光(電磁波)の散乱(4)
さて,途中になっている電磁波の散乱振幅の計算の続きです。
前回は,r=aで磁場の垂直成分Brがゼロであるべき
という境界条件:kΠM+(1/r){∂2(rΠM)/∂r2}=0 から,
磁気的波TE波の散乱波のポテンシャルΠscMが,入射平面波
のそれ:ΠinMと同じ,Pl1(cosθ)sinφの形の項しか持たない
という結論を得ました。
今日は,他のr=aでの境界条件:
(1/r){∂2(rΠE)/∂r∂θ}+(iω/sinθ)(∂ΠM/∂φ)=0,
{1/(rsinθ)}{∂2(rΠE)/∂r∂φ}(1/r)-iω∂ΠM/∂θ=0
に着目します。
これらの条件とΠMがsinφに比例するということから,
電気的波TM波の方のポテンシャルΠEはcosφに比例すること
がわかります。
そこで,ΠE=ΠinE+ΠscEなる分解をすれば,散乱TE波
のΠscMがPl1(cosθ)sinφの項しか持たないのと同様に,
散乱TM波のポテンシャルΠscEはPl1(cosθ)cosφの形の
項しか持たないことがわかります。
そこで,ΠscE,およびΠscMの展開式は,それぞれ,
ΠscE(r,θ,φ)≡(1/k)Σl=1∞{AEljl(kr)+BElnl(kr)}
Pl1(cosθ)cosφ,および,
ΠscM(r,θ,φ)≡{1/(ck)}Σl=1∞{AMljl(kr)+BMlnl(kr)}
Pl1(cosθ)sinφ
と書くことができます。
ここで,後の便宜上,ΠscEの展開係数:AE,BEに対応する
ΠscMの展開係数はAM/c,BM/cであるとしています。
また,r→ ∞における散乱境界条件は,
ΠE(r,θ,φ)→ ΠinE(r,θ,φ)+f1(θ)exp(ikr)cosφ/r,
ΠM(r,θ,φ)→ ΠinM(r,θ,φ)+f2(θ)exp(ikr)sinφ/r
と書けます。
ところで,球面Bessel関数の漸近近似は,
jl(x)→ sin(x-lπ/2)/x (x→∞) です。
そ こで,r→∞では,
ΠinE(r,θ,φ)=(1/k)Σl=1∞[il-1(2l+1)/{l(l+1)}jl(kr)
Pl1(cosθ)cosφ]
→ (1/k)Σl=1∞[il-1(2l+1)/{l(l+1)}{1/(kr)}
sin(kr-lπ/2)Pl1(cosθ)cosφ]
と書けます。
つまり,ΠinE(r,θ,φ)
→ -{1/(2k2)}Σl=1∞[(2l+1)/{l(l+1)}
{exp(ikr)-(-1)lexp(-ikr)}Pl1(cosθ)cosφ/r]
です。
そこで,f1(θ)
=-{1/(2k2)}Σl=1∞[(2l+1)/{l(l+1)}alPl1(cosθ)]
とおけば,
ΠE(r,θ,φ)
→ -{1/(2k2)}Σl=1∞[(2l+1)/{l(l+1)}
{(1+al)exp(ikr)-(-1)lexp(-ikr)}Pl1(cosθ)cosφ/r]
と書けます。
一方,x→∞ での球面Neumann関数の漸近近似は,
nl(x)→ -cos(x-lπ/2)/x です。
そこで,ΠscE(r,θ,φ)
=(1/k)Σl=1∞{AEljl(kr)+BElnl(kr)}Pl1(cosθ)cosφ
→f1(θ)exp(ikr)cosφ/r
における因子:{AEljl(kr)+BElnl(kr)}は,r→∞では,
AEljl(kr)+BElnl(kr)
→{AElsin(kr-lπ/2)-BElcos(kr-lπ/2)}/(kr)
={1/(2ikr)}(-i)l{(AEl-iBEl)exp(ikr)-(-1)l
{(AEl+iBEl)exp(-ikr)}
なる形で漸近的に挙動します。
しかし,r→ ∞では,内向き球面波exp(-ikr)/rは存在せず,
その係数はゼロであるはずですからAEl+iBEl=0,
つまりBEl=iAElです。
それ故,AEljl(kr)+BElnl(kr)=AEl{ jl(kr)+inl(kr)}
=AElhl(1)(kr)と書けます。
ただしhl(1)は球面Hankel関数の一方です。
以上から,ΠscE(r,θ,φ)
=(1/k)Σl=1∞{AElhl(1)(kr)Pl1(cosθ)cosφ}
と書くことができます。
同様にして,ΠscM(r,θ,φ)
={1/(ck)Σl=1∞{AMlhl(1)(kr)Pl1(cosθ)sinφ}
と書けることもわかります。
ところで,入射平面波については,既に見たように電場は
Erin=exp(ikrcosθ)sinθcosφ
=k2ΠinE+(1/r){∂2(rΠinE)/∂2r}
={1/(kr)}Σl=1∞(2l+1)il-1jl(kr)Pl1(cosθ)cosφ
です。
そして,ΠinE(r,θ,φ)
=(1/k)Σl=1∞(2l+1)il-1/{l(l+1)}
jl(kr)Pl1(cosθ)cosφ,
ΠinM(r,θ,φ)
={1/(ck)}Σl=1∞(2l+1)il-1/{l(l+1)}
jl(kr)Pl1(cosθ)sinφ
です。
そこで,Eθin
=(1/r)∂ΠinE/∂θ+∂2ΠinE/∂r∂θ+(iω/sinθ) (∂ΠinM/∂φ)
=exp(ikrcosθ)sinθsinφ
=(cosφ/k)Σl=1∞(2l+1)il-1/{l(l+1)}
[{jl(kr)/r+kjl'(kr)}τl(cosθ)
+ikjl(kr)πl(cosθ)] です。
ただし,τl(cosθ)≡dPl1(cosθ)/dθ
=-sinθdPl1(cosθ)/d(cosθ),
πl(cosθ)≡Pl1(cosθ)/sinθ とおきました。
また,Eφin
={1/(rsinθ)}(∂ΠinE/∂φ)+(1/sinθ)(∂2ΠinE/∂r∂φ)
-iω∂ΠinM/∂θ
=-1exp(ikrcosθ)sinφ
=-(sinφ/k)Σl=1∞(2l+1)il-1/{l(l+1)}
[{jl(kr)/r+kjl'(kr)}πl(cosθ)+ikjl(kr)τl(cosθ)]
です。
さらに,磁場は,Brin
=c-1exp(ikrcosθ)sinθsinφ
=k2ΠinM+(1/r){∂2(rΠinM)/∂r2}
={1/(ckr)}Σl=1∞(2l+1)il-1jl(kr)Pl1(cosθ)sinφ
です。
また,Bθin
={-iω/(c2sinθ)}(∂ΠinE/∂φ)+(1/r)(∂ΠinE/∂θ)
+∂2ΠinE/∂r∂θ
={sinφ/(ck)}Σl=1∞(2l+1)il-1/{l(l+1)}
[ikjl(kr)πl(cosθ)]+{jl(kr)/r+kjl'(kr)}τl(cosθ)]
です。
そして,Bφin
=(iω/c2)(∂ΠinE/∂θ)+{1/(rsinθ)}(∂ΠinM/∂φ)
+(1/sinθ)(∂2ΠinM/∂r∂φ)
={cosφ/(ck)}Σl=1∞(2l+1)il-1/{l(l+1)}
[ikjl(kr)τl(cosθ)+{jl(kr)/r+kjl'(kr)}πl(cosθ)]
となります。
そして,散乱波も同じ方法で計算できて,
Ersc=k2ΠscE+(1/r){∂2(rΠscE)/∂2r}
={1/(kr)}Σl=1∞[l(l+1)AElhl(1)(kr)Pl1(cosθ)cosφ]
です。
また,Eθsc
=(1/r)∂ΠscE/∂θ+∂2ΠscE/∂r∂θ+(iω/sinθ)(∂ΠicE/∂φ)
=(cosφ/k)Σl=1∞[AEl{hl(1)(kr)/r+khl(1)'(kr)}τl(cosθ)
+ikAMlhl(1)(kr)πl(cosθ)]
です。
同じく,Eφsc
={1/(rsinθ)}(∂ΠscE/∂φ)+(1/sinθ)(∂2ΠscE/∂r∂φ)
-iω∂ΠscM/∂θ
=-(sinφ/k)Σl=1∞[AEl{hl(1)(kr)/r+khl(1)'(kr)}
πl(cosθ)+ikAMlhl(1)(kr)τl(cosθ)]
です。
同様にして,Brsc
={1/(ckr)}Σl=1∞[l(l+1)AMlhl(1)(kr)Pl1(cosθ)sinφ],
Bθsc
={sinφ/(ck)}Σl=1∞[ikAElhl(1)(kr)πl(cosθ)+AMl{
hl(1)(kr)/r+khl(1)'(kr)}τl(cosθ)+],
Bφsc={cosφ/(ck)}Σl=1∞[ikAElhl(1)(kr)τl(cosθ)
+AMl{hl(1)(kr)/r+khl(1)'(kr)}πl(cosθ)]
です。
ここで,ηl(kr)≡(kr)jl(kr),
ξl(kr)≡(kr)hl(1)(kr)とおいて得られた全ての式を
整理します。
まず,電場の動径成分については,
Erin={1/(k2r2)}Σl=1∞(2l+1)il-1ηl(kr)Pl1(cosθ)cosφ
です。
また,Eθin
={cosφ/(kr)}Σl=1∞(2l+1)il-1/{l(l+1)}
[ηl'(kr)τl(cosθ)+iηl(kr)πl(cosθ)],
Eφin
=-{sinφ/(kr)}Σl=1∞(2l+1)il-1/{l(l+1)}
[ηl'(kr)πl(cosθ)+iηl(kr)τl(cosθ)]
とやや簡単な表現になります。
さらに磁場については,まず,Brin
={1/(ck2r2)}Σl=1∞(2l+1)il-1ηl(kr)Pl1(cosθ)sinφ
です。
次に,Bθin={sinφ/(ckr)}Σl=1∞(2l+1)il-1/{l(l+1)}
[ iηl(kr)πl(cosθ)]+ηl'(kr)τl(cosθ)],および,
Bφin={cosφ/(ckr)}Σl=1∞(2l+1)il-1/{l(l+1)}
[iηl(kr)τl(cosθ)+ηl'(kr)]πl(cosθ)]
となります。
散乱波についても全く同様ですが煩雑なので結果だけ列挙します。
まず,電場は,Ersc
={1/(k2r2)}Σl=1∞[l(l+1)AElξl(kr)Pl1(cosθ)cosφ],
Eθsc={cosφ/(kr)Σl=1∞[AElξl'(kr)]τl(cosθ)
+iAMlξl(kr)πl(cosθ)},
Eφsc=-{sinφ/(kr)}Σl=1∞[AElξl'(kr)πl(cosθ)
+iAMlξl(kr)τl(cosθ)]
です。
同様に,磁場はBrsc
={1/(ck2r2)}Σl=1∞[l(l+1)AMlξl(kr)Pl1(cosθ)cosφ],
Bθsc={sinφ/(ckr)}Σl=1∞[iAElξl(kr)πl(cosθ)
+AMlξl'(kr)τl(cosθ)],
Bφsc={cosφ/(ckr)}Σl=1∞[iAElξl(kr)τl(cosθ)
+AMlξl'(kr)]πl(cosθ)]
と書けます。
これに,境界条件:[Eθin+Eθsc]r=a=0,[Eφin+Eφsc]r=a=0,
[Brin+Brsc]r=a=0 を当てはめると,
(2l+1)il-1ηl'(ka)+l(l+1)AElξl'(ka)=0,
(2l+1)il-1ηl(ka)+l(l+1)AMlξl(ka)=0
を得ます。
故に,未知係数は全て陽に決まり,
AEl=il-1(2l+1)ηl'(ka)/{l(l+1)ξl'(ka)},
AMl=il-1(2l+1)ηl(ka)/{l(l+1)ξl(ka)}となって,
解が完全に得られます。
ところで,r→ ∞ のときにはErsc,Brsc ∝ξl/r2 →O(1/r2),
Eθsc,Eφsc,Bθsc,Bφsc ∝ξl/r →O(1/r)です。
それ故,r→ ∞では散乱波の散乱体球の動径成分(球面波の縦波成分)
Ersc,Brscは,球の接線成分(球面波の横波成分)Eθsc,Eφsc,Bθsc,
Bφscに比べて無視してよいと考えられます。
つまり,r→ ∞での散乱波も入射波と同じく,その球面波の進行方向
に垂直な偏光成分だけを持つ横波となることがわかります。
また,r→∞では,ξl(kr)=(kr)hl(1)(kr)
→ (-i)l+1exp(ikr), ξl'(kr)→ ik(-i)l+1exp(ikr)
です。
そこで,ξl(kr)ξm'(kr)=ξm'(kr)ξl(kr)
→ -ik(-i)l+mexp(2ikr)より,r→∞で
EθscBθsc+EφscBφsc=0 であり,EscBsc=0 です。
つまり散乱電磁波も電場と磁場が直交して進む横波です。
そして,散乱振幅とそれに基づいた散乱の断面積を計算するため,
r→∞での平均エネルギー密度に関係する量を計算することを考
えます。
まず,r→∞では|Eθsc|2+|Eφsc|2=c2(|Bθsc|2+|Bφsc|2)
={1/(k2r2)}(cos2φ|Sθ|2+sin2φ|Sφ|2)と書けます。
ただしSθとSφは次式で定義される量です。
すなわち,Sθ≡Σl=1∞(-i)l+1i[AElτl+AMlπl],
Sφ≡Σl=1∞(-i)l+1i[AElπl+AMlτl] とします。
さて,既に以前計算しましたが入射電磁波の平均エネルギー密度は,
複素電磁場の表現では真空中のポインテイングベクトルの時間平均
値として<|Sin|>=|Ein×Bin*|/(2μ0)=1/(2cμ0)で与えら
れます。
一方,散乱波のそれは,<|Ssc|>2=|Esc×Bsc*|2/(4μ02)
=(εijkEjBk*εilmEl*Bm)/(4μ02)
={|Esc|2|Bsc|2-|(EscBsc)|2}/(4μ02)
→ (|Esc|2|Bsc|2)/(4μ02)
です。
それ故,r→ ∞では<|Ssc|>=|Esc|2|Bsc|/(2μ0)
=(|Eθsc|2+|Eφsc|2)/(2cμ0)
={1/(2cμ0k2r2)}(cos2φ|Sθ|2+sin2φ|Sφ|2)
と書けます。
したがって,微小立体角dΩ=d(cosθ)dφへの散乱の微分断面積
dσは,dσ=(<|Ssc|>/<|Sin|>)r2dΩなる定義によって,
dσ/dΩ=(1/k2)(cos2φ|Sθ|2+sin2φ|Sφ|2)となります。
ここで,Sθ≡Σl=1∞(-i)l+1i[AElτl+AMlπl],
Sφ≡Σl=1∞(-i)l+1i[AElπl+AMlτl]は,
今の場合の係数Aの陽な表現では,
-iSθ
=Σl=1∞(2l+1)/{l(l+1)}[{ηl'(ka)/ξl'(ka)}τl(cosθ)
+{ηl(ka)/ξl(ka)}πl(cosθ)],
-iSφ=Σl=1∞(2l+1)/{l(l+1)}[{ηl'(ka)/ξl'(ka)}
πl(cosθ)+{ηl(ka)/ξl(ka)}τl(cosθ)] です。
そして,時間平均として,<cos2φ>=<sin2φ>
=[∫02πcos2φdφ]/(2π)=[∫02πsin2φdφ]/(2π)=1/2
であることを用いると,
実際の観測にかかる微分断面積は,
dσ/dΩ={1/(2k2)}(|Sθ|2+|Sφ|2)で与えられると結論
されます。
さて,x→ 0 では,ηl(x)=xjl(x)~ xl+1/(2l+1)!!,
ηl'(x)~ (l+1)xl/(2l+1)!! です。
また,ξl(x)=xhl(1)(x)~ -i(2l-1)!!/xl,
ξl'(x)~ il(2l-1)!!/xl+1 です。
それ故,ηl'(ka)/ξl'(ka)
~ -i(l+1)(ka)2l+1/[l(2l+1){(2l-1)!!}2],
ηl(ka)/ξl(ka)~ -i(ka)2l+1/[(2l+1){(2l-1)!!}2]
です。
そこで,以前にも概算したka→ 0,あるいはka<<1,つまり.
a<<λのRaileigh散乱では,上記-iSθと-iSφの右辺の展開
においてl=1の項だけが効いてきます。
そしてl=1ではτl(cosθ)=dP11(cosθ)/dθ=cosθ,
π1(cosθ)=P11(cosθ)=1であり,
η1'(ka)/ξ1'(ka)~ -2i(ka)3/3,
ηl(ka)/ξl(ka)~-i(ka)3/3 です。
Sθ~ (ka)3(2cosθ-1)/2,Sφ~ (ka)3(2-cosθ)/2)より,
|Sθ|2+|Sφ|2~ (ka)6(5cos2θ-8cosθ+5)/4 です。
そこで,dσ/dΩ={1/(2k2)}(|Sθ|2+|Sφ|2)
~ k4a6(5-8cosθ+5cos2θ)/8∝k4a6
~ a6/λ4,
σ=2π∫(dσ/dΩ)d(cosθ)=10πk4a6/3
=160π5a6/(3λ4)です。
したがって,ka<<1,つまりa<<λのRayleigh散乱では,微分
断面積dσ/dΩ,全断面積σは共にk4に比例しています。
あるいは波長λの4乗に反比例しています。
一方,ka~ 1,つまりa~λでは,Sθ,Sφにおける各項の,
ηl'(ka),ξl'(ka),ηl(ka),ξl(ka)等のl=1の先頭
項だけではなく,全てのlの項が効いてきます。
そして,a~λの太陽からの可視光線の空気中の水滴やエアロゾルなどによる散乱に相当していて,これをMie散乱と呼びます。
しかし,これまでの議論では散乱体は電気伝導率σ=∞の完全導体
球であると仮定して球体の半径r=aの表面上でEθ=Eφ=0,
Br=0 である,という境界条件を用いました。
ここで,より現実的に考えて,散乱体が球であるという仮定はそのまま
でもいいですが,散乱体は完全導体から成るのではなく,任意の有限な
電気伝導率σから成る物体であるとします。
また,その散乱体球の内部の透磁率は真空と同じくほぼμ0ですが,
誘電率の方は一般の値εであるとします。
空気分子,水滴などによる光の散乱ではこちらの誘電体というモデル
の方がふさわしいと思います。
すると,この誘電体球の内部での電磁場の運動方程式は,
∇×E=-∂B/∂tは真空中と同じですが,
∇×H=∂D/∂t(i.e.∇×B=(1/c2)∂E/∂t)の方は,
∇×H=∂D/∂t+i=∂D/∂t+σE,
すなわち∇×B=μ0ε∂E/∂t+μ0σE
とすべきです。
そこで,誘電体内部でも外部と同じくE,Bがexp(-iωt)という
定在波としての時間依存因子を持つ波とすれば,
これは∇×B=-iμ0(εω+iσ)E となります。
前の,散乱体が完全導体のときには内部には如何なる電流iも存在
できず,元々電流のない球体外部と同様に,内部でも
∇×B=(1/c2)∂E/∂t,∇×B=-i(ω/c2)Eでした。
そして,TM波,TE波に対するポテンシャルは散乱体の外部では,
もちろん,ΠE,ΠMですが,内部ではχE,χMであるとします。
すると,誘電体外部では,
EEφ={1/(rsinθ)}{∂2(rΠE)/∂r∂φ},
EMθ=(1/r){∂2(rΠE)/∂r∂θ}でしたが,
内部でも,単にEEφ={1/(rsinθ)}{∂2(rχE)/∂r∂φ},
EEθ=(1/r){∂2(rχE)/∂r∂θ}となります。
しかし,磁場の方は外部での表現:BEφ=(iω/c2)(∂ΠE/∂θ),
BEθ=-{iω/(c2sinθ)}{∂(∂ΠE/∂φ)における係数:
ω/c2=μ0ε0ωが,μ0(εω+iσ)=(εω/ε0+iσ/ε0)/c2
に変わるので,
誘電体内部では,
BEφ=(iωa/c2)(∂χE/∂θ),BEθ
=-{iωa/(c2sinθ)}{∂(∂χE/∂φ)と書けます。
ここで,広義の複素振動数ωaを導入して,ωa≡εω/ε0+iσ/ε0
と定義しました。
さて,球体の外部の真空中ではポテンシャル:Πが従う方程式は,
波動方程式(△-c-2∂2/∂t2)ΠE=[△-μ0ε0∂2/∂t2]ΠE=0
において波数k=2π/λがk2≡ω2/c2=μ0ε0ω2と表現される
Helmholtz方程式:(△+k2)ΠE=0 でした。
しかし,誘電体中では波動方程式は,
[△-μ0(ε+iσ/ω)∂2/∂t2]χE=0 となるので,
これはka2≡μ0(ε+iσ/ω)ω2として(△+ka2)χE=0
となります。
複素係数:ε+iσ/ω=(ωa/ω)ε0はωに依存する複素誘電率と
解釈されます。
そこで,ka2=μ0(εω+iσ)ω=ωωa/c2であって,
EEr=ka2χE+(1/r){∂2(rχE)/∂2r},BEr=0 です。
ka=2π/λaです。
同様に,EMr=0,EMθ=(iωa/sinθ)(∂χM/∂φ),
EMφ=-iωa∂χM/∂θ,
BMr=ka2χM+(1/r){∂2(rχM)/∂2r},
BMθ=(1/r){∂2(rχM)/∂r∂θ},
BMφ={1/(rsinθ)}{∂2(rχM)/∂r∂φ}です。
そして,(△+ka2)χM=0 ですね。
これらHelmholtz方程式の解としての誘電体内部のTM波,TE波
を与えるポテンシャルχE,χMは,r=0 の中心で有限であって,
やはりS波(l=0 の波)はないと考えられます。
それ故,χE(r,θ,φ)
≡(1/ka)Σl=1∞CEljl(kar)Pl1(cosθ)cosφ,
χM(r,θ,φ)≡{1/(cka)}Σl=1∞CMljl(kar)Pl1(cosθ)sinφ
と表現することができます。
この場合の境界条件は,全く普通でr=aの球表面において接線成分
Eθ,Eφ,Hθ,Hφが連続,そこでμ=μ0=(一定)よりBθ,Bφが
連続であり,法線成分BrとDr=εErも連続という条件となります。
ただ,今のケースでは電束密度Dと電場Eの現象論的関係は単純な
実定数誘電率によるD=εEではなく,D(ω)=(ε+iσ/ω)E(ω)
=(ωa/ω)ε0E(ω)=(ka2/k2)ε0E(ω)
なる関係と考えられます。
そこで,Drの連続性については球の外部のEと内部の(ka2/k2)E
の連続性を問題にする必要があります。
故に,この条件からは,
(1/k2)[(2l+1)il-1ηl(ka)+l(l+1)AElξl(ka)]
=(ka2/k2)(1/ka2)l(l+1)CElηl(kaa) です。
同様に,Brの連続性からは,
{1/(ck2)}[(2l+1)il-1ηl(ka)+l(l+1)AElξl(ka)]
={1/(cka2)}l(l+1)CMlηl(kaa) です。
また,Eθ,Eφ,Bθ,Bφの連続性からは,
(1/k)[(2l+1)/{l(l+1)}il-1ηl'(ka)+AElξl'(ka)]
=(1/ka)CElηl'(kaa),および,
(1/k)[(2l+1)/{l(l+1)}il-1ηl'(ka)+AMlξl'(ka)]
=(1/ka)CMlηl'(kaa) です。
これらの式からCEl,CMlを消去すると,
AEl=il+1(2l+1)/{l(l+1)}{kaηl'(ka)ηl(kaa)
-kηl'(kaa)ηl(ka)}/{kaξl'(ka)ηl(kaa)
-kηl'(kaa)ξl(ka)},
および,AMl=il+1(2l+1)/{l(l+1)}
{kaηl(ka)ηl'(kaa)-kηl'(ka)ηl(kaa)}/
{kaξl(ka)ηl'(kaa)-kξl'(ka)ηl(kaa)}
が得られます。
ここで,後の便宜のために散乱体を構成する誘電体の複素屈折率
をn^≡λ/λa=ka/k=(ε+iσ/ω)/ε0)1/2で定義しておきます。
例えば,ka<<1, or a<<λの場合なら,
AEl~ il+1(2l+1)/{l(l+1)}(l+1)kal+2kl-kalkl+2)
a2l+1/{(2l+1)!!}2
÷[i(lkal+2k-(l+1)+(l+1)kalk-(l-1))/(2l+1)]
~ [il/{l(2l+1)!!}2][(n^2-1)/{n^2+(l+1)/l}](ka)2l+1
です。
同様に,AMl
~[il/{l(l+1)(2l+1)(2l+3)]/{(2l+1)!!}2(n^2-1)(ka)2l+3
です。
それ故,ka~ 0 での通常の弾性散乱では,TM波のl+1の項の寄与
とTE波のl波の寄与が同じオーダーになります。
そこでka<<1のRayleigh散乱の場合に実際に効くl=1の最初の
項だけに着目すると,TM波では(ka)3,TE波ではka)5に比例す
るため,TM波のみが効くと見ていいでしょう。
そして,l=1では,AE1~i(ka)3(n^2-1)/(n^2+2) です。
これから,特に前のように完全導体の場合ならn^→ ∞のため,
AE1~i(ka)3となることも確認されます。
τ1(cosθ)=cosθ,π1(cosθ)=1により,
Sθ~ (ka)3(n^2-1)/(n^2+2)cosθ,
Sφ~ (ka)3(n^2-1)/(n^2+2) です。
そこで,ka<<1のRayleigh散乱の場合の微分断面積は,
dσ/dΩ={1/(2k2)}(|Sθ|2+|Sφ|2)
~ (k4a6/2)(1+cos2θ)|(n^2-1)/(n^2+2)|2
∝ k4a6 ~a6/λ4 です。
そこで,全断面積はσ=2π∫-11(dσ/dΩ)d(cosθ)
=(8π/3)k4a6|(n^2-1)/(n^2+2)|2
=(128π5/3)(a6/λ4)|(n^2-1)/(n^2+2)|2
となります。
これらは,完全導体:n^→ ∞ の極限では,
dσ/dΩ=k4a6(1+cos2θ),σ=(8π/3)k4a6
=(128π5/3)a6/λ4です。
これは,先に初めから完全導体球を仮定してその境界条件から計算
したRayleigh散乱の結果:
dσ/dΩ={1/(2k2)}(|Sθ|2+|Sφ|2)
~ k4a6(5-8cosθ+5cos2θ)/8
∝k4a6~a6/λ4,
σ=2π∫(dσ/dΩ)d(cosθ)=(10π/3)k4a6
=(160π5/3)a6/λ4 と微妙に係数だけが違っています。
これは,Sθ≡Σl=1∞(-i)l+1i[AMlτl+AElπl],
Sφ≡Σl=1∞(-i)l+1i[AElπl+AMlτl]のl=1の項で,
τ1=cosθ,π1=1,AEl~i(ka)3は同じですが,
完全導体境界条件ではAMl~(-i/2)(ka)3であるのに対して,
誘電体境界条件ではAMl~ 0 であるからです。
大気中の空気分子による光の散乱では後者の誘電体境界条件を
採用するべきと思われます。
とにかく,空気分子ではn^は有限ですから,
AE1~i(ka)3(n^2-1)/(n^2+2)において完全導体球を仮定して
複素屈折率をn^=∞としたものでなく,係数(n^2-1)/(n^2+2)
を含む式の方を用いるべきです。
複素誘電率がε^で半径がaの小球によるRayleigh散乱の断面積:
σRについて要約すると,
dσR/dΩ=(k4a6/2)(1+cos2θ)|(εr-1)/(εr+2)|2,
σR=(8π/3)k4a6|(εr-1)/(εr+2)|2
となります。
ただし,εrは比誘電率で,εr≡ε^/ε0=n^2です。
今日はここまでにします。
参考文献:砂川重信著「理論電磁気学」第2版(紀伊国屋書店),M.Born,E.Wolf著(草川徹 訳)「光学の原理(3)」(東海大学出版会)
PS:ノリピーの裁判。。判決には依存ないけど。。。
例によって不可解なことばかり。。
罪というのは薬物に関する法律の違反でしょう?
誰と結婚しようが離婚しようが個人的な問題とは刑法は関係
ないじゃん。。。
マスコミが騒いだせいで世間への影響が大きい割りに刑が軽い?。。
表向きは職業に貴賎なし。。
全ての人間は性別,その生業に関わらず法の下には平等だろう。
利権にからんだ周囲の大騒ぎ,ほとんどは本人の責任じゃない
部分を責めてどうするんだ?。。
問題にすべきは,犯罪当時の被告の責任能力の有無(たとえば幼児
であるとか認知症であるとかなら刑は軽くすべきとか。)
のような問題だろうにね。。。。
まあ,普通の日本の刑事裁判(検事と弁護士の両方がいても公平
であるべき判事が最初から検事9割,弁護士1割程度の予断と
偏見を持っていて,本来5分5分の情況証拠なら"疑わしきは被告
の利益に(=推定無罪)"の原則のはずなのに実際には真反対で,
しかも世論になびく傾向が大)だから,しょうがないか。。
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