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2009年12月13日 (日)

超弦理論(25)(2-14)

 ずいぶん間があきましたが超弦理論(superstring theory)の続きです。

実は記事にも書いたように2009年6/1に最後の投稿をした後,6/8にPCがクラッシュしてしまいました。

 

そこで「超弦理論(25)」の原稿は途中まで出来上がっていましたが,それを含めてマシン上に保存してある(23),(24)の草稿も失いました。

幸いにして(23),(24)は既に投稿済みだったので原稿がブログに残りました。

 

しかし,(23),(24),(25)はボソン弦の背景空間の次元Dが26であるべきことを示すという佳境の部分でもあったので,このクラッシュで何故か続きを書く気力が失せてしまっていました。

まあ,ワープロでなく手書きの元のノートはあるので,久しぶりに弦理論について書きます。ほぼ半年ぶりですね。

古典的レベルでは共変的議論と光錐(光円錐)ゲージ(light-cone gauge)の関係は全く明瞭です。光錐ゲージは共形(conformal)なゲージ選択を十分に指定することで得られます。

しかし,量子的レベルでは2つの定式化の間の関連は明瞭さとは程遠いものです。これを明確にすることが以下の仕事です。

元の共変量子化については本シリーズ記事の「超弦理論(17)(2-6)」から「超弦理論(21)(2-10)」で展開しましたが,そこでは物理的状態が従うべきヴィラソロ条件(Virasoro condition)を定式化しました。

しかし,そのときはこうした条件に従う状態の一般的記述を与えることはできませんでした。

 

今想定しているゴールは,このギャップを埋めて全ての物理的励起状態を陽に構成することです。

 

特に,共変定式化が光錐ゲージ定式化と同等であることを明らかにします。既にこれまでの論議で光錐ゲージ定式化はある条件の下でゴースト・フリーであることが示されたので,この定式化の同等性を通して共変定式化に対しての「ゴースト非存在の定理(no-ghost theorem)」の証明が可能になります。

こうしたアプローチは,Del.Giadice,Di Veccia,Fubini(通称:DDF)によって開拓されました。

彼らは,ヴィラソロ演算子と交換し基底状態に続けて作用させることであらゆる可能な物理的状態を与えることができる演算子のセットを構成しました。これを「DDFの構成」と呼びます。

DDFの構成については以下で詳細に記述する予定ですが,これはスペクトルが生成する演算子のセット:{Ami}で与えられます。ここで上添字iは(D-2)個の横波添字にわたり下添字nは任意の整数です。

 

こうした演算子はαmμの横波成分と1対1対応にあり,弦の横波モードを記述します。

ヴィラソロの拘束は各nの値に対して1つの制限を与えます。そこでスペクトルが生成する代数が各nの値に対して(D-1)個の演算子を含む必要があると予期されます。

 

それ故,失なわれていた縦波演算子Amも理論に入ってきます。

まず,|0;p0>によって運動量p0μを持つ開弦のスペクトルのタキオン基底状態を記述します。これはa=1と取るとp02=-2の状態を意味します。

 

なぜなら,ヴィラソロ演算子の1つはL0=(-1/2)Σ-∞α-nαn=-α'p2-Σn=1α-nαnですが,p2|0;p0>=p02,かつαn|0;p0>=0により質量殻条件(mass-shell condition):(L0-a)|0;p0>=0,またはL0=aはα'p02=-aを意味するからです。α'=1/2です。

このタキオンは01,p0=-1,p0i=0 で記述される特別な運動状態にあると仮定します。これは確かにp02=2p00-Σi=1D-20i0i =-2を満足しています。

便宜上,1つのヌルベクトル(null vector)k0μをk0=-1,k0=k0i=0 で導入します。明らかにk02=2k00-Σi=1D-20i0i =0 を満たしノルムがゼロ(null)なので確かにヌルベクトルです。

そして,k00=k0+0-+k0-0-Σi=1D-20i0i =-1です。

2≡p2,N≡Σn=1α-nαnと置けば,L0=-α'p2-Σn=1α-nαn=-α'M2-N=a=1なので,質量Mがこれに従ってα'M2=N-1で与えられる場合,その運動量がpμ=p0μ-Nk0μで与えられる状態のみを調べてみます。

01,p0=k0=-1,p0i=k0i=k0=0 なのでpi=p0i-Nk0i=0,p=p0-Nk0=1,p=p0-Nk0=N-1ですから,p2=2p=2(N-1)です。

それ故,α'=1/2,M2=p2ならpμ=p0μ-Nk0μの粒子状態の質量Mは確かにα'M2=N-1を満たします。

そして,pμ=0 を除く任意の物理的粒子の運動量状態は条件:p0=1,p0i=0 に従う状態へとローレンツ変換され得ます。

すなわち,この条件はp0i=0 でかつ,p0=(p00+p0D-1)/21/2=1,p0=(p00-p0D-1)/21/2=N-1ですが,後者はp00=2-1/2N,p0D-1=2-1/2(2-N)を意味します。

これはエネルギーがゼロでなく,横成分はゼロの粒子という意味ですが4次元空間なら単に粒子の進行方向を3軸とする座標系を取るという意味に過ぎません。エネルギーゼロの状態でない限りこうした座標系選択は常に可能です。

「超弦理論(21)(2-10)」で与えたように,質量がゼロの開弦の頂点演算子:ξ(k,τ)はVξ(k,τ)≡-ξμ(dXμ/dτ)exp(-ikX)=-ξXdexp(-ikX)で定義されますがこれはスペクトルが生成する代数の構成に決定的役割を果たします。

 

この頂点演算子はμ(0,τ)のモード展開におけるpμτから生じる因子exp(-ikpτ)を除けば周期が2πのτの周期関数です。

もし整数nに対してkμ=nk0μを持つ質量ゼロのベクトル頂点のみを扱うなら,許される状態に作用するときには-kpが整数なのでexp(-ikpτ)もまた周期が2πのτの周期関数になります。

そうした状況では横偏極に対応する頂点演算子はVi(nk0,τ)=Xid(τ)exp{inX(τ)}(i=1.2,..D-2)です。ただしXμ(τ)はXμ(0,τ)の略記でありXid(τ)≡dXi(τ)/dτです。

これはヒルベルト空間Hの許された部分空間(つまり,{|M=0(J=1);k,ξ>:kμ=nk0μ}⊂H)の上ではτについて周期的なので,その部分空間の上では明確にフーリエ(Fourier)成分が定義できます。

すなわち,Ani≡(2π)-10i(nk0,τ)dτ=(2π)-10id(τ)exp{inX(τ)}dτと定義してこれを「DDFオペレータ(演算子)」と呼びます。

(訳注57):特に,光錐ゲージではX(τ)=X(0,τ)=X(σ,τ)=x+pτで今の場合p=p0-Nk0=1 なので,Xid(τ)=pi+Σm≠0αmiexp(-imτ)によりni(2π)-1exp(inx)0id(τ)exp(inτ)exp(inxniです。(α0i=pi)

それ故,DDFの定義したni光錐ゲージでVi(τ)=Σ-∞αni exp(-inτ)とフーリエ展開したときの係数=フーリエ成分の共変ゲージでのアナロジーになっています。※

DDFオペレータは2つの重要な性質を持ちます。それらは第1にはLnと交換するという性質です。そして,もう1つ以下に述べるような単純な代数に従います。

「超弦理論(20)」で紹介した共形次元の定義によれば,任意の演算子A(τ)が次元Jを持つための条件は[Lm,A(τ)]=exp(imτ){-i(d/dτ)+mJ}A(τ)が成立することです。

そこで,V(τ)がJ=1を持てば[Lm,V(τ)]=(-i)(d/dτ){exp(imτ)V(τ)}が成立します。

したがって,ni(2π)-10i(nk0,τ)dτの被積分関数が周期的であるような制限下では[Lm,ni]=-i(2π)-10[d/dτ{exp(imτ)Vi(nk0,τ)}]dτ=-i(2π)-1[exp(imτ)Vi(nk0,τ)]0からniは第1の条件[Lm,ni]=0 を満たします。

 

特に,これのL0条件から得られる系は[N,ni]=-nniです。

(訳注58)[L0,ni]=0 ですがL0=-p2/2+Σn=1α-nαn=-p2/2+N=-p+pii/2+Nですから,0=[L0,ni]=[N,ni]-p[p,Ani],つまり[N,ni]=p[p,Ani]です。

 

 そして,既に見たようにp=α0=(1/p){(1/2)Σm=-∞miα-mi:-a}でかつXid(τ)=pi+Σn≠0αniexp(-inτ)ですから,[p,Xid(τ)]=(1/p)[(1/2)Σm,nmjα-mjni]exp(-inτ)=(-1/pm≠0mαmiexp(-imτ)=(-i/p)dXid(τ)/dτを得ます。

  

 ni=(2π)-10id(τ)exp{inX(τ)}dτですから,p[p,Ani]=-i(2π)-10{dXid(τ)/dτ}exp{inX(τ)}dτ=-n(2π)-10id(τ)exp{inX(τ)}dτ=-nniです。

 

 それ故,[N,ni]=-nniなる式が得られます。

これらの条件:[Lm,ni]=0,[N,ni]=-nniから,|ψ>≡-n1i1-n2i2..A-nkik|0,p0>の形の任意の状態は,ヴィラソロ条件(Lm-aδm0)|ψ>=0 を満たしN=Σj=1kjを有することがわかります。

 

(つまり,(Lm-aδm0)|0,p0=0,N|0,p0=0 ,および[Lm-aδm0,ni]=0,[N,ni]=-nniから,(Lm-aδm0)|ψ>=0,N|ψ>=Σj=1kj|ψ>が従うわけです。)

 

niの代数を決定するためには非同時のτにおけるXid(τ)の交換子が要求されます。

 

これについては,モード展開Xid(τ)==pi+Σm≠0αmiexp(-imτ)=Σ-∞αmiexp(-imτ)を考えることにより,[Xid1),Xjd2)]=2πiδijδ'(τ1-τ2)が見出されます。

 

なぜなら,[Xid1),Xjd2)]=δijΣ-∞[m・exp{im(τ1-τ2)}=iδij[d/dτ{Σ-∞exp(-imτ)}τ=(τ1-τ2)であり,n→∞に対しΣm=-nn exp(-imτ)=sin{(n+1)τ/2}]/sin(τ/2)→ 2πδ(τ)となるからです。

 

そこで,非同時刻でもXはそれ自身やXiと交換することに着目すると,容易にniの交換子を計算できます。

 

すなわち,[mi,nj]=(2π)-20[Xid1),Xjd2)]exp{imX1)+inX2)}dτ1dτ2=(m/2π)δij[∫0dτ[X+d(τ)exp{i(m+n)X(τ))=mδijδm+nを得ます。

 

ここでX(τ)=x+pτ,p=1 を用いました。

この,[mi,nj]=mδijδm+nを見ると,mi代数は丁度横波振動子αmiのそれと同じであることがわかります。

 

((訳注57)で光錐ゲージではmi=-exp(imxmiとなることを示しました。そこでゲージ不変な理論であれば,Amiの交換関係とαmiのそれ:[αmi,αnj]=mδijδm+nが一致するのは当然です。)

 

niはまた実数性Ani+=Ani,およびn>0 に対してAni|0;p0>=0 なる性質=横波振動子αniと同一の性質を持ちます。

これらの事実はDDFオペレータを基底状態に作用させることによって得られる物理的状態:-n1i1-n2i2..A-nkik|0,p0>が全て正計量(正のノルム)を持ち,光錐ゲージにおいてタキオン状態に横波振動子を作用させろことから得られる状態と一致することを保証します。

こうした-n1i1-n2i2..A-nkik|0,p0>なる形で与えられる状態を「DDF状態」と呼びます。

 

我々は,既にD>26に対する物理的部分空間にはゴ-ストが存在することを知っています。そこで一般の次元Dに対してはniは物理的状態以外の全てのスペクトルを生成するわけではないはずです。

今日はここまでにします。

参考文献:M.B.Green,J.H.Schwarz,& E.Witten著「superstring theory」(Cambridge University Press)

 

PS:スパコン,スパコンとか騒いでいるけど,いくら演算スピードが速くても例えば天気予報とか地震予測とかカオス関係の数値シミュレーションの結果は,所詮,そのモデル(模型),つまり計算式や数値計算のアルゴリズムの優劣次第で決まります。

 

 乱流やカオスの予測の明確な計算法は未だ確立されてないはずです。

 極端な話,間違った方程式や解法で計算すれば,いくら演算速度が速かろうと意味ないです。

 

 円周率の計算にしたって,これはカオスじゃないので計算式自体が誤りということはありませんが,アルゴリズムや式の選択次第で計算速度は全く違います。

 

 ソフトがちゃんとしてなければハードがいくら速くても無意味なことが多いですね。

  

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