水の波(5)(群速度,波のエネルギー)
ちょっと間があきましたが,水の波の続きです。
群速度が波群の進行速度を表わすことは既に述べましたが,ここでは波群の運動学の立場から群速度を概観してみます。
一般に分散性媒質中では,任意の初期状態から出発した波の場は時間が経つにつれて分散が進み,長時間の後には,局所的には1つの波数と振動数の単色波になるという状態が実現します。
こうした状態においては,波の場の振動的構造を無視して,場全体を波数,振動数,振幅などの特性量の場として大局的に記述することが可能になります。
これは波の場を波群の運動学として記述するもので,いわば波動光学に対する幾何光学に対応しています。
局所的に単色波である波の場では,もはや波の分裂や合体は起こらないので,波数,および振動数の保存則が成り立つと考えられます。
今,x軸の方向に長さδxを取り,δxは波数kの空間的変化の尺度に比べればきわめて小さいが,その中には多数の波を含むとします。
同様に,時間間隔δtを取り,δtは振動数ωの時間的変化の尺度に比べれば十分短かいが,中に多数の振動を含むとします。
x軸の正の向きに進む水の波を考えると,δt内にx,およびx+δxを通過する波の数は,それぞれω(x,t)δt,およびω(x+δx,t)δtです。
そこで,区間(x,x+δx)内には,差し引きω(x,t)δt-ω(x+δx,t)δt=-(∂ω/∂x)δxδtだけの波が残ります。
ところが波数の保存側によって,これはこの区間δx内において,時間δt内における波数の増加(∂k/∂t)δxδtに等しくなければなりません。
したがって,∂k/∂t+∂ω/∂x=0 です。位相速度c=ω/kを代入すると∂k/∂t+∂(ck)/∂x=0 と書けますが,これは明らかに波数kに対する連続の方程式を表わしています。
この記述では,波の位相速度cが波数kの伝播速度を与えることを示しています。
他方,群速度がcg=dω/dkで与えられることから,∂ω/∂x=(dω/dk)(∂k/∂x)なので,波数の保存式∂k/∂t+∂ω/∂x=0 は∂k/∂t+cg∂k/∂x=0 なることを意味します。
あるいは,∂ω/∂t+cg∂ω/∂x=0 です。ωはkを通じてx,tに依存しているとしています。
そして,dx/dt=cgならdk/dt=∂k/∂t+(∂k/∂x)(dx/dt)=∂k/∂t+cg∂k/∂x,かつdω/dt=∂ω/∂t+(∂ω/∂x)(dx/dt)=∂ω/∂t+cg∂ω/∂xです。
それ故,波数の保存式∂k/∂t+∂ω/∂x=0 は,dx/dt=cgなる道筋に沿って波数kと振動数ωが一定なることを示しています。
つまり,波の群速度cgは,波数k,または振動数ωが一定である点の移動速度を与えます。
ωはkのみの関数で,cgもまたkのみの関数と考えることができるのでk=一定の道筋の上では,dx/dt=cgの解は,x-cgt=一定なる直線,つまり等速運動になります。
そこで,一定の波数,または振動数の波群は,一定の群速度で進行することがわかります。
媒質が不均一である場合には,ωはkだけでなくxにも依存するため,∂k/∂t+cg∂k/∂x=0 または∂ω/∂t+cg∂ω/∂x=0 は成立しません。
しかし,この場合も局所的な群速度を,xを固定した偏微分で,cg≡(∂ω/∂k)xで定義します。
(∂ω/∂k)x(∂k/∂t)x=(∂ω/∂t)xを考慮すれば,再びωに対する方程式:(∂ω/∂t)x+cg(∂ω/∂x)x=0 が得られます。
したがって,不均一な媒質においても一定振動数の波群は群速度cgで進行します。
ただし,この場合,群速度cgは一定ではなく,道筋もまた直線的(等速運動)ではありませんが,cgはωとxの関数であり,ωは道筋に沿って一定ですから,cgはxのみの関数となります。
次に波のエネルギーを考察します。
x軸とそれに直角なy軸方向にそれぞれ単位長さの幅を持ち,鉛直z方向には水底z=-hから水面z=ηまでの立体Vを取り,Vの中の水のエネルギーを考えます。
水の密度をρ=一定とすると,渦なしの流れの場合,水の速度uは速度ポテンシャルΦによってu=∇Φと表わされるので,運動エネルギーKはK=∫V(ρu2/2)dV=(ρ/2)∫V|∇Φ|2dVで与えられます。
一方,位置エネルギーPはP=ρg∫VzdVです。
したがって,全エネルギーはE=K+P=∫V{ρ|∇Φ|2/2+ρgz}dVで与えられます。
これを微小振幅波について具体的に計算してみます。
体積Vとしてy方向の幅は単位長さとしていますが,x方向の長さをδxを考えると,まず運動エネルギーはKδx=(ρ/2)∫0δxdx∫-h0dz{(∂Φ/∂x)2+(∂Φ/∂z)2}と表わされます。ここでz積分の上限は線形近似でη=0 としました。
既に求めたように微小振幅波の速度ポテンシャルはΦ(x,z,t)=-{Ac/sinh(kh)}cosh{k(z+h)}cos(kx-ωt)です。
これを,Kδxの表現に代入し位相速度がc=c(k)=k/ω=fλ={(g/k)tanh(kh)}1/2={gλtanh(2πh/λ)/(2π)}1/2を用います。
すると,Kδx=(ρ/2){Ack/sinh(kh)}2∫0δxdx∫-h0dz[sin2(kx-ωt)+sinh2{k(z+h)}]=(ρ/2){(gA2k)tanh(kh)/sinh2(kh)}}δx[h/2+{sinh(2kh)/(2k)-h}/2]=ρgA2δx/4,すなわち,K=ρgA2/4を得ます。
また,位置エネルギーは水面の高さが意味を持つので,ηを復活させてη=η(x,t)=Asin(kx-ωt)とすると,Pδx=ρg∫0δxdx∫-hηzdz=(ρg/2)∫0δx(η2-h2)dx=(ρg/2)∫0δx{A2sin2 (kx-ωt)-h2}dx=(ρgδx/2)(A2/2-h2)です。
よってP=ρgA2/4-h2/2です。
したがって,全エネルギーはE=K+P=ρgA2/2-h2/2です。
ところが右辺の定数項:-h2/2はA=0 で波がなく静止しているときにも存在する水の位置エネルギーですから,これを基準としたエネルギーを改めて波のエネルギーとしてKw,Pw,Ew=Kw+Pwを定義すれば,Kw=Pw=ρgA2/4,Ew=ρgA2/2となります。
これらのエネルギーは,いずれも波数や振動数に無関係であり,水面波ηの振幅Aだけで決まる量です。そして,今の場合,運動エネルギーと位置エネルギーの等分配則が成立しています。
一般的には,波のエネルギーはE=∫V{ρ|∇Φ|2/2+ρgz}dVから,水の静止エネルギー∫V0ρgzdVを引いたEw=∫V{ρ|∇Φ|2/2]dV+∫VρgzdV-∫V0ρgzdVで定義できます。
ただし,V0は水面波ηがない場合の立体体積です。
次に,波のエネルギーの時間変化dEw/dt=dE/dtを考えます。特にエネルギー密度をε≡ ρ|∇Φ|2/2+ρgzとおけば,E=∫VεdVであり,dE/dt=∫V(∂ε/∂t)dV+∫S(εvn)dSです。
ここで,SはVの表面を表わし,vnはSの面要素dSの動く速度vの外向き法線成分を表わします。
ここで,圧力方程式∂Φ/∂t+P/ρ+|∇Φ|2/2+gz=f(t)≡P0/ρ(広義のベルヌーイの定理)を考慮すると,ε=ρ|∇Φ|2/2+ρgz=-ρ(∂Φ/∂t)-(P-P0)と表現できます。
そこでdE/dt=ρ∫V[∇Φ∇(∂Φ/∂t)]dV-∫S[{ρ(∂Φ/∂t)+(P-P0)}vn]dSと書けます。
ところが,∇2Φ=0 ですから,∫V[∇Φ∇(∂Φ/∂t)]dV=∫V[∇{∇Φ(∂Φ/∂t)}-∇2Φ(∂Φ/∂t)]dV=∫V[∇{∇Φ(∂Φ/∂t)}dV=∫S(∂Φ/∂n)(∂Φ/∂t)dSです。
したがって,dE/dt=∫S{ρ(∂Φ/∂t)(∂Φ/∂n-vn)+(P-P0)vn}dSと書けます。
ところでVの表面Sは4つの鉛直な側面と水面,水底面から成りますが,水面では∂Φ/∂n-vn=0,かつP-P0=0 です。
そしてx軸に平行な一対の側面では∂Φ/∂n=vn=0です。またx軸に垂直な一対の側面ではvn=0 ですが,一般に∂Φ/∂n≠0 です。
それ故,x軸に垂直な側面をSnとすると,dE/dt=ρ∫Sn(∂Φ/∂t)(∂Φ/∂n)dSなる式が得られます。これは波のエネルギー保存則を意味します。
ところで,Sn上でun≡∂Φ/∂nと定義し,エネルギー密度の表現:ε=-ρ(∂Φ/∂t)-(P-P0)を用いると,上式はdE/dt=-ρ∫Sn(εun)dS-∫Sn{(P-P0)un}dSと書けます。
これは,右辺第1項が体積V内へのエネルギーの流入率,第2項が大気と流体の圧力差によってV内の流体が受ける仕事率を表わすというエネルギー保存の典型的な形式になっています。
ここで,体積Vとしてx軸方向に長さδxを有するものを取り,座標x,x+δxにおける境界面Snを,それぞれS(x),S(x+δx)と書けば,エネルギー保存式は,(dE/dt)δx=ρ[∫S(x+δx)-∫S(x)][(∂Φ/∂t)(∂Φ/∂n)]dSとなります。
そこで,dE/dt=ρ(∂/∂x){∫S(x)(∂Φ/∂t)(∂Φ/∂n)dS}となります。これは波のエネルギー保存則の微分形で,波のエネルギー方程式を与えるものとなっています。
とりあえず,今日はここまでにします。
参考文献:巽友正著「流体力学」(培風館)
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