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2009年9月23日 (水)

定量的地震学3

 地震学の続きです。

 今日は,地震学において典型的に生じる変位の形を表示する方法について考察します。

 

 先の記事では,一意性定理によって初期変位と運動を生ぜしめる要因である実体力,応力を与えれば弾性体における変位はユニークに決まることを見ました。

 しかし,通常の地震の断層による震源は有限体積と有限時間に広がっていて,様々な方向と大きさを持った運動を含むという意味でかなり複雑なものです。

 

 そこで,現実的な地震をモデル化した震源による変位が最も単純な震源から生じる変位から総合して扱えるような1つの簿記的道具を与えることを考えます。

 ここで,最も単純な震源というのは空間と時間の両方において正確に指定された単一方向の単位衝撃(力積:inpulse)です。こうした単純な震源による変位場は弾性力学のグリーン関数(Green's function)と呼ばれるものです。

 空間位置ξとt=τにおいて単位衝撃がn方向に加えられたときの一般座標(,t)における変位のi成分uiをGin(,t;ξ,τ)と表わすことにします。

以前の記事「定量的地震学1」では運動方程式がρ(∂2i/∂t2)=fi+τji,jで与えられることを見ました。

 

右辺のfiは正確にはある時刻tににおいて作用する体積力(実体力)(,t)の第i成分です。そして,その記事では衝撃Aと力の関係について次のように書きました。

すなわち,"弾性体を構成する位置ξにおける1つの個別粒子に対し時刻t=τにn方向に瞬時的に加えられる1つの体積力(,t)があれば,その成分fi(,t)は空間位置を与えるのに3次元のディラック(Dirac)のデルタ関数,衝撃の時刻を与えるのに1次元のデルタ関数に比例してfi(,t)=Aδ3(ξ)δ(t-τ)δinと表現されます。

Aは衝撃の強さを与える定数です。fi3(ξ),δ(t-τ)の次元はそれぞれ,[力/体積]=MLT-2/L3,1/L3,1/Tであることに着目するとδinは無次元なので,衝撃の強さAは正しく,衝撃=力積の物理的次元を有することがわかります。"と書きました。

運動方程式ρ(∂2i/∂t2)=fi+τji,jにおいて,ui=Gin(,t;ξ,τ),fi(,t)=δ3(ξ)δ(t-τ)δinを代入し,さらに応力テンソルτijとしてフックの法則による表現:τijijklkl;ij(1/2)(ui,j+uj,i)=(1/2)(Gin,j+Gjn,i)を代入します。

すると,グリーン関数ui=Gin(,t;ξ,τ)を定めるための方程式として,ρ(∂2in/∂t2)=δinδ3(ξ)δ(t-τ)+(∂/∂xj){Cijkl(∂Gkn /∂xl)}を得ます。

ただし,t≦τ,かつξではGin(,t;ξ,τ),∂Gin(,t;ξ,τ)/∂tが全てゼロという初期条件を与えます。

グリーン関数をユニークに決定するには,さらに境界面S上の境界条件を指定することが必要です。これには個々の環境に応じて種々の異なる境界条件を使用することで対応します。

Sが剛体表面で境界条件が時間に依存しないなら時間の原点はどのようにでもシフトできます。それ故,Gin(,t;ξ,τ)=Gin(,t-τ;ξ,0)ですからグリーン関数Gin(,t;ξ,τ)は時間変数tとτについてはt-τという組み合わせのみに依存することがわかります。

したがって,Gin(,t;ξ,τ)=Gin(,t-τ;ξ,0)=Gin(,-τ;ξ,-t)です。この性質は震源と受信点に関する相反定理と呼ばれるものです。

一方,ベッチ(Betti)の定理の積分形∫-∞dt∫V[(,t)(,τ-t)-(τ-t)(,t)]dV=∫-∞dt∫S{(,τ-t)((,t),)-(,t)((,τ-t),)}dSにおいて,fi(,t)=δimδ3(ξ1)δ(t-τ1),gi(,t)=δinδ3(ξ2)δ(t+τ2),ui(,t)=Gim(,t;ξ11),vi(,t)=Gin(,t;ξ2,-τ2)を代入します。

すると,左辺=∫-∞dt∫V[Gim(.t;ξ11inδ3(ξ2)δ(τ-t+τ2)-Gin(,τ-t;ξ2,-τ2imδ3(ξ1)δ(t-τ1)]dV=Gnm(ξ2,τ+τ2;ξ11)-Gmn(ξ1,τ-τ1;ξ2,-τ2)です。

そして,右辺=∫-∞dt∫S[Gin(.τ-t;ξ2,-τ2)Cijklj{∂Gkm(,t;ξ11)/∂xl}-Gim(,t;ξ11)Cijklj{∂Gkn(,τ-t;ξ2,-τ2)/∂xl}]dSです。

ところがi(,t)=Gim(,t;ξ11),vi(,t)=Gin(,t;ξ2,-τ2)がS上で斉次境界条件ui+γji,j=0,vi+γji,j=0 を満足するなら,Sの上ではvi(τ-t)Cijkljk,l(t)-ui(t)Cijkljk,l(τ-t)=Cijklj{-γpi,p(τ-t)uk,l(t)+γpi,p(t)vk,l(τ-t)}=0 なので,結局,右辺はゼロとなります。

そこで,がS上で斉次境界条件を満たす場合には震源と受信点に対しGnm(ξ2,τ+τ2;ξ11)=Gmn(ξ1,τ-τ1;ξ2,-τ2)なる等式で示される重要な相反定理が得られました。

特にτ1τ20 と選べばGnm(ξ22;ξ1,0)=Gmn(ξ1,τ;ξ2,0)を得ますが,これは純粋な空間相反性です。一方,τ=0とすればGnm(ξ22;ξ11)=Gmn(ξ1,-τ1;ξ2,-τ2)ですが,これは空間・時間相反性を示しています。

弾性力学のグリーン関数を具体的に求めることは,それ自身複雑な問題ですが,この課題については,最も単純な均質で等方的な弾性固体媒質の場合と,震源と受信点の間が不均質で大きく離れている場合について後に扱う予定です。

さし当たってグリーン関数が既知としての議論に集中します。

 

再びベッチの定理の積分形∫-∞dt∫V[(,t)(,τ-t)-(τ-t)(,t)]dV=∫-∞dt∫S{(,τ-t)((,t),)-(,t)((,τ-t),)}dSに,gi(,t)=δinδ3(ξ)δ(t),vi(,t)=Gin(,t;ξ,0)を代入します。

 

こうすれば,Vにおける実体力とSにおける変位が既知のときの変位場を得ることができます。

すなわち,un(ξ,τ)=∫-∞dt∫V[i(,t)Gin(,τ-t;ξ,0)]dV+∫-∞dt∫S{Gin(,τ-t;ξ,0)Ti((,t),)-ui(,t)Cijkljkn,l(,τ-t;ξ,0)}dSです。

この式の物理的解釈を行なう前に,記号ξ,およびtとτを交換した方がいいと思われるのでそうします。

 

n(x,t)=∫-∞dτ∫V[fi(ξ,τ)Gin(,t-τ;ξ,0)]dVξ+∫-∞dτ∫S{Gin(ξ,t-τ;,0)Ti((ξ,τ),)-ui(ξ,τ)Cijkl(ξ)njkn,l(ξ,t-τ;,0)}dSξですね。

最後の被積分関数の項の因子kn,l(ξ,t-τ;,0)はξlによる微分∂Gkn,l(ξ,τ-t;,0)/∂ξlを意味することになります。

このように,弾性体における変位を初期変位,および運動を生ぜしめる要因である実体力,応力によって一意的に表わす方法,あるいは表示式を表示の定理と呼びます。

上に得られた最初の表示定理は,ある明確な点での変位がV中の到るところでの実態力による寄与,およびS上の応力(,)と自身による寄与から作り上げられるメカニズムを表現しています。

しかし,これら3つの寄与が重み付けされる方法は一見して不十分なものです。

 

というのは,各々の寄与を与える項はを震源としξを受信点とするグリーン関数を含んでいますが,むしろ,を"観測点=受信点"とするグリーン関数を使用した表現が望ましいと考えられるからです。

 

ξを震源としを受信点とするグリ-ン関数による表現であれば,における変位は各体積要素dVと面積要素dSによるへの変位の寄与の"総和(重ね合わせ)=積分"と見なせる合理的な解釈ができます。

そこで,に対する相反定理を使用すればよいと思われますが,これはグリ-ン関数への余分な条件を要求します。

なぜなら,空間相反性:Gin(ξ,t-τ;,0)=Gni(,t-τ;ξ,0)であれば,これはが境界S上で斉次境界条件を満たすときに限って証明された性質です。一方,上の表示定理の方は(ξ,τ)でのn方向への単位衝撃による任意のグリーン関数に対して正しい公式です。

特に,グリーン関数がS上で斉次境界条件を満たす2つの異なる場合について考察してみます。

まず,がS上で剛体境界条件を満たす場合のグリーン関数であるとします。このときのグリーン関数をrigと書けば,Sが剛体面なのでξ∈SならGrigin(ξ,t-τ;,0)=0です。

こうすれば先の表示公式はun(x,t)=∫-∞dτ∫V[fi(ξ,τ)Grigiin(,t-τ;ξ,0)]dVξ-∫-∞dτ∫S[ui(ξ,τ)Cijkl(ξ)nj{∂Grigkn,l(,τ-t;ξ,0)/∂ξl}]dSξとなります。

もう1つの場合はSが自由境界面の場合でS上では応力がない場合です。例えば真空の宇宙空間での星の表面での応力は圧力Pのみであってゼロであると近似できます。

  

この自由境界条件のグリーン関数をfreeと書けば,ξ∈SならCijkl(ξ)nj{∂Gfreekn,l(ξ,τ-t;,0)/∂ξl}=0 です。

このときの表示公式はn(x,t)=∫-∞dτ∫V[fi(ξ,τ)Gfreein(,t-τ;ξ,0)]dVξ+∫-∞dτ∫S{Gfreein(,t-τ;ξ,0)Ti((ξ,τ),)}dSξとなります。

今日はここで終わります。

参考文献:K.Aki,& P.G.Richards 「Quantitative Seismology(Theory and Method)」

 

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