分子と点群(1)
連続群とその表現というのは,素粒子物理学をはじめ,物理学では多くの分野において重要な論題です。
今回は通常の素朴な非相対論的量子力学をベースにして巨視的物性を左右する微視的単位である分子構造を規定する対称性群としての点群の表現に関連したものを考えます。
1粒子の定常状態の波動関数ψは空間位置rの3次元空間におけるスカラー関数ψ(r)で与えられます。
そして,座標系の空間回転の操作R:r→Rrの下で,この波動関数ψはψ(r)→R^ψ(r)と変換されるとします。
つまり,座標系の回転R:r→Rrに対応する関数空間での回転を示すある演算子R^が存在して,その作用をψ→R^ψとするわけです。
このとき,ψが3次元空間におけるスカラーであるということは,空間回転の下で同じ空間位置での波動関数の値は不変であること,つまりR^ψ(Rr)=ψ(r)なることを意味します。これは,R^ψ(r)=ψ(R-1r)と同等ですね。
しかし,量子論ではR^ψ(Rr)=ψ(r)でなくても,一般にγを実数としてR^ψ(Rr)=exp(iγ)ψ(r)でありさえすれば十分です。
状態を示す状態関数としてのψは,実は位相を無視した射線(ray)という同値類の代表元でしかないというのが波動関数ψの本質的意味です。
(厳密な意味では,必ずしもR^ψ(Rr)=exp(iγ)ψ(r)ではなくて,R^ψ(Rr)=exp(iγ)ψ*(r)のような反ユニタリ(anti-unitary)な変換でもかまいませんが。。。)
しかし,波動関数がスカラーであるという意味を位相因子を無視してR^ψ(Rr)=ψ(r)であると定義しても,一般性を失なうことはないので以下ではそのように解釈することにします。
以下では,波動関数ψ(r)が確率振幅を表わす複素数量であるという意味で<ψ|ψ>≡∫d3rψ*(r)ψ(r)=1と規格化されている場合に,ψ(r)→R^ψ(r)がこの規格化条件を破らない物理的に意味がある変換R^のみを考察の対象とします。
つまり,<ψ|ψ>=∫d3rψ*(r)ψ(r)=1においてψ(r)の代わりにR^ψ(r)=ψ(R-1r)を代入しても,依然としてこの式が成立すると仮定します。すなわち,<R^ψ|R^ψ>=∫d3rψ*(R-1r)ψ(R-1r)=1とします。
この条件式は,<R^+R^ψ|ψ>=det(R+R)∫d3rψ*(r)ψ(r)=1を意味します。
R:r→RrのRが空間回転を表わす場合,Rは実行列なのでR+=tRであり,また直交行列tRR=RtR=1ですから,R+R=1を満たします。よって,det(R+R)=1なので,<R^+R^ψ|ψ>=)∫d3rψ*(r)ψ(r)=<ψ|ψ>です。
これは,R^+R^=1,or R^+=R^-1,つまりR^がユニタリ(unitary)であることを意味します。
ψ→R^ψなる操作によって変換されたR^ψが依然として同じ系の波動関数であるという意味は,任意の観測可能な物理量T^(エルミート演算子:T^=T^+)の期待値<T>=<ψ|T^|ψ>が,この操作の下で保存されることを意味します。
特にT^=1のときには,ψ→R^ψなる変換で確率<ψ|ψ>が保存されるべきであるという要求となります。これはR^+R^=1,つまりR^がユニタリであれば確かに満たされます。
T^が1ではなくて一般の任意の演算子の場合には,波動関数ψ→R^ψの変換に伴なって,T^→R^T^R^+=R^T^R^-1なるユニタリ変換がなされるなら期待値<T>=<ψ|T^|ψ>は不変に保たれます。
そこで,以下ではψ→R^ψと同時に物理量を表わす全ての演算子T^がT^→R^T^R^-1なる変換を受けるとします。
このことからr→Rrなる変換は,rを量子力学の位置演算子と見たときにはR^rR^-1=Rrを意味します。
そしてR,R^が座標系の回転を表わす場合は空間のベクトル量は全て同じ回転変換を受けるため,運動量を示すp^=-ihc∇なる演算子もR^pR^-1=Rpを満たすはずです。
ただし,hc≡h/(2π);hはプランク定数です。
さて,定常状態のシュレーディンガー(Schrödinger)の波動方程式:H^ψ(r)=[-{hc2/(2m)}∇2+V(r)]ψ(r)=Eψ(r)におけるハミルトニアンH^≡p^2/(2m)+V(r)=-{hc2/(2m)}∇2+V(r)も量子力学の1つの演算子ですから,ψ→R^ψなる変換に伴なってH^→R^H^R^+=R^H^R^-1なる変換を受けます。
特に,R^pR^-1=Rpであり,これのエルミート共役を取ると,R^p+R^-1=p+R-1ですが,p+=pなので,これはR^pR^-1=pR-1を意味します。
この最後の等式の両辺にR^pR^-1=Rpを右から掛けると,R^p2R^-1=p2が得られます。あるいはR^∇2R^-1=∇2です。
また,R^V(r)R^-1=V(R^rR^-1)=V(Rr)ですが,もしもポテンシャルV(r)がクーロンポテンシャルのようにr=|r|のみに依存するような球対称な中心力場V(r)=V(r)であれば,Rr=rですからR^V(r)R^-1=V(r)となります。
そこで,球対称な中心力場の場合には,結局R^H^R^-1=H^,またはR^H^=H^R^が成立します。
今までは系の対称性変換という概念の導入のため,R:r→Rr,ψ(r)→R^ψ(r)なる操作R,R^を座標系の空間回転に特殊化して考えましたが,以下では演算操作R,R^は必ずしも座標系の空間回転である必要はなくて,R^ψ(Rr)=ψ(r),またはR^ψ(r)=ψ(R-1r)を満たす任意の変換であるとします。
しかし,特にR^が座標系の空間回転操作を表わす場合,こうした回転操作全体の集合をGとすると,これは回転群という変換群をなすことが知られています。
逆に,Gを必ずしも回転群とは限らない一般の変換群とした場合,系のハミルトニアンH^が∀R^∈Gに対してR^H^R^-1=H^,またはR^H^=H^R^を満たすとき,系は変換群Gの下で不変である,または系は変換群Gで規定される対称性を持つといいます。
ψがシュレーディンガー方程式H^ψ=Eψの1つの解ならψはエネルギー固有値Eに属するH^の固有関数ですが,R^∈Gに対しR^H^=H^Rなら,H^R^ψ=ER^ψも成り立つので,R^ψもまたψと同じエネルギー固有値Eに属するH^の固有関数です。
そこで,Eに属する全ての独立な固有関数をφnとし,これらは正規直交化されているとします。
すなわち,H^φn=Eφn,<φm|φn>=δm n(m,n=1,2,..,d)とします。φnはd重に縮退していると仮定しています。(d=1なら縮退していませんが,1重に縮退していると広義に解釈します。)
R^H^R^-1=H^のとき,∀R^∈Gに対してR^φnは全てH^のEに属する固有関数なので,φ1,φ2,..,φdの1次結合で表現されます。
つまり,R^φn=Σm=1dφmDmn(R)ですね。そして展開係数Dmn(R)はφnの正規直交性<φm|φn>=δmnにより,Dmn(R)=<φm|R^|φn>と表わされることがわかります。
さて,Gが位相群であるとします。
つまり,Gは群でありかつ位相空間であって,対応(g,h)→gh(g,h∈G)で与えられる群演算,およびg→g-1なる写像が共に連続であるとします。
Uを体K(RまたはC)の上のある線型空間(ベクトル空間)とするとき,∀g∈GにUの上の線型変換D^(g)を対応させる準同型写像D^:g→D^(g)を群GのU上の表現といいます。
Uはこの表現D^の表現空間と呼ばれます。表現D^において,その表現空間Uを明示したいときには,表現D^を(D^,U)と書きます。
表現空間Uの次元を群Gの表現の次元ということもあります。Uの次元が有限値nのときには,この表現をn次元表現といいます。
ここで,写像D^:g→D^(g)が準同型写像であるとは,∀g,h∈Gに対してD^(gh)=D^(g)D^(h)が成立することを意味します。
特にeをG の単位元,IUをU上の恒等変換とすると,D^(e)=IUが常に成立します。
群の元R^とD(R)の対応関係は,一般には1対1とは限らず,通常はn対1のような対応(準同型対応)ですが,特に1対1となる場合(同型対応)には,その表現を忠実な表現といいます。
群Gの表現(D^,U)において,その表現空間Uの次元が有限である有限次元表現のとき,Uの任意の元にその適当な基底による1次結合の係数のベクトルcを対応させると,U上の任意の線型変換T^はそれと完全に1対1に対応する行列Tと同一視できることがわかっています。
以下では,線型空間Uそのものではなく,それの基底による成分を並べた数ベクトルをUの元と同一視した数ベクトル空間もまた同じ記号Uで記述します。
この数ベクトル空間としてのUを表現空間とし,元の表現D^(g)を行列D(g)と同一視した(D^,U)に同型な表現(D,U)を行列表現といい,個々の表現を表わす行列D(g)を表現行列といいます。
今の場合,H^φn=Eφn (n=1,2,..,d)を満たすφnを基底とするd次元ベクトル空間をUとすれば,∀R^∈Gに対してR^φn=Σm=1dφmDmn(R)です。
そこで,H^ψ=Eψを満たす任意のψ∈Uがψ=Σn=1dcnφnと表わされるときには,R^ψ=Σn=1dcnR^φn=Σm=1dφm{Σn=1dDmn(R)cn}となります。
それ故,状態ψ=Σn=1dcnφn∈Uの各々を基底:φ1,φ2,..,φdによる展開係数のベクトル:{cm}=(c1,c2,..,cd)と同一視すれば,R^ψ=Σm=1dφm{Σn=1dDmn(R)cn}により,R^ψ∈Uはベクトル:{Σn=1dDmn(R)cn}=(Σn=1dD1n(R)cn,Σn=1dD2n(R)cn,..,Σn=1dDdn(R)cn)と同一視されます。
そこで,(m,n)成分がDmn(R)の行列をD(R)とし,ψ=Σn=1dcnφnの展開係数{cm}=(c1,c2,..,cd)をc≡t(c1,c2,..,cd)なるd次元の列ベクトルと考えれば,ψ→R^ψとc→D(R)cが等価であることがわかります。
ここで,(φ1,φ2,..,φd)を行ベクトルと考えてφ≡(φ1,φ2,..,φd)とすれば,ψ=Σn=1dcnφnをψ=φcと表現できます。
R^ψ=Σm=1dφm{Σn=1dDmn(R)cn}もまた,R^ψ=φD(R)cと書けます。
ところで,群Gが量子力学系のユニタリ変換から成る変換群を表わす場合,例えばR1^,R2^∈Gが座標系の回転を表わすような場合には,群の積の演算は波動関数ψにR1^,R2^をこの順に続けて作用させること,つまりψ→R1^ψ→R2^(R1^)ψを意味します。
そこで,この場合の群演算は(R1^,R2^)→R2^R1^となり,上の位相群Gの表現の定義の中で仮定した演算:(g,h)→gh(g,h∈G)とは演算の順序が逆になっています。
しかし,こうした演算の順序の違いは定義を少し読み変えれば済む問題です。積の順序の違いなどは本質的なことではありません。
実際,R1^φn=Σm=1dφmDmn(R1),R2^φn=Σm=1dφmDmn(R2)より,R2^R1^φn=R2^[Σm=1dφmDmn(R1)]=Σl=1dφk[Σm=1dDkm(R2)Dmn(R1)]ですから,これは行列としてはD(R2R1)=D(R2)D(R1)なることを意味します。
そこで,これまで通りD:R→D(R)が群Gの1つの行列表現を与えるとしても問題ないことがわかります。
次にGの2つの表現(D^,U),(D'^,V)があるとします。
もしも,1対1の線型写像T^:V→Uが存在して∀R^∈Gに対しT^D'^(R)=D^(R)T^が成立するときには,D^とD'^は同値な表現である,といいます。一方,同値でない表現は異値であるといいます。
上の2つの表現が(D,U),(D',V)で表わされる行列表現の場合なら,ある正則な行列T(detT≠0)が存在して,∀R^∈Gに対しTD'(R)=D(R)T,またはD'(R)=T-1D(R)Tが成立するときDとD'は同値な表現となります。
そして,(D,U)と(D',V)が同値な表現の場合,明らかに空間UとVの次元は同じです。
φ1,φ2,..,φdを基底とするベクトル空間をUとするとき,表現空間Uにおける変換群Gの表現がR^φn=Σm=1dφmDmn(R)で与えられる場合,φ'n≡Σm=1dφmTmnとするとR^φ'n=Σm,k=1dφkDkm(R)Tmn=Σm,k,j=1dφ'jT-1jkDkm(R)Tmn,すなわち,R^φ'n=Σm=1dφ'm{T-1D(R)T}mnと書けます。
D'(R)≡T-1D(R)Tと定義して,上のR^φ'n=Σm=1dφ'm{T-1D(R)T}mnをR^φ'n=Σm=1dφ'mD'(R)mnに置き換えれば,表現を同値な表現に読み変えるのは,単に同じ表現空間Uにおける基底の変換φ1,φ2,..,φd → φ'1,φ'2,..,φ'dに過ぎないことがわかります。
これをベクトル表示で考えます。
表現(D,U)はψ=φcのときR^ψがR^ψ=φD(R)cになることを意味しますが,φ'=φTとすればφ=φ'T-1ですから,これを代入するとψ=φc=φ'T-1c,かつR^ψ=φD(R)c=φ'T-1D(R)c=φ'T-1D(R)T(T-1c)となります。
したがって,c'≡ T-1cとおけば,これはψ=φc=φ'c'のときにR^ψがR^ψ=φ'T-1D(R)Tc'=φ'D'(R)c'と表現されることと同等です。
この新しい表現:(D',U)を,ψ=φcのときR^ψ=φD(R)cになるという表現(D,U)と比較すると,変換(D,U)→(D',U)は単にφ→φ'なる基底の変換を意味することがわかります。
結局,同値な表現と定義される2つの表現は,表現空間の上の写像として同型であるという意味ですね。
さて,Gの2つの表現(D1,V)と(D2,W)があるとき,VとWの直和空間:U=V+Wの上の表現:D≡D1+D2を,u≡v+w;∀v∈V,∀w∈Vと∀R^∈Gに対し,D(R)u={D1(R)+D2(R)}(v+w)≡D1(R)v+D2(R)wなる線型写像で定義して,この(D,U)を表現(D1,V)と(D2,W)の直和表現と呼ぶことにします。
そして,(D1,V)と(D2,W)が行列表現のとき,∀R^∈Gに対し2つの行列D1(R)とD2(R)を対角線に並べて,それ以外の部分行列を全てゼロと置いた行列を作ります。
これを,D1(R)とD2(R)の直和行列と呼ぶことにすれば,これは直和表現D≡D1+D2の行列D(R)になることがわかります。
そこで,この直和行列をD1(R)+D2(R)と書きます。
(D,U)を群Gの1つの表現とするとき,Uの部分空間Vが存在して∀R^∈GについてD(R)V⊂Vが成立するとき,VをUのD-不変な部分空間,または単にUの不変部分空間と言います。
群Gの表現(D,U)がU自身と{0}以外にUのD-不変な部分空間を持たないとき,この表現(D,U)を既約表現といいます。既約でない表現を可約表現といいます。
また,群Gの表現(D,U)が可約のとき,特に完全可約であるとは,表現空間Uが不変部分空間U1,U2,..,Um (D(R)Ui⊂Ui for ∀R^∈G (i=1,2,..,m))の直和U=U1+U2+..+Umに分解できて,Di(R)Ui≡D(R)Ui(∀R^∈G)によって引き起こされるD(R)のUiへの縮小写像Di(R)による表現(Di,Ui)(i=1,2,..,m)が全て群Gの既約表現になることをいいます。
特に,行列表現(D,U)の表現行列が全てユニタリ行列のとき,つまりD(R)+=D(R)-1のときには,この表現をユニタリ表現といいます。
波動関数ψ=Σn=1dcnφn=φcの作るベクトル空間Uの上の対称性変換を考察するとき,この変換の変換群をGとすると,量子力学においては元々Gの任意の元R^そのものがユニタリ:R^R^+=R^+R^=1であることが要求されます。
したがって,表現の準同型の性質からD(R)D(R+)=D(R+)D(R)=1よりD(R+)=D(R)-1ですが,陽な行列成分がDmn(R+)=<φm|R^+|φn>=<φn|R^|φm>*=Dnm(R)*を満たすので,D(R+)=D(R)+,故にD(R)+=D(R)-1です。
そこで対象とする物理的な変換群の表現は,全てユニタリ表現です。
(D,U)が群Gのユニタリ表現の場合,これが既約も含めて常に完全可約な表現であることを示すことができます。
以下では,これを証明しますが,そのためにu1,u2∈Uを列ベクトルとして,Uの任意の2つの元のユニタリ内積を<u1|u2>≡u1+u2で定義しておきます。
(Uが先述のEの固有状態波動関数全体から成る空間の場合,ψ1=φu1,ψ2=φu2∈Uなら,波動関数の内積は<ψ1|ψ2>=Σm,n=1du1m*u2n<φm|φn>=u1+u2で与えられます。
したがって,線型空間Uを波動関数ψ=φuの係数ベクトルu全体から成る数ベクトル空間と同一視すると,波動関数ψ1,ψ2の内積が<ψ1|ψ2>であることとu1,u2の内積が<u1|u2>≡u1+u2であることは全く同じ意味を持ちます。)
(証明)(D,U)をユニタリ表現とします。これが既約ならもちろん完全可約です。しかし,既約でない(=可約)ならUでも{0}でもない自明でないD-不変な部分空間V⊂Uが存在します。
このとき,Vの直交補空間をV⊥≡{w∈U|<w|V>=0}で定義すると,このV⊥もD-不変です。
何故なら,∀v∈V,∀w∈V⊥と∀R^∈Gに対してD(R-1)v∈Vですから,表現のユニタリ性D(R)+=D(R)-1=D(R-1)によって,<D(R)w|v>=<v|D(R)w>*=<w|D(R)+v>=<w|D(R-1)v>=0 から,D(R)w∈V⊥なることもわかるからです。
UがVとV⊥の直和:U=V+V⊥であることは直交補空間の定義によって明白ですから,結局UはD-不変な部分空間の直和に書けることがわかりました。そこで,V,V⊥が共に既約なら完全可約性の証明はここで終わりです。
しかし,V,V⊥の一方,または両方が既約でないなら,これらをさらにD-不変な部分空間の直和に分解する操作を繰り返せば(D,U)は有限次元なので,結局既約な不変部分空間の直和に分解されるはずです。(証明終わり)
さらに,(D,U)が群Gの表現の場合に,その既約性を判定する基本定理であるシューアの補題(Schur's lemma)を述べて証明しておきます。
※(シューアの補題):(D,V),(D',W)を群Gの2つの既約表現とするとき,線型写像T:V→Wが∀R∈Gに対しD'(R)T=TD(R)を満たすならTは同型写像か,またはT=0である。
(証明)L≡KerT={v∈V|Tv=0}とすると,v∈LならTD(R)v=D'(R)Tv=0 なので,D(R)v∈LですからLはD-不変です。
ところが(D,V)は既約表現なので,これはL=VかL={0}のいずれかであることを意味します。
L=Vなら,これはT=0 を意味します。
したがってT≠0 なら,L={0}ですが,これはTが1対1写像であることを意味します。
なぜなら,v1,v2∈Vに対してTv1=Tv2ならT(v1-v2)=0 なのでv1-v2∈L={0},よりv1=v2となるからです。
一方,D'(R)Tv=TD(R)vですから,TVはD'-不変ですが,(D',W)が既約表現なので,TV=WかTV={0}のいずれかです。
しかし,T≠0 ならTV={0}では有り得ないのでTV=Wです。すなわち,上への写像です。
以上からTはVからWへの同型写像か,またはT=0 のいずれかであることが示されました。(証明終わり)
行列表現では,1つの線型写像Tは1つの行列を意味しますが有限次元空間ではTが同型写像であることとKerT={0},またはdetT≠0 なることは全て同値です。
そして,detT≠0 なる線型写像T:V→Wが存在して∀R∈GについてD'(R)T=TD(R)となることは,表現(D,V)と(D',W)が同値な表現であることを意味しますから,上記シューアの補題は次のようにも表現できます。
"(D,V),(D',W)を群Gの2つの既約表現とするとき,VからWへの線型写像Tがあって∀R∈GについてD'(R)T=TD(R)を満たす場合,(1)DとD'が同値なら,このようなTは同型写像か,またはT=0である。(2)DとD'が異値ならこのようなTはゼロしか有り得ない。"
ですね。
さらに,(D,U)が群Gの複素既約表現の場合,シューアの補題は次のようになります。
※(シューアの補題2):(D,U)が群Gの複素既約表現のとき,∀R∈Gに対するD(R)と可換な線型変換Tはスカラー変換のみである。
すなわち,∀R∈Gに対してD(R)T=TD(R)なら,ある複素数λ∈Cが存在して,T=λIである。(Iは単位行列,または恒等写像)
(証明)λ∈CをTの1つの固有値とします。すなわち,固有値方程式det(T-λI)=0 の1つの根であるとします。S≡T-λIと置けばD(R)T=TD(R)はD(R)S=SD(R)を意味します。
そこで先のシューアの補題から行列Sはゼロであるか,またはdetS≠0なる正則な行列であるかのいずれかですが,固有値方程式det(T-λI)=0 はdetS=0 そのものですからS=T-λIはゼロです。つまりT=λIです。(証明終わり)
この定理から,"可換群(アーベル群)の複素既約表現は全て1次元表現である。"という系が得られます。
なぜなら,(D,U)が可換群Gの複素既約表現のときは,∀R1,R2∈Gに対してD(R1)D(R2)=D(R2)D(R1)ですから,シューアの補題によりD(R)=λ(R)I;λ(R)∈Cと書けます。
それ故,既約な表現空間Uは1次元でなければならないからです。
(D(R)=λ(R)IのIが2次元以上の単位行列なら,それは可約なことは明らかです。つまり,λ(R)Iは1次元の対角行列(単なる数)の直和行列です。)
さて,シューアの補題2によりD(R)と可換な線型変換Tはスカラー変換のみであることは(D,U)が群Gの既約表現であるための必要条件であることがわかりましたが,特に(D,U)がユニタリ表現のような完全可約な表現の場合には,これは十分条件でもあります。
すなわち,(D,U)が完全可約の場合には,Uはその既約なD-不変部分空間によって,U=U1+U2+..+Umなる形に表わすことができます。
つまり,Uの任意の元uはu=u1+u2+..+um,(ui∈Ui,(i=1,2,..,m))と直和表現できます。
そこで,この場合にはu∈UがTu=λ1u1+λ2u2+..+λmumに写される線型変換Tを作ることが可能ですが,これは明らかに∀R∈Gに対するD(R)と可換です。
しかし,完全可約ならλ1,λ2,...λmは任意に選ぶことができるので,m≧2,λ1≠λ2と選択すればTはスカラー変換ではありません。
以上から,結局∀R∈Gに対するD(R)と可換な線型変換Tがスカラー変換に限られるなら,(D,U)は既約表現でなければならないことが示されました。
つまり,(D,U)が完全可約表現,例えばユニタリ表現のときには,D(R)(∀R∈G)と可換な線型変換Tがスカラー変換に限られることが表現が既約表現であるための必要十分条件であることがわかります。
今日はここまでにします。
参考文献:山内恭彦,杉浦光夫 著「連続群論入門」(培風館),犬井鉄郎,田辺行人,小野寺嘉孝 著「応用群論」(裳華房),島 和久 著「連続群とその表現」(岩波書店)
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