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2009年9月 8日 (火)

定量的地震学1

私がサブマネージャーをしているfolomy物理フォーラムで,最近,電磁波の水滴による減衰に関する質問があり,確か20年以上前にボルン-ウォルフ著「光学の原理」を参考にして雲やエアロゾルによる古典電磁波のミイ(Mie)散乱の断面積を計算したことがあるのを思い出し,そのとき作成したノートを探していました。

これが見つかれば,これに便乗して,最近の地球温暖化の原因とされる温室効果ガスの中で,その効果が最も大きいと思われる雲,あるいは水滴の効果を評価したいとも考えていました。

ところが,そのノートは2,3日探しても見つからず,代わりに1991年に,2番目の会社で地震の震源地予測プログラム開発のために国会図書館でコピーした,AkiとRichards著の「Quantitative Seismology」という地震学の本についてまとめた3冊のノートを見つけました。

 

そこで急遽,これを紹介する記事を書こうという気になりました。

(もちろん,曇りの空の色に関係するミイ散乱や,晴れの青い空に関係するレイリー(Rayleigh)散乱などを検討して,電磁波の減衰効果についてもいずれ書こうとは思います。)

英語で書かれている「Quantitative Seismology」については,近年,共著者の安芸氏とは別の日本人によって,安芸敬一,P.G.Richards著「地震学」という大部の翻訳書として出版されているのを知っていますが高価なので,これはまだ,買ってはいません。

もっとも,当時,国分寺の方の会社に委託されて,従来よりも正確かつ迅速に震源地を求めようという試みは挫折しました。

 

地震については2006年11/14の過去記事「結晶内での弾性波(地震波)」 もあります。

 

さて,第1章の序文は省略して第2章の「動力学的弾性体の基礎理論」から始めます。 

地球内の地震運動を研究するための解析的枠組みは少なくとも次の3つの成分を組み込んでいる必要があります。

 

すなわち,震源を記述する方法,地震運動の伝播を支配する運動方程式,そして震源の記述を方程式の個々の解に結合させる理論です。

地震学においては,小さい運動の2つのセットは非線型な形で干渉することはなく重ねあわされるという推測があります。

そして,もう1つの推測として,ある物理的源によって生起された地震運動は震源と波動伝播の媒質の性質を結びつけることによって一意的に決定されるというものです。

こうした推論や地震学者によって一般に真であると仮定されている他の多くの推論は線型応力-歪み関係を有する弾性媒体に対する古典連続体力学の無限小運動の性質であり,これが理論に対する全ての数学的枠組みを提供します。

それでは定式化に向かいます。 

連続体の運動力学を記述するために,2つの異なる方法が広く用いられています。

 

これらの1つは,"ある参照時刻tに初期時刻t0の元の位置で指定された質点の運動を追跡する。"というラグランジュ(Lagrange)的記述と,もう1つは"いかなる質点であろうと指定した空間位置を占めている質点に着目する。"というオイラー(Euler)的記述です。

地震学の大抵の応用では,線型弾性理論をラグランジュ的記述で展開するのが概念的により簡単です。

 

以下では,枠組みとして殆ど常にラグランジュ的記述を採択します。

要するに,震動図は地球の個々の部分における地震計が設置されている質点の運動の記録であり,直接ラグランジュ的運動の記録と考えられるからです。

まず,系はデカルト(Descartes)座標系(直交座標系):=(x1,x2,x3)で扱い,全てのテンソルはデカルトテンソルとします。

変位(displacement)という量を空間と時間tの関数として用いることから始めます。

 

すなわち,ある時刻t0に占めていた空間位置のベクトルから,その質点が時刻tに移動した量としてのベクトルを変位と呼び,それを(,t)と書きます。

このラグランジュ的表記では,時間tが変わってもは不変な独立量なので,粒子(質点)の速度は∂/∂t,加速度は∂2/∂t2です。

固体であれ液体であれ,また弾性的であれ非弾性的であれ,媒質の歪みを解析するためには歪みテンソルを使用します。

最初,位置にあった質点が位置に動かされるなら,そのときの関係()が変位の場を記述するために用いられます。

初期に近傍にある媒質部分の歪みを調べるために,初期位置+δにあった質点の新しい位置を知る必要があります。この新しい位置は+δ(+δ)です。

この変位の変化をδとすれば+δ+δ(+δ)-()です。|δ|は任意の微小量なので,(+δ)=u()+(δ∇)+O(|δ|2)ですから,δ=(δ∇),または,δui=(∂ui/∂xj)δxjです。

しかし,の近傍の真の歪みを指定するのにテンソル:(ui,j)=(∂ui/∂xj)の全ての成分が必要なわけではありません。

 

なぜなら,"運動=変位"の一部は単にの近傍の無限小な剛体回転によるものです。

 

これは恒等式:(ui,j-uj,i)δxj=εijkεjlmm,lδxkからわかります。(つまり,≡rotと置けば,(ui,j-uj,i)δxj=(×δ)iと表現されます。)

それ故,δui=(∂ui/∂xj)δxj=ui,jδxjは,δui=(1/2)(ui,j+uj,i)δxj+(1/2)(rot×δ)Iと書き直せます。

 

剛体回転の総量は(1/2)rotなので,|ui,j|<<1なら全変位を表わす右辺のうち,最後の項を剛体回転として解釈することが可能です。

変位勾配が|ui,j|<<1の意味での無限小でないなら,δにおいて有限な回転の寄与を解析する必要があります。

 

しかし,有限回転は非可換な変動でベクトルでは表現できないので,はるかに困難な事象です。

ここでは|ui,j|<<1と想定し,無限小の歪みテンソルとして,eij≡(1/2)(ui,j+uj,i)なる対称テンソルを定義し,これを任意の線素δxiについて相対位置をeijδxjだけ変える真の歪み効果とします。

回転の方は要素の長さには影響しません。実際,新しい長さは+δ|=(δδ+2δδ)1/2=(δδ+2eijδxiδxj)1/2=|δ|(1+eijνiνj)となります。

 

ただし,νν≡δ/|δ|で定義される単位ベクトルです。

+δ|=|δ|(1+eijνiνj)は,線素のν方向への伸縮歪みがeijνiνjであることを示しています。

連続体内の隣接した粒子間の相互に作用する力を解析するためには,応力テンソルの概念を用います。

 

応力とは連続体内の内部面積当たりに働く力のことです。これは面の一方の側の粒子が他の側の粒子に作用する単位面積当たりの接触力を定量化したベクトル量です。

厳密には,連続体内部の面上の与えられた1点に対し,その点の無限小面素δSを横切って作用する無限小の力δを考え/δSのδS→ 0 の極限で応力を定義します。

面δSに垂直な単位ベクトルに対し,がその内側へと向く側の物質からを外向き法線の単位ベクトルとする側の物質に作用する力としてδを定義します。

δ/δSの極限である応力の大きさと方向は,面δSの向き,つまりにの取り方に依存します。そして一般にに平行ではありません。の関数として()なる形で表現されます。

 

例えば,面に垂直な応力である流体内の圧力であれば,その大きさは-nT()で与えられます。一方,固体物質に対しては,せん断力は面に平行な向きに作用し得ます。

さて,連続物体内の質点(粒子)に作用する力としては,上記の隣接粒子間に働く接触力応力だけではなく,一般には隣接粒子間の相互重力や磁力など古典的な非接触の遠隔作用力もあります。

 

こうした非接触力など外力を実体力と名付けます。そして,初期時刻にある位置にあった物体の別のある時刻tに作用する単位体積当たりの実体力を(,t)と書くことにします。

 

初期位置がξの1つの個別粒子に時刻t=τに瞬時的に加えれる1つの衝撃力という特殊ケースを考えてみます。

 

この力がxn軸方向にあるとき,成分fi(,t)は空間位置を与えるのに3次元のディラック(Dirac)のデルタ関数,そして衝撃の時刻を与えるのに1次元のデルタ関数に比例し,さらにi≠nについてはfi=0 なる方向性を持つとします。

こうすれば,力の密度はfi(,t)=Aδ3(ξ)δ(t-τ)δinと表現されます。ここにAは衝撃の強さを与える定数です。

i3(ξ),δ(t-τ)の次元がそれぞれ[力/体積]=MLT-2/L3,1/L3,1/Tであることに着目すれば,δinは無次元なので衝撃の強さAは正しく,"衝撃=力積"の物理的次元を持つことがわかります。

こうして,境界面Sを有する体積Vの到るところで加速度,実体力(体積力),応力に対する制約を述べられる位置に到達しました。

さて,ニュートンの運動法則によってVを構成する粒子群の運動量総体の変化率とVの全体に作用する力とを等置すれば,(∂/∂t)[∫V{ρ(∂/∂t)}dV]=∫VdV+∫S()dSとなります。

 

この関係はラグランジュ的記述に基づいており,VとSは粒子と共に動きます。

この描像では,ρdVは時間的に一定なので,左辺は∫V{ρ(∂2/∂t2)}dVと書き直すことができます。

以下,この式を利用して応力()の陽な形を求め,応力テンソルを導入します。

加速度,実体力,応力のどれも特異ではないような媒質中の粒子Pを考えます。そして,点Pを微小体積ΔVで囲み,ΔV→ Pと収縮する極限で∫V{ρ(∂2/∂t2)}dV=∫VdV+∫S()dSの各項のΔVに対する相対的な大きさを評価します。

このとき,被積分関数が特異ではないので両辺の体積積分の項はΔVのオーダーですが,面積積分の項は∫SdSのオーダーであり,(ΔV)2/3のオーダーの量です。

そこで,∫V{ρ(∂2/∂t2)}dV=∫VdV+∫S()dSの両辺を∫SdSで割った式では,ΔV→ 0 に対し,V{ρ(∂2/∂t2)}dV/∫SdS→ 0 ,かつVdV/∫SdS→ 0 です。

仮に,ΔVとして外向き法線と-を持つ相対する平面板とここでは重要ではない側面を持つ直方体を取れば,ΔV→ 0 に対して∫S()dS/∫SdS→ 0 ですから,(-)=-()を得ます。

次に,ΔVを小さな四面体OABCとし,その3つの面⊿OBC,⊿OCA,⊿OABが,それぞれx1軸に垂直な23面,x2軸に垂直な31面,x3軸に垂直な12面の上にあり,残る4番目の面の⊿ABCの外向き法線がであるとします。

 

このとき,∫S()dS/∫SdS→ 0 は,()⊿ABC+(-^1)⊿OBC+(-^2)⊿OCA+(-^3)⊿OAB/∫SdS→ 0 を意味します

ただし,^iはi軸方向の単位ベクトルです。結局,()=(^j)njなる関係式を得ます。

(-)=-(),および()=(^j)njなる等式は,媒質が静止中であろうと運動中であろうと成立します。そこでτjl≡Tl(^j)と置けば,常にTj()=τjijと書けます。

ガウスの定理を用いると∫Sj()dS=SτjijdSVτji,jdVですから,∫V{ρ(∂2/∂t2)}dV=∫VdV+∫S()dSは,∫{ρ(∂2i/∂t2)-fi-τji,j}dV=0 となりますが,Vは任意なので微分型の運動方程式としてρ(∂2i/∂t2)=fi+τji,jが得られます。

運動力学のもう1つの制約式は座標原点の周りのV内の総角運動量の変化率をVにおける力のモーメントに等置することで得られます。 

すなわち,(∂/∂t)[∫V{×ρ(∂/∂t)}dV]=∫V(×)dV+∫S{×()}dSです。ただし,です。

 

/∂t,×(∂/∂t),∂(ρdV)/∂tは全てゼロなので,左辺は∫V{×ρ(∂2/∂t2)}dVと書けます。

そこで,これに運動方程式:ρ(∂2i/∂t2)=fi+τji,j,およびTi()=τjijを代入することにより,∫Vijkj(∂τlk/∂xl)}dV=∫Vijkj{ρ(∂2k/∂t2)-fk}]dV=∫Sijkjk()}dS=∫Sijkjτlkl)dSを得ます。

ところが,ガウスの定理より∫Sijkjτlkl)dS=∫V{(∂/∂xl)(εijkjτlk)}dV=∫Vijk(∂Xj/∂xllk}dV+∫Vijkj(∂τlk/∂xl)}dV=∫Vijkτjk)dV+∫Vijkj(∂τlk/∂xl)}dVです。

したがって,∫Vijkτjk)dV=0 と結論されます。

 

これは,到るところでεijkτjk=0 なること,つまり,応力テンソルが対称であること:τkj:=τjkを意味します。

これらの基本的結果から,応力の成分についての最終的公式を定めることができます。 

すなわち,応力テンソル(τij)は対称であって,応力はTi=τjijで与えられます。さらに,運動方程式はρ(∂2i/∂t2)=fi+τji,jで与えられます。

今日はここで終わります。 

参考文献:K.Aki,& P.G.Richards 「Quantitative Seismology(Theory and Method)」

   

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