超弦理論(11)(開弦の振幅とユニタリ性)
超弦理論(superstring theory)の続きです。
開弦のタキオンのM点振幅:A(k1,k2...,kM)=gM-2∫dx1dx2...dxM<Πj=1Mexp{-ikiX(xi)}>に戻って,群論因子:tr(λ1λ2..λM)の係数,つまり外線1,2,3,...,Mの巡回的な順序に対応する振幅を計算してみます。
これを実行するためには,残りのSL(2,R)の再パラメータ化対称性を除去する必要がありますが,閉弦の際に行なった方法と同じく,x1=0,xM-1=1,xM=∞と固定します。
M点振幅を評価するには,後は上半平面上での自由場の伝播関数を知ることのみが要求されます。
上半平面上での伝播関数は全平面における伝播関数から鏡像法によって容易に決定できます。
全複素z平面上での伝播関数G(z,z')は以前の記事「超弦理論(8)」で求めましたが,そのときにはG(z,z')=ln(μ|z-z'|)であることを見ました。
今の場合は,確率密度流束が実軸を通過せず反射されるという鏡像の条件,すなわち,z=x+iyに対し実軸:y=0 で∂G(z,z')/∂y=0 なる境界条件が満たされる必要があります。
そこで,点z'=x'+iy'の実軸に関する鏡像点z'*=x'-iy'があると考えると,伝播関数は積分定数をμに含ませて,G(z,z')=ln(|z-z'|)+ln(|z-z'*|)と書けます。
そして,外開弦のM点振幅の計算で必要なのは,実軸上の2点伝播関数のみです。それは,G(x,x')=2ln(|x-x'|)となります。
2008年12/3の記事「超弦理論(8)(弦の頂点演算子とM点散乱振幅)) 」では,A=κM-2∫Πj=1Md2ziΠi<j exp{-(1/2)kikjG(zi,zj)}という表現式に伝播関数G(z,z')=ln(μ|z-z'|)を代入して,因子μを結合定数因子κM-2の中に吸収させることで閉弦に対するタキオンのM点振幅を得ました。
これはA=κM-2∫Πj=1Md2ziΠi<j|zi-zj|-kikj/2なる式です。
今の開弦の場合は,この閉弦の表現式でκをgに変え,変数zをxにd2ziをdxiに変更して伝播関数をG(z,z')=ln(μ|z-z'|)の代わりにG(x,x')=2ln(|x-x'|)とするだけで得られます。
Gの表式に2という因子があることを考慮すれば,開弦に対するタキオンのM点振幅を表わす式として,A=gM-2∫Πi=1MdxiΠi<j|xi-xj|-kikjを得ます。
さらに,3つの変数をx1=0,xM-1=1,xM=∞と固定することにより,開弦でのタキオンM点散乱振幅として,A=κM-2∫dx2dx3...dxM-2Πj=2M-2|xj|-k1kjΠi<l|1-xj|-k2kM-1Π2<l<m≦M-2|xl-xm|-kikjを得ます。
ただし,積分領域は 0<x2<x3<...<xM-2<1 です。これはKoba(木庭)-Nielsenによるヴェネツィアノ振幅(Veneziano amplitude)のM粒子一般化と呼ばれています。
特に,4点散乱振幅の場合にはタキオンの平方質量がk12=k22=k32=-2なので,A=g2∫01x-k1k2(1-x)-k2K3dx=g2B(-s/2-2,-t/2-2)となります。
これは元々のヴェネツィアノ振幅そのものの再現になっています。
これまでは,開弦か閉弦の一方だけを含むグラフのみについて考察してきましたが,より一般には始状態,終状態のそれぞれに開弦と閉弦の両方を持つ散乱振幅も計算することができます。
外粒子として開弦と閉弦の両方を持つグラフでは,これらを上半平面に写像すると,外開弦は実軸上にあって,ある巡回的な順序で積分される頂点演算子を表わし,一方,外閉弦は上半平面上にあって全半平面にわたって積分される頂点演算子を表わします。
また,前回の記事では単純な積分順序にまつわる考察から,開弦のみに存在する群論因子tr(λ1λ2..λM)として,チャン・パトン因子(Chan-Paton's factor)なるものを引き出しました。
この因子は,過去のどんな方法も理論の無矛盾性を破壊しなかったことに着目して引き出されたものです。
このチャン・パトン因子は歴史的には弦理論をハドロンの理論と解釈する試みにおいて重要な役割を果たしました。
ユニタリなチャン・パトン対称性群は,現在強い相互作用のフレーバー群(Flavor group)と呼ばれるものと解釈されました。
例えば,もし弦の端点のクォークが3つのタイプのフレーバー(u,d,s)として現われるなら,チャン・パトン群はU(3)~SU(3)×U(1)となります。
ここでのSU(3)は元々のクォ-ク理論の起源であった八道説(eight-fold way)に対応しています。
こうした弦モデルの歴史的解釈においては,開弦は一端にクォ-ク,他端に反クォークを持つ中間子に対応し,それらをつなぐ弦はクォ-クと反クォークを一体にして保持するある種の力であるとされました。
一方,閉弦は現在glueball(接着球)と呼ばれているクォ-クと反クォークを一体化する力を運ぶ物からなる中性状態であるとされました。
しかし,こうして構成された弦モデルには少しの問題がありました。
第1にタキオンが存在すること,第2に病的な性質を含むことなしにはU(3)の破れを導入することができないように見えること,第3に強い相互作用の世界には全く無縁と思われる質量がゼロの粒子を巻き込むことです。
その上,チャン・パトン群U(3)~SU(3)×U(1)におけるU(1)の因子をバリオン数と解釈する意味で是非必要なフェルミ粒子のモデルを含まないという問題がありました。
しかし,1971年にRamondはモデルにフェルミ粒子を組み入れる興味深い試みを実行しました。
ところが,これは強い相互作用の理論に結び付くことはなく,多くの転回の後,超対称性,超重力,超弦という壮大なモデルに到達しました。
強い相互作用の理論としての弦理論の多くの失敗にも関わらず,量子色力学(QCD:Quantum-ChromoDynamics)において流束管で結合されたクォ-ク-反クォーク対という中間子の現代的な見解と,弦理論の開弦との間には著しい類似が見られます。
弦理論の発明が単なる偶然でない限り,量子色力学との間にこうした類似点があるという事実が弦理論の創造がハドロン物理によって後押しされてきたた理由でしょう。
実際,世界面のトポロジー(位相幾何)による弦グラフの分類には量子色力学における厳密に対応物があります。
また,もし量子色力学のカラー群をSU(3)からSU(n)に一般化すれば,弦理論の位相幾何学的な展開のアナロジーでSU(n)理論は(1/n)のべきの展開を持つべきであることを論ずることが可能となります。
例えば,量子色力学の大きいnの極限での中間子散乱は,弦理論では境界上にクォークを持つ平面様のファインマングラフで記述されます。
量子色力学のこれまでの(1/n)展開の数学は,量子色力学の動力学的特徴を定性的に理解することを目的とした他のあらゆるアプローチと同じく全く手に負えないやっかいなものでした。
しかし,弦理論の進歩が量子色力学の(1/n)展開に光を当てる望みを残しています。
さて,弦理論は確かに相対論的量子論を定式化することへの普通ではないアプローチです。
そして,弦理論の1つの帰結は,これまで散乱振幅の計算で概観してきた規則が明らかにローレンツ不変なのに,ユニタリ性に従うことはあまり明確ではないことです。
実際,ユニタリ性を調べると驚くべきことを見出します。
それらのうちには理論が10次元,または26次元に制限されるという事実があります。
こうしたことの厳密な証明については後述しますが,別の事実のいくつかについてはここで容易に導くことができます。
これを導くために,始状態に弦1,2,3,..,M,終状態に弦1',2',3',...,M'を持つ複雑な弦の散乱過程を考えます。
この過程に対する理論のユニタリ性について正しい証明を与える試みの前の準備段階としての主要な操作は,各々の弦グラフに対して,反応応:1,2,3,...,M→ 1',2',3',...,M'において,どのような中間状態が生じるのかを問うことです。
この問いに答える方法は,始状態と終状態を分離するために,ある方法でグラフを切断することです。
例えば始状態を終状態と分離するために単純な閉弦のツリーグラフを切断すると切断部分は円に同相な単一の閉弦という中間状態以外には有り得ません。
そこでこのグラフで計算される部分の唯一の特異性は単一粒子(閉弦)の極であるという性質が見出されます。
同様に開弦グラフの切断からは単一の開弦粒子が中間状態であることがわかります。
また,これまで3つの閉弦の作る相互作用頂点には結合定数κを,それが3つの開弦の場合には結合定数gを入れてきました。
これまでの論議から,それらはそれぞれ重力結合とヤン・ミルス結合の一般化であり,互いに独立と見えます。
しかし,開弦が閉弦対に結合する際の結合定数をκ'とするとユニタリ性からκ=κ'が言えます。
すなわち,2つの外開弦と2つの外閉弦を持つ平面様グラフは中間状態として,1つのチャンネルに閉弦の極,その交叉チャンネルに開弦の極を持ちます。
そして,閉弦の極の留数はκκ'ですが,開弦の極の留数はκ'2ですからユニタリ性から,両者が一致するため,κ=κ'が得られるわけです。
点粒子の場の量子論は重力の存在の下では,かなり矛盾したもののように見えます。
とにかく,伝播する弦の(1+1)次元理論という唯一の例外を除けば,無限大自由度の一般共変な場の量子論へと向かう方向の進展はほとんどありません。
一方,弦理論は点粒子の理論とは逆の進展性を持つ方向にあることをこれまで学んできました。
弦理論に重力を組み込むことが可能であるということだけではなくて,弦理論の方にも重力を組み込む必要性があります。
例えば,重力を記述しない弦理論は開弦理論のみの必要があります。
古典レベル,すなわち,ツリーグラフのレベルでは開弦だけの理論で何の不都合もありませんが,1ループレベルを考えると,これには重力子に相当する極が見られます。
この1ループレベルでの重力子の極の存在は,重力なしのユニタリな弦理論は存在し得ないことを意味します。
弦理論は,元々は強い相互作用への1つのアプローチとして発明されたものです。
しかし,そういうものとしては,これは正しい理論ではありませんでした。その代わり,弦理論はヤン・ミルス理論と重力の理論の著しい一般化を引き起こしました。
特に超対称弦理論,または超弦理論は重力の量子場理論を悩ます矛盾から完全に自由です。
この序章では簡単のためにボーズ粒子(Bosons)に集中して論じましたが,残りの章では広大なテーマへの主要なアプローチの系統的説明を試みる予定です。(序章;(了))
今日はこれで終わります。やっと序章が終わったので次回からは具体的な理論を系統的に進めていく予定です。
参考文献:M.B.Green,J.H.Schwarz,& E.Witten著「superstring theory」(Cambridge University Press)
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