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2009年4月18日 (土)

超弦理論(20)(2-9)

超弦理論(superstring theory)の続きです。取りあえずここまで来たら,行き詰まるところまで行きましょうか。

この時点で序文(introduction)で紹介した弦のグラフにおける頂点演算子について考察します。

開弦の相互作用はツリーグラフでは基本的に単一の弦が2つに分岐したり,逆に2つの弦が結合して1つになるというプロセスと見ることができます。これらは3つの開弦の世界面が真ん中で連結したグラフになります。

一般的な相互作用としては,こうした過程に関係する3つの開弦の全てが質量殻の上にはないと予期しますが,特に3つの開弦のうちの1つは物理的な質量殻の固有状態であるような場合について考察します。

3つの開弦の状態を1,1',2と名付けて1→1'+2という反応過程を考え,特に2は質量固有状態であるとします。1と1'については質量固有状態にあるかもしれないしそうでないかもしれません。

 

弦の質量固有状態というのは量子力学的概念であって,古典的概念ではありません。単位としてプランク定数"hc=h/(2π)"を復活させるなら質量固有状態はhcのオーダーの幅と平方質量を持つはずです。

 

それ故,古典的極限では弦の如何なる質量固有状態もある意味では点粒子に類似していると言えます。

質量殻状態2の放出を伴なう1→1'の遷移過程では,弦1'の量子状態は,ある線型変換によって弦1の量子状態と関連付けられる必要があります。

 

そして,この線形変換は弦2の状態に依存するはずです。変換が線型であるのは量子力学を論じているからです。

2が質量固有状態であり従って点状であることから,弦1'は弦1から2が放出された端点において,ある局所演算子の作用によって得られると考えるのが自然です。

 

この局所演算子は質量殻状態2の放出に対する頂点演算子ですが,状態2と関わる頂点の演算子なので通常V2と表記します。

発見的議論の導くところによれば,序章で異なるやり方で論じたように任意の質量殻状態|φ>には適切な頂点演算子Vφを結び付けるべきであろうと推察されます。

頂点演算子を論じるに当たって,我々がここで目指すゴールは実際に相互作用を解析して具体的に計算することではありません。これは後章での課題です。

 

今の目的は取りあえず物理的状態のスペクトルを解析できる道具を開発することです。

以下で論じる話は序章で述べたことへの有用な補完となるはずです。ここでの目的のためには,議論の対象を開弦のみに集中することで十分であると思われます。

 

頂点演算子は閉弦理論においても重要であることに変わりはないですが,ここで開弦について論じることは閉弦に直線的に流用できます。

さて,開弦状態を与えるヒルベルト空間の元に作用する一般の局所演算子A(σ,τ)を考察します。ここでは,特にσ=0 とおいて弦の端点での演算子A(0,τ)を調べます。簡単のためにA(0,τ)を単にA(τ)と書くことにします。

物理的状態であるための拘束条件を与える開弦の"エネルギー運動量テンソルTのフーリエ・モード=ヴィラソロ(Virasoro)演算子"Lmの第ゼロ成分(周波数によらない部分)(L0-a)はハミルトニアンHに等しいので,局所演算子A(τ)はA(τ)=exp(iτH)A(0)exp(-iτH)=exp(iτL0)A(0)exp(-iτL0)と表現されます。

我々が関心あるのはヴィラソロ代数によって自分自身に変換される演算子A(τ)です。

 

演算子A(τ)は,変数τの任意の変換τ→τ'(τ)の下でA(τ)→ A'(τ')=(dτ/dτ')JA(τ)なる変換を受けるとき,そのときに限って共形次元Jを持つと定義されます。

 

ここでの共形次元という概念は,以前2008年12/14の記事「超弦理論(9)(タキオン(続き)と重力子の散乱振幅))」において論じた閉弦における頂点演算子exp{-ikX(z)}の"異常次元=アノーマリー次元"と同じものです。

この記事では,閉弦での頂点演算子:exp(-ikX)の異常次元を求める際,スケール不変な理論では次元がpを持つ演算子Yの2点関数が<Y(z)Y+(0)>=C|z|-2pとなるべきであるという論旨から,exp(-ikX)は異常次元として-k2/4を持つべきことが導かれ,

 

別の論点からexp(-ikX)の次元は2であるべきという要求があることと合わせて閉弦の基底状態のタキオン(tachyon)の質量がm2=k2=-8であると結論されました。

また,2009年1/6の記事「超弦理論(10)(開弦とチャン・パトン因子:Chan-Paton factor)」において,開弦では頂点演算子exp{-ikX(x)}の座標変数が1次元の実変数xになることから,これの異常次元が-k2/2で与えられ,一方別の論点からexp(-ikX)の次元は1であるべきという要求があることと合わせて開弦の基底状態タキオンの質量はm2=k2=-2であると結論されています。

さて,τの変換が無限小変換τ→ τ'=τ+ε(τ)であるケースを考えると,共形次元がJの場A(τ)の変換規則:A(τ)→ A'(τ)=A(τ)+δAはδA=-ε(dA/dτ)-JA(dε/dτ)で与えられます。

(訳注38):無限小変換:τ→ τ'=τ+ε(τ)においてはdτ'/dτ=1+dε/dτですから,(dτ/dτ')J=1-J(dε/dτ)です。

 

 そこで,共形次元Jの定義によればA'(τ')=(dτ/dτ')JA(τ)=A(τ)-JA(dε/dτ)です。

 

 一方,場の変分δAはδA≡A'(τ)-A(τ)で定義されます。

それ故,A'(τ')-A(τ)=A'(τ')-A'(τ)+δAですが,τ→ τ'=τ+ε(τ)はε(τ)が無限小の無限小変換なので,A'(τ')-A'(τ)=A(τ')-A(τ)=ε(dA/dτ)が成立します。

 

そこで,A'(τ')-A(τ)=ε(dA/dτ)+δA=-JA(dε/dτ)となりますから,結局δA=-ε(dA/dτ)-JA(dε/dτ)が得られます。

 

(訳注38終わり)※

ヴィラソロ演算子mはε(τ)=exp(imτ)に対して,τ→ τ'=τ+ε(τ)なる変換を生成します。すなわち,共形次元Jを持つ任意の演算子A(τ)に対して[Lm,A(τ)]=exp(imτ){-i(d/dτ)+mJ}A(τ)を成立させます。

(訳注39):δA=-ε(dA/dτ)-JA(dε/dτ)にε=exp(imτ)を代入すると,δA=-exp(imτ)(dA/dτ)-imexp(imτ)JA=(-i)exp(imτ){-i(d/dτ)+mJ}A(τ)となります。

一方,演算子Lmが変換を生成するということはA(τ')=A(τ)+δA(τ)=exp(-iLm)A(τ)exp(iLm)を意味しますが,これはもしも(iLm)が無限小なら(1-iLm)A(τ)(1+iLm)=A(τ)+δA(τ),または[Lm,A(τ)]=iδA(τ)と解釈されます。

しかし,これでは私は納得できません。

 

私が腑に落ちないのは前の論旨では変換τ→ τ'=τ+ε(τ)が無限小変換であると仮定していたのに,今のε(τ)=exp(imτ)という設定では,右辺の絶対値が常に1なのでε(τ)は無限小では有り得ないということです。

そこで,通常仮定するようにεm>0 を任意の無限小定数のパラメータとし,ε(τ)=exp(imτ)ではなくε(τ)≡εm exp(imτ)とします。

すると,前の一連の式は単にεがεm倍されるに過ぎないので,δA(τ)=-ε(dA/dτ)-JA(dε/dτ)=(-iεm)exp(imτ){-i(d/dτ)+mJ}A(τ)となります。

そして,通常の生成子の定義のように,LmをA(τ)+δA(τ)=exp(-iLmεm)A(τ)exp(iLmεm)を与える演算子とすれば,(iLmεm)は確かに無限小なので,exp(-iLmεm)A(τ)exp(iLmεm)=A(τ)-iεm[Lm,A(τ)]となります。

 

そこで,δA(τ)=(-iεm)exp(imτ){-i(d/dτ)+mJ}A(τ)をexp(-iLmεm)A(τ)exp(iLmεm)-A(τ)=-iεm[Lm,A(τ)]に等置すれば,前と同じ式:[Lm,A(τ)]=exp(imτ){-i(d/dτ)+mJ}A(τ)が得られます。

 

私は,こちらの解釈の方が辻褄が合うと思うので,そう解釈します。

 

 (訳注39終わり)※

さて,この局所演算子A(τ)がフーリエ・モード展開:A(τ)=Σm=-∞m exp(-imτ)を有するなら,上の関係式[Lm,A(τ)]=exp(imτ){-i(d/dτ)+mJ}A(τ)はフーリエ・モードの係数演算子に対する式:[Lm,An]={m(J-1)-n}Am+nに帰着します。

これは容易に証明できて,ヴィラソロ代数やヤコービ恒等式などと共立します。

(訳注40):実際,[Lm,A(τ)]=exp(imτ){-i(d/dτ)+mJ}A(τ)にA(τ)=Σm=-∞m exp(-imτ)を代入すると,Σn=-∞[Lm,An]exp(-inτ)=Σn=-∞exp{i(m-n)τ}{-n+mJ}Anです。

 

 そこで,右辺のnをn→m+nとシフトすれば,Σn=-∞exp{i(m-n)τ}{-n+mJ}An=Σn=-∞exp(-inτ){m(J-1)-n}Am+nとなり,確かに[Lm,An]={m(J-1)-n}Am+nが得られます。

 

 (訳注40終わり)※

 [Lm,A(τ)]=exp(imτ){-i(d/dτ)+mJ}A(τ),または[Lm,An]={m(J-1)-n}Am+nによる演算子A(τ)の共形次元Jの定義によれば,例えば弦座標Xμ(τ)は次元J=0 を持ち,運動量演算子(係数略)Xμd(τ)≡dXμ(τ)/dτは次元J=1を持つことがわかります。

(訳注41):開弦の座標のフーリエ展開はXμ(τ)=Xμ(0,τ)=xμ+l2μτ+ilΣn≠0{(αnμ/n)exp(-inτ)} 0μ=lpμ)なので,Xnμ≡ilαnμ/n(n≠0)と置けば,Xμ(τ)=xμ+lα0μτ+Σn≠0nμexp(-inτ)となります。

そして,Xnμd≡lαnμと定義すれば,Xμd(τ)=dXμ(τ)/dτ=lα0μ+lΣn≠0αnμexp(-inτ)=Σn=-∞nμdexp(-inτ)と書けます。

 一方,Lm=(-1/2)Σk=-∞αm-kαkですから,[AB,C]=ABC-CAB=A[B,C]+[A,C]B,および[αmn]=-mδm+nを用いると,[Lmn]=(-1/2)Σk=-∞m-kkn]+[αm-knk)=-nαm+n,つまり[Lmn]=-nαm+nを得ます。

 そこで,[Lm,Xn]=-ilαm+n=-(m+n)Xm+n (n≠0),および [Lm,Xnd]=-nlαm+n=-nXm+ndが成立します。

 

 これらは,次元Jの定義式[Lm,An]={m(J-1)-n}Am+nにおいて,An=Xn,J=0 ,およびAn=Xnd,J=1を代入したものです。

ただし,Xnのn=0 の項:X0については定義されていませんが,n→ 0 の極限でXnμexp(-inτ)→ X0μ(1-inτ)=xμ+lα0μτとなるとでも考えれば,X0μ≡xμ=lim n→0(ilαnμ/n)とか何とかで定義可能と思えます。

 

しかし,[Lmn]=-nαm+nを用いると,n→ 0 の極限を先に取るか後で取るか次第で,[Lm,X0]=-ilαm=-mXmであると考えるべきか,[Lm,X0]=0 であると考えるべきか微妙ですね。

 

(訳注41終わり)※

(後で,ゲージ固定に必要なFPゴースト(Fadeev-Popov ghost)を論じる際には,ゴーストcの座標はJ=-1を反ゴーストbのそれはJ=2を持つことを見ることになります。)

 

ある明確なJの値について,[Lm,A(τ)]=exp(imτ){-i(d/dτ)+mJ}A(τ)のように変換する演算子は一定の共形次元を持つといわれますが,それらはヴィラソロ代数の下で"うまく"変換するものです。

 

(一般には,このように一定の共形次元を持つ演算子の方がむしろ特殊であり珍しいものです。)

 

短かいですが今日はここまでにします。 

参考文献:M.B.Green,J.H.Schwarz,& E.Witten著「superstring theory」(Cambridge University Press)

 

PS:別にP&Gという会社のまわしものじゃないですが,ここのところ「ジョイ」という台所用洗剤を使ってみて,今まで使っていた洗剤と比べてかなり気に入りました。。。

 

 ここは個人の日記ですからCMではないし,万人にとっていいかどうかはわかりませんが,ウソじゃなく私がいいと思ったものをいいと書いて文句を言われる筋合いはないですね。。←何突っ張ってるんだ?ソデの下でも当てにしてんのかい?

 

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116. 弦理論」カテゴリの記事

コメント

TOSHIさん、今日は。
ご返信、有り難うございました。
素光子説はYAHOOの掲示板>科学>物理学のカテゴリの「どこえきえたか相対性理論。」で、約8年間、議論して頂いてきております。
物理学や数学はずぶの素人にて、最近では、私のレポートの内容を更新する限界の状態に達しています。
光子の構成要素としての基本粒子を素光子と名付けています。
従いまして、電磁気力の本質的な実体がベクトル・ポテンシャルである事が外村彰博士により1985年に実証されていますが、素光子は、正にベクトル・ポテンシャルに一致する(概念上は異なりますが)と考えています。
すると、素光子説の本質は、ゲージ場理論に直結する事になります。
しかし、ゲージ場理論に統合する為のこれ以上の論理展開は、私の能力を遙かに超える事となり、理論を発展させる事が出来ない状態です。
つきましては、恐縮に存じますが、TOSHIさんのお力をお借りしたいと考えています。
勿論、お力添いに対するお礼も相応に考えております。
どうぞ、宜しくお願い申し上げます。
これ以上は、公開の場では憚られますので、何らかの通信手段をご配慮頂けます様にお願いします。

投稿: 岡山洋二 | 2009年4月22日 (水) 16時09分

 ども,はじめまして岡山洋二さん。コメントありがとうございます。TOSHIです。

 「素光子説」読ませていただきました。がんばってください。。

 メールはかんべんしてください。

 公開しは困る話でなければここかどこかの掲示板でお願いします。

            TOSHI

投稿: TOSHI | 2009年4月22日 (水) 08時26分

TOSHIさん、今晩は。
岡山洋二と申します。
いつも、高度な物理理論のブログを楽しみにして拝見しています。
私は、物理も数学も素人ですが、下記のURLで素光子説なる持論を展開しています。
その件に関し、お話ししたい事があります。
出来ましたら、下記のURLの私のメール宛に、ご連絡を頂きたいと存じます。
宜しくお願いします。

「基本粒子の運動状態の一考察;素光子説」
http://www.kkh.jp/ronbun/kihonryusi.html

投稿: 岡山洋二 | 2009年4月21日 (火) 17時05分

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