∧ω12を意味します。
一方,ω13=b11θ1+b12θ2,ω23=b21θ1+b22θ2,すなわちωi3=Σi=12bijθjなる展開式を仮定してΣi=12θi∧ωi3=0 に代入すればΣi,j=12bijθi∧θj=0 を得ます。
これは,(b12-b21)θ1∧θ2=0 ,つまりb12=b21を意味しますから,行列B={bij}が対称行列なることが再確認されました。
次にd(dei)=0 なる等式にdei=Σj=13ωijejを代入します。
eiは 0次微分形式,ωijは1次微分形式なので,これからΣj=13(dωijej-ωij∧dej)=Σk=13(dωik-Σj=13ωij∧ωjk)ek=0 が得られます。それ故,dωik=Σj=13ωij∧ωjkなる式成立します。
特に,k=1,2,つまり接平面成分を考え,i=1,2の場合にはωi3=Σj=12bijθj (i=1,2)を考慮することでdωik=Σj=13ωij∧ωjk=Σj=12ωij∧ωjk+ωi3∧ω3k=Σj=12ωij∧ωjk+ωk3∧ωi3=Σj=12ωij∧ωjk+Σh,j=12bkhbijθj∧θjを得ます。
すなわち,dωik=Σj=12ωij∧ωjk+(1/2){Σh,j=12(bkhbij-bkjbih)θj∧θj} (i,k=1,2)なる表現式が得られます。
ところが前述したように,ωik(i,k=1,2)で作られる行列Ωは交代行列なので唯一の独立成分として例えばω21だけ考えれば十分です。
この,ω21については,dω21=Σj=12ω2j∧ωj1+(1/2){Σh,j=12(b1hb2j-b1jb2h)θj∧θj}=(b11b22-b12b21)θ1∧θ2=(detB)θ1∧θ2となります。
既に,ガウスの曲率K≡κ1κ2が,K=detB=b11b22-b12b21で与えられることがわかっているので,dω21=Kθ1∧θ2と書けることがわかります。これは第2構造式と呼ばれるものです。
いずれにしろ,ガウスの曲率がK=κ1κ2=(LN-M2)/(EG-F2)=detB=b11b22-b12b21で与えられることは,定式化によらず同じですが,Kが一般の多様体上の曲率テンソルRと如何なる関係にあるのだろうか?という本記事の主題である疑問について論じるためには,もっと別の切り口の考察にも頼る必要があります
そのために,直接一般相対論での曲がった4次元時空の上の粒子の運動を,2次元の曲面上に束縛された粒子の運動と同一視して比較することを考え,平面座標を示すパラメータ(u,v)を(u1,u2)と表記して曲面r(u,v)をr(u1,u2)と書き直すことから議論を始めます。
まず,接平面の基底をなす接ベクトルru≡(∂r/∂u),rv≡(∂r/∂v)をr,i≡(∂r/∂ui)(i=1,2)と書きます。
一般の接平面上のベクトルを示す線型結合:ξru+ηrvも,パラメータξ,ηをξi(i=1,2)と添字表現にすることで,ξir,i≡ξ1r,1+ξ2r,2,またはξi(∂r/∂ui)≡ξ1(∂r/∂u1)+ξ2(∂r/∂u2)と書き直します。
E≡(ru,ru)=ru2,F≡(ru,rv)=(rv,ru),G≡(rv,rv)=rv2なるいわゆる計量の表記も,通常の表記gij≡(r,i,r,j)=(∂r/∂ui,∂r/∂uj)(i,j=1,2)に変更します。
すると,接ベクトルξir,i=ξi(∂r/∂ui)の長さの平方(Eξ2+2Fξη+Gη2)は,gijξiξjと書けます。
相対論の記法に慣れているなら,空間計量の表現としてds2=gijdξidξjと表わす方が馴染み深いですね。
さらに,ガウスの公式ruu=Γuuuru+Γvuurv+Le,ruv=Γuuvru+Γvuvrv+Me,rvu=Γuvuru+Γvvurv+Me,rvv=Γuvvru+Γvvvrv+Neは,r,ij=∂2r/∂ui∂uj=Γkij(∂r/∂uk)+hIjeなる表現に変わります。
ここで,Γuuu=(ruu,ru)/(ru,ru),Γvuv=(ruv,rv)/(rv,rv),..etc.を,Γkij=(∂2r/∂ui∂uj,∂r/∂ul)/(∂r/∂uk,∂r/∂ul )=gkl-1(∂gli/∂uj)=(gkl-1/2)(∂gli/∂uj+∂glj/∂ui)なる表現に変えています。
一般相対論でのレビ・チビタ接続(Levi-Civita接続)の係数としてのクリストッフェル記号は,Γσμν={σ,μν}=(gσρ/2)(gρν,μ+gρμ,ν-gμν,ρ);(gμν)≡(gμν)-1で与えられます。
これは,一般座標{xμ}と局所ローレンツ系の座標{Xμ}による表現ではΓσμν=(∂xσ/∂Xρ)(∂2Xσ/∂xμ∂xν)です。
そこで,座標系の次元としてrが3次元,{ui}が2次元で,第3の次元による拘束力によって"曲面=2次元多様体"の上に束縛されていて3次元目を無視するという見方をします。
これは,相対論そのものとは少し異なりますが,空間曲面の位置ベクトルrを一般座標{xμ},パラメータ{ui}を局所ローレンツ系{Xμ}と同一視すると,{Γkij}(i,j,k=1,2)が4次元時空でのクリストッフェル接続の係数{Γσμν}と全く同じ意味を持つとしてよいとわかります。
さて,こうした認識の下で,行列:P≡(ru,rv)を定義しこれをu,vで1,2回微分する演算を考えてみます。
まず,∂uP=(ruu,ruv)=(Γuuuru+Γvuurv+Le,Γuuvru+Γvuvrv+Me),∂vP=(rvu,rvv)=(Γuvuru+Γvvurv+Me,Γuvvru+Γvvvrv+Ne)です。
これに,左からtP=t(ru,rv)を掛けると,法ベクトルeとの直交性から,tP(∂uP)は1行目が(EΓuuu+FΓvuu, EΓuuv+FΓvuv),2行目が(FΓuuu+GΓvuu,FΓuuv+GΓvuv)の行列,また,tP(∂vP)は1行目が(EΓuvu+FΓvvu,EΓuvv+ΓvvvF),2行目が(FΓuvu+GΓvvu,FΓuvv+GΓvvv)の行列になります。
これも添字表記で,P≡(∂r/∂u1,∂r/∂u2)とすると,gij≡(∂r/∂ui)(∂r/∂uj),∂2r/∂ui∂uj=Γkij(∂r/∂uk)+hijeなので,∂iP=(∂2r/∂ui∂u1,∂2r/∂ui∂u2)=(Γki1(∂r/∂uk)+hi1e,Γki2(∂r/∂uk)+hi2e)という表式になります。
そして,これに左からtP=t(∂r/∂u1,∂r/∂u2)を掛けると,tP(∂iP)は1行目が(g1kΓki1,g1kΓki2),2行目が(g2kΓki1,g2kΓki2)の行列になります。
そこで,(k,l)成分がΓkilの行列をΓiと書くことにすれば,∂iP=PΓi+(hi1e,hi2e)となります。そこで,tP(∂iP)=gΓiです。
したがって,∂i(gΓj)-∂j(gΓi)=∂i{tP(∂jP)}-∂j{tP(∂iP)}=t(∂iP)(∂jP)-t(∂jP)(∂iP)を得ます。
ここで,∂iP=PΓi+(hi1e,hi2e),g=tPPであり,gは対称行列:tg=gですから,t(∂iP)(∂jP)-t(∂jP)(∂iP)=(tΓigΓj-tΓjgΓi)+(hi1hj2-hi2hj1)J2となります。
J2は1行目が(0,1),2行目が(-1,0)の2×2交代行列です。
したがって,結局∂i(gΓj)-∂j(gΓi)=(tΓigΓj-tΓjgΓi)+(hi1hj2-hi2hj1)J2なる表現の等式が得られます。
一方,同じくg=tPP,tg=gより,これを微分すると∂ig=t(∂iP)P+tP(∂iP)=tΓig+gΓiですから,これによってさらに∂i(gΓj)-∂j(gΓi)=(tΓig+gΓi)Γj+g∂iΓj-(tΓjg+gΓj)Γi-g∂jΓi=g(∂iΓj-∂jΓi+ΓiΓj-ΓjΓi)+(tΓigΓj-tΓjgΓi)なる等式を得ます。
そこで,4つの2次行列Rij(i,j=1,2)を,Rij≡∂iΓj-∂jΓi+ΓiΓj-ΓjΓiと定義すれば,上の式は∂i(gΓj)-∂j(gΓi)=gRij+(tΓigΓj-tΓjgΓi)と簡単になります。
この等式の右辺を,すぐ前に求めた等式∂i(gΓj)-∂j(gΓi)=(tΓigΓj-tΓjgΓi)+(hi1hj2-hi2hj1)J2の右辺に等置すれば,gRij=(hi1hj2-hi2hj1)J2なる式が得られます。
すなわち,gR11=gR22=0,gR12=-gR21=(h11h22-h12h21)J2=(deth)J2なる具体的表式が得られます。
一方,ガウスの曲率KはK=κ1κ2=detB=b11b22-b12b21=(LN-M2)/(EG-F2)と表現されますから,E=g11,F=g12=g21,G=g22によってEG-F2=detgです。
L=h11,M=h12=h21,N=h22によって,LN-M2=dethなる置換を行えば.これら相対論的表記ではK=deth/detgに帰着することがわかります。
こうして,結局,gR12=-gR21=(detg)KJ2,R11=R22=0 なる最終的な関係式を得ることができました。
そして行列gRijの(m,k)成分は(gRij)ml=gmkRkijlです。
これの右辺のテンソル成分を示すRkijlは,Rij≡∂iΓj-∂jΓi+ΓiΓj-ΓjΓiによって,3次元空間への埋め込みと考えられる曲面を2次元多様体と同一視したときのリーマン・クリストッフェルの曲率テンソル成分に一致します。
以上から,多様体のリーマンの曲率テンソル{Rσλμν}は,確かに2次元曲面の素朴な曲がり具合を示すガウスの曲率Kの自然で直線的な拡張であることが示されました。
これで今日のコーヒー・ブレイクは終わりにします。
参考文献:小林昭七 著「曲線と曲面の微分幾何」(裳華房),中原幹夫 著「理論物理学のための幾何学とトポロジー」(ピアソン・エデュケーション),杉田勝美,岡本良夫,関根松夫 共著「理論物理のための微分幾何学」(森北出版),大森英樹 著「力学的な微分幾何」(数学セミナー増刊[8](1980))(日本評論社)
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