超弦理論(27)(2-16)(no-ghost theorem)
ずいぶん,久しぶりですが,超弦理論(superstring theory)の続きです。
10年以上前に作った自分のノートを転載しているだけなんですが,ただの単純な書き写しでは却って疲れるので内容を吟味しながら書いています。
すると忘れていたり間違っていたりを発見して思いがけず写すという作業以外に時間を取られたりします。
さて,このシリーズのすぐ前の2009年12/13の記事「超弦理論(26)(2-15)」では,DDF状態|f>=A-n1i1A-n2i2..A-nkik|0,p0>に対して|{λ,μ},|f>≡L-1λ1L-2λ2..L-mλmK-1μ1K—2μ2...K-nμn|f>で定義される状態が26次元フォック空間(Fock space)の基底(basis)をなすという事実を見ました。
今度はこの結果を用いて1つか2つの更なるツールを収集した後,"ゴースト非存在の定理(no ghost theorem)"を証明します。
まず,S を"擬似状態(spurious state)"の作る空間とします。
2009年4/13の記事「超弦理論(19)(2-8)」で見たように,擬似状態|s>はある|χ1>,|χ2>に対して|s>=L-1|χ1>+L-2|χ2>のように書ける状態と同じです。
これは,|s>=L-1|χ1>+L~-2|χ2'>,L~-2≡L-2+(3/2)L-12とも表現されます。
※(訳注60):以前の記事「超弦理論(19)(2-8)」では擬似状態の定義を次のように与えました。
すなわち,任意の状態:|φ>は,拘束条件としてLm|φ>=0 (m>0),かつ(L0-a)|φ>=0 を満たすなら物理的状態(physical state)であると言われます。
一方,(L0-a)|ψ>=0 に従う状態|ψ>があらゆる物理的状態|φ>と直交するとき,すなわち,|ψ>が全ての物理的状態|φ>に対して<φ|ψ>=0 を満たすなら|ψ>は擬似状態であるといわれます。
(訳注終わり)※
|s>=L-1|χ1>+L~-2|χ2'>,L~-2≡L-2+(3/2)L-12なる型の状態はゼロノルム状態を構成する過程から現われた結合です。
そして,この右辺でL-2の代わりにL~-2を用いることのメリットは後で明らかになります。
さて,擬似状態の作る空間S に対し,それと直交する空間K をΠn=1∞K-nμn|f>の形の状態から作られる空間とします。ここで|f>はDDF状態です。
「超弦理論(26)(2-15)」で与えた|{λ,μ},|f>≡L-1λ1L-2λ2..L-mλmK-1μ1K—2μ2...K-nμn|f>の型の任意の状態は,右辺の陽な展開の中にいくつかLを持つ擬似状態か,それとも全くLを持たずK に属するかのいずれかです。
そして,この|{λ,μ},|f>がフォック空間H の基底をなすことを前記事で示したので,∀|φ>∈H は|φ>=|s>+|k>;|s>∈S,|k>∈K と書けることがわかります。
これは基底の定義によって,任意のH の元|φ>はS またはK の元である|{λ,μ},|f>の線形結合で与えられるからです。
|{λ,μ},|f>は一次独立なのでこの分割表現:|φ>=|s>+|k>は一意的(unique)です。それ故,|φ>がL0の固有状態なら|s>と|k>のそれぞれもL0の同じ固有値に属する固有状態です。
特に,もしも(L0-1)|φ>=0 なら(L0-1)|s>=0,かつ(L0-1)|k>=0 です。
※(訳注61):(証明):|φ>=|s>+|k>(|s>∈S,|k>∈K )であって,かつ|φ>がL0の固有状態,すなわちL0|φ>=c|φ>ならL0|s>+L0|k>=c(|s>+|k>)です。
一方,アノマリーを含むヴィラソロ(Virasoro)代数:[Lm,Ln]=(m-n)Lm+n+(D/12)(m3-m)δm+n,および交換関係:[Km,Ln]=mKm+nから,[L0,Ln]=-nLn,[L0,Kn,]=-nKnなのでL0|s>∈S,かつL0|k>∈K です。
そこで,L0|φ>=c|φ>のSの元とKの元への分割表現L0|φ>=L0|s>+L0|k>=c|s>+c|k>の一意性によってL0|s>=c|s>,かつL0|k>=c|k>です。(証明終わり) (訳注終わり)※
さて,|φ>=|s>+|k>(|s>∈S,|k>∈K)が物理的状態であって,それ故,Lm|φ>=0 (m=1,2,..)を満足するします。また,|φ>は(L0-1)|φ>=0 にも従います。(a=1に対応) そこで(L0-1)|s>=0,かつ(L0-1)|k>=0 です。
このとき,|s>と|k>もまた物理的状態で,Lm|s>=0 かつLm|k>=0 (m=1,2,..)に従うことを証明します。
実はこれは,m=1とm=2について成立することが示されれば十分です。何故なら,m>2のLmは全てL1,L2の交換子の繰り返しから得られるからです。
※(訳注62):実際,ヴィラソロ代数:[Lm,Ln]=(m-n)Lm+n+(D/12)(m3-m)δm+nによりL3=[L2,L1]なので,もしもL1|s>=0,L2|s>=0ならL3|s>=[L2,L1]|s>=0 です。
さらに,L4=2[L3,L1],=2[[L2,L1],L1]より,L4|s>=0,も得られます。以下はこれの繰り返しです。(訳注終わり)※
そしてまた,先に述べたように,任意の擬似状態|s>∈S はある|χ1>,|χ2>に対して|s>=L-1|χ1>+L~-2|χ2>,L~-2≡L-2+(3/2)L-12と表現されます。
まず,(L0-1)|s>=0 からL0|χ1>=(L0+1)|χ2>=0 が導かれます。
(訳注63):記事「超弦理論(19)(2-8)」を見ると,次のようなことも書かれています。
"任意の擬似状態|ψ>は(L0-a+n)|χn>=0 に従う状態|χn>を用いて|ψ>=Σn>0L-n|χn>と表わすことができます。
そして,これは(L0-a+1)|χ1>=0,(L0-a+2)|χ2>=0 に従う状態|χ1>,|χ2>を用いて|ψ>=L-1|χ1>+L-2|χ2>の形に表現できます。
さらに,(L0-a+2)|χ2~>=0 を満たす|χ2~>を用いて|ψ>=L-1|χ1>+L~-2|χ2~>とも表現されます。"
と書かれています。
今の場合は,a=1としているので,これはL0|χ1>=0,(L0+1)|χ2>=0,かつ|s>=L-1|χ1>+L~-2|χ2>を意味します。
それ故,L0|χ1>=0 ,(L0+1)|χ2>=0 は最初から仮定されていますから証明の必要なしです。(訳注終わり)※
次に,m=1に対してLm|s>=0 かつLm|k>=0 を証明するためにL1|φ>=0 からのL1|s>+L1|k>=0 に着目します。
ここで,L1|s>=L1(L-1|χ1>+L~-2|χ2>でL1|k>=L1ΠnK-nμn|f> (|f>はDDF状態)です。
このとき,L1|s>も擬似状態であり,L1|s>=L-1|η1>+L~-2|η2>と書けることがわかります。
(訳注64):実際,L1L-1|χ1>=(2L0+L-1L1)|χ1>=L-1L1|χ1>,L1L~-2|χ2>=(3L-1+3L0L-1+3L-1L0+L~-2L1)|χ2>={6L-1(L0+1) +L~-2L1}|χ2>=L~-2L1|χ2>です。
そこで,|η1>≡L1|χ1>,|η2>≡L1|χ2>と置けばL1|s>=L-1|η1>+L~-2|η2>と書けます。
さらに,L0L1|s>=(-L1+L1L0)|s>=L1(L0-1)|s>=0 よりL1|s>もL0の固有状態です。(訳注終わり)※
また,L1|k>=L1ΠnK-nμn|f>(|f>はDDF状態)であり,DDF状態は物理的なのでL1|f>=0 であること,および交換関係[Km,Ln]=mKm+nを用いると,L1|k>∈K なることがわかります。
それ故,等式 0=L1|s>+L1|k>は 0 のSとKへの一意的な分割表現を意味します。そこで,L1|s>=L1|k>=0 と結論されます。
後は,L2|s>=L2|k>=0,またはL~2|s>=L~2|k>=0 を証明するだけですが,これはL1|s>=L1|k>=0 を得た論旨を一般化すれば得られます。
※(訳注65):(証明)まず,L~2|φ>=0 から,L~2|s>+L~2|k>=0 に着目します。
L~2|s>=L~2(L-1|χ1>+L~-2|χ2>で,L~2|k>=L~2ΠnK-nμn|f>(|f>はDDF状態)です。L2L-1|χ1>=L-1L2|χ1>は容易に得られます。
一方,L~2L~-2|χ2>={D/2+13L0+18L0(L0+1)+18L-1L1(L0+1)|χ2>+L~-2L~2|χ2>=(13L0+D/2)|χ2>+L~-2L~2|χ2>ですが,D=26なのでL~2L~-2|χ2>=L~-2L~2|χ2>を得ます。
よって,|η1>≡L~2|χ1>,|η2>≡L~2|χ2>と置けばL~2|s>=L-1|η1>+L~-2|η2>と書けます。L~2|s>∈Sですね。
また,L~2|k>=L~2ΠnK-nμn|f>とL~2||f>=0,および交換関係[Km,Ln]=mKm+nから,L~2||k>∈K なることがわかります。
それ故,結局 0=L~2|s>+L~2||k>は 0 のSとKへの一意的な分割表現を意味するため,L~2|s>=L~2|k>=0 を得ます。(証明;訳注終わり)※
以上から,任意の状態:|φ>=|s>+|k>∈H (|s>∈S,|k>∈K)について,もし|φ>が物理的状態なら|s>は擬似状態であると同時に物理的状態であり,|k>も物理的状態であることが示されました。
今や"ゴースト非存在の定理(no-ghost theorem)"は,ほぼ我々の手中にあります。
擬似状態についての以前の論議から物理的かつ擬似である状態はヌル(null)でありあらゆる物理的状態と直交することを知っています。それ故,<s|s>=<s|k>=0 です。
したがって,<φ|φ>=<s|s>+<s|k>+<k|s>+<k|k>=<k|k>となります。
ところで,|k>∈K のノルムが常に非負であること,すなわち<k|k>≧0 であることは容易に示すことができます。
K の任意の状態|k>は|k>=|f>+ΣαΠ'K-nμnα|fα>と書くことができます。ただし|f>,|fα>はDDF状態です。
ここで,積記号:Π'におけるプライム(prime):"'"はK-nμnα(n=1,2,..,∞)におけるK-nのべきμnαが全てゼロであるような状態を除くことを意味します。
この表現式を改めて|k>=|f>+|k~>;|k~>≡ΣαΠ'K-nμnα|fα>と書くと,DDF状態の性質から<k~|k~>=<f|k~>=0 です。
何故なら,前記事で述べたように,|f>がDDF状態ならn>0 に対してKn|f>=0 が成り立ちます。
そして,[Km,Kn]=0 なので<fβ|Π'KmμmβΠ'K-nμnα|fα>=<fβ|Π'K-nμnα,Π'Kmμmβ|fα>=0,<f|Π'K-nμnα|fα>=0 となるからです。
それ故,<k|k>=<f|f>≧0 です。ただしDDF状態では<f|f>=0 ⇔ |f>=0 です。
既に,<φ|φ>=<k|k>なることがわかっているので,これで任意の物理的状態|φ>が常に非負のノルムを持つことが証明されました。
したがってフォック空間H の部分空間である物理的ヒルベルト空間(physical Hilbert space)にはゴースト(ghost)は存在しないことが示されました。
実際には,より強い命題をも示すことができます。
すなわち,"任意の物理的状態:|φ>はDDF状態|f>と「擬似物理的状態」:|s>の和として|φ>=|f>+|s>と表現される。"という命題です。
実際,交換関係:[Lm,Kn]=-nKm+n,およびm>0 の全てのLmはDDF状態|f>,|fα>を消滅させるという事実を用いると,|k>=|f>+|k~>が物理的なら|k~>=0 なので|k>=|f>なることを容易に示すことができます。
※(訳注66):(証明):m>0 のとき,|k>=|f>+|k~>が物理的ならLm|k>=0 ,かつLm|f>=0 です。
そこで,m>0 のとき,Lm|k~>=ΣαΠ'LmK-nμnα|fα>=0 でLmK-nμnα|fα>は1次独立なので,LmK-nμnα|fα>=0 です。
m=nとすると,LnK-nμnα|fα>=cnαK0μnα|fα>より,Π'LnμnαK-nμnα|fα>=cK0λ|fα>=0 です。
そして,K0=-k0α0=-k0p(定数)ですから,任意のαについて|fα>=0 です。したがって,|k~>=ΣαΠ'K-nμnα|fα>=0 が得られます。それ故,|k>=|f>となります。(証明;訳注終わり)※
この|k>=|f>と分解:|φ>=|s>+|k>から物理的状態に対して,|φ>=|f>+|s>なる表現が得られるわけです。
ここでの余分な擬似物理的状態:|s>の存在は一見すると厄介なもののように見えます。しかし,実際には弦(ひも)理論が興味深い理由と密接に関係しています。
つまり,変換:|f>→|f>+|s>がゲージ変換の弦理論におけるアナロジーとなっているからです。
今日は,曲がりなりにもボーズ弦(Bosonic string)のD=26次元の背景空間における"ゴースト-非存在の定理(no-ghost theorem)"の証明が完了したことに満足してここで終わります。
参考文献:M.B.Green,J.H.Schwarz,& E.Witten著「superstring theory」(Cambridge University Press)
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この記事へのコメントは終了しました。
コメント
>Bernice Franklin
Thank you for your visit.
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TOSHI
投稿: TOSHI | 2010年2月11日 (木) 18時21分
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Bernice Franklin
UGG Boots
投稿: UGG Boots | 2010年2月 9日 (火) 22時24分