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2009年10月16日 (金)

光(電磁波)の散乱(1)

 太陽から地球に降り注ぐ"光=電磁波"が,大気中の空気分子

雲の水滴などによって散乱され,その光の一部が反射されて宇宙

引き返す現象を評価することを目的として,電磁波の散乱を

古典的に解析してみます。

 

 電磁波が平面波として進行しているとき,その進行方向に

障害物を置いたとします。

 

このとき,平面波はこの障害物によって散乱されるはずです。

こうした散乱に定量的な評価を与えることを考えます。

 

この種の問題は,近代物理学において重要な意味を持っています。

 

まず,真空中の電磁波の示す電場ベクトルと磁場ベクトル

6つの成分のうちの1つを取って,それをΦ(,t)と書くこと

にします。

 

これは,"障害物=散乱体"の外部では,"波動方程式

=d'Alembert方程式":(△-∂2/∂t2)Φ(,t)=0

を満たします。

 

ただし,cは真空中の光速を表わしています。

 

特に,Φ(,t)が定在波の場合:

つまり時間変動部分が角振動数ωが一定の波に変数分離される

Φ(,t)=exp(-iωt)ψ()なる形の波の場合には,

 

方程式:(△-∂2/∂t2)Φ(,t)=0 は,Helmholtzの方程式:

(△+ω2/c2)ψ()=0 に帰着します。

 

これは,tを含まず,の未知関数ψ()に対する偏微分方程式

です。

 

当面の課題は,結局のところは,konoHelmholtzの方程式を

電磁波の散乱問題に適した境界条件の下で解くことに帰着する

ので,その準備として,(△+ω2/c2)ψ()=0 の一般解を

求めておきます。

 

そのため,Helmholtz方程式:(△+ω2/c2)ψ()=0 の解ψ()を

ψ(r,θ,φ)として方程式を極座標表示で書くと,

 

[(1/r)(∂2/∂r2)r+{1/(r2sin2θ)}{∂/∂θ(sinθ∂/∂θ)}

+{1/(r2sin2θ)}∂2/∂φ2+k2]ψ(r,θ,φ)=0 となります。

 

ただし,k≡ω/cと定義しました。

 

散乱体(障害物)を原点(r=0)のまわりに置き,z軸方向を極軸

として,その方向に平面波が入射する問題を考えます。

 

 さらに散乱体はz軸のまわりに対称な形をしているとすれば,

ψは角度φには依存しませんから,ψ(r,θ,φ)をψ(r,θ)と

書くと,元のHelmholtz方程式は,

 

[(1/r)(∂2/∂r2)r+{1/(r2sin2θ)}{∂/∂θ(sinθ∂/∂θ)}

+k2]ψ(r,θ)=0 となります。

 

これの一般解は,ψ(r,θ)=Σl=0l(r)Pl(cosθ)なる級数で

与えられます。Pl(x)はl次のLegendre多項式です。

 

ただし,動径rの関数:Rl(r)は常微分方程式:

{d2/dr2+(2/r)d/dr+k2-l(l+1)/r2}Rl(r)=0

の解です。

 

さらに,Rl(r)≡r-1/2l(r)とおいて,これを上式に代入すると,

dRl/dr=r-1/2dul/dr-(1/2)r-3/2l,

2l/dr2=r-1/22l/dr2-r-3/2dul/dr+(3/4)r-5/2l

と書けます。

 

それ故,動径の表わす方程式は,

{d2/dr2+(1/r)d/dr+k2-(l+1/2)2/r2}ul(r)=0

となります。

 

得られた方程式は,(kr)を変数としパラメータνが(l+1/2)

Besselの微分方程式です。

 

そこで,その2つの独立な解の1組としてJl+1/2(kr)(Bessel関数),

およびNl+1/2(kr)(Neumann関数)を取ることができます。

 

ただし,Neumann関数はBessel関数を用いて,

n(x)≡{Jn(x)cos(nπ)-J-n(x)}/sin(nπ)

と表現される関数です。

 

さらに,Rl(r)≡r-1/2l(r)において,

l(r)=Jl+1/2(kr),およびul(r)=Nl+1/2(kr)

の場合を考え,改めて2種類の球面Bessel関数:

jl(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x),および

l(x)≡{π/(2x)}1/2l+1/2(x)

を定義します。

 

また,これらの1次結合の,

l(1)(x)≡{π/(2x)}1/2[Jl+1/2(x)+iNl+1/2(x)],

l(2)(x)≡{π/(2x)}1/2[Jl+1/2(x)-iNl+1/2(x)]

で定義される球面Hankel関数を考えます。

 

そして,これらは,

jl(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l(sinx/x),

l(x)=-(-x)l{(1/x)d/dx}l(cosx/x),

l(1)(x)=(-x)l{(1/x)d/dx}l{exp(ix)/x}

と表わされることがわかります。

 

すなわち,

j0(x)=sinx/x,j1(x)=sinx/x2-cosx/x,

j2(x)=(3/x3-1/x)sinx/x2-3cosx/x2,..,

 

0(x)=-cosx/x,n1(x)=-cosx/x2-sinx/x,

2(x)=-(3/x3-1/x)cosx/x2-3sinx/x2,.. 

etc.です。

 

よってx→ 0 のときには,

jl(x)→{xl/(2l+1)!!}[1-x2/{2(2l+1)}+..],

l(x)→(2l-1)!!/xl+1であり,

l(1)(x)→-i(2l-1)!!/xl+1,

l(2)(x)=→i(2l-1)!!/xl+1

となります。

 

ここに,(2l+1)!!≡(2l+1)(2l-1)(2l-3)..5・3・1,

(2l-1)!!≡(2l-1)(2l-31)(2l-5)..5・3・1です。

 

このことから,nl(x)はx→ 0 に対して発散する関数であること

がわかります。

 

一方,xが大きいところ,つまりx→ ∞での漸近形は,

jl(x)→sin(x-lπ/2)/x,nl(x)→-cos(x-lπ/2)/x,

l(1)(x)→(-i)l+1exp(ix)/x,hl(2)(x)→il+1exp(-ix)/x

となります。

 

そして,z軸のまわりで対称なHelmholtz方程式の一般解は,

ψ(r,θ)=Σl=0[Aljl(kr)+Bll(kr)]Pl(cosθ)

で与えられることがわかります。

 

ところで,Laplaceの方程式:Δχ(r,θ)=0 は,Helmholtz方程式:

(Δ+k2)ψ(r,θ)=0 で特にk2をゼロとしたものですから,解は

χ(r,θ)=Σl=0[All+,Bl-(l+1)]Pl(cosθ)

で与えられます。

 

逆にいえば,Laplaceの方程式の解:χ(r,θ)で,rlをjl(kr)

に,-(l+1)をnl(kr)に置き換えさえすれば,Helmholtz方程式

の解:ψ(r,θ)が得られます。

 

特に,z方向へ進む平面波:exp(ikz)=exp(ikrcosθ)に

ついては,Rayleighの公式と呼ばれる展開式:

exp(ikrcosθ)=Σl=0(2l+1)iljl(kr)Pl(cosθ)

が成立することが知られています。

 

念のため,これを証明しておきます。

 

(証明):平面波ψ(r,θ)=exp(ikz)=exp(ikrcosθ)は

明らかに Helmholtz方程式(Δ+k2)ψ(r,θ)=0 の1つの解

ですから, 

exp(ikrcosθ)=Σl=0[Aljl(kr)+Bll(kr)]Pl(cosθ)

なる形に展開可能です。

 

 しかも,左辺は原点r=0でexp(ikrcosθ)=1(有限)

ですから,r=0では,l≧0でnl(kr)→(2l-1)!!/(kr)l+1

=∞ より, 全てのBl(l=0,1,2,..)はゼロでなければ

なりません。

 

 よって,exp(ikrcosθ)=Σl=0ljl(kr)Pl(cosθ)

 と書けます。

 

 それ故,

 Σl=0(ikrcosθ)l/l!=Σl=0ljl(kr)Pl(cosθ)

 ですからr→ 0 では,

 Σl=0(ikrcosθ)l/l!→

 Σl=0[Al{(kr)l/(2l+1)!!}Pl(cosθ)と挙動します。

 

 また,Pl(x)={1/(2ll!)}(dl/dxl)(x2-1)lです。

 

 したがってPl(cosθ)における(cosθ)lの係数は,

 (2l)!/{2l(l!)2} です。

 

 よってl=0(ikrcosθ)l/l!

 ~Σl=0[Al{(kr)l/(2l+1)!!}Pl(cosθ)において,

 (cosθ)lの項を等置すると,

 

 (ikrcosθ)l/l!

 =(2l)!Al/{2l(l!)2(2l+1)!!}(krcosθ)l

 となります。

 

 これから,il=Al/(2l+1),すなわちAl=il(2l+1)

を得ます。  (証明終わり)

 

 さて,波動が散乱される現象を記述するには一般に2つの方法が

 考えられます。

 

 その1つは散乱体に向かって入射する波動を平面波の

重ね合わせの波束であるとして,その波束が散乱体に衝突して

散乱していく様子を時間的に追跡していく方法です。

 

 これに対して,もう1つの方法は,現象全体を見て,それを

1枚の写真に取って全体の様子を調べる方法です。

 

 このとき波動の流れが定常的なら,全体の様子はいつ写真

を取るか?という時間には関係しません。

 

 このような方法を定常的方法といいます。

 

ここでは,後者の方法を用いて散乱問題を取り扱うことに

します。

 

波が散乱されていく全体を示す定常波は散乱体がある原点

(r=0)近傍を除けば,方程式(Δ+k2)ψ()=0

を満たします。

 

そこで,軸対称な散乱体による散乱問題は,Helmholtz方程式

の一般解:ψ()=Σl=0[Aljl(kr)+Bll(kr)]Pl(cosθ)

で,それに適合した境界条件を満たす未定係数Al,Blを決める

問題に帰着します。

 

"z軸=極軸"の方向に平面波が入射したとして,それがr=0

にある散乱体によって散乱される様子を1枚の写真に取った

とします。

 

このときに見られる波動の全体は,散乱体から十分遠方では

入射平面波と外向き球面波の両方の重ね合わせから成って

います。

 

すなわち,r→ ∞での波動は,

ψ()→ exp(ikz)+f(θ)exp(ikr)/r

と表わされるはずです。

 

ここでf(θ)は散乱振幅(scattering amplitude),θは

散乱角(scattering angle)と呼ばれる量に相当します。

 

問題を解く前に,散乱を調べることによって知ることができる

物理量について知る必要があります。

 

まず,電磁場のエネルギーの流れ密度を表わす

ポインティングベクトル(Poynting vector)は,×

です。

 

は磁場の強さ(磁界)であり真空中では0です。

 

φをスカラーポテンシャル,をベクトルポテンシャルとすれば,

=-∇φ-∂/∂t,B=∇×と表現されますが,

 

真空中の電磁波なら電荷も電流もなく,特に

=-∇2φ-∂∇/∂t=0 なので

Coulombンゲージ:∇=0 を採用すれば,∇=-∇2φ=0

となります。

 

そこで,φ=定数であり特にφ=0 としてもかまいません。

 

それ故,だけを用いて=-∂/∂t,=∇×

と書きます。

 

今の場合,電磁波は角振動数ωが一定の定常波ですから

ベクトルポテンシャルは複素表示で,

(,t)i()exp(-iωt)と書けます。

 

ここでは,の空間部分が実数になるようにの振幅を

純虚数:i()に取っています。

 

(,t)=ω()exp(-iωt),

(,t)=ω{∇×()}exp(-iωt)

です。

 

実際の電場,磁場は実数であって,それぞれ,Re,Re

ですから,そのポインティングベクトルは,

 

=Re×ReRe×Re0

=(ω20){×(∇×)}cos2(ωt)で与えられます。

 

そこで,エネルギー流の実効値として時間平均を取れば,周期

T=2π/ωとして,

 

<cos2(ωt)>=(1/T)∫0Tcos2(ωt)=1/2なので,

>={ω2/(2μ0)}{×(∇×)}=(×*)/(2μ0)

です。

 

ただし,< >は時間平均を示す記号です。

 

そこで,一般に"エネルギー流束=(単位時間に単位面積を通過

する平均エネルギー)"は,<||>=<|×*|/(2μ0)>

で与えられます。

 

,考えている入射平面波:ψin()≡exp(ikz)は,

電場:(,t)=ω()exp(-iωt)の空間部分:ω()

を表わすものと考えます。

 

つまり,電場(,t)がx成分のみを持つように偏光している

として,x(,t)=ψin()exp(-iωt)とし,()は,

()=(ψin()/ω,0,0)で与えられるとします。

 

このとき,()=(exp(ikz)/ω,0,0)で,かつ

(,t)=ω{∇×()}exp(-iωt)によって,

磁場(,t)はy成分のみを持ち,

cBy(,t)=ψin()exp(-iωt)となります。

 

なぜなら,kω=cです。

 

そこで,散乱問題において単位時間に単位面積を通って入射

する電磁波のエネルギー流を特にinと書けば,

 

平均の単位面積を通る入射エネルギーの率は,

<|in|>=<|×*|/(2μ0)>={1/(2cμ0)}|ψin|2

=1/(2cμ0)です。

 

これに対して散乱波をψsc()≡f(θ)exp(ikr)/rと書き,

単位時間にθ方向の面積要素dSを通って散乱される電磁波

エネルギーをscdSと書けば,

 

<|sc|>dS={1/(2cμ0)}|ψsc|2dS

={1/(2cμ0)}|f(θ)12dS/r2

={1/(2cμ0)}|f(θ)|2dΩです。

 

ただし,dΩ=dθdφは散乱体の中心からdSを見た

立体角です。

 

そこで,単位時間に単位面積を通って単位エネルギーの

電磁波が入射したとき,立体角dΩに散乱されて出てくる

電磁波の単位時間当たりの平均エネルギーは,

 

σ(θ)dΩ≡<|sc|>/<|in|>dS=|f(θ)|2dΩ

で与えられます。

 

上の式の比例係数σ(θ)は面積の単位を持っているので

σ(θ)を散乱の微分断面積(differential cross-section)

と呼びます。

 

そして,σ≡∫σ(θ)dΩを散乱の全断面積

(total cross-section)といいます。

 

これは単位時間に単位面積を通って単位平均エネルギー

の電磁波が入射したときに,散乱されて出てくる単位時間

当たりの全平均エネルギーです。

 

全断面積は,直感的には散乱体の幾何学的断面積に相当

するものですが,入射波の波動性のためこれらは一般には

一致しません。

 

今日はここまでにします。

 

参考文献:砂川重信著「理論電磁気学」第2版(紀伊国屋書店)

 

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