« 犯罪は社会の縮図? | トップページ | 女難? »

2009年2月26日 (木)

分子と点群(2)

 対称性変換群の表現論の続きです。

 (D,U)を群のユニタリな行列表現とすると,シューアの補題(Schur's lemmma)によれば,∀R^∈に対するD(R)と可換な線型変換Tがスカラーであること,つまり∀R^∈に対する表現行列D(R)と可換な行列Tが単位行列の定数倍に限られるということが,Dが既約表現であるための必要十分条件であるというところまで書きました。

ユニタリな行列表現(D,U)は完全可約であって,表現空間U,および∀R^∈に対する表現行列D(R)は既約表現の直和に分解されます。これをU=Σα(α),D(R)=Σα(α)(R)と書きます。ここではΣαは直和を意味する記号とします。

 これから,次の定理が導かれます。

[定理1]:群のユニタリな既約表現(D(α),U(α))の表現行列D(α)(R)は次の直交関係:ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)=(g/dααβδikδjlを満たす。

 

 ここで群は有限群であると仮定しており,gはその位数||です。また,dαは既約表現(D(α),U(α))の次元です。つまりD(α)(R)はdαの正方行列です。

(証明)Bをdαβ列の任意の行列とし,同じdαβの行列TをT≡ΣR∈G(α)(R-1)BD(β)(R)によって定義します。

 

 このとき,R1^∈についてD(α)(R1)T=ΣR∈G(α)(R1-1)BD(β)(R)=ΣR∈G(α)(R-1)BD(β)(RR1)=TD(β)(R1)となります。

 つまり,D(α)(R1)T=TD(β)(R1)です。

 

 この等式はR1^∈を特定して得られたわけではなく,したがって任意のR1^∈に対して成立するので,シューアの補題により,α≠βの場合,すなわち(α)とD(β)が同値でない(異値の)既約表現の場合には,T≡0 です。

 そして,T=ΣR∈G(α)(R-1)BD(β)(R)=0 において,Bは任意なので成分表示Tjl=Σm,nΣR∈G(α)jm(R-1)Bmn(β)nl(R)=0 において,特にBmn=δmiδnkとしてこれを代入すればΣR∈G(α)ji(R-1)D(β)kl(R)=0 を得ます。

 

 行列D(α)(R)はユニタリなので,D(α)ji(R-1)=D(α)ji(R)=D(α)ij(R)*ですが,これはΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)=0 を意味します。 

 一方,αβの場合には,同じくシューアの補題によりT=ΣR∈G(α)(R-1)BD(α)(R)=λIです。

  

 成分表示Tjl=Σm,nΣR∈G(α)jm(R-1)Bmn(α)nl(R)=λδjlにおいて,特にBmn=δmiδnkを代入すれば,ΣR∈G(α)ij(R)*(α)kl(R)=λδjlを得ます。

 ここで,j=lとして両辺をj=1,2,..,αについて加え合わせるとΣj=1ΣR∈G(α)ji(R-1)D(α)kj(R)ΣR∈G(α)ki(RR-1)=λdαとなります。

 

 よって,λdα=gδik,:λ=(g/dαikなので,ΣR∈G(α)ij(R)*(α)kl(R)=(g/dαikδjlです。(証明終わり)

(註)実際には,(R)=Σα(α)(R)なる直和分割において,各々のD(α)(R)が,全て互いに異値であるというわけではなく,α≠βの場合でも(α)(R)とD(β)(R)が同値な場合もあります。

そして,D(R)=Σα(α)(R)なる既約表現への直和分解においてD(α)と同値な表現の個数がmαなら,このmα(α)重複度と呼ぶことにします。

 

これにより表現の直和分割を改めてD(R)=Σαα(α)(R)と書けば,上の定理1の結論である直交性ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)=(g/dααβδikδjlは,ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)={g/(mαα)}δαβδikδjlに変更されます。

 さて,上の定理は群が回転群のうち角運動量lが定まった部分群のような有限群の場合の定理ですが,そうではなくが回転群の全体であるような連続群で,それ故無限群の場合には次のように変わります。

[定理2]:(D,U),(D',U')を連続群のそれぞれm次,n次のユニタリ行列による既約表現とする。このとき,DとD'が同値なら∫ij(R)*D'kl(R)dR=(1/m)δikδjl,一方DとD'が異値なら∫ij(R)*D'kl(R)dR=0 が成立する。

(略証):Bをm行n列の任意の行列とし,同じm行n列の行列TをT≡∫(R-1)BD'(R)dRによって定義します。

 

 以下,上の連続関数fに対する積分の左不変性(R1-1R)dR=(R)dRを用いると,任意のR1^∈に対して,D(R1)T=TD'(R1)なる等式が成立するという結果が得られるので,シューアの補題,および∫dR=1から,[定理1]の証明とほぼ同じ手順で[定理2]の結論が得られます。(証明終わり)

 ただし,上記の定理の命題の意味を明確にするためには,上の任意の連続関数fに対し,"任意のR1^∈に対して∫(R1-1R)dR=(R)dRが成立する"という積分の左不変性を持ち,dR=1なる規格化条件を満たす左不変測度と呼ばれる上の測度dRを定義する必要があります。

 そして,こうした測度が定義できるためには位相群の位相空間としての空間体積が有限であることが必要です。

位相空間の空間体積とは何か?というような抽象的な話に入るのはなるべく避けて,連続群の例として3次元の合同変換群を挙げます。

 

この空間の座標パラメーターとして極座標(r,θ,φ);r2≡x2+y222,x=rsinθcosφ,y=rsinθcosφ,z=rcosθを採用することができます。

3次元空間全体の体積は無限大なので平行移動群を含めた全体の合同変換群の体積は∞ なのですが,回転群だけならrを除いた(θ,φ)だけで事足りるので,これだけなら,体積は∫sinθdθdφ=4π程度です。(0≦θ<2π,0≦φ<π)

一方,例えばが3次元ポアンカレ群の部分群である3次元ローレンツ群O(2.1)であれば,極座標(r,θ,φ)はr2≡c22-x2-y2,x=rsinhθcosφ,y=rsinhθcosφ,ct=rcoshθです。

 

形は似ていますが,平行移動群のパラメータrを除いたローレンツ群の体積は∫sinhθdθdφ=∞ になります。

これは,パラメータ空間として,0≦φ<πは同じですが,θについては回転群では 0≦θ<2πなのに対し,ローレンツ群では双曲線関数の定義域なので-∞≦θ<∞であるからです。

 

パラメータ空間の体積が有限な連続群をコンパクト群,そうでない群を非コンパクト群といいます。

物理学ではミンコフスキー(Minkowski)空間を解析接続してユークリッド空間とした方が計算しやすいので,時間変数を"複素数に拡張=解析接続"して複素平面上の虚軸をπ/2だけウィック(Wick)回転する方法があります。

  

また,統計物理学では,絶対温度Tの逆数β≡1/(kBT)を量子力学での虚時間:itと同一視する手法が用いられます。

  

しかし,実際には回転群がコンパクト群であるのに対して,ローレンツ群は非コンパクト群であることに対応してミンコフスキー空間はコンパクト空間でないので,これらの手法の妥当性はみかけほど自明なことではなく,数学的な正しさにとってかなり微妙な手続きです。

さて,がコンパクト群の場合は全体積が有限なので,全体積で割ることによりdRをdR=1を満たすような体積要素とし,任意の連続関数fに対してS(f)≡(R)dRで定義した積分S(f)が次の4つの基本的性質を満たすようなものが各fごとに唯1つ存在します。

 

積分S(f)を群の上の不変積分といい,dを左不変ハール測度といいます。

 

そして,S(f)が満たすべき基本的性質とは,

 

(ⅰ)Sは線型:∀a,b∈Cと任意の連続関数f,gに対してS(af+bg)=aS(f)+bS(g)である。

 

(ⅱ)∀^∈に対しf(R)≧0 ならS(f)≧0 である。

 

特に,^∈に対しf(R)≧0 であるが恒等的にf(R)≡0 でないなら,S(f)>0 である。

 

(ⅲ)Sは左不変,つまり1^∈に対してLR1(R)≡f(1-1)とすれば,S(LR1)=S(f)である。

 

(ⅳ)S(1)=1 である。

  

4つです。

,RR1(R)≡f(R1)と定義しS~(f)をS~(f)≡S(R1)によって定義すれば,Sの左不変性からS~(LR1f)≡S(R1R1)=S(R1)=S~(f)が成立するので,S~も左不変です。

 

証明はしていませんが,左不変な不変積分は一意的であることがわかっているので,S~=Sです。

 

結局,(R1)dR(R)dRが成立します。よって,左不変積分は右不変でもあります。

この不変測度による不変積分を用いて一般のコンパクト群上の関数φ,ψについての"内積=ユニタリ内積"を<φ|ψ>=∫φ(R)*ψ(R)dRで定義します。

次に,重要な概念である群の表現の指標を定義します。

[定義1]:群の表現(D,U)に対して,χD(R)≡Tr{D(R)}(∀^∈)で定義される上の関数χDをこの表現の指標という。

 

 すなわち,χD(R)=Tr{D(R)}=Σk=1mD(R)kkである。(ここでTrはトレース(対角和)を意味する。mは表現Dの次数である)

 明らかに,χD(I)=m(表現の次元)です。

 

 そして,トレースの性質:Tr(A+B)=Tr(A)+Tr(B),Tr(AB)=Tr(BA)(Tr(ABA-1)=Tr(B))によって,∀1^,R2^∈についてχD(R212-1)=χD(R1),また,2つの表現(D,U),(D',U')に対し,これらが同値なら,detT≠0 なるTが存在して∀^∈についてD'(R)=TD(R)T-1と書けるのでχD=χD'です。

 

 また,2つの表現(D(1),U(1)),(D(2),U(2))に対しD=D(1)+D(2)(直和)ならχD=χD1+χD2が成立します。

[定理3]:(D,U),(D',U')をコンパクト群の2つの既約表現とするとき,DとD'同値なら<χDD'>=1,異値なら<χDD'>=0 である。

(証明)コンパクト群の表現(D,U)では,積分が左右不変なので,1,2∈Uの内積<1|2>を<1|2>=12から,<1|2>≡∫{D(R)1}{D(R)2}dRに定義し直すと,∀1^∈について<D(R1)1|D(R1)2>=<1|2>が成立するため,D(R1)=D(R1)-1が成立するユニタリ表現と考えることができます。

そして,先の定理2の命題:"(D,U),(D',U')をのそれぞれm次,n次のユニタリ行列による既約表現とするとき,DとD'が同値なら∫ij(R)*D'kl(R)dR=(1/m)δikδjl,一方DとD'が異値なら∫ij(R)*kl(R)dR=0 が成立する。"から定理の結論が成立することは明らかです。(証明終わり)

先に,定理1の証明のすぐ後で,

 

"群が位数;g=||の有限群の場合に,"D(R)=Σα(α)(R)なる既約表現への直和分解においてD(α)と同値な表現の個数がmαなら,これを(α)重複度と呼ぶことにします。

 

これにより表現の直和分割をD(R)=Σαα(α)(R)と書けば,上の定理1の結論である直交性:ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)=(g/dααβδikδjlはΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)={g/(mαα)}δαβδikδjl に変更されます。"

 

と書きました。

がg=||=∞ の連続群で,それもコンパクト群の場合にはD(R)=Σα(α)(R)なる既約表現への直和分解においてD(α)の次元をdα,重複度をαとするとき,上の定理1の結論は定理2のそれに変更され,直交性:ΣR∈G(α)ij(R)*(β)kl(R)={g/(mαα)}δαβδikδjl,"D(α)とD(β)が同値なら∫(α)ij(R)*(β)kl(R)dR=(1/dαikδjl,異値なら∫(α)ij(R)*(β)kl(R)dR=0 である"となります。

このとき,指標χD(R)=Tr{D(R)}はχD(R)=Σααr{D(α)(R)}よりχD=ΣααχD(α)ですが,定理3によって<χD(α)D>=αを得ます。

 

さらには<χDD>=Σαα2となります。このことから次の重要な定理が得られます。

[定理4]:(1)(D,U)をコンパクト群の表現とするとき,これが既約表現であるための必要十分条件は<χDD>=1なることである。(2)(D,U),(D',U')をコンパクト群の2つの表現とするときDとD'同値:D~D'であるためにはχD=χD'なることが必要十分である。

(証明)(1)は自明ですから(2)のみを証明します。

 

 まず,χD=χD'なら,任意の既約表現(α)に対して<χD(α)D’>=<χD(α)D>ですから,χD=ΣααχD(α);<χD(α)D>=αを意味する表現D=Σαα(α)とD'が同値であることは自明です。必要性は既に示されています。(証明終わり)

 さて,例として対象とする群が2次元の特殊ユニタリ群:SU(2)である場合を考えてみます。

 

 すなわち,=SU(2)≡{g∈GL(2)|g=g-1,detg=1}とします。ただし,GL(2)は正則な2次の正方行列から成る群です。ここでは行列要素が複素数のGL(2,)を仮定しています。

対角成分がa,a-1(a∈,a≠0)の2次の対角行列をhaと書き,≡{ha∈GL(2)|a∈,|a|=1}とします。

 

は明らかに=SU(2)の部分群です。しかもこれは可換群(アーベル群)であり,1-パラメータ群(a=exp(iα))ですから,U(1)(絶対値が1の複素数の乗法群)と同型です。

 

SU(2)の任意の元gの固有値をa,a-1(a∈,|a|=1)とするとgはあるk∈SU(2)によってha=kgk-1,haと対角化できます。あるいは,g=kha-1,haとすることができます。

  

一般にU(1)の幾つかの直積と同型な群をトーラス群といいます。

 

がトーラス群かつの部分群,すなわちトーラス部分群であってこれを真に含むのトーラス部分群が存在しないなら,の極大トーラス部分群といいます。

 

今のがSU(2)の場合には上で定義した2次の対角行列から成る部分群はSU(2)の極大トーラス部分群となっています。

  

[定理5]:=SU(2)とする。(1)の任意の元gは極大トーラス群の元と共役である。(2)g,h∈に対してf(hgh-1)=f(g)を満たす関数(類関数という):fは極大トーラス部分群の上の値で決まる。すなわち類関数f1,f2が∀h∈に対してf1(h)=f2(h)を満たすならばの上でf1=f2である。

 

 これの証明は自明なので省略します。

 

 =SU(2)の表現(D,U)が与えられたとき,指標χDは明らかに1つの類関数ですから,極大トーラス部分群の上の値だけで決まります。

 

 今日はここまでにします。

参考文献:山内恭彦,杉浦光夫著「連続群論入門」(培風館),犬井鉄郎,田辺行人,小野寺嘉孝 著「応用群論」(裳華房),島 和久 著「連続群とその表現」(岩波書店)

 

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。クリックすると人気blogランキングに跳びます。)

にほんブログ村 科学ブログへ にほんブログ村 科学ブログ 物理学へクリックして投票してください。(ブログ村科学ブログランキング投票です。1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。クリックするとブログ村の人気ランキング一覧のホ -ムページームに跳びます。)

 Attension!! 広告宣伝です。

 http://www.rakuten.co.jp/trs-kenko-land/  健康商品の店「TRS健康ランド」- SCS(食品洗浄剤),黒ウコン,酒の帝王,鵜鶏王などの専売店  ←この店は私TOSHIが店長をしています。(楽天ショップです。TRSのTはTOSHIのTです。)

 

「TRS健康ランド」では2008年1月10日よりお徳用SCS500mlを新発売!!当店の専売です。

 そこのお酒のみの方,いろいろと飲食の機会の増えたあなた,悪酔いを防止すると言われているウコンがいいですよ!! そして特に今回提供する沖縄原産の純粋な黒ウコンは当店が専売の新製品ですが古くから沖縄地方ではいわゆる男性の力に効果があると言われています。

 おやおや,そこの静電気バチバチの人、いいものありますよ。。。

 それから農薬を落とした後の皮がピカピカに光っているリンゴなど商品として販売する際の見栄えをよくするなどのために化学処理をした食品を安全に洗浄する新商品の洗浄液SCSはいかがですか。。。農薬ジクロルポスも食品専用の洗浄液SCSで落ちて安全になります。(厚労省試験済み)

http://www.mediator.co.jp/category/pages.php?id=115「中古パソコン!メディエーター巣鴨店」

iconDell-個人のお客様ページ

(Dellの100円パソコン(Mini9)↓私も注文しました。)

デル株式会社

ヤーマン プラチナゲルマローラー 1日3分コロコロエステ!ローラー型プラチナ配合美顔器  

ブックオフオンライン 

お売りください。ブックオフオンラインのインターネット買取 展開へ! ▼コミック 尾田栄一郎 「ONE PIECE(52)」 icon ▼コミック 「ONE PIECE」をオトナ買い icon

三国志特集 ▼コミック 横山光輝 「三国志全巻セット」 icon 「三国志(文庫版)全巻セット」 icon  「三国志(ワイド版)全巻セット」 icon  ▼書籍 「三国志」/吉川英治 icon  「三国志」/北方謙三 icon  「三国志」/宮城谷昌光

iconオンライン書店 boople.com(ブープル)

|

« 犯罪は社会の縮図? | トップページ | 女難? »

111. 量子論」カテゴリの記事

307. 幾何学(トポロジー・他)」カテゴリの記事

112. 原子・分子物理」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 分子と点群(2):

« 犯罪は社会の縮図? | トップページ | 女難? »