束縛状態とベーテ・サルピーター方程式(4)
ベーテ・サルピーター方程式(B-S.eq.)の続きです。
§4.小群の体調和関数(Solid harmonics of little groups)
まず,s=P2=(P0)2-P2なので,s>0 ならP=0 となる静止系が常に存在します。一方,このP=0 の座標系を選択した場合には,s=0 はPμ≡0 を意味します。
最初にこの方程式が提案されてから10年以上もの間,B-S.eq.は常にこの静止系で考察されていました。
しかし,Pμが光的な場合:s=P2=PμPμ=(P0)2-P2=0 の場合をも統一的な考察の中に含めるためには,一般のローレンツ(Lorentz)系を想定した系統的なやり方で扱う方がより望ましいと思われます。
こうした目的のために,Nakanishi(中西;1965)は小群(little group)の体調和関数の概念を導入しました。
n重に縮退した束縛状態のB-S振幅はφBr(xa,xb;PB)=<0|T[φa(xa)φb(xb)]|B,r>;(r=1,2,...,n)で与えられますが,これはポアンカレ群,すなわち,非斉次ローレンツ群の有限次元表現の表現空間を形成します。
ポアンカレ群の表現の具体的構造については,ウィグナー(Wigner)の古典的論文で完全に調べ尽くされています。そのうち,平行移動群はアーベル群なので,1次元表現:exp(-iPBx)を持ちます。
ポアンカレ群のある種の特別な表現においては,如何なるローレンツ変換もこの表現を変えません。
ローレンツ変換の部分集合としてL(P)≡{Λ∈L|ΛP=P}なるローレンツ群の部分群を定義します。Lは空間反転,時間反転も含む斉次ローレンツ群であり,L(P)はいわゆるPに属する小群と呼ばれるものです。
以前に述べたように,B-S振幅のφBr(xa,xb;PB)≡(2π)-3/2exp(-iPBX)φBr(x,PB),φBr^(xa,xb;PB)≡(2π)-3/2exp(iPBX)φBr^(x,PB)なる表現によれば,φBr(x,PB),それ故,φBr(p,PB)はΛPB=PBを満足するL(PB)の元Λに対してのみ相互変換されます。
つまり,{φBr(p,PB)}r=1nがL(PB)の表現空間の基底であることを意味します。
※(訳注):Λ∈L(PB)に対して,φBr(p,PB)はφBr(p,PB)→ φBr(Λp,PB)=Σr=1ncrφBr(p,PB)に線型変換されて,{φBr(p,PB)}r=1nはL(PB)に対して不変な部分空間(表現空間)を形成する基底になっています。※
L(P)≡{Λ∈L|ΛP=P}の構造は次のP依存性を持ちます。
[1]Pμが時間的(time-like)ならL(P)~O(3)です。(※(訳注):Pμ≡(m,0)(m≠0)と取ればL(P)は通常の3次元空間の回転群です。※)
[2]Pμが空間的(space-like)ならL(P)~O(2,1)です。
[3]Pμ≡0 ならL(P)~O(3,1)です。
[4]Pμが光的(light-like)ならL(P)~E(2)です。
(※(訳注):光のようにm=0 なら,Pμ≡(m,0)(m≠0)と取ることはできず,例えばPμ≡(1,0,0,1)と取れますが,これからL(P)は自由度が2の空間回転の群であるE(2)になることがわかります。※)
ただし,O(m,1)は(x1,x2,...,xm+1)の2次形式Σj=1m{(xj)2-(xm+1)2}を不変に保つ実線型変換の全体を示し,E(2)は2次元の全ての平行移動と(鏡映を含む)回転から成る2次元ユークリッド群です。
通常の球関数の定義を一般化することにより,次のようにして小群L(P)の体調和関数:Xl(p)を定義します。
体調和関数Xl(p)は(∂/∂p)2Xl(p)=0,およびPμ(∂/∂pμ)Xl(p)=0 を同時に満足するp0,p1,p2,p3のl次の同次多項式とします。固定されたlに対してXl(p)の全体はL(P)の有限次元既約表現の空間を張ることが容易にわかります。
Pμは反変ベクトルで,∂/∂pμは共変ベクトルです。
もちろん,Pμ∂/∂pμ≡P0∂/∂p0+P1∂/∂p1+P2∂/∂p2+P3∂/∂p3ですが,Xl(p)がpμのl次の同次式であり,対称性からpμ(∂/∂pμ)Xl(p)=lXl(p)なる不変な等式を満たします。
まず,特殊なローレンツ系で,Xl(p)の標準形を求めます。
[1]s>0 の場合:Pμ≡(√s,0)とします。このとき,Pμ(∂/∂pμ)Xl(p)=0 は√s(∂/∂p0)Xl(p)=0 となるので,Xl(p)はp0に依存しないことがわかります。
そこで,(∂/∂p)2Xl(p)=0 はラプラス方程式:∇p2Xl(p)=0 になります。故にXl(p)の定義は通常の球関数Ylm(p)に一致します。このYlm(p)は符号を除いて|p|lYlm(θ,φ)と同定される関数です。
ここに,|p|,θ,φはpの極座標です。Ylm(θ,φ)は通常の球面調和関数(球関数)ですね。
Ylm(p)をゲーゲンバウアー(Gegenbauer)多項式:Ckα(z)によって表現するのは便利です。
すなわち,Ylm(p)=[(2l+1)(l-|m|)!/{(4π)(l+|m|)!}]1/2(2|m|-1)!!(p1±ip2)|m||p|l-mCl-|m||m|+1/2(p3/|p|) (m=-l,-l+1,...,l)です。
ただし,±はm/|m|を意味し(2k-1)!!はΠj=1k(2j-1)によって定義されます。規格化因子はゲーゲンバウアー多項式の直交性:∫-11dz(1-z2)α-1/2Ckα(z)Ck'α(z)=πΓ(2α+k)δkk'/{22α-1k!(α+k)Γ(α)2}から計算されます。
[2]s<0の場合:Pμ≡(0,0,0,√-s)とします。このとき,Pμ(∂/∂pμ)Xl(p)=0 は√-s(∂/∂p3)Xl(p)=0 ですからXl(p)はp3に依存しないことがわかります。
そこで,ここでのXl(p)は[1]でのp0をp3に置き換えたもので与えられます。
それ故,この場合の標準体調和関数はY^lm(p1,p2,p0)≡Ylm(p1,p2,-ip0)で定義されます。
[3]Pμ≡0の場合:この場合,条件Pμ(∂/∂pμ)Xl(p)=0 は恒等的に成立するので意味がありません。
そこで,ダランベール(d'Alembert)方程式(∂/∂p)2Xl(p)=□pXl(p)=0 の解を意味する,いわゆるローレンツの体調和関数を指定するにはL,l,mの3つの量子数が必要となります。
何故なら,この場合は明らかに小群L(P)が全体のローレンツ群Lに等しいからです。
そうして,標準的なローレンツの体調和関数というものをZLlm(p0,p)(l=0,1,2,...,L;m=-l,-l+1,...,l)なる表記で表わすことにすれば,これはZLlm(p0,p)≡HLlm(-ip0,p);HLlm(p4,p)≡|p^|LHLlm(α,θ,φ)なる表式によって定義されます。
ただし,|p^|2=(p4)2+p2,cosα=p4/|p^|(p4が実なら 0≦α<π)です。そして,HLlm(α,θ,φ)は4次元の球関数です。
具体的には,HLlm(α,θ,φ)≡ALlsinlαCL-ll+1(cosα)Ylm(θ,φ)と表わされます。ここでの規格化定数:ALlは∫dΩ4|HLlm(α,θ,φ)|2=1なる要請によって決まります。
ただし,dΩ4は4次元立体角要素です。
すなわち,上の要請と既に上で記述したゲーゲンバウアー多項式の直交性:∫-11dz(1-z2)α-1/2Ckα(z)Ck'α(z)=πΓ(2α+k)δkk'/{22α-1k!(α+k)Γ(α)2}から,|ALl|2=22l+1(L+1)(L-l)!(l!)2/{π(L+l+1)!}なる表式を得ます。
もちろん,完全系をなすローレンツ体調和関数としては,他の選択もあります。例えば次の選択は後のケース[4]と関連して便利な表現です。
すなわち,Z^LMm(p)≡A^LMM^(p1±ip2)|m|(p3-p0)M(p3+p0)M^F(-M,-M^,-L;p2/{(p0)-(p3)2})(|m|+M+M^=L,M≧0,M^≧0)と定義すれば,右辺の超幾何関数のベキ級数展開はmin(M,M^)+1個の項しか持たないことがわかります。
これの規格化定数A^LMM^は∫dΩ4|HLlm(α,θ,φ)|2=1に似た要請から決まります。|A^LMM^|2=L!(L+1)!/{2π2M!M^!(L-M)!(L-M^)!}です。
[4]s=0 ,かつPμ≠0 の場合:Pμ≡(P0,0,0,P0)(P0≠0)と選びます。このとき,Pμ(∂/∂pμ)Xl(p)=0 は(∂/∂p0+∂/∂p3)Xl(p)=0 を意味します。そこで,(∂/∂p)2Xl(p)=0 は{(∂/∂p1)2+(∂/∂p2)}Xl(p)=0 となります。
そこで,今の場合はχlm(p)(|m|≦l)で記述される標準の体調和関数はχlm(p)=alm(p1±ip2)|m|(p3-p0)l-|m|なる形で与えられます。
これは,先の[3]での体調和関数の表現:Z^LMm(p)≡A^LMM^(p1±ip2)|m|(p3-p0)M(p3+p0)M^F(-M,-M^,-L;p2/{(p0)-(p3)2})(|m|+M+M^=L,M≧0,M^≧0)において,M^=0,alm≡A^L,l-|m|,0と置いた式に一致します。
χlm(p)=alm(p1±ip2)|m|(p3-p0)l-|m|において(p3-p0)の因子が不変量によってp3-p0=(-v+w)/(2P0)と表現できることは注目に値します。
※(訳注):何故なら,v≡(ηaP+p)2,w≡(ηbP-p)2,かつs=P2=0;Pμ≡(P0,0,0,P0)ですから,-v+w=-2pP+(ηb2-ηa2)P2=-2pP=2P0(p3-p0)となるからです。※
以上,ある特殊準拠系での小群の体調和関数を論じました。しかし,種々のケースの相互関係を考えたいときには,特殊座標系で論じるのは得策ではありません。そこで,以下では体調和関数が任意のローレンツ系ではどうなるか?を調べてみます。
まず,s>0 の場合のP(0)μ≡(√s,0)に対し,これと同じsを持つPμ,つまりP2=s>0 となる任意の4元ベクトルPμを考えます。このとき,あるローレンツ変換Λ∈Lが存在してP=ΛP(0)と書けます。このΛとpに対してq≡Λ-1pと定義します。
このとき,L(P)の体調和関数はYlm(p,P)=Ylm(q)で与えられることがわかります。
すなわち,Ylm(p,P)=Ylm(q)=Ylm(q,P(0))ですがYlm(q,P(0))はL(P(0))の体調和関数ですからq0,q1,q2,q3のl次の同次多項式です。
そしてq≡Λ-1p,つまりqμ=(Λ-1)μνpνなのでこれはp0,p1,p2,p3のl次の同次多項式であることと同値です。
そして,P=ΛP(0),p=Λqにより,(∂/∂p)2Ylm(p,P)=(∂/∂q)2Ylm(q,P(0))=0,P(∂/∂p)Ylm(p,P)=P(0)(∂/∂q)Ylm(q,P(0))=0 が成立することも自明です。
したがって,Ylm(p,P)=Ylm(q)をL(P)の体調和関数と同定できます。
短かいし途中ですが,今日はここで終わります。
参考文献:Noboru Nakanishi "A General survey of the Theory of the Bethe-Salpeter Equation",Progress of Theoretical Physics, Supplement,No.43(1969)
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