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2010年1月26日 (火)

遅延選択実験(タイムマシン?)(4)

 少し間が空きましたが遅延選択実験の論文翻訳の続きです。一応翻訳作業は終わりました。

 

 むずかしいところもなく,ただサボっていただけです。

 

 結局,全体を読んで私が求めていた論文ではないとわかりました。これは従来の素朴な遅延選択実験の結果を再確認したに過ぎず,新しいものはほとんどないと感じました。

 

 ただ,私がこうした実験の詳細を考えたのは初めてで,私の新たな思考体験になったので無駄な作業ではなかったですが。。。

 

 というわけで量子テレポーテーションやEPR相関と関連したものとしてこれに続きウォルボーンらによる2002年の論文「二重スリット量子消しゴム」http://grad.physics.sunysb.edu/~amarch/Walborn.pdf を読むことにします。

 

 以下は翻訳内容です。

  

.Experiment Setup(実験の設定)

 本節では図3,図4に要約された遅延選択相互作用の実験設定と遅延選択量子ビート実験を論じます。

   

 .遅延選択干渉実験

反復率が81MHz(81×106回/秒)(波長:647nm(647×10-9m))のアクティブモードにロックされたクリプトンのイオンレーザーによって持続時間150ps(ピコ秒=10-12秒)のパルスが生成されます。

これの8000の音響-光学モードのうちから1つのパルスを選択します。このパルス反復率の縮小は必要な操作です。なぜなら,遅延選択のために干渉計の腕の一方を遮断するポケットセルのシャッターを頻繁にON-OFFをするのは不可能だからです。

さらに,このパルス周波数の縮小は2つのパルスの間の時間が光子が干渉計を通過する時間:約24ns(ナノ秒=10-9秒)よりも長いことを保証します。また,レーザー入射と上記の音響-光学変調計との間に光学減衰装置(T=10-9s)がレーザービームに挿入されます。これはパルス当たりの平均光子数を0.2以下にします。

入射光は最初のビーム・スプリッター(下図3)を通過します。

 

ここで分かれた2つのビームは道を変え互いに離れた単一モードの長さ5m(直径:5μm=5×10-6m)の2つの光ファイバー(ファイバ-路)に集光されます。 ファイバーの主軸はその中の偏光が線形になるように調整されています。

       

   

  

 そして,第二のビーム・スプリッターにより2つのビームが再び結合した後,暗部の計数の率が小さくなるよう冷却された光増倍管1,2(PM1,PM2)によって干渉が検知されます。

2つの光増倍管の各々で記録される光強度は,2つのビームの経路の差が光学距離λ/2のときに正反対のパターンになるような補足の関係で変わります。

この干渉計の2つの腕に沿った光路の経路差はフィルター中の温度誘導のファイバーの屈折率の変動に強く影響されます。空気中での干渉のパターンは時間的に安定しています。

実験に遅延選択モードを導入するために,光子が第一のビーム・スプリッターを通過するまで一方の腕の光路を遮断します。この目的のために干渉計の上の方の腕にポケットセル(PC)を導入します。

 

1つの腕の路を遮断するためポケットセルに電圧をかけます。その結果,入射光の直交する2つの偏光成分(90度回転した偏光)の間に1/2だけ位相のずれた波が導入されます。

ポケットセルの後に偏光方向が回転したとき光を検知するGian偏光プリズム(POL)が挿入されます。そしてポケッツセルのシャッターの上がる時間は4nsです。

実験では遅延選択モードの干渉パターンが"正常な"モードのそれと比較されます。正常な操作では光のパルスが第一のビーム・スプリッターに到達した際にポケットセルは開いていてそれは全体の装置を通る間キープされます。

しかし,遅延選択モードではポケットセルのシャッターは通常は閉じていてパルスが第一のビーム・スプリッターを通過した後に5nsだけ開けます。それ故,光パルスはポケットセルが開いているときうまく光ファイバー中を通過します。

光パルスが到着したときにポケットセルが全開であることを確実にするためにはファイバーの長さが十分である必要があります。シャッターの上がる時間が4nsなので長さは少なくとも1m必要です。

遅延選択実験のこのバージョンでの時間順序に関する興味深い点のいくつかは,Mittelstaedtによって挙げられ論じられています。彼は状態の収縮(ビーム・スプリッター2)と状態の準備(ビーム・スプリッター1)の位置が空間的に離れている事実を強調しました。

"光子が第一のビーム・スプリッターに到達する前か後にポケットセルのスイッチを入れる。"という表現はこうした位置に同期した時計を置くことに等価と解釈されます。

データを採取する間に継続する光パルスにおいて操作モードを正常モードや遅延選択モードにスイッチします。光増倍管でカウントされる光子は,それに応じて多重チャンネルの異なる分析装置に格納されます。

こうしたスイッチングはクリプトンのイオンレーザーのモード・ロッカーの40.5MHzのドライバーから導かれるパルスで制御されます。

.量子ビート実験

量子ビート実験はバリウム原子の原子ビームを用いて実行されます。2つのヘルムホルツコイルで生成される磁場はその向きを原子ビームの方向に垂直に取ります。(下図4参照)

  

 

  

同時的に励起した色素レーザーから1パルスの持続時間が1.5psで繰り返しの周波数が10kHzのパルスが出てx方向に伝播します。このレーザー光はy方向に偏極し周波数はバリウムの共鳴のライン10-11に合うように調整されています。

 

こうした条件の下でエネルギー差がΔE=2hcωLのm=+1とm=-1の2つのゼーマン(Zeeman)サブレベルのコヒーレントな重ね合わせの光パルスが用意されます。ここにωLはラーマー(Larmer)周波数です。(下図5参照) (※ただし,hc≡h/(2π);hはPlanck定数です。)

 

  

  

そして,レーザーパルスのフーリエ(Fourier)線幅より小さいゼーマン分裂に対応して用いる磁場の大きさは2.1G(Gauss)とします。そして蛍光はz方向のレーザーパルスの解像時間で観測します。集光器は,0.1arの立体角の内に光を集めます。

こうした光信号の時間依存性はパルスの高さ分析モードの多重分析装置を持つ時間-アンプ変換装置を用いて測定されます。この方法は検知システムに表示されるレーザーパルス当たりに常に1個以上の光子があるので可能なのです。

時間-アンプ変換装置はレーザーパルスを光セルでモニターする信号からスタートして最初の信号光子を得てストップします。

標準の量子干渉実験では検知器である光増倍管の前にy軸に平行な方向に偏光させる線形偏光装置が設置されます。これは2つの"経路":|0> →|+1> →|0>,および|0> →|-1> →|0>の干渉を検知することを許します。

遅延選択バージョンは放出光子が検知システムに到達するまでは1つの経路がブロックされたままであることを要求します。

 

この目的のため再び線形偏光装置の前にポケットセルを置きます。

ポケットセルに適切な電圧をかければ,経路:|0> →|+1> →|0>から帰結するσ光は偏光装置を透過する光を線形偏光の光に変わります。

 

σ光はフィルターの1つに垂直方向に線形偏光した光に変わり,それ故ブロックされます。

これには遅延選択操作ではポケットセルのシャッター時間と量子ビートの周期:τ=(2ωL)-1と比べ,原子ビームと検知システム間を光子が飛行する時間の方が長いことが必要です。そこで"飛行時間=26ns"に対応して原子ビームと検知システム間の光路を8mにします。

.Experimental result(実験結果)

 本節ではホイーラー(Wheeler)の遅延選択実験の2つのバージョンから得られた実験結果を与えます。

.干渉実験

下図6は正常モードか遅延選択モードのいずれかで走る光パルスの光増倍管1と2に30秒間に累積された光子数を示しています。カウントされた結果は多重スケールモードで動く機械的分析装置に格納されます。

 

  

 

6に示された結果は生データの4チャンネル平均です。時間軸は干渉計内のファイバーの温度で誘導される屈折率変動から決まります。この実験での干渉パターンの可視性は理想的な100%より小さいです。

 

この理由は,まずはビームスプリッターと干渉スキームの検知の不完全さのせいでしょう。

また,図3に示されているようにファイバー内の光は顕微鏡の対物レンズにより平行にされますが,残った発散光によって干渉計の出力ポートでの干渉パターンは環状になります。

 

ただしゼロ次の最大値のみが光増倍管で検知されます。光増倍管の有限な面積の開口部によっても可視性は小さくなります。

遅延モードと正常モードのデータ間のより定量的な比較は対応するチャンネルのカウントの比を取ることでなされます。これら光増倍管1,および2における比をそれぞれ下図7(a),および図7(b)に与えます。

  

  

 

これの平均値はN/N=1.00±0.02,とN/N=0.99±0.02です。この結果は量子力学のコペンハーゲン解釈によって予測されるN/N=1と非常によく一致しています。

.量子ビート実験

 まず,正常モードでの量子ビート実験の結果を示すことから始めます。下図8(a)では量子ビート信号はポケットセルに電圧をかけずに得られたものです。このケースでは蛍光のσ光とσ光の重ね合わせが観測され,指数的減衰は緩和されます。

ポケットセルに1/4波の電圧をかけた単偏光成分の検知結果,それ故信号の指数関数的時間依存性は下図8(b)に与えます。

 

  

  

8,9,10では,レーザーパルスより26ns後の検知装置での最初の蛍光光子の到着時間に対応する時刻に着目すべきです。また,光増倍管と時間-アンプ変換装置の時間解像度によれば光信号が最大で約2nsの時間で届くことにも着目すべきです。

実験の遅延選択バージョンを下図9に示します。矢印はポケットセルに電圧をかけた時刻です。

 

   

  

図の一番上のボックスに示された測定は検知器に光子が到着して2nsの後にポケットセルのスイッチが入れられたものです。

 

真ん中,および一番下のボックスのグラフはポケットセルにスイッチが入り指数減衰の変調が長時間観測された後,それぞれ17ns,および26nsまでの指数的減衰を示しています。

下図10では通常の量子ビート信号を遅延選択観測で得られるものと比較しています。ここでポケットセルに電圧がかかるスイッチが入る時刻は4nsです。評価には10nsと30nsの間にある信号のみ用いてます。

 

   

 

時間の下限はポケットセルの時間(4ns)と検知装置の時間定数(2ns)から決めています。上限の方は原子ビームと検知装置の間の飛行時間から決めます。

104個のレーザーパルスの後に正常観測と遅延観測の操作のモードをスイッチします。このようにして図10に示した2つの信号は同時に累積していきます。(正常モードと遅延モードは機械的分析装置のメモリーの異なる部分に格納します。)

10の2つの信号のうち斜線部を下図11に示します。この図では点(・)は遅延選択に,プラス(+)は正常バージョンに対応します。また,対応するチャンネルでの信号(時間差0.56ns)の比を与えています。 

   

  

 

この比は,N/N=1.03±0.02でした。これもコペンハーゲン解釈から予期されるものと一致します。僅かな偏差はポケットセルの光軸調整の誤差によるものと考えられます。

.conclusion(結論)

本論文で記述された空間領域と時間領域の干渉実験では正常モードと遅延選択モードの間に何の差異もありませんでした。そこで量子力学のコペンハーゲン解釈が実験と合致するのを再確認したに過ぎません。

これと関連しては,Allenと彼の共同研究者が本論文のⅣ.AとⅤ.Aで論じたものと同様な遅延選択実験を最近実行しましたが,彼らの結果もまた量子力学の標準的な解釈と一致しています。

「光子が"1つのルート"を通ったのか? それとも"両方のルート"を通ったのか? 」という言明に内在する論理矛盾にアプローチする道は,結局「古典論理」とは微妙に異なる「量子論理」に基づいて思考することであると結論します。

別の可能性はホイーラー(Wheeler)によって指摘されたのですが,

  

「既に運動した後に1つのルートでやってくるか,両方のルートでやってくるかを決めるというジレンマは言葉の誤用が原因である。」

  

というものです。

ボーア(Bohr)がアインシュタイン(Einstein)との論争において,現象(phenomenon)という言葉を導入したことを思い起こします。

 

ホイーラーは「どんな素現象も,記録される,すなわち1グレインの銀の印画紙が感光する,あるいは光検知装置の引き金が引かれるまでは現象ではない。」と強調しました。

それ故,我々も"干渉計の中の旅の間に光子がどうしていたか?"を述べる権利はないと考えます。

 

この旅の間には光子は"巨大な灰色ドラゴン"であり,単に"尻尾"(ビーム・スプリッター1の位置)と"検知器を叩く位置=口"でのみそれは細く鋭くなるわけです。

「遅延選択実験は過去の描像が遠回りして到達する結果である。」と結論します。

 

ホイーラーがしばしば指摘したように,遅延選択実験の奇妙さは「現在において記録されない限り過去は存在しない。」という以上のものではないということに留意すべきと考えます。  

Acknoledgement(謝辞):これは省略します。(以上終わり)

参考文献: T.Hellmuth,H.Walther,A.Zajonc and W.Schleich ”Delayed-choice experiments in quantum interference”Phys.Rev.A Vol.35,No.6,(1987),pp2532-2541

 

 ちょっと時間的余裕が無いので図も満足に入っていません。よってこの記事のメインはまだ未完成です。

 

 この論題については続きも含め少し余裕をいただきたいと思います。

 

PS:一応,誤解ないよう私なりの注釈を付けておきます。

  

 この論文において実験結果がコペンハーゲン解釈と合致するというのは,別にコペンハーゲン解釈以外の解釈は正しくないと主張するものではないです。

 

 単に,実験と合うという意味で正しいための十分条件を満たすというだけです。必要条件ではないはずなので他の多くの解釈も実験に合うならこれと同程度に妥当な候補です。

  

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118. 観測問題・量子もつれ」カテゴリの記事

コメント

>「巨大な灰色ドラゴン」
「ドラゴン」の「雲に隠れた身体は見えないだけで確実に存在しているはずである.」と主張されている方を発見しましたので、お伝えいたします。
http://www.lib.yamagata-u.ac.jp/kiyou/kiyoue/kiyoue-31/image/kiyoue-31-017to025.pdf

投稿: 凡人 | 2010年6月13日 (日) 10時08分

ここのところ、yahooやgoogleで「遅延選択実験」で検索すると、TOSHIさんのこの記事が結構上位に来ていますですね。
私は、この記事のシリーズの完成が待ち遠しいです。

投稿: 凡人 | 2010年2月19日 (金) 00時18分

申し訳ありませんでした。
この記事が完成したら、TOSHIさんの主張内容を良く確認確認させていただきたいと思います。

投稿: 凡人 | 2010年1月27日 (水) 20時50分

ども凡人さん。さっそくコメントありがとうございます。TOSHIです。

 しかし言いたくはないですが書いてるのは哲学ではなくて物理学の量子力学です。

 言葉尻というかただの比喩の文章をそのままの意味に取って厳密な法則に反すると反応されるとなんだかなあと感じます。

 「巨大な灰色ドラゴン」とかと同じ意味のたとえなので前後の文章も読んでください。

 記録しようがしまいが過去はありますよ。過去がないとは過去の実在,または過去の軌道(履歴)がないという意味です。

            TOSHI

投稿: TOSHI | 2010年1月27日 (水) 01時20分

ある量子現象が「現在において記録されない限り過去は存在しない。」と表現出来るとすれば、その現象は、相対論的因果律を破っている事にならないのでしょうか?
尚、この件については、場の量子論のレベルで考察した方が面白いと思うのですが、いかがでしょうか?

投稿: 凡人 | 2010年1月27日 (水) 00時46分

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