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2009年10月20日 (火)

光(電磁波)の散乱(2)

最終的には温室効果の定量的評価を与えることを目的とした光

(電磁波)の散乱の評価の続きです。

 

前回,定義を与えた散乱断面積を散乱による波の位相のずれ

(phase-shift)によって表現するため,波の r→ ∞ での境界条件

を考えます。

 

まず,平面波:ψin()=exp(ikz)=exp(ikrcosθ)の

Raileighの公式による表現を再掲します。

すなわち,exp(ikz)=Σl=0(2l+1)iljl(kr)Pl(cosθ)

です。

 

この式の右辺で,r→ ∞の場合を考えてjl(kr)の漸近形:

jl(kr)→sin(kr-lπ/2)/(kr)を代入すると,

 

exp(ikrcosθ)

→Σl=0{il(2l+1)/(kr)}sin(kr-lπ/2)Pl(cosθ)

=Σl=0{(2l+1)/(2ikr)}{exp(kr)-(-1)lexp(-ikr)}

l(cosθ)

 

と書けます。

 

また,散乱振幅f(θ)をLegendre多項式の完全系:{Pl(cosθ)}

展開したものを,

f(θ)=Σl=0{(2l+1)al/(2ik)}Pl(cosθ)

と書いておきます。

 

ここで,f(θ)が未知量なので,全ての係数alも未知量です。

 

これらを,ψ()→ψin()+ψsc()

=exp(ikz)+f(θ)exp(ikr)/r に代入すると,

 

ψ()→Σl=0{(2l+1)/(2ikr)}

{(1+al)exp(ikr)-(-1)lexp(-ikr)}Pl(cosθ)

となります。

 

一方,σ(θ)=|f(θ)|2

=k-2l=0{(2l+1)al/2}Pl(cosθ)|2です。

 

そこで,σ≡∫σ(θ)dΩ=2π∫-11σ(θ)d(cosθ)

=(2π/k2)[Σl,l'=0{(2l+1)(2l'+1)all'*/4}

×∫-11l(cosθ)Pl'(cosθ)d(cosθ)]

=(π/k2l=0(2l+1)|al|2 となります。

 

ここで,積分公式:

-11l(x)Pl'(x)dx={2/(2l+1)}δll'

を用いました。

 

f(θ)=Σl=0{(2l+1)al/(2ik)}Pl(cosθ)なる表現式

より,前方散乱(散乱角θ=0)の振幅:f(0)は,

 

f(0)=Σl=0{(2l+1)al/(2ik)} と書けますから,

2iImf(0)=f(0)-f*(0)

=Σl=0{(2l+1)(al+al*)/(2ik)} です。

 

一方,r→ ∞での漸近形:

ψ()→Σl=0{(2l+1)/(2ikr)}

{(1+al)exp(ikr)-(-1)lexp(-ikr)}Pl(cosθ)に

戻ると,exp(ikr)/rの係数(1+al)は外向き球面波:

exp(-ikr)/rの振幅を,(-1)l+1は内向き球面波の振幅を

示していると見えます。

 

この定常状態の描像で,"光=電磁波"が散乱体に全く吸収されず

保存される弾性散乱(elastic scattering)なら,各lについて外

向き波と内向き波の振幅の絶対値は等しくなければなりません。

 

すなわち,|1+al|=1なることが要求されますから,

1+al+al+all=1,あるいはal+al+|al|2=0

です。

 

そこで,これと表現:

Imf(0)=-Σl=0{(2l+1)(al+al*)/(4k)},

σ≡∫σ(θ)dΩ=(π/k2l=0(2l+1)|al|2より,

σ≡∫σ(θ)dΩ=(4π/k)Imf(0)

なる等式が得られます。

 

これを光学定理(optical theorem)といいます。

 

このような弾性散乱では,|1+al|=1なので,

1+al≡exp(2iδl)として,lごとに実数δlを定義

すれば,1+al=exp(-2iδl),

|al|2=all*=2{1-cos(2δl)}=4sin2δl です。

 

故に,全断面積σはσ=(4π/k2)Σ(2l+1)sin2δl

と書けます。

 

δl0 ならal=0 の散乱されない平面波だけしか存在しない

ので,このδlを散乱による位相のずれと呼びます。

 

このように定式化すれば,散乱の問題は全ての部分波l

に対して,位相のずれδlを求める問題に帰着するわけです。

 

δlを位相のずれと呼ぶのには,別の理由もあります。

  

すなわち,1+al=exp(2iδl),(-1)l=exp(ilπ)を,

ψ()→Σl=0{(2l+1)/(2ikr)}{(1+al)exp(ikr)

-(-1)lexp(-ikr)}Pl(cosθ) に代入したときには,

 

ψ()→Σl=0{(2l+1)/(kr)}exp(iδl)exp(ilπ/2)

sin(kr-lπ/2+δl)Pl(cosθ) となります。

 

これを,入射平面波のr→ ∞での漸近形の表式:

exp(ikrcosθ)

→Σl=0{il(2l+1)/(kr)}sin(kr-lπ/2)

l(cosθ)と比較すると,

 

散乱波ψ()=ψ(r,θ)の漸近形では正弦関数の位相が

δlだけずれているからです。

 

では,位相のずれδlを個々の散乱に対して具体的に決める

には,どうすればいいのでしょうか?

 

まず,r→∞での漸近形:

jl(kr)→sin(kr-lπ/2)/(kr),

l(x)→-cos(kr-lπ/2)/(kr) によって,

 

正確な波:

ψ(r,θ)=Σl=0[Aljl(kr)+Bll(kr)]Pl(cosθ)

の漸近形は,

 

ψ(r,θ)

Σl=0[Alsin(kr-lπ/2)-Blcos(kr-lπ/2)]

l(cosθ)/(kr) と書けます。

 

これと,

ψ(r,θ)→Σl=0{(2l+1)/(2ikr)}exp(iδl)

sin(kr-lπ/2+δl)Pl(cosθ)

=Σl=0{(2l+1)/(kr)}exp(iδl)il

[cosδlsin(kr-lπ/2)+sinδlcos(kr-lπ/2)

を比較すると,

 

l=(2l+1)ilexp(iδl)cosδl,

l=-(2l+1)ilexp(iδl)sinδl

なることがわかります。

 

そこで,一般解はψ(r,θ)

=Σl=0[(2l+1)ilexp(iδl)cosδl{jl(kr)-tanδll(kr)}

l(cosθ)] と書けることがわかりました。

 

δlは散乱体の表面で波動を示すψ(r,θ)が満たすべき境界条件

によって決まるはずです。

 

具体的な例として,半径がaの完全導体(電気抵抗がゼロ)の球による

電磁波の散乱問題を取り上げます。

 

完全導体球の表面上で入射平面波と散乱波を重ね合わせた全電磁波

nB=0,tE=0なる条件を満たす必要があります。

 

ただしは表面の法線単位ベクトル,は接線単位ベクトルです。

 

これは,次のような理由から得られる条件です。

 

つまり,境界面の内側の導体部分を領域1,外側の真空中を領域2

として,境界面を含む微小な薄い直方体の中で,方程式:∇=0を

体積積分することから,(21)=0 を得ます。

 

一方,方程式∇×=-∂/∂tを境界面上の長さΔrの辺から

成る小平面ΔS=ΔrΔhにおいて表面積分して得られる

(21)Δr=-(∂/∂t)ΔrΔhで,Δh→0の極限を

取ることから,(21)=0 を得ます。

 

そして,導体内部の電場1はゼロですから(21)=0 により,

tE2=0 を得ます。

 

導体内部では電場1がゼロになるのとほぼ同じ理由で磁場の強さ:

1もゼロですから磁束密度1もゼロです。

 

これと(21)=0 によってnB2=0を得ます。

 

そこで得られた2つの条件式:nB2=0,tE2=0 から添字2を

除くとnB=0,tE=0 になるわけです。

 

しかし,ここではこうした条件の代わりに,単に球面境界

r=aの上で,ψ(a,θ)=0 なる条件を採用することに

します。

 

これは電磁波の成分という意味では不正確ですが,位相のずれ

説明するための例として代用します。

 

それ故,境界条件は,

ψ(a,θ)=Σl=0[(2l+1)ilexp(iδl)cosδl

{jl(ka)-tanδll(ka)}Pl(cosθ)]=0です。

 

これから,tanδl=jl(ka)/nl(ka)

が要求されます。

 

これを代入し返して,全波動を示す関数として,

ψ(r,θ)=Σl=0[(2l+1)ilexp(iδl)cosδl

{jl(kr)-jl(ka)/nl(kr)/nl(ka)}Pl(cosθ)]

が決まりました。

 

そして,tanδl=jl(ka)/nl(ka)から決まるδlを,

σ=(4π/k2)Σ(2l+1)sin2δlに代入すれば,

散乱の全断面積;σ≡∫σ(θ)dΩが得られるわけです。

 

電磁波の波長をλとすると,k=2π/λなので,波長λが

散乱球の半径aよりも十分に大きいとき:λ>>aなら

ka<<1です。

 

そこで,例えば10/11の記事「空気分子の大きさ」で書いた

半径:a=d/2が 0.2~0.4μm程度の空気分子によって散乱

される波長がλ=100~1000μmの可視光を想定するなら,

 

tanδl=jl(ka)/nl(ka)

~ -(ka)2l+1/[(2l+1){(2l-1)!!}2] です。

 

実際の正しい境界条件からは,l=0 のS波は完全に消えます。

  

そこで最も大きい寄与はl=1のP波の項からきます。

 

したがって,こうした波では,δl ∝ (ka)3 です。

 

(※ 正しい境界条件はr=aで

r=Bxsinθcosφ+Bysinθsinφ+Bzcosθ=0,かつ

θ=Excosθcosφ+Eycosθsinφ-Ezsinθ=0,

φ=-Exsinφ+Eycosφ=0  です。

 

また,散乱体の球はもちろん軸対称ですが,正しい散乱波の関数形

必ずしも,φに依存しないψ(r,θ)ではなく,より一般の形:

ψ(r,θ,φ)になります。

 

詳細については次の記事で書きます。※)

 

そこで,σ=(4π/k2)Σ(2l+1)sin2δl∝k46 ∝ a64

と評価されます。

 

このような散乱をRayleigh散乱と呼びます。

 

これは晴れた空が青く見える主要な理由を与えます。

 

また,ka~1,つまりλ~aのような散乱をMie散乱,または

エアロゾル(aerosol)散乱と呼びます。

 

これは雲の水滴による光の散乱に対応しています。

 

これは雲や曇りの空の色を説明します。

 

一方,ka>>1,つまりλ<<aのような散乱はaを原子半径

とする結晶内の束縛電子によるX線散乱があります。

 

これは,Thomson散乱ですが正しい考察は古典論でなく量子論で

なされるべきです。

 

束縛電子でなく自由電子による散乱ならCompton散乱ですね。

 

今日はここまでにします。

 

参考文献:砂川重信著「理論電磁気学」第2版(紀伊国屋書店

  

PS:さて,通学中のヘルパースクールでは10/21の授業から実習

 入ります。

 

 私自身は高齢者の介護の経験はありません。

 

 私はずっと縁がなくて,おカマではないけど故郷を出てから

40年余り一人暮らしです。

 

 私の母は故郷の岡山県倉敷市にいて11月には89歳になる予定

ですが,まだ,介護の必要はないようです。

 

 しかし,"知り合い=将棋友達や飲み友達"には生来の小児麻痺

など 障がい者も数人いて,中には下肢が不自由な人もいて車椅子

からトイ レへの移乗,そして用を足した後には逆の移乗に手を

貸す程度なら私も既に数え切れないくらいやったことがあります。

 

 むしろ,旅行などでは,彼らの足を使わない運転で移動したこと

も多々あります。

 

 2年前の心筋梗塞が2回あった頃の心臓手術前後のわずかな

入院期 間だけですが,私自身が車椅子で移動したり,上半身が

ままならなくて電動ベッドに頼って起きたり寝たりしたことも

あって,立ち上がるだけとか,ほんの1mくらいの移動でさえ

辛いということも少しは理解できるつもりです。

 

 しかし,無関係の他人の介護は初めてなので,虚心坦懐に実習

を受けたいと思います。

 

 ある意味,座学の講義よりも実習を受けることが主目的ですから。。

 

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