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2009年5月13日 (水)

水の波(3)(定在波,定常波)

水の波のつづきです。今日は,まず定在波を考えます。

 これまで主として考えてきた波は,速度ポテンシャルがΦ(x,z,t)=φ(z)cos(kx-ωt)で与えられ,x方向に位相速度c=ω/kで伝わる単一正弦波でした。

 

 ここでは,位相速度cが正のc=ω/k>0 の正弦波と,位相速度が-c<0 の進行方向が正反対の波を重ね合わせたもの:Φ(x,z, t)=φ1(z)cos(kx-ωt)+φ2(z)cos(kx+ωt)を考えます。

 

 これもこれまでの単一正弦波と同じkを持つ∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂z20 の解です。そして,φ1(z),およびφ2(z)はd2φ1/dz2-k2φ10,およびd2φ2/dz2-k2φ20 の解です。

水面波の形η(x,t)はη(x,t)=-g-1(∂Φ/∂t)=0で与えられます。

 

前の記事では,これにΦ(x,z,t)=φ(z)cos(kx-ωt),φ(z)=Ccosh{k(z+h)}を代入して,η(x,t)=Asin(kx-ωt),A≡-Cg-1ωcosh(kh)を得ました。

今の重ねあわせポテンシャルΦ(x,z,t)=φ1(z)cos(kx-ωt)+φ2(z)cos(kx+ωt)では,正負の向きの波の振幅が同一:φ1(z)=-φ2(z)=Ccosh{k(z+h)}で,A/2≡-Cg-1ωcosh(kh)と仮定して代入すると,η(x,t)=(A/2){sin(kx-ωt)+sin(kx+ωt)}=Asin(kx)cos(ωt)となります。

 そして,このときには速度ポテンシャルΦもΦ(x,z,t)=Ccosh{k(z+h)}{cos(kx-ωt)-cos(kx+ωt)}={Ac/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}sin(kx)sin(ωt)と書けて,空間と時間が分離した関数形になります。

ここで,A/2=-Cg-1ωcosh(kh),かつω={gktanh(kh)}1/2により,正負の向きの2つの正弦波の共通の位相速度の大きさcがc=ω/k={(g/k)tanh(kh)}1/2>0 で与えられますから,2C=-Ag/{ωcosh(kh)}=-A/{sinh(kh)}{(g/k)tanh(kh)}1/2=-Ac/{sinh(kh)}となることを用いました。

そして,水の運動方程式はdx/dt=u=∂Φ/∂x={Ack/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}cos(kx)sin(ωt),dz/dt=w=∂Φ/∂z={Ack/sinh(kh)}sinh{k(z+h)}sin(kx)sin(ωt)sin(ωt)となります。

前の記事と同じく,動点の座標(x,z)を,その1周期での平均値(x0,z0)を用いてx=x0(x-x0),z=z0(z-z0)と書き,そこからの差(x-x0),(z-z0)の2次以上の微小量を無視した微小振幅波の近似をします。この近似ではA自身も1次の微小量です。

この近似で運動方程式を解いて水の運動を求めると,x=x0{A/sinh(kh)}cosh{k(z0+h)}cos(kx0)cos(ωt),z=z0{A/sinh(kh)}sinh{k(z0+h)}sin(kx0)cos(ωt)となります。

一方,水面の運動は式η(x,t)=Asin(kx)cos(ωt)により,x=nπ/k(nは整数)の点で振幅がゼロとなり,x=(n+1/2)π/k(nは整数)の点で振幅が最大になります。

この水面波での振幅がゼロの点を波の節,振幅が最大の点を波の腹といいます。

 

波の波長をλとすると,波数はk=2π/λで与えられますから,波の節のx座標はx=nπ/k=nλ/2,腹のx座標はx=(n+1/2)π/k=(n+1/2)λ/2とも書けます。

いずれにしても,これら節や腹を含め振幅が一定であるような点は,一般の進行波のように空間的に移動せず定位置にあります。このような波を定在波と呼びます。

そして,水中の水の運動はx-x0[A/sinh(kh)]cosh{k(z0+h)}cos(kx0)cos(ωt),z-z0{A/sinh(kh)}sinh{k(z0+h)}sin(kx0)cos(ωt)ですから,波の節の位置x0=nπ/k(nは整数)では水平運動だけ,波の腹の位置x0(n+1/2)π/k(nは整数)では鉛直運動だけです。

 

また,節でも腹でもない一般のx=x0の位置の付近では,ある一定の傾きで直線的な単振動をします。

波の腹に対応する鉛直面x=(n+1/2)π/k=(n+1/2)λ/2において水は鉛直運動のみを行なうことから,腹の鉛直面を固体平面の境界で置き換えても,この境界の上での完全流体の境界条件un=0 は定在波によって自動的に満足され波の形は乱されません。

 そこで,この定在波はx=(n+1/2)λ/2の位置にある2枚の鉛直固体壁と水底の水平面で仕切られた容器の中の水の振動と同一視することができます。

それ故,容器中にx方向の定在波が存在し得るためには容器のx方向の幅が波の半波長λ/2の自然数倍であればいいことになります。

 

あるいは,逆に容器の幅がLで与えられたなら,この中では波長がλ=2L/n(nは自然数)で与えられる定在波のみが存在可能です。

こうした定在波をこの容器での固有振動と呼びます。この振動の波長λ=2L/nを固有波長と呼びます。

 

これに対応する角振動数ω=2πfは,k=2π/λ=nπ/L=ω/cより,ω={gktanh(kh)}1/2{(nπg/L)tanh(nπh/L)}1/2となります。このωを固有角振動数,f=ω/(2π)を固有振動数といいます。

定在波としては,上述のような1次元の波に限らず,y軸を復活させてxy平面内の任意の閉曲線Cで囲まれた領域内における2次元の波を考えることができます。

この2次元波の問題は,xy平面の閉曲線Cの固体壁と水底z=-h(x,y)で与えられる容器の境界面の上での境界条件unun=∂Φ/∂n=0 ,および自由水面上:z=0 での境界条件2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0 を満たすラプラス方程式∇2Φ=∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2+∂2Φ/∂z20 の解を求める問題に帰着します。

これを一般的なケースについて解くのは面倒ですが,水深z=-h(x,y)が一定の長波(浅水波)の場合には取り扱いが著しく簡単になります。

長波(浅水波)の近似では,h<<λですから∇2Φ=∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2+∂2Φ/∂z20 を-h≦z≦0 にわたってzで定積分する際,zの微分を含まない項はzに依らず一定と考えられます。

そして,水底z=-hでの境界条件:unun=∂Φ/∂n=0 は(∂Φ/∂z)z=-h0 を意味します。それ故,ラプラス方程式をzで定積分した結果として,(∂Φ/∂z)z=0=-h(∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2)が得られます。

これに,水面z=0 での境界条件∂2Φ/∂t2+g(∂Φ/∂z)=0を代入すると,∂2Φ/∂t2=c2(∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2),c≡(gh)1/2が得られます。最後の式においては,もはや速度ポテンシャルΦはzに依らず,Φ=Φ(x,y,t)と書いてよいと考えています。

得られた方程式:∂2Φ/∂t2=c2(∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2)は2次元の波動方程式であり,これに対する境界条件はxy平面内の閉曲線Cの上で∂Φ/∂n=0です。ただし,はC上のの各点におけるCの法線方向です。

そこで,Φの定在波解をΦ(x,y,t)≡φ(x,y)cosωtと置いて波動方程式∂2Φ/∂t2=c2(∂2Φ/∂x2+∂2Φ/∂y2)に代入すると,∂2φ/∂x2+∂2φ/∂y2+k2φ=0,k≡ω/cを得ます。

 

これは2次元のヘルムホルツ(Helmholtz)方程式です。これは閉曲線Cの形に応じた座標系での変数分離で解けます。

Cが簡単な長方形境界の場合,その中心を原点に取ってCを示す辺をx=±a/2,y=±b/2(a,b>0)で表わせば,境界条件はx=±a/2で∂φ/∂x=0,y=±b/2で∂φ/∂y=0となり,このときの解はφ(x,y)=Amnsin(x)sin(y)で与えられます。

ただし,k2x2y2,x(2m+1)π/a,y(2n+1)π/bです。m,nは自然数,Amnは任意定数です。(x2y2)1/2≡kmn≡π[{(2m+1)π/a}2+{(2n+1)π/b}2]1/2(m,n=1,2,...)は波数の固有値を与えます。

この開口が長方形の容器内の一般的な2次元長波(浅水波)は,Φmn(x,y,t)≡φmn(x,y)cosωmnt=mnsin(x)sin(y)cosωmnmn≡ckmn (c=(gh)1/2)なる個々の固有振動の全ての重ね合わせで与えられます。

自然現象としては,湖水や港湾における固有振動は,"静振"として知られています。また津波や潮汐も有限な平面形を持つ海洋内の長波,または定在長波として扱うことができます。

次に定常波について考察します。

一定の位相速度cで進行する波を静止系に対して速度U=cで動く座標系から見た場合,水面波の形は静止しています。

同じ,静止波形は静止系で波の伝播の向きとは逆にU=-cで流れる水の上においても現われます。このように波形が時間的に静止した波を定常波と呼びます。

もちろん,定常波においても水の運動まで止まっているわけではなく,水は進行波の運動と一定速度Uの一様流が重なって運動しています。

,一定速度Uで流れる水の中に微小な物体,例えばz軸に平行な細い円柱を置いたとすると,この物体の起こす微小な撹乱により微小な波が発生すると考えられます。

 

この波を構成する無数の正弦波のうち,位相速度c=-Uの波だけが定常波としてそこに留まり,他の波は上流,または下流に向かって流れ去ると思われます。

例として表面張力の働く深水波を考えると,位相速度cには波長λ=λm≡2π{γ/(ρg)}1/2)における最小値c=cm≡(4γg/ρ)1/4が存在します。そこで,もしもU>-cm(cm>-U)なら定常波は存在不可能です。

一方,U<-cmなら,2種類の波が定常波として存在し得ます。その1つは表面張力波でλ<λmです。他方は重力波でλ>λmです。

ところが,これらの2つの定常波が水面上の同じところに同時に現われるかといえば,そうではなく現実には物体より上流に表面張力波,下流に重力波がそれぞれ分かれて定常波として現われます。

このことは,直ちに理解することは難しいかも知れませんが後で述べる群速度の概念を用いると説明できます。

物体をx=0 の位置に置き,一様な流れ速度をU<0 とします。物体が発生する波のうちで定常波条件c=-U(>0)を満たす波の群は群速度cg(>0)でx軸の正の向きに進むと同時に流速:U(<0)によって負の向きに運ばれます。

したがって,時間tの後にはx=0 で発生した波はx=(cg+U)t=(cg-c)tの位置にあることになります。それ故,c<cgの波はx>0,つまり物体の上流側に,c>cgの波はx<0,つまり物体の下流側に位置を占めることになります。

そこで,後述する群速度の計算式から深水波での重力波λ>λmの場合にはc>cgなので,その定常波は下流側,表面張力波λ<λmの場合にはc<cgより,定常波は上流側に現われるというわけです。

このような流れの中に置かれた2次元物体による定常波の構造は,定性的には,3次元物体によって作られる2次元波についても同様に成り立つことが示されて,この場合でも上流側が表面張力波,下流側が重力波で占められます。

今日はここまでにします

参考文献:巽友正著「流体力学」(培風館)

 

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