束縛状態とベーテ・サルピーター方程式(8)
色々あって,ずいぶん間が開きましたが,"束縛状態とベーテ・サルピーター方程式(Bethe-Salpeter方程式)=B-S.eq."シリーズの続きです。
§6.ウィック・カトコスキー模型(Wick–Cutkosky model)の途中から再開継続する予定でしたが,その前に是非必要な中西先生自身のオリジナルとして得られたB-S振幅の積分表示を解説したいと思います。
前記事2009年3/30の「束縛状態とベーテ・サルピーター方程式(7)」では,B-S振幅の積分表示式について,根拠を示すことなく論文の内容をそのまま書きました。
"一般に,B-S振幅は∫-11dz∫0∞dγ[φ(z,γ,p,P)/{γ+(1+z)(ma2-v)/2+(1-z)(mb2-w)/2-iε}2]と表現されます。ここで,φは多項式的にp=pμに依存します。
この積分の被積分関数の分母は,p0=0 で(-iε)を除いて正定値,すなわち,Wick回転の結果,|P0|<min(ma/|ηa|,mb/|ηb|)を満たすなら,如何なる特異点に遭遇することもなくp0について必要な解析性を得ることができます。
ここでは,もはやs≧0 なる物理的制約もないことがわかります。"
と書きました。ただし,v≡(ηaP+p)2,w≡(ηbP-p)2です。
以下では,これの根拠を示します。
まず,通常のミンコフスキー(Minkowski)空間での束縛状態の"はしご近似(ladder approximation)"でのB-S.eq.:{ma2-(ηaP+p)2}{mb2+p2-(ηbP-p)2}φBr(p,P)={λB(s)/(iπ2)}∫d4p'[φBr(p',P)/{μ2-(p-p')2-iε}]を考えます。
慣性中心系:P=0で,ミンコフスキー空間の4元ベクトルpμ=(p0,p)をユークリッド空間の4元ベクトルp~μ=(p,p4)etc.で表現すれば,B-S.eq.が{ma2+p2+(p4-iηaP0)2}{mb2+p2+(p4+iηbP0)2}φ~Br(p~,P)={λB(s)/π2}∫d4p~'[φ~Br(p~',P)/{μ2+(p~-p~')2-iε}]とユークリッド化されることを見ました。
これが,Wick回転の意味するところです。
さて,2009年2/7の記事「束縛状態とベーテ・サルピーター方程式(4)」では,次のように書きました。
(※再掲開始)
Nakanishi(中西;1965)は,小群(little group)の体調和関数(solid harmonics)の概念を導入しました。
n重に縮退した束縛状態のB-S振幅は,φBr(xa,xb;PB)=<0|T[φa(xa)φb(xb)]|B,r>,(r=1,2,..,n)で与えられますが,これはポアンカレ群,すなわち非斉次ローレンツ群の有限次元表現の表現空間を形成します。
空間反転,時間反転を含む斉次ローレンツ変換の群をLとします。
ローレンツ変換の部分集合として,P=Pμ=(P0,P)を不変に保つ部分群L(P)をL(P)≡{Λ∈L|ΛP=P}で定義します。L(P)は,いわゆるPに属する小群と呼ばれるもので,ウィグナー(Wigner)の導入したものです。
B-S振幅の運動量表示:φBr(p,PB)はΛPB=PBを満足するL(PB)の元Λに対してのみ相互に変換できます。
これは,{φBr(p,PB)}r=1nがL(PB)の表現空間の基底であることを意味します。
L(P)≡{Λ∈L|ΛP=P}は次のようなP依存性を持ちます。(以下では,s=P2=(P0)2-P2です。)
[1]Pμが時間的(time-like):s>0 なら,L(P)~O(3)です。
(※何故なら,このときはPμ≡(m,0)(m≠0)と取れば,明らかにL(P)は通常の3次元空間の回転群O(3)を意味します。)
[2]Pμが空間的(space-like):s<0 なら,L(P)~O(2,1)です。
[3]Pμ≡0 なら,L(P)~O(3,1)=L全体です。
[4]Pμが光的(light-like):s=0 ならL(P)~E(2)です。
(※(訳注):光のようにm=0 なら,Pμ≡(m,0)(m≠0)とは取れないので,s=0 を満たすようにPμ≡(1,0,0,1)と取れば,L(P)は自由度が2の回転群:E(2)(2次元ユークリッド群)になります。)
そして,通常の体球関数の定義を一般化することにより,次のようにして小群L(P)の体調和関数Xl(p)を定義します。
Xl(p)は,(∂/∂p)2Xl(p)=0,およびPμ(∂/∂pμ)Xl(p)=0 を同時に満足するp0,p1,p2,p3のl次の同次多項式とします。
固定されたlに対して,Xl(p)の全体はL(P)の有限次元既約表現の空間を張ることが容易にわかります。
ここで,Pμは反変ベクトル,∂/∂pμは共変ベクトルです。
Pμ∂/∂pμ≡P0∂/∂p0+ P1∂/∂p1+P2∂/∂p2+P3∂/∂p3ですが,Xl(p)はpμのl次の同次式です。対称性から,これはpμ(∂/∂pμ)Xl(p)=lXl(p)なる不変な等式を満たします。
まず,特殊なローレンツ系でXl(p)の標準形を求めます。
[1] s>0 の場合:Pμ≡(√s, 0)とします。
このとき,Pμ(∂/∂pμ)Xl(p)=0 から,√s(∂/∂p0)Xl(p)=0 により,Xl(p)はp0に依存しないことがわかります。
そこで,この準拠系では(∂/∂p)2Xl(p)=0 はラプラス方程式:∇p2Xl(p)=0 になります。故に,Xl(p)の定義は通常の球関数Ylm(p)と一致します。
このYlm(p)は,定係数を除いて|p|lYlm(θ,φ)と同じ関数です。
ここに,θ,φはpの極座標です。そしてYlm(θ,φ)は通常の球面調和関数(球関数)です。
このYlm(p)はゲーゲンバウアー(Gegenbauer)多項式:Ckα(z)によって表現するのも便利です。
すなわち,Ylm(p)=[(2l+1)(l-|m|)!/{(4π)(l+|m|)!}]1/2(2|m|-1)!!(p1±ip2)|m||p|l-mCl-|m||m|+1/2(p3/|p|) (m=-l,-l+1,..,l)ですね。
ただし,±iはm/|m|を意味し(2k-1)!!はΠj=1k(2j-1)によって定義されます。
規格化因子はゲーゲンバウアー多項式の直交性:∫-11dz(1-z2)α-1/2Ckα(z)Ck’α(z)=πΓ(2α+k)δkk’/{22α-1k!(α+k)Γ(α)2}から計算されます。(再掲終わり※)
以上から,s>0 ではPμ≡(√s, 0)におけるユークリッド化された部分波B-S振幅を体調和関数としてφ~νLlm(p~,P)=Ylm(θ,φ)|p|-1ψνLl(|p|,p4,;s)(L≧l≧|m|)と書けることがわかります。
このφ~νLlm(p~,P)を,先に書いたB-Seq:{ma2+p2+(p4-iηaP0)2}{mb2+p2+(p4+iηbP0)2}φ~Br(p~,P)={λB(s)/π2}∫d4p~'[φ~Br(p~',P)/{μ2+(p~-p~')2-iε}]に,両辺のφ~Br(p~,P)に代わる因子として代入します。
すると,部分波のB-Seq.として,{ma2+|p|2+(p4-iηa√s)2}{mb2+|p|2+(p4+iηb√s)2}ψνLl(|p|,p4,;s)={2λνLl(s)/π}∫0∞d|p'|∫-∞∞dp4'Ql[{μ2+|p|2+|p'|2+(p4-p4')2}/(2|p||p'|)]ψνLl(|p'|,p4';s)が得られます。
ここで,Ql(z)は第2種のルジャンドル(Legendre)関数で,z→∞ではz-l-1のように挙動します。第1種のルジャンドル関数(ルジャンドル多項式)Pl(z)とはQl(z)=(1/2)∫-11dζ{Pl(ζ)/(z-ζ)}によって関連付けられます。
(※訳注):右辺のうち,p'空間全体の積分は,∫0∞d|p'||p'|2∫-11d(cosθ')∫02πdφ'Ylm(θ',φ')|p'|-1ψνLl(|p'|,p4';s)/[μ2+|p|2+|p'|2+(p4-p4')2+2|p||p'|{cosθcosθ'+ sinθsinsθ'cos(φ-φ')}]です。
ここで,具体的に,球関数をYlm(θ,φ)≡Clmexp(imφ)Pl(m)(cosθ)(Pl(m)(z)はルジャンドル陪関数,Clmは規格化定数)と表現し,また極軸(θ=0)をpの向きに取ると,上の積分はClm∫0∞d|p'||p'|ψνLl(|p'|,p4';s)∫-11d(cosθ')∫02πdφ'exp(imφ')Pl(m)(cosθ')/[μ2+|p|2+|p'|2+(p4-p4')2+2|p||p'|cosθ']です。
ところが,右辺のdφ'積分がゼロでない結果を与えるのはm=0 のときのみであり,そのとき,Pl(m)(z)は第1種のルジャンドル関数Pl(z)になります。
そこで,上の積分は,2πClm∫0∞d|p'||p'|ψνLl(|p'|,p4';s)∫-11dζ[Pl(ζ)/{μ2+|p|2+|p'|2+(p4-p4')2+2|p||p'|ζ}=2πClm∫0∞d|p'||p'|(2|p||p'|)-1ψνLl(|p'|,p4';s)∫-11dζ{Pl(ζ)/(z-ζ)}=2πClm|p|-1∫0∞d|p'|ψνLl(|p'|,p4';s)Ql(z)}に帰着します。
ただし,最後の式ではz≡{μ2+|p|2+|p'|2+(p4-p4')2}/(2|p||p'|)と置きました。
よって,B-S.eq.{ma2+p2+(p4-iηa√s)2}{mb2+p2+(p4+iηb√s)2}φ~Br(p~,P)={λB(s)/π2}∫d4p~'[φ~Br(p~',P)/{μ2+(p~-p~')2-iε}]に代入して,両辺に共通なClm|p|-1などの因子を簡約した結果,次式を得ます。
すなわち,{ma2+|p|2+(p4-iηa√s)2}{mb2+|p|2+(p4+iηb√s)2}ψνLl(|p|,p4,;s)={2λνLl(s)/π}∫0∞d|p'|∫-∞∞∫dp4'Ql[{μ2+|p|2+|p'|2+(p4-p4')2}/(2|p||p'|)]ψνLl(|p'|,p4';s)です。(訳注終わり※)
さて,積分方程式:{ma2+|p|2+(p4-iηa√s)2}{mb2+|p|2+(p4+iηb√s)2}ψνLl(|p|,p4,;s)={2λνLl(s)/π}∫0∞d|p'|∫-∞∞∫dp4'Ql[{μ2+|p|2+|p'|2+(p4-p4')2}/(2|p||p'|)]ψνLl(|p'|,p4';s)の右辺の核(kernel)のトレース(trace)は有限です。
そこで,この積分方程式には,古典Fredholm理論を適用できます。
実際,固有値λνLl(s)を除く積分核の部分のトレースを,σl(s)と書けば,これは収束する積分で与えられます。
すなわち,σl(s)=(2/π)∫0∞d|p|∫-∞∞dp4(Ql(1+μ2+/(2|p|2))/[{ma2+|p|2+(p4-iηa√s)2}{mb2+|p|2+(p4+iηb√s)2}])です。
これから,幾つかの操作の後に,σl(s)=∫01dx1∫01dx2∫01dx3[x3'δ(1-x1-x2-x3)/(x1ma2+x2mb2+x3μ2-x3x1ma2-x2x3mb2-x1x2s)]なる表現式が得られます。
これは,x3'を除けば,正確に三角グラフに対する質量殻上のFeymanパラメーター積分に対応しています。
(※訳注):Feymanパラメーター積分の公式:(ABC)-1=2∫01dx1∫01dx2∫01dx3[δ(1-x1-x2-x3)/(Ax1+Bx2+Cx3)3]から,σl(s)=(4/π)∫01dx1∫01dx2∫01dx3∫-11dζPl(ζ)[δ(1-x1-x2-x3)∫0∞d|p|∫-∞∞dp4[x1{ma2+|p|2+(p4-iηa√s)2}+x2{mb2+|p|2+(p4+iηb√s)2}+x3{1+μ2/(2|p|2)-ζ}]-3と書けます。
右辺の被積分関数の分母の[ ]の中は,x1{ma2+|p|2+(p4-iηa√s)2}+x2{mb2+|p|2+(p4+iηb√s)2}+x3{1+μ2/(2|p|2)-ζ}=x1(ma2+|p|2)+x2(mb2+|p|2)+(x1+x2){p4-i√s(x1ηa-x2ηb)/(x1+x2)}2-x1x2s/(x1+x2)+x3{1+μ2/(2|p|2)-ζ}です。
そして,定積分の式∫-∞∞dx[(x-c)2+A2]}-3=(3π/8)A-5を用いて∫-∞∞dp4積分を実行すれば,σl(s)=(3/2)∫01dx1∫01dx2∫01dx3∫-11dζPl(ζ)[δ(1-x1-x2-x3)(x1+x2)-1/2∫0∞d|p|[{x1ma2+x2mb2+x3(1-ζ)+(x1+x2)|p|2+x3μ2/(2|p|2)-x1x2s/(x1+x2)}-5/2]となります。
さらに,∫0∞dx(ax2+b+c/x2)-5/2=∫0∞dx[x5/(ax4+bx2+c)5/2]=(1/2)∫0∞dt[t2/(at2+bt+c)5/2]=(2/3)a-1/2{b-(4ac)1/2}-2を用いて∫0∞d|p|積分を実行します。
すると,σl(s)=∫01dx1∫01dx2∫01dx3∫-11dζPl(ζ)δ(1-x1-x2-x3)(x1+x2)-1[x1ma2+x2mb2+x3(1-ζ)-x1x2s/(x1+x2)-{2(x1+x2)x3μ2}1/2]-2が得られます。
因子δ(1-x1-x2-x3)があるので,被積分関数の中では(x1+x2)を(1-x3)と同一視することもできます。(Pending)
途中ですが今日はここで終わります。
参考文献:Noboru Nakanishi "A General survey of the Theory of the Bethe-Salpeter Equation" Progress of Theoretical Physics, supplement,No.43(1969)
PS:上の本文で結構苦労して考えている計算も中西さんの1963年のphys.Levの元論文や関連文献のコピーをネットで購入できるお金があればはるかに簡単なのですが。。。
ワザワザ永田町の国会図書館まで足を運ぶのも面倒だし。。あるいは,知り合いの大学関係者に気軽に研究室の図書館からコピーを頼めればいいのですが。。。
PS2:今朝(8月10日(月))は,いつもの病院で初めて外科の先生に診てもらいました。(初診のK先生は若い頃の将棋の中原名人のようなかわいい顔の人なつこい印象の人でした。)
2年前の心臓手術当時の,以前の内科の主治医がよく「Tさんが思っているのとは違って,本当はいつ逝ってもオカシクない瀬戸際なんですよ。」と言ってたように,私が思っている以上に病気はヒドイというのが真実らしく,今回も動脈硬化の足の血管を外科的に助けようとすると逆に心臓が助からないので奨めないということでした。
足と心臓のどちらを助けるか選べと言われて,足を取るバカもいないでしょうね。足の方を選んだら命がないのですから。。
というわけで,血管が細すぎて無理だと言われたカテーテルも含め外科的な方法はあきらめることにしました。
また,骨髄から取った遺伝子を注射するという白血病で用いるような方法も糖尿性網膜症があるのでできないそうです。(これも失明しても良ければ可能でしょうから,いずれも究極の選択ですね。)
要するに足が全く無くなるなら別に心臓には負担かからないけれど,足の血流を急に正常にしたなら,それを維持できるほどの心臓のポンプの能力がないので,現状の心臓では耐えられないということです。
むしろ,今現在は足に血を通わせないおかげで,心臓がポンプとして持っているということらしいです。
内科的には,現在の薬物投与を効率的な点滴による投薬に変更するために入院する方法はあるけれど,血流を改善するバイパスのような外科手術には耐えられないので,日常的に足が痛いのを我慢してセッセと歩くことで,心臓と共存できる自然な血管細胞の再生を促すという方法があるくらいだそうです。
私にたくさん蓄えがあるとか身内が裕福とかで,ただ命を永らえる手段だけを模索して,ノンビリ湯治でもできる楽隠居の身分ならいいのですが。。。。
生憎く私は性格がアリさんでなくキリギリスであったせいで(現在もそうです)日々の生活の糧を得るためには,病気という理由で遊んでいるわけにもいかないので,飯を食べるのにも窮々としています。
もっとも,楽しいことが全然なくて苦しいだけの生活なら,別に命を永らえる必要もないですがね。。。
(↑フン,病気になったのも金がないのも自業自得だぜ!!)
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