光(電磁波)の散乱(1)
太陽から地球に降り注ぐ"光=電磁波"が,大気中の空気分子や
雲の水滴などによって散乱され,その光の一部が反射されて宇宙
へ引き返す現象を評価することを目的として,電磁波の散乱を
古典的に解析してみます。
電磁波が平面波として進行しているとき,その進行方向に
障害物を置いたとします。
このとき,平面波はこの障害物によって散乱されるはずです。
こうした散乱に定量的な評価を与えることを考えます。
この種の問題は,近代物理学において重要な意味を持っています。
まず,真空中の電磁波の示す電場ベクトルEと磁場ベクトルBの
6つの成分のうちの1つを取って,それをΦ(x,t)と書くこと
にします。
これは,"障害物=散乱体"の外部では,"波動方程式
=d'Alembert方程式":(△-∂2/∂t2)Φ(x,t)=0
を満たします。
ただし,cは真空中の光速を表わしています。
特に,Φ(x,t)が定在波の場合:
つまり時間変動部分が角振動数ωが一定の波に変数分離される
Φ(x,t)=exp(-iωt)ψ(x)なる形の波の場合には,
方程式:(△-∂2/∂t2)Φ(x,t)=0 は,Helmholtzの方程式:
(△+ω2/c2)ψ(x)=0 に帰着します。
これは,tを含まず,xの未知関数ψ(x)に対する偏微分方程式
です。
当面の課題は,結局のところは,konoHelmholtzの方程式を
電磁波の散乱問題に適した境界条件の下で解くことに帰着する
ので,その準備として,(△+ω2/c2)ψ(x)=0 の一般解を
求めておきます。
そのため,Helmholtz方程式:(△+ω2/c2)ψ(x)=0 の解ψ(x)を
ψ(r,θ,φ)として方程式を極座標表示で書くと,
[(1/r)(∂2/∂r2)r+{1/(r2sin2θ)}{∂/∂θ(sinθ∂/∂θ)}
+{1/(r2sin2θ)}∂2/∂φ2+k2]ψ(r,θ,φ)=0 となります。
ただし,k≡ω/cと定義しました。
散乱体(障害物)を原点(r=0)のまわりに置き,z軸方向を極軸
として,その方向に平面波が入射する問題を考えます。
さらに散乱体はz軸のまわりに対称な形をしているとすれば,
ψは角度φには依存しませんから,ψ(r,θ,φ)をψ(r,θ)と
書くと,元のHelmholtz方程式は,
[(1/r)(∂2/∂r2)r+{1/(r2sin2θ)}{∂/∂θ(sinθ∂/∂θ)}
+k2]ψ(r,θ)=0 となります。
これの一般解は,ψ(r,θ)=Σl=0∞Rl(r)Pl(cosθ)なる級数で
与えられます。Pl(x)はl次のLegendre多項式です。
ただし,動径rの関数:Rl(r)は常微分方程式:
{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}Rl(r)=0
の解です。
さらに,Rl(r)≡r-1/2ul(r)とおいて,これを上式に代入すると,
dRl/dr=r-1/2dul/dr-(1/2)r-3/2ul,
d2Rl/dr2=r-1/2d2ul/dr2-r-3/2dul/dr+(3/4)r-5/2ul
と書けます。
それ故,動径の表わす方程式は,
{d2/dr2+(1/r)d/dr+k2-(l+1/2)2/r2}ul(r)=0
となります。
得られた方程式は,(kr)を変数としパラメータνが(l+1/2)
のBesselの微分方程式です。
そこで,その2つの独立な解の1組としてJl+1/2(kr)(Bessel関数),
およびNl+1/2(kr)(Neumann関数)を取ることができます。
ただし,Neumann関数はBessel関数を用いて,
Nn(x)≡{Jn(x)cos(nπ)-J-n(x)}/sin(nπ)
と表現される関数です。
さらに,Rl(r)≡r-1/2ul(r)において,
ul(r)=Jl+1/2(kr),およびul(r)=Nl+1/2(kr)
の場合を考え,改めて2種類の球面Bessel関数:
jl(x)≡{π/(2x)}1/2Jl+1/2(x),および
nl(x)≡{π/(2x)}1/2Nl+1/2(x)
を定義します。
また,これらの1次結合の,
hl(1)(x)≡{π/(2x)}1/2[Jl+1/2(x)+iNl+1/2(x)],
hl(2)(x)≡{π/(2x)}1/2[Jl+1/2(x)-iNl+1/2(x)]
で定義される球面Hankel関数を考えます。
そして,これらは,
jl(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l(sinx/x),
nl(x)=-(-x)l{(1/x)d/dx}l(cosx/x),
hl(1)(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l{exp(ix)/x}
と表わされることがわかります。
すなわち,
j0(x)=sinx/x,j1(x)=sinx/x2-cosx/x,
j2(x)=(3/x3-1/x)sinx/x2-3cosx/x2,..,
n0(x)=-cosx/x,n1(x)=-cosx/x2-sinx/x,
n2(x)=-(3/x3-1/x)cosx/x2-3sinx/x2,..
etc.です。
よってx→ 0 のときには,
jl(x)→{xl/(2l+1)!!}[1-x2/{2(2l+1)}+..],
nl(x)→(2l-1)!!/xl+1であり,
hl(1)(x)→-i(2l-1)!!/xl+1,
hl(2)(x)=→i(2l-1)!!/xl+1
となります。
ここに,(2l+1)!!≡(2l+1)(2l-1)(2l-3)..5・3・1,
(2l-1)!!≡(2l-1)(2l-31)(2l-5)..5・3・1です。
このことから,nl(x)はx→ 0 に対して発散する関数であること
がわかります。
一方,xが大きいところ,つまりx→ ∞での漸近形は,
jl(x)→sin(x-lπ/2)/x,nl(x)→-cos(x-lπ/2)/x,
hl(1)(x)→(-i)l+1exp(ix)/x,hl(2)(x)→il+1exp(-ix)/x
となります。
そして,z軸のまわりで対称なHelmholtz方程式の一般解は,
ψ(r,θ)=Σl=0∞[Aljl(kr)+Blnl(kr)]Pl(cosθ)
で与えられることがわかります。
ところで,Laplaceの方程式:Δχ(r,θ)=0 は,Helmholtz方程式:
(Δ+k2)ψ(r,θ)=0 で特にk2をゼロとしたものですから,解は
χ(r,θ)=Σl=0∞[Alrl+,Blr-(l+1)]Pl(cosθ)
で与えられます。
逆にいえば,Laplaceの方程式の解:χ(r,θ)で,rlをjl(kr)
に,r-(l+1)をnl(kr)に置き換えさえすれば,Helmholtz方程式
の解:ψ(r,θ)が得られます。
特に,z方向へ進む平面波:exp(ikz)=exp(ikrcosθ)に
ついては,Rayleighの公式と呼ばれる展開式:
exp(ikrcosθ)=Σl=0∞(2l+1)iljl(kr)Pl(cosθ)
が成立することが知られています。
念のため,これを証明しておきます。
(証明):平面波ψ(r,θ)=exp(ikz)=exp(ikrcosθ)は
明らかに Helmholtz方程式(Δ+k2)ψ(r,θ)=0 の1つの解
ですから,
exp(ikrcosθ)=Σl=0∞[Aljl(kr)+Blnl(kr)]Pl(cosθ)
なる形に展開可能です。
しかも,左辺は原点r=0でexp(ikrcosθ)=1(有限)
ですから,r=0では,l≧0でnl(kr)→(2l-1)!!/(kr)l+1
=∞ より, 全てのBl(l=0,1,2,..)はゼロでなければ
なりません。
よって,exp(ikrcosθ)=Σl=0∞Aljl(kr)Pl(cosθ)
と書けます。
それ故,
Σl=0∞(ikrcosθ)l/l!=Σl=0∞Aljl(kr)Pl(cosθ)
ですからr→ 0 では,
Σl=0∞(ikrcosθ)l/l!→
Σl=0∞[Al{(kr)l/(2l+1)!!}Pl(cosθ)と挙動します。
また,Pl(x)={1/(2ll!)}(dl/dxl)(x2-1)lです。
したがってPl(cosθ)における(cosθ)lの係数は,
(2l)!/{2l(l!)2} です。
よって,Σl=0∞(ikrcosθ)l/l!
~Σl=0∞[Al{(kr)l/(2l+1)!!}Pl(cosθ)において,
(cosθ)lの項を等置すると,
(ikrcosθ)l/l!
=(2l)!Al/{2l(l!)2(2l+1)!!}(krcosθ)l
となります。
これから,il=Al/(2l+1),すなわちAl=il(2l+1)
を得ます。 (証明終わり)
さて,波動が散乱される現象を記述するには一般に2つの方法が
考えられます。
その1つは散乱体に向かって入射する波動を平面波の
重ね合わせの波束であるとして,その波束が散乱体に衝突して
散乱していく様子を時間的に追跡していく方法です。
これに対して,もう1つの方法は,現象全体を見て,それを
1枚の写真に取って全体の様子を調べる方法です。
このとき波動の流れが定常的なら,全体の様子はいつ写真
を取るか?という時間には関係しません。
このような方法を定常的方法といいます。
ここでは,後者の方法を用いて散乱問題を取り扱うことに
します。
波が散乱されていく全体を示す定常波は散乱体がある原点
(r=0)近傍を除けば,方程式(Δ+k2)ψ(x)=0
を満たします。
そこで,軸対称な散乱体による散乱問題は,Helmholtz方程式
の一般解:ψ(x)=Σl=0∞[Aljl(kr)+Blnl(kr)]Pl(cosθ)
で,それに適合した境界条件を満たす未定係数Al,Blを決める
問題に帰着します。
"z軸=極軸"の方向に平面波が入射したとして,それがr=0
にある散乱体によって散乱される様子を1枚の写真に取った
とします。
このときに見られる波動の全体は,散乱体から十分遠方では
入射平面波と外向き球面波の両方の重ね合わせから成って
います。
すなわち,r→ ∞での波動は,
ψ(x)→ exp(ikz)+f(θ)exp(ikr)/r
と表わされるはずです。
ここでf(θ)は散乱振幅(scattering amplitude),θは
散乱角(scattering angle)と呼ばれる量に相当します。
問題を解く前に,散乱を調べることによって知ることができる
物理量について知る必要があります。
まず,電磁場のエネルギーの流れ密度を表わす
ポインティングベクトル(Poynting vector)は,S≡E×H
です。
Hは磁場の強さ(磁界)であり真空中ではH=B/μ0です。
φをスカラーポテンシャル,Aをベクトルポテンシャルとすれば,
E=-∇φ-∂A/∂t,B=∇×Aと表現されますが,
真空中の電磁波なら電荷も電流もなく,特に
∇E=-∇2φ-∂∇A/∂t=0 なので
Coulombンゲージ:∇A=0 を採用すれば,∇E=-∇2φ=0
となります。
そこで,φ=定数であり特にφ=0 としてもかまいません。
それ故,Aだけを用いてE=-∂A/∂t,B=∇×A
と書きます。
今の場合,電磁波は角振動数ωが一定の定常波ですから
ベクトルポテンシャルは複素表示で,
A(x,t)=ia(x)exp(-iωt)と書けます。
ここではE,Bの空間部分が実数になるようにAの振幅を
純虚数:ia(x)に取っています。
E(x,t)=ωa(x)exp(-iωt),
B(x,t)=ω{∇×a(x)}exp(-iωt)
です。
実際の電場,磁場は実数であって,それぞれ,ReE,ReB
ですから,そのポインティングベクトルは,
S=ReE×ReH=ReE×ReB/μ0
=(ω2/μ0){a×(∇×a)}cos2(ωt)で与えられます。
そこで,エネルギー流の実効値として時間平均を取れば,周期
をT=2π/ωとして,
<cos2(ωt)>=(1/T)∫0Tcos2(ωt)=1/2なので,
<S>={ω2/(2μ0)}{a×(∇×a)}=(E×B*)/(2μ0)
です。
ただし,< >は時間平均を示す記号です。
そこで,一般に"エネルギー流束=(単位時間に単位面積を通過
する平均エネルギー)"は,<|S|>=<|E×B*|/(2μ0)>
で与えられます。
今,考えている入射平面波:ψin(x)≡exp(ikz)は,
電場:E(x,t)=ωa(x)exp(-iωt)の空間部分:ωa(x)
を表わすものと考えます。
つまり,電場E(x,t)がx成分のみを持つように偏光している
として,Ex(x,t)=ψin(x)exp(-iωt)とし,a(x)は,
a(x)=(ψin(x)/ω,0,0)で与えられるとします。
このとき,a(x)=(exp(ikz)/ω,0,0)で,かつ
B(x,t)=ω{∇×a(x)}exp(-iωt)によって,
磁場B(x,t)はy成分のみを持ち,
cBy(x,t)=ψin(x)exp(-iωt)となります。
なぜなら,kω=cです。
そこで,散乱問題において単位時間に単位面積を通って入射
する電磁波のエネルギー流Sを特にSinと書けば,
平均の単位面積を通る入射エネルギーの率は,
<|Sin|>=<|E×B*|/(2μ0)>={1/(2cμ0)}|ψin|2
=1/(2cμ0)です。
これに対して散乱波をψsc(x)≡f(θ)exp(ikr)/rと書き,
単位時間にθ方向の面積要素dSを通って散乱される電磁波
のエネルギーをSscdSと書けば,
<|Ssc|>dS={1/(2cμ0)}|ψsc|2dS
={1/(2cμ0)}|f(θ)12dS/r2
={1/(2cμ0)}|f(θ)|2dΩです。
ただし,dΩ=dθdφは散乱体の中心からdSを見た
立体角です。
そこで,単位時間に単位面積を通って単位エネルギーの
電磁波が入射したとき,立体角dΩに散乱されて出てくる
電磁波の単位時間当たりの平均エネルギーは,
σ(θ)dΩ≡<|Ssc|>/<|Sin|>dS=|f(θ)|2dΩ
で与えられます。
上の式の比例係数σ(θ)は面積の単位を持っているので
σ(θ)を散乱の微分断面積(differential cross-section)
と呼びます。
そして,σ≡∫σ(θ)dΩを散乱の全断面積
(total cross-section)といいます。
これは単位時間に単位面積を通って単位平均エネルギー
の電磁波が入射したときに,散乱されて出てくる単位時間
当たりの全平均エネルギーです。
全断面積は,直感的には散乱体の幾何学的断面積に相当
するものですが,入射波の波動性のためこれらは一般には
一致しません。
今日はここまでにします。
参考文献:砂川重信著「理論電磁気学」第2版(紀伊国屋書店)
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