水の波(8)(有限振幅の波:非線形波3)
水の波の続きです。
このシリーズは今日で終わりますが,非線形波やソリトンに
ついての話はまた別の題名でアップする予定です。
前回最後では,K-dV方程式:
∂u/∂t+u(∂u/∂x)+μ(∂3u/∂x3)=0
の定常波の解を求めるために,
u(x,t)=u(ζ),ζ≡x-σtとして.
3階常微分方程式:
-σ(du/dζ)+u(du/dζ)+μ(d3u/dζ3)=0
に変形し,これの積分を求めました。
すなわち,1回積分すると,
μ(d2u/dζ2)=-u2/2+σu+2A(Aは積分定数)となり,
さらに,両辺にdu/dζを掛けて積分すると
(μ/2)(du/dζ)2=-u3/6+σu2/2+Au+B
(A,Bは積分定数) となります。
この両辺を6倍して右辺をf(u)とすると,これは
3μ(du/dζ)2=-u3+3σu2+6Au+6B≡f(u)
です。そして,この方程式が物理的に意味があるuの実数解
を持つのは,明らかにf(u)≧0 の範囲でのみです。
実係数の3次代数方程式:f(u)=0 は,必ず,1実根,または
3実根を持ちますが,この方程式が1実根のみを持つ場合には,
f(u)≧0 を値域とする解:uが有界でないため,
これは."有限範囲での振動=波"を表わす解ではありません。
そこで,ここでの考察では1実根のケースは対象外とします。
さて,f(u)=0 が3実根を持つとして,それらを
u1,u2,u3 (u1≦u2≦u3)と書くと,
f(u)=(u-u1)(u-u2)(u3-u)です。
f(u)=-u3+3σu2+6Au+6B より,
σ=(u1+u2+u3)/3,A=-(u1u2+u2u3+u3u1)/6,
B=u1u2u3 /6 が成立します。
u2≦u≦u3でf(u)≧0ですから,
3μ(du/dζ)2=f(u)なる式はuのこの区間を往復する
非線形振動を表わすと思われます。
そこで,
3μ(du/dζ)2=f(u)=(u-u1)(u-u2)(u3-u)
の解で,u=u3でζ=0 となるものを求めます。
つまり,方程式:
dζ/(3μ)1/2=du/{(u-u1)(u-u2)(u3-u)}1/2
を解きます。
まず,k2≡(u3-u2)/(u3-u1)とします。
さらに,t={(u3-u)/(u3-u2)}1/2とおくと
dt=(-1/2)(u3-u2)-1/2(u3-u)-1/2du です。
1-t2=1-(u3-u)/(u3-u2)=(u-u2)/(u3-u2),
1-k2t2=1-k2(u3-u)/(u3-u2)
=1-(u3-u)/(u3-u1)=(u-u1)/(u3-u1) です。
故に,dt/{(1-t2)(1-k2t2)}1/2
=(-1/2)(u3-u2)-1/2(u3-u)-1/2du
(u3-u2)1/2(u3-u1)1/2/{(u-u1)(u-u2)}1/2
=(-1/2)(u3-u1)1/2du/{(u-u1)(u-u2)(u3-u)}1/2
です。
そこで,方程式:
dζ/(3μ)1/2=du/{(u-u1)(u-u2)(u3-u)}1/2は,
-{(u3-u1)/(12μ)}1/2dζ=dt/{(1-t2)(1-k2t2)}1/2
を意味します。
したがって,楕円積分F(x,k)を用いて
{(u3-u1)/(12μ)}1/2ζ=F({(u3-u)/(u3-u2)}1/2,k)
なる解の表式を得ます。
それ故,
sn({(u3-u1)/(12μ)}1/2ζ,k)={(u3-u)/(u3-u2)}1/2
です。そこで,
cn2({(u3-u1)/(12μ)}1/2ζ,k)
=1-sn2({(u3-u1)/(12μ)}1/2ζ,k)=(u-u2)/(u3-u2)
です。
※(注8-1):snはヤコービ(Jacobi)の楕円関数:
sn(u,k)=F-1(u,k)=x≡sinφです。または,
u=F(x,k)です。
F(x,k)は第1種の楕円積分で,
F(x,k)≡∫0xdt/{(1-t2)(1-k2t2)}1/2
=∫0φdθ/(1-k2sin2θ)1/2 で定義されます。
特に,K(k)≡F(π/2,k)は第1種の完全楕円積分と呼ばれ
4K(k)は楕円関数:snの2つの周期のうちの1つです。
さらに,sn(u,k)=x=sinφに対応して関数:cnを
cn(u,k)≡cosφ={1-sn2(u,k)}1/2で定義します。
これもJacobiの楕円関数と呼ばれています。
(注8-1終わり)※
さて,振動区間をU≡u3-u2とおけば,上に得られた解は
u(x,t)=u2+Ucn2({U/(12μk2)}1/2(x-σt),k)
と書けます。
ここで,σ=(u1+u2+u3)/3=u2+(u1+u3-2u2)/3
=u2+(2-k-2)U/3 です。
以上から,
u(x,t)=u2+Ucn2({U/(12μk2)}1/2[x
-{u2+(2-k-2)U/3}t],k) と書けます。
ただし,U=u3-u2,k2=(u3-u2)/(u3-u1) です。
この解は,周期関数cnで表現される定常波形を持つ波列を
表わしており,この意味でクノイド波(cnoidal wave)と
呼ばれます。
クノイド波:
u(x,t)=u2+U・cn2({U/(12μk2)}1/2
[x-{u2+(2-k-2)U/3}t],k) は,
速度u2の一様流の上に振幅がUの周期波cn2が重なった形
をしており,周期波は一様流に相対的に位相速度:
(2-k-2)U/3で進行するという様を表わしています。
波形:cn2(s,k)は,パラメータk(0≦k≦1)の値に応じて,
cn2(s,0)=cos2(s)からcn2(s,1)=sech2(s)まで
変化します。
cnの周期は4Kですから,これに応じて波長λを
{U/(12μk2)}1/2λ≡4Kで定義すると,
これはλ=8K(3μk2/U)1/2 なる式で与えられます。
以上では,前提なしで3実根u1,u2,u3 が全て異なる:
u1<u2<u3と仮定しましたが,特にu2→u1の極限:
u1=u2の重根の場合を想定すると,
k2≡(u3-u2)/(u3-u1) より k=1です。
そこで,cn(s,k)=cn(s,1)=sechsより,この定常進行波
はu(x,t)=u1+Usech2[{U/(12μ)}1/2{x-(u1+U/3)t}],
U=u3-u1 となります。
この場合,解は波列でなく,定常波形がsech2の孤立波を
表わします。
この孤立波は振幅Uの平方根に反比例した拡がりを持ち,
一様流u=u1に相対的に,位相速度:U/3で進行します。
いま1つの極限:u3→u2,つまりu2=u3の重根の場合は
k=0,かつU=0 なので.波はu=u3の一様流に
帰着します。
ただし,その重根の極限の近傍のk~0,U~0では,
U/k2=u3-u1より,定常解は,
u(x,t)~u2+(u3-u2)cos2[{U/(12μk2)}1/2(x-u1t)]
=u3+2u2sin[{(u3-u1)/(3μ)}1/2(x-u1t)]
となって微小振幅の正弦波となります。
こうして,"Korteweg-deVries方程式=K-dV方程式"で記述
される有限振幅の長波のうちの定常進行波は,クノイド波,
または孤立波になることがわかりました。
しかし,一般に任意の初期条件から出発した非定常の波が,
これらの定常解に漸近するとは限りません。
K-dV方程式,および類似の非線形発展方程式の研究は
近年急速な発展を遂げ,特にK-dV方程式については,
かなり多くのことがわかっているようです。
ここでは孤立波に関する2,3の結果を紹介します。
初期条件が三角関数:u(x,0)=cosπxのK-dV方程式:
∂u/∂t+u(∂u/∂x)+μ(∂3u/∂x3)=0
の初期値問題はZabuskyとKruskal(1965)によって数値的
に解かれました。
特にμ=0 なら,数値計算に頼らずとも,解は
u=cos[π(x-ut)] となることがわかります。
※(注8-2):u(x,t)≡cos[π{x-σ(x,t)t}]
とおけば,これは,u(x,0)=cosπx を満たします。
そして,
∂u/∂t=π{σ+(∂σ/∂t)t}sin[π{x-σ(x,t)t}],
∂u/∂x=π{-1+(∂σ/∂x)t}sin[π{x-σ(x,t)t}]
ですから,
∂u/∂t+u(∂u/∂x)=0 は,
σ+(∂σ/∂t)t
+{-1+(∂σ/∂x)t}cos[π{x-σ(x,t)t}]=0
となります。
これから,t=0 ではσ=cosπx=u(x,0)を得ます。
すなわち,σ(x,0)=u(x,0)です。
そこで,σ=u=cos[π(x-σt)]とおいてみると,
σ+(∂σ/∂t)t
+{-1+(∂σ/∂x)t}cos[π{x-σ(x,t)t}]
=σ+(∂σ/∂t)t+{-1+(∂σ/∂x)t}σ
={∂σ/∂t+σ(∂σ/∂x)}t=0 となります。
よって,解の一意性から解はu=cos[π(x-ut)]です。
(注8-2終わり)※
μ=0 の解:u=cos[π(x-ut)]では,
∂u/∂x=π{-1+(∂u/∂x)t}sin[π(x-ut)]より,
[1-πtsin[π(x-ut)]](∂u/∂x)=-πsin[π(x-ut)]
となります。
この解は,t=tB=1/πに点x=1/2の付近で突っ立ち:
|∂u/∂x|=∞という現象を呈し,その点以後のxでは
解は多価となって,物理的意味を持たなくなります。
ZabuskyとKruskal(1965)の数値計算は,μ1/2=0.022 に
おいて実行され,その結果得られた数値解は,やはり
t=tB付近で突っ立ちに近い状態を示します。
しかし,この場合はゼロでない分散項の効果により,波の重なり
は起こらず,逆に連続的な波が,いくつかの孤立波に分散します。
t=3.6tBでは,波形はほぼ完全に分離した孤立波の連なり
となりますが,これらの孤立波は,先に得られた定常波:
u(x,t)=u1+Usech2[{U/(12μ)}1/2{x-(u1+U/3)t}],
U=u3-u1と同じものであることが,その振幅,幅,進行速度
の関係から確かめられます。
K-dV方程式に従う有限振幅波がある場合に,いくつかの
孤立波の集まりになってしまうとすれば,これらの孤立波の
間には,どのような相互作用が働くでしょうか?
孤立波の位相速度は振幅に比例するので,ある時刻に大振幅
の波を左に,小振幅の波を右にして,互いに十分遠く離して
おいたとすれば,大振幅波が小振幅波に近づき,ついには
追いつくと予想されます。
Zabusky(1967)は初期条件として,uj(x,0)=Ujsech2(x/Dj),
Dj≡(12μ/Uj)1/2の形を持つ2つの孤立波:uj(x,t)
(j=1,2)を取り,それぞれの振幅をU1=180,U2=80として,
初期に距離を12D1(D1=(12μ/U1)1/2=(μ/15)1/2)だけ
隔てて置きました。
そして,小振幅の方の波が静止するように,さらに
u1=-26+2/3 の一様流を加えました。
数値計算の結果として得られた2つの波は,重なる以前は
互いに独立に運動しますが,
驚くべきことに衝突以後に再び分離して,衝突前と同じ
大きさと形と位相速度で運動を続けます。
衝突の影響は,僅かに両者の位相の変化となって残るだけです。
2つの波が初期と同じ間隔12D1だけ離れたときの振幅の変化
は,僅かにΔU1/U1<0.07%,ΔU2/U2<0.5%なることが
見出されました。
このように,K-dV方程式の孤立波解が,あたかも独立の
粒子であるかのように挙動するという結果から,この孤立波
をソリトン(soliton)と名付けました。
非線形波動の現象は,水の波に限らずプラズマ振動,
さらに,素粒子のモデルなどと関連して研究者の興味を
集めており,非線形現象の解明と数学的理論の開発の
両面にわたってその発展が期待されます。
水の波の話から自然にソリトンを紹介するという所期
の目的が達せられたので,水の波の記事シリーズを
これで終わります。
(参考文献):巽友正著「流体力学」(培風館)
現在:「folomy 物理フォーラム」サブマネージャーです。
人気blogランキングへ ← クリックして投票してください。
(1クリック=1投票です。1人1日1投票しかできません。
クリックすると人気blogランキングに跳びます。)
← クリックして投票してください。
(ブログ村科学ブログランキング投票です。1クリック=1投票です。
1人1日1投票しかできません。クリックするとブログ村の
人気ランキング一覧のホ-ムページに跳びます。)
http://www.mediator.co.jp/category/pages.php?id=115
「中古パソコン!メディエーター巣鴨店」Dell-個人のお客様ページ
(Dellの100円パソコン(Mini9)↓私も注文しました。)
ヤーマン プラチナゲルマローラー 1日3分コロコロエステ!ローラー型プラチナ配合美顔器
お売りください。ブックオフオンラインのインターネット買取 展開へ! ▼コミック 尾田栄一郎 「ONE PIECE(52)」
▼コミック 「ONE PIECE」をオトナ買い
三国志特集 ▼コミック 横山光輝 「三国志全巻セット」 「三国志(文庫版)全巻セット」
「三国志(ワイド版)全巻セット」
▼書籍 「三国志」/吉川英治
「三国志」/北方謙三
「三国志」/宮城谷昌光
| 固定リンク
「308. 微分方程式」カテゴリの記事
- 積分方程式(2)(2009.09.11)
- 積分方程式(1)(導入)(2009.08.30)
- 水の波(8)(有限振幅の波:非線形波3)(2009.07.24)
- 水の波(7)(有限振幅の波:非線形波2)(2009.07.17)
- 水の波(6)(有限振幅の波:非線形波1)(2009.07.15)
「108. 連続体・流体力学」カテゴリの記事
- 震源の探知(大森公式等)(2009.12.10)
- 定量的地震学6(2009.11.30)
- 定量的地震学5(2009.11.17)
- 空気分子の大きさ(アインシュタインとブラウン運動)(2009.10.11)
- 定量的地震学4(2009.09.29)
この記事へのコメントは終了しました。
コメント