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2009年4月28日 (火)

水の波(2)(浅水波,深水波,表面張力波)

 水の波のつづきです。微小振幅波を近似して分類します。

微小振幅波の位相速度cと波数k or 波長λとの関係,つまり分散関係はc=ω/k={(g/k)tanh(kh)}1/2{gλtanh(2πh/λ)/(2π)}1/2で与えられます。

 

これは,一見しただけではよくわからない関数形をしていますが,波長λが水深hに対して極めて大きい波,または水深hの方がλに対して極めて小さい波に対しては分散関係は簡単になります。

すなわち,h/λ<<1では,tanh(kh)=tanh(2πh/λ)~ kh=2πh/λなる近似が成り立つので,位相速度cもc~ (gh)1/2と近似できます。この場合,波の速さcは深さの平方根:h1/2に比例します。

 

cが波長λに依らないので波は非分散的です。

h/λ<<1はkh<<1を意味しますから,今の場合には速度ポテンシャルΦも,Φ(x,z,t)=-{Ac/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}cos(kx-ωt)の正弦波の係数が,sinh(kh)~ kh,cosh{k(z+h)~ 1と近似できて,Φ(x,z,t)~ {-Ac/(kh)}cos(kx-ωt)と簡単になります。

これによって,dx/dt=u=∂Φ/∂x=(Ac/h)sin(kx-ωt),dz/dt=u=∂Φ/∂z={-Ack(z+h)/h}cos(kx-ωt)が得られます。

 

そこで前に求めた近似軌道はx=x0[A/(kh)]cos(kx0-ωt),z=z0[A(z0+h)/h]sin(kx0-ωt)と簡単になります。

これは,楕円軌道:(x-x0)2/a2(z-z0)2/b21における長半径aがa=A/(kh),短半径bがb=A(z0+h)/hとなってa>>bを意味します。

 

そこで,z方向の振幅b=A(z0+h)/hは無視できて,水の運動は事実上,水平方向の単振動x=x0+acos(kx0-ωt),z=z0と見なせます。 

そして振幅a=A/(kh)は深さz=z0に依存しませんから,同じx0の位置にある水の鉛直層は一体になって水平に往復運動をするという描像になります。

 

その水平運動の速度はu=dx/dt=A(g/h)1/2sin(kx-ωt)となりますが,これは水面の波形(高さ):η(x,t)=Asin(kx-ωt)と全く同位相なので水面の山では正の向き,谷では負の向きに動くことになります。

このような波は,波長λが長いか,深さhが小さい場合の波なので,長波,または浅水波(shallow water wave)と呼ばれます。

 

そして,これを導くために用いた上述の近似を,長波近似,または浅水波近似といいます。

一方,逆に波長λが深さhに対して極めて短かい波,あるいはhがλに比べて極めて大きい場合,深い場合の近似を考えることもできます。

この場合はkh=2πh/λ>>1なのでtanh(kh)~ 1と近似できます。そこで,位相速度c=ω/k={(g/k)tanh(kh)}1/2{gλtanh(2πh/λ)/(2π)}1/2の近似はc~ (g/k)1/2{gλ/(2π)}1/2となります。

 

そこで,これの極限での波は分散的です。

このkh>>1の場合,sinh(kh)=(1/2){exp(kh)-exp(-kh)}~ (1/2)exp(kh),cosh{k(z+h)}=(1/2)[exp{k(z+h)}+exp{-k(z+h)}] ~ (1/2)exp{k(z+h)}と近似できます。

 

そこで,Φ(x,z,t)=-{Ac/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}cos(kx-ωt)も,近似的にΦ(x,z,t)~-Acexp(kz)cos(kx-ωt)と書けます。

したがって,dx/dt=u=∂Φ/∂x~ Ackexp(kz)sin(kx-ωt),dz/dt=w=∂Φ/∂z~-Ackexp(kz)cos(kx-ωt)ですから,水の運動もx~x0+Aexp(kz0)cos(kx0-ωt),z~ z0+Aexp(kz0)sin(kx0-ωt)となります。

前に,x=x0[Acosh{k(z0+h)}/sinh(kh)]cos(kx0-ωt),z=z0[Asinh{k(z0+h)}/sinh(kh)]sin(kx0-ωt)によって,楕円軌道:(x-x0)2/a2(z-z0)2/b21,a≡Acosh{k(z0+h)}/sinh(kh),b≡Asinh{k(z0+h)}/sinh(kh)を求めました。

 

これは,今の近似では,a=b=Aexp(kz0)なので,水の運動は(x-x0)2(z-z0)2=A2exp(2kz0)となり,(x0,z0)を中心とする半径がAexp(kz0)の円運動になります。

半径Aexp(kz0)は深さ|z0|の増加に連れて指数関数的に減少するため,水面の波による水の運動は実質的にある有限深さまでに限られ,それより下方には及びません。

 

その有限深さ|z0|の値はk|z0|=2π|z0|/λのオーダーで決まるため,波の波長λに比例しますから,波長が短くなると共に小さく浅くなることがわかります。

このように,水深に比べて波長が極めて短かい波を短波,または深水波(deep-water wave)と呼び,これを導くために用いた近似を短波近似,または深水波近似といいます。これが成立するのは,tanh(kh)~ 1の近似が許される場合です。

例えば,1-tanh(kh)≦0.01となるのはkh=2πh/λ≧2.65のときですから,λ≦2.4h,すなわち水深の約2倍の波長に対して短波近似は相対誤差1%以内で成立します。

さて,これまでの扱いでは,水面に働く表面張力を考慮しませんでしたが表面張力の影響は特に波長の短かい波に対しては無視できません。

表面張力を考慮する場合でも,元々の境界値問題:=∇Φ,∇2Φ=0,∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x)+(∂Φ/∂y)(∂η/∂y),∂Φ/∂t+p/ρ+(∇Φ)2/2+gz=f(t)は,そのまま成立します。

そして,大気と接している水面上の大気圧をp0とするとき,前には∂Φ/∂t+p/ρ+(∇Φ)2/2+gz=f(t)なる圧力方程式で,任意関数f(t)をf(t)≡p0/ρと置き,z=ηでp=p0として,η=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2なる式を得ました。

 

しかし,表面張力による圧力差δp>0 があれば水面での水の圧力pは大気圧p0と同じではなくて,p0+δpに等しくなります。 

そこで,この場合は同じ(t)=p0/ρに対しz=ηでの圧力としてp=p0+δpを代入すれば,水面での境界条件はη=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2δp/(ρg)となります。

ところで,1つの曲面をその法線を含む平面で切ると,切り口の曲線の曲率半径Rは一般に平面の方向によって異なります。

 

このときのRの極大値をR1,極小値をR2とするとき,それぞれを与える平面の方向を主方向,κ11/R121/R2を主曲率,H≡(κ1+κ2)/2を平均曲率といいます。

γを表面張力とすると,これが働いている曲面を隔てての圧力差は,δp=γ[(1/R1)+(1/R2)]=γ(κ1+κ2)=2γHで与えられます。

ところで水面に限らず一般的な空間曲面の性質については,過去に2008年7/30の記事「相対論の幾何学(第Ⅰ部-4:空間曲面(1))」,および2008年8/3の記事「相対論の幾何学(第Ⅰ部-5:空間曲面(2))」において詳しく論じています。

 

この中では,滑らかな曲面をある定義域Dにある2つのパラメータ(u,v)∈Dのベクトル値関数として(u,v)=(x(u,v),y(u,v),z(u,v))で定義しています。

 

そして,この曲面の曲率に関して得られる平均曲率H≡(κ1+κ2)/2 はu,vの6つの関数E,F,G,L,M,Nによって,H=(EN+GL-2FM)/{2(EG-F2)}なる式で与えられることが示されています。

ただし,E,F,Gは,u≡∂/∂u,v≡∂/∂vに対しE≡u2,F≡uvvu,G≡v2で定義されます。

 

また,L,M,Nはuu≡∂2/∂u2,uv≡∂2/∂u∂v,vv≡∂2/∂u2に対し,L≡(uu,),M≡(uv,),N≡(vv,)で定義されます。

 

ただし,≡(u×v)/|u×v|は曲面(u,v)の法線単位ベクトルです。

 

これらの関数を今の(x,y)をパラメータとして水面の高さを表わす式z=η(x,y),またはこれの曲面ベクトルの表現(x,y)=(x,y,η(x,y))で表わすと,E=1+(∂η/∂x)2,F≡(∂η/∂x)(∂η/∂y),G=1+(∂η/∂y)2です。

 

それ故,EG-F21+(∂η/∂x)2(∂η/∂y)2となります。

  

そして,L=-∂2η/∂x2,M=-∂2η/∂x∂y,N=-∂2η/∂y2ですから,EN+GL-2FM=-(∂2η/∂x2){1+(∂η/∂x)2}-(∂2η/∂y2){1+(∂η/∂y)2}+2(∂2η/∂x∂y)(∂η/∂x)(∂η/∂y)が得られます。

 

そこで,微小振幅波近似を採用してηの2次以上の項を無視すると,平均曲率はH~(-1/2)(∂2η/∂x2+∂2η/∂y2)/2となります。

 

したがって,表面張力による圧力差はδp=γ[(1/R1)+(1/R2)]=2γH~-γ(∂2η/∂x2+∂2η/∂y2)と近似表現されます。

 

そこで,δpを考慮した方程式:η=-g-1(∂Φ/∂t)-(2g)-1(∇Φ)2δp/(ρg)においてηとΦの2次以上の項を無視した微小振幅波では,η=-g-1(∂Φ/∂t){γ/(ρg)}(∂2η/∂x2+∂2η/∂y2)が得られます。

 

これと,水面z=ηにおける運動学的境界条件∂Φ/∂z=∂η/∂t+(∂Φ/∂x)(∂η/∂x)+(∂Φ/∂y)(∂η/∂y)の微小振幅波近似∂Φ/∂z=∂η/∂t(z~0)から,z=0で成立すべき式:2Φ/∂t2[g-(γ)(∂2/∂x2+∂2/∂y2)](∂Φ/∂z)=0 を得ます。

 

これは,前の記事でz=0で∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0,とz=-hで∂Φ/∂z=0 なる境界条件の下でラプラス方程式∇2Φ=0 を解いて近似解を得た際のz=0で∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0 という境界条件に代わる式です。

 

ラプラス方程式∇2Φ=∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂z20 の変数分離解がΦ(x,z,t)=Ccosh{k(z+h)}cos(kx-ωt),η(x,t)=Asin(kx-ωt) (ただし,A≡-Cωcosh(kh))で与えられるのは前と同じです。

 

違うのはωやcをk,またはλと関係付ける分散式です。

 

これは解Φの陽な式を,"z=0 で2Φ/∂t2[g-(γ)(2/∂x2)](∂Φ/∂z)=0 が成り立つ"という境界条件式に代入すれば得られて-ω2cosh(kh)+k(g+γk2)sinh(kh)=0 となります。

 

これから,ω={k(g+γk2)tanh(kh)}1/2,あるいはc=ω/k={(g/k+γk/ρ)tanh(kh)}1/2[{gλ/(2π)+2πγ/(ρλ)}tanh(2πh/λ)]1/2を得ます。

  

しかし,長波,または浅水波;kh=2πλ<<1の場合はtanh(kh)~kh,(γk/ρ)tanh(kh)~γ2/ρ<<ghより,c~(gh)1/2と近似されて,表面張力を考慮しない場合と全く同じです。

 

つまり,長波,または浅水波には表面張力の影響は現われません。

これに対して,短波,または深水波;kh=2πλ>>1の場合には,tanh(kh)~1によって,c~(g/k+γk/ρ)1/2{gλ/(2π)+2πγ/(ρλ)}1/2となります。表面張力γは速度cにもろに影響します。

 

ここで,c2=gλ/(2π)+2πγ/(ρλ)をλで微分してゼロと置くと,dc2/dλ=g/(2π)-2πγ/(ρλ2)=0 です。

 

そこで,λm≡2π{γ/(ρg)}1/2と置けば,位相速度cは波長λ=λmにおいて,最小値cm≡(4γg/ρ)1/4をとることになります。

 

短波の中でも比較的波長が短かくλ<λmの場合には,c~(g/k+γk/ρ)1/2{gλ/(2π)+2πγ/(ρλ)}1/2の右辺の括弧の中の第2項の表面張力項が優越します。

 

このような波を表面張力波,あるいは"さざ波"といいます。表面張力波では波長λが小さいほど位相速度cは大きく速い波で,λが増すにつれて遅い波になります。

 

一方,比較的波長が長くてλ>λmの場合には,第1項/k=gλ/(2π)が優越します。このような波を重力波といいます。この場合には表面張力がない場合と同じく,波長λの増減と共にcも増減します。

  

今日はここまでにします。

 

参考文献:巽友正著「流体力学」(培風館),小林昭七 著「曲線と曲面の微分幾何」(裳華房)

  

http://folomy.jp/heart/「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。

 

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コメント

TOSHIさん

kazuhikoです。
お返事ありがとうございます。
その符号をマイナスにとるところが、気になってます。

投稿: kazuhiko | 2011年1月13日 (木) 11時53分

 どもkazuhiroさん。はじめましてTOSHIです。

>平均曲率を求めるときの、L、M、Nが上に書いてあるようにはなりませんでした。

>計算の途中経過を教えていただけないでしょうか?

 私は昔のことはすぐ忘れてしまう性分なので,本文の

(※) L≡(r_uu,e),M≡(r_uv,e),N≡(r_vv,e)で定義されます。

ただし,e≡(r_u ×r_v)/|r_u ×r_v|は曲面r(u,v)の法線単位ベクトルです。

および,パラメータ(u,v)の代わりに

 (x,y)をパラメータとして水面の高さを表わす式z=η(x,y),またはこれの曲面ベクトルの表現:r(x,y)=(x,y,η(x,y)) (※)

という部分から素直に計算してみます。

 ∂r/∂x=(1,0,∂η/∂x),∂r/∂y=(0,1,∂η/∂y),∂^2r/∂x^2=(0,0,∂^2η/∂x^2),∂^2r/∂y^2=(0,0,∂^2η/∂y^2),),∂^2r/∂x∂y=(0,0,∂^2η/∂x∂y)です。

 そして,e=(0,0,,∂η/∂y-∂η/∂x)/|∂η/∂y-∂η/∂x|です。

 eは水面の法線単位ベクトルで水面z=η(x,y)のz軸は鉛直上向きです。

 水面の法線をどちら向きにとるかで(∂η/∂y-∂η/∂x)/|∂η/∂y-∂η/∂x|は±1のいずれかですからe=(0,0,±1)です。

 そこで,例えばLはL=(∂^2r/∂x^2,e)=±(∂^2η/∂x^2)です。

 なぜ,(-)符号の方を採用したのかは恐らく種本の記述がそうなっていて曲率の計算ならどちらの符号でも同じなのであまり深刻に考えてないかもしれません。

            TOSHI


投稿: TOSHI | 2011年1月13日 (木) 05時47分

質問です。
平均曲率を求めるときの、L、M、Nが上に書いてあるようにはなりませんでした。計算の途中経過を教えていただけないでしょうか?

投稿: kazuhiko | 2011年1月12日 (水) 00時35分

hirotaです。
昔、弾性板の横波をやったことがあったけど、分散関係は表面張力波と同様でした。(似たような復元力だし)
そのときは変分原理の威力を痛感して、個々の力学的メカニズムを分析しなくても簡単に運動方程式が出せ、各種の保存量なども出せるのに感激したもんです。
でも、ここでそれやると、意味不明になっちゃいますね。

投稿: hirota | 2009年5月 4日 (月) 14時11分

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