遅延選択実験(タイムマシン?)(1)
量子力学の非局所性と関連した「量子もつれ(エンタングルメント)」の関係の知見についてはずいぶん以前の2006年5月の記事「公開キー暗号(神はサイコロ遊びをなさる)(量子コンピュータ)」「量子通信(神はサイコロ遊びをなさる「つづき」) 」で少し触れました。
今も,その程度の認識から余り進歩はないのですが,「量子通信」というのはいわゆる量子テレポーテーション(瞬間移動)を意味しますから見方によっては「タイムマシン」と同じ意です。
「タイムマシン」というのはH.G.ウェルズ(H.G.Wells)のSFが起源でしょうが,キップ・ソーン(Kip.Thone)などによるその実現化に関する大ががかりなアイデアがあるようです。これは映画「バック・トゥ・ザ・ヒューチャー(Back to the future)」シリーズに利用されています。
これはブラック・ホール(black hole)から入ってホワイト・ホール(white hole)から抜け出す,つまり,時空自身を曲げて時空の虫食い穴(ワーム・ホールworm hole)を作り,時間的な距離の2時空点(=光速よりも速くなければつながらない2事象:events)をショート・カット(short cut)する,あるいはワープ(warp)するという発想です。
(ホワイト・ホールというのは重力場の方程式の解としては膨張する宇宙と同じですね。)
例えて言えば,日本からその地球の真裏側のアルゼンチンやブラジルに行くには,現在の飛行機でもかなり時間がかかるのですが,もしも地球の中に真っ直ぐ裏側まで通じる穴を掘ってそれを通過することが可能なら動力無しで落下するだけでもはるかに速いショート・カットになるというような発想です。
ホーキング(S.Hawking)やペンローズ(R.Penrose)などマッド・サイエンティストではないか?と感じられる余りにも哲学的な人の述べられることは,私には理解できないものが多いです。
「タイムマシン」には「親殺しのパラドックス」に近いであろうホーキングの「時間順序保護仮説」などの背理的な仮説もあります。ホーキングは「タイムマシン」を創ることが可能な根拠も不可能な根拠も両方提出するような方ですから,その真意はわかりませんが。。。
しかし,このような時空を曲げるような膨大なエネルギーが必要で,しかも現実にワームホール内の強大な潮汐力に耐えてその穴を通過するという難問をクリアする必要もあるという実現がかなり困難な構想よりも,量子力学の非局所性を用いるのが「タイムマシン」としてはより安易な方法でしょう。
昔からあるホイーラー(J.Wheeler)などの「遅延選択実験」というのは,未来(=原点から光円錐の外の絶対的未来)において,如何なる選択をするかが現在の観測結果を左右するというものですね。
実際に行われた実験結果においては,現在の観測と未来の選択の間に確実な因果関係ではなく統計的に有意な相関が見られるようです。
(これは確か2008年6月頃「EMANさんのボード」でちょっと話題になった日経サイエンス掲載のウォルボーン(S.P.Walborn)らの「二重スリット量子消しゴムの実験のレポート」からの記憶だと思います。)
この効果をより精密にするにはその中に光子1個だけがあるような理想的な希薄レーザービームが必要らしいのですが,既に技術的には日本の研究で開発されているらしいですね。
まあ,ナノ秒程度の未来の情報信号が原理的に得られるとしても,その未来信号を実際に我々の五感に知らせるための装置の中にそれ以上のタイムロスがあれば「タイムマシン(量子通信)」としては無意味ですが。。
というわけで,関連した論文を探しているうちに1987年のミュンヘン大での実験論文を見つけて正月に翻訳を試みたのでそれをそのまま掲載します。
表題:「Delayed choice experiments in quantum interference(量子干渉における遅延選択実験)」
T.Hellmuth,H.Walther,A.Zajonc, and W.Schleich
Sektion Physik,Universitat Munchen,D-8046 Garching,Federal Republic of Germany and Max-Planck-Institut fur Quantenoptik,D-8046 Garching bei Munchen,
Federal Republic of Germany(Received October 1986) Phys.Rev.A Vol.35,No.6 March,1987 ,pp2532-2541
Abstract:
Wheelerによる次の示唆に従って,我々は空間と時間の両方の領域での遅延選択実験を実行した。
第一の実験には低強度のMach-Zehnder干渉計を用い,第二の実験には時間解像干渉計の量子beatテクニックを用いた。
得られた結果は操作の正常モードと遅延選択モードの間に観測できる差異を顕わすことが無く量子論の予測と一致した。
Ⅰ.Introduction(序)
光子描像での「ヤング(Young)の干渉実験」の記述は過去に大きな議論を生じた課題でした。
重大な含みのある疑問の1つは装置の中に唯1つの光子しかない多数回の事象で形成される干渉パターンが強い光源で得られる干渉パターンと同一か否か?ということです。
この問題に答える実験は何人かの論文著者により種々の配列で実行されてきました。
そして,DentsovとBazの実験という例外を除く全ての実験では「強度が弱くなっても強度パターンに何らの変化も生じない。」という結果を示しました。
さらに,その後行われたDentsovとBazの任意の再実験では結局,他の実験結果と一致する結果を得ました。
そこで,光は一方では波動性を示し,他方では例えば「コンプトン(Compton)効果」のような例に見られるように「粒子に特有の局所性」を示すように見えるわけです。
しかし,我々はこれらの干渉実験が全て低圧の放電ランプを用いてなされたことに注目しました。
1つの光子の検知の直後にもう1つの光子が検知される確率は2次の相関関数:g(2)(0)で与えられますが,これは今の場合には2に等しくそれ故ゼロではありません。
それ故,Hanbury-BrownとTwissによる先駆的実験以来,光子たちは束になって到着する傾向を持つことが知られています。
放電ランプからの光による単一光子の干渉実験では最初の光子の直後に続く実験を乱す第二の光子がくる確率は,無作為な光子たちによるそれよりも大きいはずです。
この状況はレーザー光を用いれば改善されてg(2)(0)=1です。
したがって,単一光子の干渉実験に対する理想的な実験,例えば非常に希釈された原子ビーム,あるいはイオントラップにおける単一イオンからの蛍光ランプの解像度においてはその光はg(2)(0)=0を有する反束光と観測されます。
しかし,これまでは反束光を用いた単一光子干渉実験はなされたことがありません。ここでは,カスケード(連続)原子をMach-Zehnder干渉計の光源とします。
同じ意味では唯一のイオンだけがトラップされるほど小さいイオントラップの単一イオンによって供給された反束光を用いる方法下での実験がなされています。
現状では1秒間に6万カウントの光子の計数率が達成されいます。
また,こうした実験はRef.8の実験では重要な励起されたレーザービームを有する相互作用領域での散乱の統計によって課せられる制限を持たないことが注目されます。
ボーア(Bohr)とアインシュタイン(Einstein)はごく初期のヤングの二重スリット実験における1光子の挙動を図的に表現しようと試みるときに生じる波動-粒子の二重性の出現の瞬間に興味をおぼえていました。
粒子性によれば1光子は常に2スリットの一方だけを選択します。
しかし,他方,干渉する性質を説明するためには光子が両方の経路を通ると仮定する必要があります。
さらに,アインシュタインは光子の経路を決めるために検知器上の光子の運動量を用いることができると提案しました。
しかし,後にボ-アは検知器上での運動量と位置の不確定性が「ハイゼンベルク(Heisenberg)の不確定性原理」を破ることを示しました。
それ故,光子の経路の観測か干渉の観測かのどちらか一方のみが可能であって,両方の同時観測は不可能です。
これに関連した興味深い疑問がホイーラー(Wheeler)とフォン・ワイゼッカー(Von・Weizsacker)によって提出されました。
彼らは光子の経路の観測と光子がスリットを通過した後の干渉の観測のどちらの観測を決定するかで実験結果は変わるかを問うたのです。
ホイーラーの遅延選択思考実験は図1(FIG.1)に要約されます。
パルス電磁波はビーム・スプリッター(BS1)により(経路xと経路yの)2つのビームに分かれます。2つの鏡(M)は右下方で両方のビームを交錯させます。
検知器は(経路xの検知器と経路yの別の検知器の)2つのビームの各々の場所にあります。
2つの実験の状況が想定されます。
1つは第二のビーム・スプリッター(BS2)が経路xと経路yの交点に導入される場合です。
この実験では干渉計の2つの腕における経路長さが厳密に調整されると,destractiveな干渉のせいで一方のカウンターには信号が検知されません。
しかるに他の検知器では,constructiveな干渉のため第一のビーム・スプリッター上のビームと同じ強度で検知器に信号が生成されます。
ホイーラーが指摘したように,この実験は,"到着光子が両方のルートからやってきた証拠"です。
もう1つ別の配列では,第二のスプリッター(BS2)は除去され,それ故検知器は光子がxとyのどちらの経路を通ってきたかを観測します。
2重スリットの実験において光子の経路の情報を獲得すること,干渉を観測することを同時に行なうことは不可能です。
新しい実験の遅延選択バージョンでは,ホイーラーに従って"ずっと後の時刻に第二のビーム・スプリッターを入れるかはずすかを選択して決めます。"
かくして,既に光子が到着する運動が終わって確定した後にこの光子が1つだけのルートを通ってくるのか,両方のルートを通ってくるのかを人為的に選択して決めるわけです。
干渉実験におけるこの遅延選択の解釈はかなりの注意を喚起し,実験に対して幾つかの提案がされました。
このarticleは空間的と時間的の両方の遅延干渉実験の実験的実現を記述します。これらの実験の予備的結果はRef.13に載せてあります。
本論文は次のように構成されています。
この序文(intro.)の次の第Ⅱ節では,遅延選択実験の測定過程を状態の異なる段階,分割,対象のヒルベルト空間の拡張へと分割します。
さらに経路情報,または干渉現象に応じて非交換演算子の陽な表現を与えます。
量子ビートに基づく時間領域での遅延選択実験は第Ⅲ節で導入されます。量子ビートと同じく遅延選択干渉の設定は第Ⅳ節で論じられます。
対応する実験結果は第Ⅴ節で見出されます。最後に第Ⅵ節にはまとめと結論があります。(第Ⅱ節へとつづく)
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コメント
TOSHIさん
TOSHIさんの「答え」を待ち切れずに催促して申し訳ありませんでした。
>解釈は本当に凡人さんの挙げられた二者択一なんでしょうか?(唯物論か唯心論?)
そういえば、
③何億年も前に発生した光子は、人間に記録される前に現象が形成されないとも、形成されるとも云えない為、人間の意思によって粒子像か波動像の何れかの現象で地球に到達したのかという事を事後的に決定する事が出来るとも云えるし、出来ないとも云える。
なんていう、鵺的な答えもあったりするかもしれないですね?
投稿: 凡人 | 2010年5月11日 (火) 23時05分
ども凡人さん。コメントありがとうございます。TOSHIです。
私は自然に関する哲学というか,数学を除く形而上学(不可知なものを思惟だけで判断する学?)には興味ありません。
数学以外の自然科学については,ほぼ完全な経験主義(実験主義)なので,幽霊,霊魂の存在とか現時点では実験不可能で右か左かわからないことを情況証拠だけでどちらであると判断することはしません。
いずれ信仰をしようと思っているので信じることはあるかもしれませんが,今のところ幽霊,霊魂や天国,地獄,復活の存在なども肯定も否定もしません。
したがって,自然哲学について取り立てて自説というものはないです。
普通の常識なら有りますが,そもそもアインシュタインでさえ常識で判断したことが実験で裏切られています。
ホイーラーの実験の解釈については記事の最終原稿を書き終わってもいないので,まだしていません。
私自身が実験内容がよくわからない段階。。これを完全には理解してないと思っている段階で,どうして色々な解釈の可能性につて述べることができましょうか?
あるいは,記事の催促かもしれないけれど私のブログなので,プライオリティの決定権は私にあります。私の気が向くまでは書きません。
前に書くと言ったのはウソではないので近々記事は書く予定ですが,忘れているうちに私の方が死ぬか認知証になるかもしれません。
解釈は本当に凡人さんの挙げられた二者択一なんでしょうか?(唯物論か唯心論?)
もし,そうだとしてもその実験から今現在それ以上の結論ができないなら,恐らく私の生きてるうちにはわからないままだと予想します。
お金にでもなれば「相対性理論が間違っている」等思ってもいないことでも主張しますが,さもなければアセっても仕方ないので証拠もないことは自説など述べずに気長に待ちます。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2010年5月10日 (月) 05時23分
私が考えるところでは、ホイラーの遅延選択実験の実験結果に対する解釈は↓の二通りしかないと思いますが、TOSHIさんはどちらの解釈でしょうか?
①何億年も前に発生した光子は、人間に記録されるまで現象が形成されない為、人間の意思によって粒子像か波動像の何れかの現象で地球に到達したのかという事を事後的に決定する事が出来る。
②何億年も前に発生した光子は、人間に記録されなくても現象が形成される為、人間の意思によって粒子像か波動像の何れかの現象で地球に到達したのかという事を事後的に決定する事は出来ない。
http://homepage2.nifty.com/einstein/contents/relativity/contents/relativity315.html
投稿: 凡人 | 2010年5月 9日 (日) 09時48分
先の私の考え方は、観測装置を中心とした場合の考え方だったのですが、観測される量子を中心とした場合は、観測される量子が、あたかも未来の観測装置の状態を知っているかのような振る舞いを示す量子実験を「遅延選択実験」という、というようになると思いますが、如何でしょうか?
投稿: 凡人 | 2010年1月16日 (土) 21時10分
>昔からあるホイーラー(J.Wheeler)などの「遅延選択実験」というのは,未来(=原点から光円錐の外の絶対的未来)において,如何なる選択をするかが現在の観測結果を左右するというものですね。
という表現が良く理解出来ないのですが。
観測前の観測装置の状態変更が、観測前の量子の状態を決定したかのような観測結果を示す量子実験を、「遅延選択実験」というのではないでしょうか?
投稿: 凡人 | 2010年1月13日 (水) 00時28分
どうも明男さん。お久しぶりです。TOSHIです。
新年おめでとうございます。
百薬程度ならたまに呑んでもいいんじゃないですか。。
私も自室では飲まなかったのですが新聞の営業がくれたものはトキドキのんでます。
私の酒は社交の潤滑油です。同じ時間内の飲酒量は他人の3分の1程度ですから水みたいなものです。
明男さんのように自室内に「社交?相手」がおられるなら,もっぱら自室で呑むのですがねえ。。。
私表面は明るいですが中身は暗い「寅さん」のような「喜劇役者」かも。。
TOSHI
投稿: TOSHI | 2010年1月 6日 (水) 16時32分
新年明けましておめでとう御座います。
遅くなりましたが意味を失う前に滑り込みセーフということで・・・(笑)。
普段、あまり酒は呑まないのですが、お屠蘇ということで家内に熱燗をつけてもらいました。酔っぱらうと一瞬、世界がバラ色に見えましたので、これからは時々呑もうかなと思っています。TOSHIさんのように外では活躍しませんのでもっぱら内弁慶で毒づくだけですが、それまた良しとします。
お互い、危うい身体ですが、陰に気が籠もらないよう気をつけたいものですね(あ、それは私だけか)。
投稿: 明男 | 2010年1月 6日 (水) 10時09分