超弦理論(26)(2-15)
現在,計算中の問題の解釈等にかなり手間取っているので,ツナギとして超弦理論(superstring theory)の続きを書きます。
D次元振動子モードαnによって創られる状態空間全体を物理的空間とすることは望ましくありません。それは負ノルムを持つゴースト状態を含むからです。
そこで,前回は物理的状態の条件を満たす正ノルムの横波状態,すなわちDDF状態を作る方法を紹介しました。
そして,Amiの代数の横波振動子αmiのそれへの同型性から,Amiの作る部分空間の次元が(D-2)次元振動子に特有のそれであることは既に明らかです。
そこで,次に示すべき仕事は,この部分空間に直交する成分によって張られる状態の性質を明らかにすることです。
実際,以下ではDDF状態が本質的にa=1のとき,26次元(D=26)で,あらゆる物理的状態を網羅し,それ故,a=1,D=26ではそれの作る物理的状態には負ノルムの状態がないことを証明する予定です。
これはBrower,およびGoddard & Thorn によって初めて証明されましたが,以下では最近Thoneによって導入された議論の簡単化をも組み込んだものを論じます。
D≦26,a≦1に対してゴーストがないということはD=26,a=1に対する結果の簡単な系です。例えば26次元の物理的状態の部分空間としての25次元空間にゴーストがないことは明らかです。
DDFオペレータで用いられる運動学的形態の考察を続けます。
もしも,今考察中の"許される状態"の中に全くゴーストが存在しないなら,共変定式化のローレンツ共変性の故に物理的ヒルベルト空間でのゴースト非存在が保証されます。
FをDDF状態全体で作られる空間とし任意のDDF状態を|f>と書くことにします。
そして,オペレータKmをKm≡-k0αm=-k0μαmμで定義します。ただし,k0はDDF状態を作る際に導入された光的(k02=0)ベクトル:k0-=-1,k0+=k0i=0 です。
これらのオペレータは交換子代数[Km,Ln]=mKm+n,[Km,Kn]=0 を満たすことも容易にわかります。
実際,開弦では[αmμ,αnν]=-mδm+nημνで,Ln=(-1/2)Σk=-∞∞αn-k,μαkμなので,[Km,Ln]=(1/2)k0μ[αmμ,Σk=-∞∞αn-k,ναkν]=-mk0αm+n=mKm+n,[Km,Kn]=k02δm+n=0 です。
そこで,|f>∈F,すなわち|f>がDDF状態ならn>0 に対してKn|f>=0 が成り立ちます。
(※:n=0 のときのK0は,ただのc-数でK0=-k0α0=-k0μα0μ=-k0μpμ,かつpμ=p0μ-Nk0μです。
つまり,K0|f>は単に|f>の定数倍でK0|f>=k0p|f>=k0p0|f>=(-1)|f>≠0 です。)
※(訳注59):n>0,m>0 のとき,A-mi=(2π)-1∫02πXid(τ)exp{-imX+(τ)}dτより,[Kn,A-mi]=-k0μ(2π)-1∫02πdτexp{-imX+(τ)}[αnμXid(τ)]です。
Xid(τ)=pi+Σk≠0αkiexp(-ikτ)よりn>0 では,αnμ,Xid(τ)]=-nα-niημiexp(inτ)でk0i=0 ですから,[Kn,A-mi]=-nk0i(2π)-1∫02πexp{-imX+(τ)+inτ}dτ=0 です。
DDF状態:|f>は|f>=ΣkΣn1,n2,..nk{c(n1,n2,..nk)A-n1i1A-n2i2…A-nkik|0,p0>}なる形で与えられますが,n>0 ではKn|0,p0>=0 なのでKn|f>=0 です。※
次にDDF状態:|f>に一連の演算子K-n,L-mを作用することによって作られる状態を調べたいと思います。
これらを,|{λ,μ},f>≡L-1λ1L-2λ2..L-mλmK-1μ1K—2μ2...K-nμn|f>と定義します。さらに,後の便宜のためにP≡Σrrλr+Σssμsなる値を定義しておきます。
|{λ,μ},f>の表式において演算子L-rの順序はrが左から右に向かって増加するように取ると規定します。
これは任意な選択のうちの1つですが,一般にLは交換しないので規約を与えて固定することは重要です。
そして全てのK-sはL-rの右に来るように選びました。このとき任意のPに対して,これらの状態|{λ,μ},f>は1次独立であることを証明することができます。
以下証明です。
(証明) まず,Thoneによる現代的扱いに従って与えられたPの値での状態の内積の行列M Pを考えます。
すなわち,各P値について行列要素がM P{λ,μ};1{λ',μ'}≡<f|Knμn..K1μ1Lmλm..L1λ1L-1λ1'..L-mλm'K-1μ1'...K-nμn'|f>で与えられる行列MPを定義します。
ただし,Σrrλr+Σssμs=Σrrλr'+Σssμs'=Pです。
これらの行列要素は先に得られている交換関係,[Lm,Ln]=(m-n)Lm+n+A(m)δm+nおよび,[Km,Ln]=mKm+n,[Km,Kn]=0を用いると状態:|f>についてのK0=-k0α0≠0,およびL0の値のみの関数と考えられます。
この行列M Pの行列式がゼロでないことを示せれば,与えられたPに対して|{λ,μ},f>≡L-1λ1L-2λ2..L-mλmK-1μ1K—2μ2...K-nμn|f>が1次独立なことが言えます。
例えば,P=1に対してはM 1の要素はM 1{1,0};{1,0}=<f|L1L-1|f>=2L0,M 1{1,0};{0,1}=<f|L1K-1|f>=K0=<f|K1L-1|f>=M 1{0,1};{1,0},M 1{0,1};{0,1}=<f|K1K-1|f>=0です。
そこで,M 1の行列式としては,確かにdetM 1=-K02≠0を得ます。
そして,任意のPに対してM Pがゼロでない行列式を持つことの一般的証明はこの行列の右上から左下への対角線の下の要素は全てゼロで対角線に沿ってはゼロでない要素ばかりから成る上三角行列の形に帰するという事実によって示されます。
つまり,M Pの行列式は符号を除けばこの対角線上の要素の積で与えられますから,それが非ゼロとなることがいえるわけです。
そこで,実際に状態の適当な順序付けで行列がこうした上三角行列にできることを示すことができれば,M Pの行列式detM Pが常に非ゼロであることが証明できます。
P=2の場合には,|{λ,μ},f>における|{λ,μ}の適当な順序は(L-1)2,L-2,L-1K-1,K-2,(K-1)2で与えられます。これらを|f>に作用させた状態の行列要素を評価するにはLとKをお互いに通過させて交換させます。
しかし,[Lm,Ln]=(m-n)Lm+n+A(m)δm+n,[Km,Ln]=mKm+n,[Km,Kn]=0なので,この操作では決してKの数を減らすことはできません。
ゼロでない行列要素を得るためには,<f|K-n=0 (n>0)によりKが|f>の共役状態を消すことを防ぐ必要がありますが,これには全てのKを因子K0にするに十分なLが存在することが必要です。
なぜなら,任意のDDF状態の対:|f>,|f'>に対して,もしもn1=n2=..=nk=0でないなら,要素<f'|Kn1Kn2..Knk|f>は必ず消えるからです。
そして,先のP=2の例:(L-1)2,L-2,L-1K-1,K-2,(K-1)2のような配列が上三角行列の一般形を与えるのを見るのは容易ですから詳細は省略します。
これをより高い質量レベルへと一般化するやり方は次の通りです。
まず,最初にLの連鎖の組{λ}の順序を定義します。
すなわち,(ⅰ)Σrλr>Σrλr'(ⅱ)Σrλr=Σrλr'かつλ1>λ1',または(ⅲ)Σrλr=Σrλr'かつλ1=λ1',λ2>λ2'.etc.なら,{λ}>{λ'}であると定義します。
同様に,Kの連鎖の組{μ}の順序,{μ}>{μ'}についても同じ定義を与えます。
次に,LとKの結合した連鎖の組{λ,μ}の順序の規則を与えます。
(ⅰ){λ}<{λ'},または(ⅱ){λ}={λ'},かつ,{μ}>{μ'}なら{λ,μ}<{λ',μ'}であると定義します。
そして,行列M Pの要素の行と列をこの規則に従って昇順に並べると,右上から左下への対角線の下ではKを全てK0にするに十分なLが不足しているので到るところの要素がゼロとなり望ましい上三角行列の形が得られます。
しかも対角線に沿う要素は符号を除いてK0P≠0 なる行列式を与えることがわかります。
この計算は純粋に代数的でL-mやK-nの形には関係しません。一方,M Pが特異行列でないという事実はK-nの存在に決定的に依存します。
ただし,L-mだけで作られる状態に対応する行列では行列式がゼロとなる特異性が生じます。
さらに,|f>,|g>を<f|g>=0を満たす任意の2つのDDF状態とします。また,この|f>,|g>は共にL0の固有状態であると仮定します。
そして,|f~>≡|{λ,μ},|f>,|g~>≡|{λ',μ'},|g>と定義します。すなわち,|f~>,および|g~>はそれぞれ|f>,および|g>にLやKの連鎖を作用させて得られる状態とします。
このとき,<f|g>=0 なら<f~|g~>=0 が成立することを示すことができます。
実際,|f~>,|g~>を陽に|f~>=L-1λ1L-2λ2..L-mλmK-1μ1K—2μ2..K-nμn|f>,|g~>=L-1λ1'..L-mλm'K-1μ1'..K-nμn'|g>と表現して<f~|g~>=<g|Knμn'..K1μ1'Lm1λm'..L1λ1'L-1λ1L-2λ2..L-mλmK-1μ1K—2μ2..K-nμn|f>を作ります。
添字kが正のL-k,K-kを左の方にLk,Kkを右の方に交換させていくと,結局<f~|g~>は単に<f|g>の倍数となることがわかります。
そこで,<f|g>=0 の仮定では<f~|g~>=0 がいえます。
こうして直交する|f>に基づく状態の塔同士が互いに直交することが示されました。
そして,既に,行列M Pの行列式を調べることによって与えられた|f>に基づく状態の塔は1次独立であることも証明しました。
こうして全てのDDF状態にわたる|f>と全てのLとKの連鎖にわたる{λ,μ}を持つ状態|{λ,μ},|f>=L-1λ1L-2λ2..L-mλmK-1μ1K—2μ2...K-nμn|f>は,1次独立であることの証明が完了しました。(証明終わり)
状態:|{λ,μ},|f>が1次独立であるという命題とその証明は幾分技巧的なものですが,結果自体は驚くほど強力な道具になります。
このことから,ボソン弦のフォック空間における任意の状態は,|{λ,μ},|f>の形の1次結合で表現できることが導かれます。
これを理解することは,単純に状態数の勘定の問題に帰着します。
既に述べたようにフォック空間の任意の状態は振動子演算子αを用いて,Πn=1∞Πρ=025(α-nρ)εn,ρ|0>の形に表現されます。
フォック空間の状態の総数は無限大ですが,N=-Σn=1∞Σρ=025α-nραnρρの与えられた固有値を持つ有限個の状態が存在します。
Πn=1∞Πρ=025 (α-nρ)εn,ρ|0>の状態は,もちろん1次独立で,固有値:<N>=Σn=1∞Σρ=025nεn,ρを有するNの固有状態です。
一方,あるλn,μn,βn,iを使って|{λ,μ},|f>の1次結合の一般状態をΠn=1∞L-nλnK-nμnΠi=124(A-ni)βn,i|0>の形に書きます。
これもN=-Σn=1∞Σρ=025α-nραnρρの固有状態で,固有値として<N>=Σn=1∞{n(λn+μn,+Σi=124βn,i)を得ます。
なぜなら,[N,A-ni]=nA-ni,K-n=-k0iα-nより[N,K-n]=nK-n,です。また,[L0,L-n]=nK-n,L0=-(1/2)α02+Nから[N,L-n]=nL-nだからです。
得られた結果:<N>=Σn=1∞Σρ=025nεn,ρと<N>=Σn=1∞{n(λn+μn+Σi=124βn,i)を比較すると,両方の形で与えられたNに対する状態数が全く同じであることがわかります。
|{λ,μ},|f>の形の状態,およびΠn=1∞Πρ=025 (α-nρ)εn,ρ|0>の状態は各質量レベルで共に1次独立で数も同じなので同じフォック空間の基底となる必要があります。
今日はここまでにします。
参考文献:M.B.Green,J.H.Schwarz,& E.Witten著「superstring theory」(Cambridge University Press)
PS: オノ・ヨーコ 素晴らしいですね!!
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